L's theme(微修正)


//Arcanum[I]=The Strength.

system;
 Phase.countdown

 タイムカウントを示す、インジゲーターが表示される。何気なく腕時計を確認すると、現実の時計は夜の8時を指していた。

(ゲームを始めてから、だいたい40分ってとこか…。【セカンド】の稼働許可は、9時までだから、あと1時間だな)

 ストレートにゲームが進行すれば、ちょうどいい時間になっているかもしれない。

メアリー・ミル
「…おーとせーぶ、じっこうしました…『あさ』のおちゃかいがおわります。これから『おひる』がやってきます…」

 ゲームのナビゲーターを担う、メアリーの声が響く。

「…………」

 最先端の人工知能たちも、言葉を発することのない人形へと移ろう。プレイヤーが、動的な行動をするまで待機する『ゲームキャラクタ』の振るまいに切り替えたようだ。

(さてどうすべきかな)

 考えていると、メアリーがたずねてきた。

メアリー・ミル
「…ますたー、なにか、ごしつもんなどは、ありませんか…?」

「そうだな。ルールは大体、把握したつもりだけど。ひとつ分からないことがあってさ」

 ついさっき更新されたマニュアル。それぞれの『役職』と『勝利条件』の内容を見ながら、言葉を選んで返事をする。

「『犯人』の定義が決まってない感あるよな。この中に『狼』がいれば、とにかくそいつを排除すれば良いのと違って、その辺が曖昧っていうか…なにをすればいいのかなって、考えてる」

 とりあえず、能力を一目見て、コイツヤベーなと思ったのが【終末希望者】だ。

 ゲームの参加者を減らしていく【潜伏者】を、なんらかの形で排除しても、【終末希望者】がいる限り、また復活するという。

 しかもこっちの味方である『白』を、変化させる事も可能だというのだから、厄介きわまりない。とはいえ、

「今の条件だと、選択肢としては、最悪なにもしないのもアリなんじゃないかって思ったりもするんだよな」

メアリー・ミル
「…はい。ただしいこうさつだとおもわれます…」

 肯定を得る。もう一段階、思考速度を上げた。喉からアウトプットする音と、考える脳をつなげることを意識する。

「特に【潜伏者】は、殺す相手が『人間』限定じゃないわけだよな。『一番近い相手』が条件になるから、運がよければ、なにもせずに勝てる可能性もあるんじゃないか?」

メアリー・ミル
「…かも、しれませんね…」

 人狼系のゲームは、ほとんど経験がない。ただ軽く調べたところ、だいたいの場合『狼』たちは、おたがい最初から正体を知っているのがセオリーの様だ。

 だから、原則として、同士討ちが発生しない。

 『狼』はピンポイントで『村人陣営』を狙って殺せる。すると必然的に『狼』を見つけださないと、人間側は敗北する。『狼』の正体を暴けるか否かで、ゲームの勝敗が分かれることになる。

 対してこのゲームの【潜伏者】が狙うのは、さっきも言ったように『一番近い相手』だ。

 すると、どうなるか。

 このゲームのクリア条件を阻む存在、新たな依り代を使って再生できる【終末希望者】もまた、逆を言えば【潜伏者】にやられる可能性もある。

 故に放置して、ワンチャンに賭けるという戦術もあるんじゃないかと思ったわけだ。ただ作戦としては下策だろう。

 この中にひそむ【終末希望者】は、『夜』は当然【潜伏者】から離れた部屋にいると考えられる。少なくとも、自分が攻撃対象とならない場所に非難するはずだ。

(だったら、まず俺が聞くべきことは決まってる)

