BotW day


「起立、気をつけ、礼」
『ありがとうございました』

 午後の授業が一限終わった。
 解放された空気感。辺りが少しさわがしくなる。

(さてと)

 号令を終えてから、机の上にだした教科書とノートをまとめる。次の授業が移動教室だったので、筆箱とノートだけを持って、席から立ち上がった。

「滝岡《たき》、移動――」

 しようぜと言いかけて。
 見なれた坊主頭が、机の上に突っぷしている姿を見た。

 クラスの大半が「いつものことだし」と、たいして気に留めない。さっさと移動を開始するなか、原田と目があった。

「コイツ、途中から完全に寝てたよ」
「先生もスルーか」
「要点だけかいつまんで理解するの、上手いからね」

 中学の頃と比べて、少し視力が落ちたという原田は、軽い度の入ったメガネをかけていた。相変わらずイケメンで、知的な印象を漂わせた、重度の二次元信者なのも変わらずだ。

「睡眠学習してるとか思われてるんじゃないの」
「割とガチでしてるかもな」

 熟睡する滝岡を、二人で見やる。

「……」

 いびきすら、かかず、死んだように眠っていた。

「…これさ、今、背中ブッ叩いたら、口から魂とか飛びだすんじゃない?」
「やってみるか」

 一応、うちの高校は、この辺りでは偏差値の高い進学校として有名だ。滝岡みたいな生徒は余計に目立つ。あと、俺と原田は一般入試で進学したけど、滝岡は野球部の推薦だった。

「……」

 しかし見ろよコイツ、中学の頃から変わらず、綺麗な丸坊主しやがって。

「ダメだ、俺にはできねぇ。ムカツクが気が咎める」
「仕方ない。起こしてやろう」
「だな。滝岡。起きろ。次、教室移動だぞ」
「んあー? りょー…」
「りょ、じゃねーんだわ」

 中学3年の間、ひたすら成長期だったらしい幼馴染は、身長は190cmに迫っていた。数か月前の夏、高校1年でありながら、甲子園のメンバー入りをはたした野球部、期待の星。

 もちろん本人の自称だが、あながち間違いじゃない。今年、うちの高校は予選を勝ち抜き、数年ぶりに甲子園に出場した。残念ながら一回戦で敗退したが、もっとも打率が高く、チーム内での得点率に貢献していたのは、滝岡だった。

「ふぁ~。次、なんだっけ? 科学?」
「それ明日な」
「情プロだよ。視聴覚室だね」

 この三人でつるみ始めたのは、中2の時からだ。運が良いのか、3年間、ずっと同じクラスになっている。

「おっ、情プロかぁ。いいねぇ。今日はなにやるんだ?」
「それは『上司』に聞いてからだな」
「確かに。そろそろ行こう。遅れるよ」

 俺たち三人は、筆箱とノートだけを持って、教室をでた。

 * *

 情報プログラミング。略して『情プロ』。

 2020年から、日本全国の学校で、正式に取り組まれるようになったカリキュラム。その名の通り、パソコンのIT情報や、プログラミングスキルの習得に向けて学ぶ授業だ。

 今年は2026年。
 実施された6年前といえば、俺が小学校4年の時になる。

 残念ながら、一斉実施とはいかず、当時の小学校は、ペラい教科書を一冊だけ渡されて、道徳の時間を1コマ削って、先生が内容を読みあげていた。

 子供たちにプログラミングを勉強させなさい。というのは一応、日本政府からの公式なお達しだったが、6年間でまともな授業を受けた記憶は、ハッキリ言ってない。

 そもそも、授業を担当できる、先生がいなかった。

 席に着いて、教科書を開く。AIとはなにか。ロボットの定義はこうです。コンピュータの誕生はこんなんでした。内容は『社会』の教科書そのものだった。滝岡は寝ていた。

 クラスで俺だけが、興味を持って図書館に通い、表紙の取れかけたHTMLの本を借りて、両親の店のホームページを作っていた。

 中学にあがっても、情プロの内容は、せいぜいコマンドプロンプトを立ち上げてから「ハローワールド」と表示させれば80点。四則演算の結果ができれば、100点の世界だった。
 