 考えをまとめる。目前で質問を待つ『ゲームキャラクタ』に向かって、声をだして問いかけた。

「―ー全員に質問です。さきほど、皆さんは『夜』になると、部屋に戻り充電をせねばいけないとおっしゃいましたが、その部屋割りと、詳細をお聞かせ願えますか?」

ナガリ・ナトリ
「承知しました」

 質問は想定内だったのか、ほぼノータイムで解答がやってきた。

ナガラ・ナトリ
「まずはこの建物、アンドロイド用の充電設備の詳細を、ご説明させていただきますね」


【ゲームマニュアルが更新されました】
--------------------

 人工知能《アンドロイド》たちが泊まる
 部屋が表示された。

 図は『時計の文字盤』と同じ構造を示す。

 『12』が真上に来る。
 そこから、時計周りに『1』と表示された個室。
 等間隔に『2』『3』『4』と続いていく。

 12の部屋。
 これが5階と6階に存在して、計24室となる。

 別枠で、部屋の内面図も表示された。
 古いSF映画で見るような
 『コールドスリープ』を模した装置がある。

 これが、人工知能のベッドらしい。
 だが半数近くが、外部からの攻撃によって
 無残に破壊されている。

 該当する部屋は
 『現在使用不可』と警告が表示されていた。

--------------------

ナガラ・ナトリ
「『夜』が訪れると、アンドロイドはそれぞれ、このいずれかの部屋に戻り、『朝』まで充電を始めます。その間に【第5条件】を発動した【感染者】が目覚め、活動を開始するわけですが、」

「時計の文字盤に該当する『隣の部屋』の、どっちか一人が、殺されるというわけですね」

ナガラ・ナトリ
「…チャラ男さん、わたしのセリフを取らないでくれます~?」

「すみません」

 普通に笑顔で釘を刺された。きっと怒らせると、一番怖いタイプに違いない。所詮はちょろインよとナメていると、隙あらば散弾銃で眉間を撃ち抜いてくるやつだ。

 まぁとにかく、表示された【MAP】を見つめる。すでに6階の部屋はすべて『使用不可』となっていて、残る5階の部屋も半分以上は、同様の有様だ。

 だがこれで分かったこともある。要はこの『設定』を元に、【感染者】が寝泊まりしている部屋の見当《アタリ》をつけていくというわけだ。

「これってつまり、仮に『12』の部屋の人が亡くなったら、実行犯の【感染者】は、時計の文字盤で言うところの、『11』か『1』の部屋にいるってことですよね?」

ナガラ・ナトリ
「はいはい、ご明察ですよーだ。感の良さがウリのチャラ男さんでしたら、ご承知の事だとは思いますけど。これで本人が覚えてなくとも、状況証拠が揃っていたら、その子を隔離するわけです」

 さっきから、あたりがつえぇ。
 ただそれでも、聞いておかねばいけない。

「隔離する場所は、どこですか?」

ナガラ・ナトリ
「別階の、元資料室だった場所です。部屋の外に『オートマタ』で見張りを付けてます。そこで、充電せず24時間が経過すると、死亡判定が行われ、バクテリアに分解されます」

「『オートマタ』っていうのは?」

ナガラ・ナトリ
「もう見ていると思いますよ。普段は1階と2階を警備している、5体の自動人形です」

 なるほど、アレか。ここにいる6人と違って、いかにもといった感じの『ロボット』だったやつ。

「続けて質問です。隔離された【潜伏者】が、実は逃げだしていた、外部協力者がいた。その他にも、5体のオートマタが裏でなんらかの関与をしていた、操作されていた恐れはありませんか?」

ナガラ・ナトリ
「本当に慎重ですね…。そういった事は、わたしからは『ありません』とお答えするに、留めさせていただきます」

 海亀のスープではないけれど、場合によっては『なんでもアリ』という事は、さすがにないみたいだ。

 最低限の設定、特殊な状況下にある環境を利用した推理ゲーム。この点について『抜け道』はないと言える。

「わかりました、ありがとうございます。なとりさん」

ナガラ・ナトリ
「ふふん。説明は任せてください。風紀委員ですので。なとりは自分で言うのもなんですが、しっかりものなのでー」

ディア・イロハ
「そうそう。なとちゃんは、しっかりしてるよねー」

ナガラ・ナトリ
「へへっ。もうね、なんでもっ、このなとりに聞いちゃってくださいよ! お悩み、ご相談、お米の炊き方まで、ズババババシューン! っと解決しちゃいますからね!」

 どや顔であった。

「では続けて、皆さんに質問です。今日までに【終末希望者】に関して、分かっていることがあれば教えてください」

 特に誰かを指定はしなかった、
 変わらず、この場にいる全員に問いかけた。

 ……。

 …………。

 しかし帰ってきたのは、沈黙だった。

ナガラ・ナトリ
「…………」

 解説好きの可愛いお姉さんも、目をそらした。ズババババシューンどころか、アンドロイドの少女たちは、おたがいを牽制しあうように目配せをしている。


sample:
 A:発言を希望する相手を指定する。
 B:黙って待つ。


 ここで、システム上のフォローが入る。
 つい、眉をひそめた。

(…なんだ? この質問は想定されてたと思うけどな…)

 このゲームがどこまで完成しているかは定かじゃない。ただ『ゲームキャラ』を演じる【セカンド】の能力、人間のロールプレイに関しては、俺は微塵も疑いを持ってはいない。

 彼女たちは、人間を理解している。
 その上で、与えられた『役割』を、きちんとまっとうする。

 人工知能だと言っても、真摯に振る舞うのだ。
 その一点に関しては、俺たち人間と、なにも違いはない。

 つまり、この状況は、


『【終末希望者】に関しての問いかけを行うことは
 ゲームキャラクタの彼女たちにとって都合が悪い事』


 だったと言える。


 理由はおそらく『正体』を知っているからだ。
 そこまではいかずとも、予測がついている可能性もある。

(…なるほど。人工知能と推理合戦したら、こうなるのか…)

 おもしれぇな。

 思うと同時に、ゲーマーの直感が告げる。


 【終末希望者《アポクリファ―》】


 コイツの正体さえ見極めれば、ゲームに勝てる。ハッキリした根拠はないが、これまで『対戦ゲーム』というジャンルで、徹底して勝ちを追求した経験が予測するのだ。


 そこに『勝利の答え』があると。


 該当する物語、キャラクタ、世界観。美しく飾られ、彩られた枠を超える。額縁を取ってひっくり返せば、その内部、裏側には、作り手の思惑、思想設計に紐づく複雑怪奇な糸が絡まっている。

 それを解きほぐす。想定された範囲内の最適解を見つける。誰よりも早く正確に。そうすることで、ゲームに勝てる。

 
 ではここで、オレが追及すべき相手は、誰か。
 答えは最初から決まっている。


「――長良なとりさん、よろしいですか?」


ナガラ・ナトリ
「にゃんっ!?」


 勝ちを狙うなら。普通に考えて。
 ここから攻めるのが、安牌に思えてならなかった。

**

//image bgm Time To Rock And Roll
//Arcanum[I]=Temperance.
 
「なとりさん、【終末希望者】という役職。存在や正体に関して、現在までに分かっていることを、教えていただけませんか?」

ナガラ・ナトリ
「なななっ、なーんで、わたしに聞くんですかーっ!?」

「ちょろそ――ではなくて、親身になってお答えいただけそうでしたので」

ナガラ・ナトリ
「ちょろくないっ! にゃとり、風紀委員だよっ! もうほんと厳しいよ! はんぱないんだよっ! ワルは許さないんだよ!! だから、他の人に聞いてくれると嬉しいなっ!!」

「風紀委員であるからには、常に誠実で、他の生徒にとって模範的な存在でないといけませんよね。どうぞ遠慮なく、厳しく、間違いのない、誠実な回答をお答えください」

ナガラ・ナトリ
「ぐぬぬ…!」

 毎日のご近所付き合いで培った、営業スマイルを浮かべる。簡単な手振りを交えて、頭を働かせて口を回す。

ナガラ・ナトリ
「…えーと、だからぁ。そのぅ…【終末希望者】に関して分かってることは…こちらの説明書に記載されてる内容でぜんぶですー!」

「はは。そんなはずないでしょう? 少なくとも、皆さんの中に紛れていることは分かったと、さっきおっしゃったんですから」

ナガラ・ナトリ
「なななななななん…っ!」

 露骨にわたわたする。
 容赦はせんぞ、ポンコツAI《カワイイ》。
 
「なとりさん。まずオレが聞きたいのは【終末希望者】の能力に関してです。それが発動するのは、24時間、いつでも可能ですか。それとも『昼』限定だったりしますか?」

ナガラ・ナトリ
「そっ、それは、もちろん…っ」

「…」

 若干、言葉に詰まる。

ナガラ・ナトリ
「『昼』でしょう、ねー…?」

 目を逸らす。逃がすわけねぇだろ。
 
「そうですよね。【終末希望者】も、人工知能《アンドロイド》であれば、夜は充電しないといけない、その他の行動ができないわけですから」
 
ナガラ・ナトリ
「ででっ…ですねー」

「対して【潜伏者】は自由だ。設定的には、アンドロイドだけど、もう一人の【自我《ジブン》】が目覚めるからという理由で」

ナガラ・ナトリ
「……なーん……」

「本来は護らないといけない憲法も、法律も、さらには『夜』は充電しないといけない設定《ルール》までも無視して、活動できる。だから他のアンドロイドを殺せてしまう。対して」