 そして半年前、高校に合格してから購入した、『高校生情報プログラミング』の教科書をペラペラめくって分かったのは、相変わらず、初歩の初歩だということ。

 普通科の進学校で配布された、その教科書だけが、他と比べて、あきらかに内容が軽かった。割り振られた時間数も、週に一回、うちのクラスは木曜日に二時間だけ実施される。

 正直な話、この授業に関しては、どうにでもなるかなと、たかをくくっていた。

 * *

 元は視聴覚室だった空間を、校舎の建て替えと共に改装した、PCルーム。個別の机ではない、横長の机にモニターがそれぞれ置かれている。

 半年前の春、俺たちはここで、一人の先生と出会った。

「人間は、興味のある分野でしか成長できない。俺が唯一、正しいと思ってる、世間一般論ね」

 四月のはじめ。最初の週の授業で、初めて顔を合わせた、情報プログラミングの先生は、若い男の人だった。

「今年から非常勤講師で通うことになった、黛景《まゆずみけい》と言います。よろしく」

 抑揚のない声に、愛想がないというか無表情。にこりともしない。

「まず最初に、正直な所感を伝えます。週1回、2コマで、プログラミングのイロハが教えられるかっていうと、ムリです。1対1ならともかくね」

 突き放すような口調で、淡々と続けた。

「ましてやここは、学習塾じゃない。授業内容に関しても、生徒に国家資格を取らせろ。とまでは言われてない。言われたら無謀だろって返すけど」

 世間体とかいうものを、一切気にした素振りのない物言い。俺たちの間に、なんともいえない、若干微妙な空気が漂った。

 黛先生はまったく気にした様子もなく、赤のマジックペンのキャップを外す。

 ホワイトボードに、


 ・interesting 楽しい。

 ・funny たのしい。


 でっかく書いた。


「理想的なのは上。興味があって楽しいっていうのは、みんな分かると思う。下の方も悪くないけど、一応教育の場だから。俺の言いたいことわかるよね?」

 ……。

 俺たちは、とりあえず沈黙を保ちながら、肯定した。

「一応、放課後もこの教場を開放する予定。授業内容は、ITに関連した国家試験対策。対象は学習意欲があるもの。ただし、通常の学習も並行して行えると自負する生徒に限る。希望者がいれば後ほど伝えるように」

 言いつつ、さらに赤ペンで続きを書いた。


 ・AND free


「なのでキホン、俺の授業は自習です」

 やったぜ。という空気が、俺たち生徒の間でふわっと漂う。

「けど、あたりまえの話。成果は必要だよね」

 ですよね。

「キミたちが、本当に必要だと思うことを、まずは明言する。俺が納得できたら、この2時間をあげるよ」

 うん?

「時間は有限。そのことを、キミ達はよく分かってると思う。だから、不適切な采配をした大人たちに、割と真面目に怒っていい。人生の週168時間のうち、2時間を不当に奪われたわけだから」

 ……。

 俺たちは、ちょっと顔を見合わせるように視線を泳がせた。仮にも、それなりの倍率を制して進学できた身の上だ。言ってることは分かるけど、

「じゃあ、そういうわけだから、主張があればどーぞ。なければ、なんの変哲もないプリント学習をしてもらいます。3分待ちます」

 ……。

 なんだこの先生は。非常勤だから、適当なこと言ってるのか。一瞬そう思いかけたけど、そういうわけでもないらしい。さっきからずっとポーカーフェイスで、表情が視えづらいのはあるけど、事実だけを発信しているような、力強さがある。

「はい、先生」

 手があがる。そらだった。

「質問いいですか?」
「どーぞ。初顔合わせだから、発言の前に名前もつけてくれると助かる」
「西木野です。わたしは、麻雀が大好きで、内容にもすごく興味あるんですけど、この授業で麻雀を研究してもいいですか?」

 …ざわっ…ざわっ…。

 空気がまた変な感じにゆれた。
 なんだ、あの女子は。いったい何者だ…という感じ。わかる。

 さすがに先生も怒るんじゃないかと、ちょっと焦ったけど、

「君は、麻雀のプロになりたいの?」
「なれるかは分かりませんけど、夢のひとつではあります」
「わかった。と言いたいところなんだけど、一応プログラミングの授業だからね」

 ですよね。

「じゃあ、麻雀のゲームを作るっていうのはどうですか?」
「いいよ」

 ええんかい!