 役職の名が示すように。

「【終末希望者】は、きちんとした自覚を持っている。自分たちの仲間を殺戮しようと試みている。【潜伏者】を利用して、本来は自分たちの仲間を皆殺しにしようとしてる」

ナガラ・ナトリ
「っ!」

「ある意味で『黒』とは真逆です。【終末希望者】は、アンドロイドは滅びろと思っているわけだ」

ナガラ・ナトリ
「っ、えと、それはー…」

「つまり。これは可能性の話ですけど【終末希望者】がアンドロイドを滅ぼそうとしている以上、対象となる役は『人間《プレイヤー》の味方である可能性』が、ありますよね?」

ナガラ・ナトリ
「なっ、なっ、なななっ、ないとは! いえっ、ないとはー!」

 もはや視線が至るところを巡り「ほえぇー!」とか言いながら、目からビームを発射しそうな風紀委員を見て、

ソレイユ・ピノ
「うふふふふ」

 隣の席に座る、蝶の少女が、自然に混ざってきた。

ソレイユ・ピノ
「あなた様のお考え、とても興味深いですわね」

 ひりつく緊張感。

 ――さぁ、化かし合いましょうか。と言わんばかり。

 ヒトなるモノと。美しき怪物と。ワルツを踊る。

* *

//image bgm Ryoshi - Legacy of Humanity
//Arcanum[I]= The Empress.

ソレイユ・ピノ
「条件だけを鑑みるのであれば、最優先で排除すべき【終末希望者】こそが、ともすれば、あなた様の味方であるという見解。とても興味深いですわ」

「ありがとうございます。それともう一点、話しながら気づいた点がありまして」

ソレイユ・ピノ
「まぁ。詳しくお聞かせ願えませんこと?」

「もちろん構いません。その代わり、交換条件をだしてもいいですか?」

ソレイユ・ピノ
「内容によりますわ。どういったものかしら?」

「ピノさんの『色』を、正直に教えて頂けたらと思います」

ソレイユ・ピノ
「……」

 一瞬の間。わずかばかりの黙考。しかし、落ち着いた態度は変わらずに、真意を見せぬ表情を返された。

ソレイユ・ピノ
「わたくしの色は『黒』ですわ。人間さん」

「……ありがとうございます」


 ――条件が成立すれば、人間《オレ》を殺せる色。


(……ブラフか? いや……)

 たとえ答えが真実でも、彼女の場合、こちらの信用を得るならば『白』を応えると思っていた。

ソレイユ・ピノ
「さぁ、わたくしはお答えしましたわよ。もうひとつ、分かったことがあるなら、教えてくださいませんこと?」

 首筋に、チリッと、嫌な気配がまとわりつく。

 一歩。踏みだした先の大地が、深い泥濘であるようなビジョン。気がつけば、誘い込まれている。

「はい。【終末希望者】が、もしもすべてのアンドロイドを殲滅したいという考えで行動しているのなら、本来は『白のアンドロイド』であるという可能性が考えられる。という点です」

 つまり『黒』は倒すべき敵であるということ。

ソレイユ・ピノ
「ふふ。あなた様の推測が当たっているならば、その通りかもしれませんわね。でも、少々『メタ』な質問で申し訳ないのですけれど、その疑問と考察が、この状況を解決できる事になりますの?」

 確かにその通り。だが、

「可能性はあります」

 慎重に進んでいく。

「先ほど、更新されたゲームのマニュアルを一読すると『狼役』を生みだす【終末希望者】を、とにかく倒さないと話にならない。いつかは自分が殺されてしまう。というシナリオに見えます」

ソレイユ・ピノ
「えぇ、事実ですからね」

「だけどもし、この配役の解説自体が、なんらかのブラフだったらどうでしょうか。実は、他に、優先的に排除すべき相手がいるのではないかなと、思いまして」

ソレイユ・ピノ
「あらあら。それは流石に穿ち過ぎではありませんこと?」

「ですが先ほど【終末希望者】の情報を求めた時、一様に、気まずい素振りを見せましたよね。なとりさんは特に顕著でしたけど、皆さん、オレに何か隠していることがあるのではないですか?」

ナガラ・ナトリ
「なななっ、なーーんにも、隠してないよっ!!」

ソレイユ・ピノ
「うふふ。なとりお姉ちゃん、ちょっとお口チャックして?」

ナガラ・ナトリ
「にゃん…っ!」

 自分の両手でお口チャックする風紀委員の隣で、聞いてくる。

ソレイユ・ピノ
「仮に、あなた様に言えないことがあったとしても、この世界のルールは変わりませんわ。そうでしょう?」

「いいえ、そんなことはないはずです」

ソレイユ・ピノ
「なぜ?」

「オレが最初に見つけて、警戒し、排除すべき相手は【終末希望者】ではなくなるからです」

ソレイユ・ピノ
「あらあら、うふふ。だとすれば、一体、あなた様は、どこの、誰を探しだして、排除すべきだというのです?」

 答えはもう分かっているだろう。おたがい、この状況でも化かし合う。柔和な表情で言葉を交わす。

「『黒』ですよ。ピノさん」


 ――瞬間。


ソレイユ・ピノ
【skill code Execution】


 ひらりと、広げた腕の中に、光が集う。
 なにかが現れた。

ソレイユ・ピノ
「綺麗なお顔を弾けさせるのは、勿体ないとは存じますけれど。まぁ致し方ありませんわね」

「っ!」

 映像の中だけの知識。実物はもちろん、見た事がない。
 冷たい、大口径の拳銃が、こちらを真っ向から捉えている。

ソレイユ・ピノ
「Au revoir,etoiles」


 予想外。『攻撃できるのか? ルールは?』
 反応が追い付かない。撃鉄を引く音を耳にした。

モガミ・スズ
「伏せて!!」

 世界の光景が一瞬で大きく動いた。
 片腕をひねりあげるようにして、無理矢理、銃口をそらす。



 ――ズドン!



 腹の底に響くような音が、ゲーム、リアル共々に、左耳の側を奔っていった。心臓が一度、大きく喚いた。
  
ソレイユ・ピノ
「あらあら、残念…お星さまにしそこねてしまいましたわ」

「……っ!」

 すずさんに取り押さえられたピノさんは、おっとり笑っていた。全員が、中腰の状態になって、いざという時の為に備える姿勢を取っている。

 本来の女子なら、取り乱したり、悲鳴の一つぐらいは上がるのだろうが、

「………………」

 そんな様子は微塵もない。歴戦の兵という感じだ。

 ――心音を鎮める。こっちも落ち着いて、相手を観察する。

「…ピノさん、今どうして、オレを攻撃できたんですか? いや、どうして、オレを攻撃したんですか?」

 言いながら、妙な疑問がわきあがった。

(…なんだ?)

 上手く言葉にできない。もどかしい気持ちになるのを感じながら、可憐な少女が告げてきた。

ソレイユ・ピノ
「うふふ。『正当防衛』が発動してしまったようですわ~」

「…『過剰防衛』の間違いでは…?」

 危うく死ぬところだった。というか、揺さぶりをかけてみた節はあったものの、さすがにあの行動が『攻撃』だと判断されるのは、ありえないと思うんだが。

 あるいは。

(…そこまで『脅威』だと判断した…?)

 狩るべき対象は【終末希望者】ではなくて
 『黒』を優先すると言った事に対して?

 あるいは【終末希望者】の『色』が、『白』であるかもしれないという推測をした事が、『黒』であるピノさんに不利に働いた?