 クラスの全員が叫んだと思う。心の中で。

「ただ、期限は提示してほしいな。そもそも西木野はプログラムできるの?」
「できません」

 …ざわっ、ざわっ…
 …なんだあの女子は…意味がわからない…

「まぁ、完成とはいかずとも、試作品として、動く程度のものを提示できるのであれば、自習活動として認めてもいい。ただ麻雀ゲームを作るには、相応のスキルが必要だけど、神経衰弱ぐらいにしておいたら?」
「先生、麻雀と神経衰弱はべつものです。奥の深さが、宇宙と宇宙でないかぐらいの差があります」
「いや、そんなことを力説されてもね」

 なんだこの空間は。なんで麻雀と宇宙の話になってるんだよ。

「先生、発言いいですか」

 そんな中ただ一人、平然と別の女子が手をあげた。また全員の注目がいく。

「どーぞ。名前は?」
「竜崎です。そのゲーム開発、わたしが手伝います。また限られた時間でプロトタイプを作成する程度なら、一人一人が、好きなことをするよりも、少人数で意見をだしつつ、時間内にまとめて進行した方が、精度の高い結果が得られます」
「竜崎は、プログラミングに関するスキルは有してるの?」
「仕事として開発したことがあります」
「じゃあとりあえず、3ヶ月以内で、成果物として報告できるものを提出できる?」
「若干名、スキルがある人間がいれば可能です」

 なんだなんだ。ざわざわざわ…。

 ここは学校やぞ。仮にも普通科の進学校で授業中やぞ。
 という空気が伝染する。

「それじゃ募ってみようか。君達のなかで、プログラミングスキルを有してて、ゲーム開発に興味がある。または作ったことがある人は?」

 先生は告げる。お客様の中で、プログラミングスキルを持ってる方はいらっしゃいませんかー。

「…はい」

 手を挙げた。

「君の名は?」
「前川です…」

 悲しいな。最近できた若い常連のお客さまは、だいじにしないといけないのだ。特にうちの母が気に入ってるから、断れない。

「竜崎さんと同じで、本当に少しだけ実務経験があります。国家試験も去年取らされ……ではなく自主的に取得しました」
「なにとったの?」
「基本です」
「なるほど。じゃあ君も、西木野たちとチームを組むように。あと若干名、なんらかの形で加われそうな人間はいる?」
「はい先生」
「どーぞ」
「原田です。独学ですけど、DTMを始め、電子音楽の作曲とかサンプリングできます。ゲームなら音楽は必要だと思いますから、参加したいです」
「はーい先生、俺も俺もー! 滝岡っす! PCはネット見るぐらいしかできねーすけど、中学の時、そこの二人と組んでバンド演奏したこともあるんで、俺も入れてもらえますかー。なんかたのしそーなんで!」

 ありがてぇ。これが友情か。とか思っていたら、

「ところで西木野~!」
「えっ、あっ、なに?」
「麻雀というからには、脱衣要素を入れてもいいよな! 当然だよな!!」

 あっ、この滝岡《バカ》他人です。
 手錠でもつけて、最寄りの交番にでも捨てておいてください。

 * *

 そんなわけで。高校一年生の春。情報プログラミングの授業で、俺たち5人はチームを組んで、『麻雀ゲームの制作』をすることになった。

 マンガみたいな展開だな。

 たぶん、世界全国の高校生を見回しても、そんなことをやってるのは、俺たちの他にいなかったんじゃないだろうか。

 そして半年後…。
 マンガなら、そんなモノローグがフキダシに浮かびそうな時間が経過した。

「それじゃ、原田くん。夏休みの間に『サウザンド・エピックス』のネットダイレクトで販売した『そらまーじゃん』なんだけど、何点かたずねていいかしら?」
「はい、竜崎社長。どうぞ」
「9月に入ってから、接続してるユーザー数の推移と評判、追加衣裳のアイテム課金に関しての売り上げを報告して。あと一言、所感を述べてもらえる?」
「了解しました。ではお手持ちのタブレットから、業務推移状況の1ページ目をご覧ください」

 上司役こと、竜崎あかねが尋ねると、忠実な腹心である、原田がうなずく。残る俺たちも、手元のタブレットPCをスライドさせた。

「夏休みが終わり、やはり接続状況は落ち着きましたね。ただ元々、内容が麻雀ということもあって、プレイヤー層の年齢が高く、思っていた以上には落ちませんでした」
「追加コスチュームや、好感度に関連した課金アイテムは?」
「そちらも減少傾向にありますが、ガチャのSSレアリティを、当選確率70%にしたおかげで、全体平均値としての課金額は上々です」

 原田がニヤリと笑う。眼鏡をクイッとする姿が、実に様になっている。

「元々、ガチャで儲けるビジネススタイルじゃなかったからねー」
「しかし、一般的なガチャに慣れているプレイヤーほど、70%という数字は魅力的に映るでしょう。それならば買う。出るまで回す。いわゆるコンプ厨の購買率は変わらないので、中々悪くない数字がでましたね」