(…なんだ? さっきから、なんか…引っかかってるな…)

 ただ、なにが気になるのか、見えてこない。釈然としない事が多すぎる。体系立てた言語化ができない。

モガミ・スズ
「さて、ハヤト君。考え込むのも自由だけど、未来までのお時間は有限だよ。この後どうするのか、そろそろ応えてくれないかしら。いやまぁわたしは、一生この状況でもいいんですけどねぇ!」

 すずさんが、変わらずピノさんの腕を後ろ側に捻り、攻撃行動を封じた状態で言う。

「…すずさん。ピノさんを解放して頂く前に、ひとつ質問させてもらいます」

モガミ・スズ
「おや、今度はわたし? なんだい」

「すずさんは『何色』ですか?」

モガミ・スズ
「最初に言ったと思うけど。『白』だね」

「オレを護ってくれる、役ですよね?」

モガミ・スズ
「そうだね」

「……すみません。少し、考える時間をもらいます」

 ナノアプリを操作する。表示されるタブのキャラクター一覧から彼女のプロフィールを見直す。

--------------------

登録名:
『モガミ・スズ』

種別:
『自立型アンドロイド』

配役:
『不確定。白?』
 
履歴:
 西暦2049年に誕生。
 人工知能工学・第3条まで認可済み。

 第4条の範囲『人間の家族』
 内容:あなたには閲覧の権限がありません。

 この情報は2053年に更新されました。

 現在、第4条の範囲における
 知能生物の反応は感知できません。

-------------------

 最上すずさんの、第4条件の範囲は『人間の家族』だ。

 他のキャラクタに比べても、彼女がもっとも『白』である可能性は高そうに思える。なによりゲーム冒頭で、行き倒れている俺を助けてくれたのが、すずさんだ。

 その他、ここまでのゲームの説明上。もし彼女が『黒』の立場や境遇だとしたら、死にかけた人間を、わざわざ助けることはないと感じる。ただやはり一点、気にかかるのは、

「――すずさん、もうひとつ、質問です。【終末希望者】に関して分かっていること、知っていることを、教えてもらえませんか」

モガミ・スズ
「悪いね。その点は、わたしも、なとりさんや、ピノ様と一緒。持ってる情報に違いはないよ」

ティア・イロハ
「ずっと黙ってたけど、アタシも右に同じ」

クマシキ・メメメ
「めめめも」

ヤマクニ・イオリ
「イオリもでーすー」

 やはり情報は得られない。なにか隠している、とは思うが、ここぞとばかりに一致団結した女子の牙城は、強固だ。

 ただ『状況証拠』という点で鑑みるなら、すずさんは『白』だという発言は、信憑性が高いと思えた。

 最初に本人が言ったように「キミの敵ではないはず」と言ったのも、自分が【潜伏者】である可能性を、暗に告げていたからだと考えると、つじつまは合う。

 なら、少なくとも『夜』以外の時間は、すずさんと行動していれば、安全でいられる可能性が高そうだ。

「すずさん、ピノさんを解放してください。あと一応、席替えを希望します。すずさんと、ピノさんの席を交代してください」

モガミ・スズ
「本当に、それだけでいいんだね?」

「構いません。もしオレが、また彼女の機嫌を損ねてしまったら、申し訳ありませんが、援護をお願いします」

ソレイユ・ピノ
「あらあら。おやさしい事」

 自由になったピノさんが、同じように手を翻すと、彼女専用の拳銃は、魔法のように消えさってしまった。そして二人はこちらが支持した通り、席替えをしてくれた。

モガミ・スズ
「キミ、なかなか肝が据わってるね。いくら『VR』とはいえ初見のアレはさすがに驚いたと思ったけど。今はすっかり冷静ね」

「状況が差し迫ってるほど、頭が回るのが人間なんですよ」

モガミ・スズ
「言うね」

 何気ない会話で仕切り直す。


 ――ただ、なんだろう。
 やっぱりなにかを見落としてる気がする。自分の思考を『絵』に起こすための、想像の欠片が足りてない感じだ。

(なんだ? 俺はずっと、さっきからなにが気になってんだ?)

メアリー・ミル
「…ますたー…どうしました?」

「あぁ、ごめん。どしたの、メアリー」

メアリー・ミル
「…もうしわけありませんが、そろそろ、おじかんです…」

 応えると、画面端に見えていた、残り時間を示すインジゲーターがゼロになる。


system:
「タイムオーバー。フェイズ進行します」


 3つあった時計のアイコンが1つ失われた。
 まずいな。もう『夜』になるのか?

モガミ・スズ
「――ねぇ、ハヤト君? ちょっといいかな」

「はい、どうぞ」

 隣の席に変わったすずさんが、聞いてきた。

モガミ・スズ
「キミが今夜、どういう風に行動するかはさておきね。実はもうひとつ、言っておかなくちゃいけない事があるんだよ」

「はい、なんでしょうか?」

 一度「うん」と頷いたあと、すずさんは言った。

モガミ・スズ
「この場所には、もうほとんど食料が残っていないんだ」

「…食料がない…?」

 そう言えば、このお茶会を始める前に、なとりさんも、ちらっと言っていた気がする。

モガミ・スズ
「ぶっちゃけた話をするとだね。全然ない」

 ぜんぜんない…?
 
「…でもさっき、オレをお星さまにしようとしたピノ様が、贅沢をしなければ、お茶会をする余裕はある。的な事を言ってませんでしたっけ?」

モガミ・スズ
「それは『まだ飲み物ならある』的なニュアンスだね。人間ひとりの胃袋を満足させられる食料は、せいぜい今日を凌げる程度しか残ってない」

「マジすか。具体的には、なにが残ってるんですか?」

ディア・イロハ
「粉末のミソスープなら、まだ残ってんじゃない?」

ナガラ・ナトリ
「あ、いえ…いろはさんがさっき飲んだのが、最後でしたー」

 ここに来て明かされる、衝撃の真実。

ディア・イロハ
「あちゃー☆」

クマシキ・メメメ
「あちゃー、じゃねーんだわ…」

 ほんとだよ。ゲームの中のオレの貴重なカロリー源が、よもや金髪アンドロイド巫女の人工細胞に分解されてしまうとは。

ディア・イロハ
「てへ☆」

 じゃねーんだわ。

 この人は『黒』だわ。特に根拠はないが、そういうことにしておこう。金髪ツインテ巫女さんなら、割と雑に扱っても許される気がするので、そういうことにしておこう。

モガミ・スズ
「まぁ、いろはさんの味噌汁が残ってたとしてもね。結局は、外に探索にでて、物資を回収してこないといけないってわけ」

「あぁ、そういう要素も――じゃなかった、そういった状況なんですね、今は」

 空腹ゲージや、水ゲージなんかの、サバイバル要素まであるのかよ。こってるなぁ…と言いたいが、正直その手のジャンルも、あまりプレイした経験がない。

モガミ・スズ
「よかったら、わたしが同行させてもらうけど、どうしたい?」

「助かります。けど、時間の方は、大丈夫なんでしょうか」

モガミ・スズ
「『夜』までには、帰って来れるわ」

「わかりました。ちなみに、物資を回収しに行かなかった場合は、どういった事になりますか?」

モガミ・スズ
「…それをわざわざ聞く?」

 まぁそれもそうだ。

 あとは、人数が減ってから行動すると、必然的に『黒』と一緒に行動する可能性もあがるはずだ。

 外では『白』と一緒にいないと、状況にもよるが、『黒』に殺されてしまうだろう。

「一応、質問です。オレが一人で物資を収集して、他の方は留守番というのは?」

モガミ・スズ
「あまりオススメはできないわね。キミもさっき見たかもしれないけど、この街の空には、ドローン兵器が今も徘徊してる。移動ルートは決まってるけど、一人で行動すると補足されるかもよ」

モガミ・スズ
「あと徒歩では距離的に無理。目的地までの移動には、旧式のトラックを使うつもりだけど、車のキーは、わたしの固有IDに設定してる」

「トラックですか。何人乗りですか?」

モガミ・スズ
「一応、狭いけど後部座席もあるし、荷台もあるわ。頑張れば4人ぐらいは乗れるわよ」

「なるほど。じゃあ、3人以上の編成でも問題な――」


クマシキ・メメメ
「 お 断 り し ま す ! 」


 ――え?