 完全に『悪の参謀役』といった感じで笑う。わかるぞ原田。ガチャ課金額の数字、主要な売上高とにらめっこしてると、なんかこう、悪い笑みを浮かべたくなるよな。

「原田くん、売り上げは当初の予定通り、件のイラストレーターとアシスタント、それから外注プログラマーの彼女に送付したのよね?」
「はい。先方とはメールで折り返し確認済みです。売上額のロイヤリティ50%を3分割してクリエイターに。残る50%は、赤十字社をはじめ、竜崎さんから言われたとおり、有名どころの各団体に、寄贈しておきました」
「きちんと、募金しました、アピールしたわね?」
「ぬかりありません。写真をとってネットにアップ済みです」
「ならいいわ。学校は、学生が利益をあげすぎてると、いちいち余計な勘繰りを入れてうるさいからね。これで文句もでないでしょう」

 まさに環境のどまん中で、あかねが帝王のように腕を組み、言いきった。

 俺たち5人は、クラスメイト達から「あいつらだけ授業中に会社やってやがる…」とか言われていた。まぁ、うん。あながち間違ってない。

 ライセンス契約とか認証は、ネクストクエストに頼んでいるのもあって、普通に認可が通ったし。

「わかったわ。次、来月の文化祭の件だけど、クラスのだしものとはべつに、文化部の部室を融通してもらって、『そらまーじゃん』を、発表することになってたわね。滝岡くん、状況は?」
「おーよ。交渉イイ感じに進んだぜぇ。うちの高校の校長と教頭ってよ。野球も好きだけど、実は麻雀も大好き人間だったっていうのが、この前の調査で判明したじゃん?」
「そうそう。校長先生は、元プロ目指してたって聞いたねぇ」

 調査の詳細には触れないが、べつに悪い手段は使ってない。滝岡のクソ度胸と、遠慮のない性格が幸いして、この学校の最高権力者《校長&教頭》にプレゼンする時間を作れたのが、夏休みの出来事だった。

 さらにもう一点、新たに判明した事実が、

「んで、二人にさぁ、宵桜スイのサイン欲しいですかって聞いたら、もらえるのか!? って、すごい食いつきだったじゃん?」

 世界初、Vtuber雀鬼の大ファンだったということ。

「だったねー」
「はっはー、イチコロっしたわー。やっぱ世の中、賄賂がさいきょ…」
「「滝岡」」

 どす、ぼす。

 さすがに不穏なので、俺と原田が強めにツッコミを入れて、言動キャンセルを発動する。それでも滝岡は、力強く親指を立てて、宣言した。

「そんでよ。文化祭当日、部屋借りていいってよ。ついでに麻雀喫茶を開いてくれとか言われたしよー」

 教頭先生、校長先生。
 麻雀を打ちに来るつもりですか。文化祭当日に。

「やったー! 滝岡くんやりおるー!」
「ふはははは。まぁ俺だけじゃなくて、祐一の力も借りたけどな」
「俺はなんもしてないよ。常連のじいちゃんズが、学校側に口添えしてくれたおかげだよ」

 何気に影響力すごいんだよな。うちの常連さんは。

「あ、ちょっと話それるけど、前川の店の常連さん、『じいちゃんズ』の配信、一昨日のも面白かったよ。良かったら、伝えといて」
「オッケー、伝えとく」
「おー、いいよな。俺も好きだわ、『じいちゃんズ』。楽しく雑談しながら、麻雀打ってくれるしなー」
「ねー! いいよねー、じいちゃんズ、わたしも好きー!」
「ん。悪くない。アレは為になる」

 そう。今年の春、俺たちが高校生になったのと同時に、町内会長の友重《ともしげ》さんこと、シゲさん。宮脇さんこと、ミヤさんが、個人性のVtuberとしてデビューしたのだった。


 ――永遠の67歳。その名も


 『じいちゃんズ』。


 【セカンド】の見た目は、大正ロマン風の、唾広帽子に、詰め襟。
 何故か口元に葉っぱをくわえていて、下駄を履いている。感情が高ぶると、目の中に炎が燃え盛ったりする。

 名前はそのまま、シゲと、ミヤ。
 『じいちゃんズ』のファンからは、シゲミヤという愛称で親しまれている。

 二人の配信は、だいたい週二回。やや不定期ではあるが、夕方から夜の8時ぐらいの間に、毎回1時間ぐらいの放送をやっている。

 中でも『若者お悩み、進路相談室』は、チャンネル開設当初からの人気コーナーだ。67歳の二人が真摯に悩みを聞いたり、アドバイスをしてくれる。

 他には、視聴者参加型の、将棋や囲碁といったものもやっていたが、最近は俺たちが夏休みの間に『そらまーじゃん』をリリースしたことで、そちらも積極的に遊んでくれるようになった。