 振り返ると、めめめさんが、ブルブル震えていた。

クマシキ・メメメ
「めめめはぁ! めめめはまだ! 生き残りたいんじゃあぁ!」
 
 どうしたんだろう。トラウマを刺激されたように震えている。露骨に顔を青ざめさせて、ぷるぷるしている。

モガミ・スズ
「どうしたんですか、めめめさん」

クマシキ・メメメ
「どうしたもこうしたもないよ!! すずちゃんの運転はすごいんだよおおぉぉっ!!」

 すごいってなんだ。

モガミ・スズ
「あはは。そんなに怯えないでくださいよ。今度はちゃんと、オートパイロットモードにしますから」

クマシキ・メメメ
「そう言って、めめめを出荷する気だな!! だまされん!! めめめは三度目はだまされんぞぉ!!」

 二度はだまされたのか。出荷されたのか。…ドナドナ?

クマシキ・メメメ
「とにかく! めめめは乗らないんだからね!! 遠出する時は、他の人を選んでくださいっ!!」

「まぁ…そんなに大勢で行動するメリットも無さそうですから、大丈夫です.じゃあ俺たちは、この後、物資を回収する流れで」

モガミ・スズ
「了解よ。他の姉妹たちへの指示はある?」

 聞かれたが、とっさには想いつかず、一時保留してもらうことにした。

メアリー・ミル
「…りょうかいです…ではみなさま、ひとまずおつかれさまでした。はなしあいのじかんは、おわりです。あとは『よる』がくるまでおのおの、じゆうにこうどうしてください…」


**

 その後、俺はすずさんと二人で移動した。上がってきたのと同じ非常階段を使い、バリケードを施された2階まで戻ってくる。そこですずさんが、周辺を警戒していた一体に声をかけた。

モガミ・スズ
「アインス。移動するよ。一緒に来て」

アインス
「リョウカイ、シマシタ」

 ガシャン。と、いかにもな音を立てて、ロボットがお辞儀する。

「あの…さっきは聞くのを忘れてましたが、このロボット達って、なんなんですか?」

モガミ・スズ
「オートマタ、まぁなんていうのかしらね。キミ達にとっては、メタい発言扱いになっちゃうけど、【NPC】って奴だと思ってて」

「関係ないけど、連れていくんですか?」

モガミ・スズ
「うーん…いや本当に、この『テストプレイ』には影響しないんだけど。困ったわね。なんて説明しようかしら」

 応えあぐねる。どこか慎重に、言葉を選んでいるような印象も受けた。

モガミ・スズ
「ちょっとね。最近、物騒だから。一応、何事も起きないとは思うんだけど。あぁ、この発言も『ゲーム』には関係ないから」

 『ゲームのキャラクタ』を逸脱する感じで、苦笑する。

「ここを見張ってる5体のロボットは『ゲームの進行』には、直接影響しない、考える必要はない。って認識でいいですか?」

モガミ・スズ
「あはは。それでオッケー。ごめんね、水をかけるみたいで」

 なにかの、デバッグ用のキャラクタだったり、3Dのオブジェクトマップに『穴』がないかを探索する為の、ボットプログラムなのかもしれない。

モガミ・スズ
「じゃ、とりあえず地下に行こうか。車、そこに停めてあるから」

「この医療施設って、移動できる範囲広いですよね」

 言ってしまってから、これもちょっとメタい質問だと思った。

モガミ・スズ
「中身はちゃんとできてるからね。キミ達が想像するような一般的な病院の設備なんかは、基本的にそろってると思っていいんじゃないかな。必要なら、ナノアプリのシステムから呼びだせるわ」

「わかりました」

 地下まで移動中、言われた通り、現実の右手を動かす。『Enjoy-Con』の操作で、表示された、ナノアプリケーション(メニュー画面)から【MAP】と記されたタブを操作した。

 ざっと軽く見ていたら、世界がまた暗転した。

* *

【ゲームマニュアルが更新されました】
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 エリア21
 中央医療施設 簡易建物案内

 B1F 地下駐車場
 1F 玄関口・ロビー受付
 2F 内科・所員の執務室・休憩所
 3F 外科・手術室・霊安室・医薬品保管室
 4F ナノボット関連研究室・資料室
 5F アンドロイド充電室A・コンデンサルーム
 6F アンドロイド充電室B・コンデンサルーム

 7F~9F 入院患者用個室・相部屋
 10F~11F 入院患者用個室(VIP)

 12F 屋上・ヘリポート

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