 そんな、じいちゃんズのコンセプトは『一言見捨てず』である。

 麻雀のルールが、難しくて覚えにくいという相手にも、自分たちの手牌を公開して、気軽に教えながら遊んでくれる。

 元々、あのじいちゃん二人が、若者肯定型であり、性格的にも、すげぇ取っつきやすいのがあって、最近ではチャンネル登録数が増えまくっていた。

 ちなみに夏休みの間は、俺たちもコラボして、ハヤト達Vtuberの姿で麻雀にも参加した。逆に人狼系のサバゲ―なんかもして、全員でもりあがっていた。

「じゃあ、話を戻しましょうか。『そらまーじゃん』の登録数と、総接続時間の推移はどう?」
「そちらも順調ですね。いずれ落ち着くとは思いますが、一定数のユーザーは確保したままいけると思いますよ」

 原田が完全に、社会人スタイルで言う。似合う。

「従来までのアプリだと、麻雀単体として完結していたスタイルに、『サウザンド・エピックス』の会員登録をして、共有ログインフィールドにアクセスする。今年発売されたホロライブズを装着することで、VR空間の中で、麻雀を打ちながら、人気ゲームの観戦や実況もできる。というスタイルが取れますから」
「なんかアレだよな。麻雀しながら、リアルタイムのスポーツ中継を見てる、みたいな」
「そうそう」

 自宅で『AIデバイス』を用いれば、疑似的なVR空間で、理想のキャラクタを伴って麻雀を打つことができる。麻雀を打ちながら、テレビを見るように、eスポーツのランカー頂上決戦を見て、仲間内でダベることもできる。

「今なら『GM』ですかね。このゲームのライブ配信を見ながら、4人部屋を立てて打ってるプレイヤーも多いです。特に『宵桜スイ』さんが、熱心なFPS系のゲーマーでもありますから。彼女がGMに参加してる時間帯は、卓も増えますね」
「そうね。『宵桜スイ』を始めとしたインフルエンサーが、上手く機能してる」
「ふふ~、そだね~」

 あかねが平然とうなずく。そらもまた、くすぐったそうに、うなずいていた。

「確か、スイとかハヤト、あとユキも、俺らと同じ高1なんだよな」
「らしいね。だから、僕たちが作ったゲームに興味持って、アクセスしてくれたみたいだし」

 滝岡と原田が、それぞれ言う。
 
 去年、ハヤトが高校受験を機に、活動の縮小を発表した際。宵桜スイと、黒乃ユキも同様のことを発信した。なので一般世間には、最低限の情報が知れている。

(でも、気づかれないもんだよな)

 声は【セカンド】の能力で加工している。絶妙に、本人を特定できない範囲で補正が入っていて、とあるスキルがないと見破れない。

 じいちゃんズの二人には、ネタ晴らしをしているが、滝岡と原田には、そこまで知らせてない。俺は構わないのだけど、女子二人から「黙ってると面白そうだから言わないで」と、口止めされた。

「じゃあ、報告はひとまずそんなところね。あとはこれからの予定だけど。文化祭までのアップデートに向けて、こっちはゲーム内容の更新に取りかかるわ。背景楽曲に関しては、3人にお願いできるかしら?」
「オッケー」
「こっちもりょー。けどよ、わかっちゃいるけど、もったいねーよなぁ」
「なにが?」
「俺らが学生じゃなかったら、コレちゃんと収入になるのによ。普通にゲームとして完成してんじゃん」
「まぁね」

 遠慮なく、滝岡が言う。俺たちが内心では思っていても、口にはださないこと。だからこっちとしては助かるが、滝岡本人が、損な役回りをかぶる事が多い。

「麻雀って、一般的には、あんまり綺麗なイメージないからねぇ」

 そらが言う。俺たちは同意して、だけど口々に言う。
 
「やってみると、奥深くて、すっごくハマるんだけどねー」
「けど奥深いってことは、難しいってことだからな」
「確かに、単純じゃないわね」
「けど俺らで、ワンチャン、そういうの変えていけんじゃんね?」
「そうかもしれない。ちょっと、ワクワクするよね」
 
 見えている世界。 
 誰かに植え付けられた常識性。

 ひとつずつ、協力して、手を取り合って。

 良い方向に。変えていく。