機の律動


 バトルロワイヤル。バトロワ系というジャンルで一括りにされる事もある、近代になって有名になった一大ジャンル。

 初期の作品は、輸送船から無手で降り立ち、物資を拾い集めながら戦闘をするスタイルが主流だったが、時代がうつるごとに内容も更新されていった。

 『G&M』では、初期装備と属性魔法を選択しておくことで、降り立った直後でも戦闘をすることが可能だ。

 銃の種類は、現実と、ゲームの世界観に準拠したものを選べるが、一種類だけ、近接専用の『剣』が用意されていた。

 * *

 ゲームと呼ばれる、この次元領域の人間たちが作った、仮想世界。

 場所を指定して降り立ったポイント。

 アレが意図しているのか、そうでないのか。かつての戦場の名残りを思わせる荒野に立つと同時、周辺には数多の影も降り立った。

『102名のプレイヤーのうち、50人近くが集結してるな』
『おかしいね、ここ、そんなにプレイヤーが選ぶ場所じゃないとは思うんだけど』

 あきらかに、リアルタイムで配信を追っていた人間たち。
 この場に狙って居合わせた敵の影。

『貴様のくだらんパフォーマンスが効いたらしいぞ。獅子身中の虫め』
『ひどい言い掛かりだ』
『五月蠅い。貴様は子供の御守りでもしていろ』
『了解。おたがい、身の丈にあった仕事をしよう。楽しもうじゃないか』

 通信を介し、プレイヤーが疾走する。直後、立ち止まっていた一点に、あらかじめ示しあわせたような、集中砲火が重なった。


 【magic code Execution Type_WIND】


 『銀の剣』が、魔法を詠唱する。両手に掴んだ直刃の剣が、外部からエネルギーを注がれたように、あわい翡翠色に輝きはじめる。ジャランと、柄の部分に、直には触れることのできない、魔法の鎖が浮かび上がる。


 【Enchant Level_1】
 

 視点を上向きに。手にした一方の直剣を、建物の上層、レーダーの役割をはたす尖塔の一角に目掛け、投擲した。


 【Activated Magnetic_force(+)】


 磁界性を付与、プラス。

 唱えると、一方の直剣が、さながらロケット榴弾のように飛翔する。その軌跡を示す煙のように、二対を結んでいた鎖が、際限なく伸びはじめた。

 ――ジャララララ!! ――ガキンッ!!!

 硬質な輪を作る鋼が奏でる音色。やがて剣先が、立塔の壁面にしっかり突き刺さるのを確認して、鎖を握りしめた。


 【Activated Magnetic_force(-)】


 磁界性を付与。マイナス。

 今度は逆に、鎖の長さが縮小される。ゲームの世界が、演出された物理計算を呼び起こす。地面から両足を離すと、白銀色のプラグスーツをまとったキャラクタの全身は、振り子のように飛んでいた。

 遥か上方の立塔に突き刺した、直刃の根本が迫る。

 キャラクタである自身もまた、壁に激突する寸前に、さらに視線を反転させた。強引に向きを変える格好で、両足を曲げた姿勢で、壁面にしゃがんで着地。残る剣も壁面に突き刺して、支えとした。

 ゲーム世界特有の計算式の条件達成。質量値、抵抗値、衝撃値を『おおよそ無視』する。

 架空の演算結果が弾きだされた先、
 眼下を睥睨するように、人影の方が笑った。

「さぁ、悪者退治といこうか」
 
 豆粒のような大きさの人間たちが、こちらを見上げ、各々の銃を構えている。三人一組のチームではあるが、全員が味方というわけでは当然ない。だというのに、全員が裏で示し合わせたように、『ヒーロー』を狙っている。

 【Your team member eriminated!!】

 同時に、彼のチームメンバーが一人、敗退したログが流れた。
 ほんの少しだけ視線を逸らし、メンバーのHPを確認する。

「ホープ!!」

 kevinは無事だ。HPはしっかり残っている。

「大丈夫。君は適当な建物に隠れて、物資を集めといてくれ。俺は、自覚のない面倒な方々のお相手をさせてもらうよ」

 両手の剣を引き抜く。また直後、遠距離用ライフルの銃弾が、なにもない壁面を削っていった。

「よければ、チャンネル登録よろしく!」

 見張り台に着地する。高さ制限によるダメージは無い。間髪おかずに行動を開始。二本の剣を磁界の極点として、さながら、ワイヤーアクションのように飛び交ってみせる。

 ――視点変更。

 壁に足の裏が付くように、位置を反転。

 ――視点集中。

 天地が逆さまになった大地に立つ敵を見据える。

 ――跳躍。

 三角飛びをする要領で、壁を蹴る。

 ――着地。

 両手には、引き抜かれた、魔法の剣。
 間髪入れずに対象を睨む。

 ――疾走。

 視点および瞳孔の収縮を認めた、デバイス内の人工知能が判定。

 ――直進。接近。

 両手に大口径のライフルを構えた敵の喉元へ。

 ――!!!!

 明確な『敵』からの応撃。視線を逸らして射線の真ん中を避ける。が、システム上の乱数値によって、付与された『散弾値』が避けた場所に向かう。

 正面から距離を詰めた場合。
 剣の攻撃圏内に接近する以上、絶対的に避けられない弾丸が迫る。

 それを、


 【Parry!!】
 【No Damage!!】


 一方の剣を振るうことで、斬り捨て、受け流した。

 仮想世界。高速インフラが浸透した、マイクロ秒以下の遅延しか発生を認められない領域。そんな中でも、見極めて当然だというように成し遂げてみせる。

 ――踏み込む。

 剣の間合いに入る直前、相手は銃を構えたまま、棒立ちになっていた。

 弾切れだ。さながら、ハリウッド映画のやられ役。「弾切れに今気づいたヤベェ!」と言わんばかりの相手。あせった様子で弾倉を変えるが、


「まず一つ」

 
 【CRITICAL HIT!!】
 【DAMAGE COUNT 352!!】


 斬る。

 逆胴狙いの斬撃判定をまともに食らい、反対の剣で上から突き刺す。


 【DOWN!!】


 瀕死状態。攻撃はできず、味方からの蘇生を待つのみの状態。さらにあと一撃を見舞えば倒すことができたが、


 【Activated Magnetic_force(+)】


 代わりに、べつの方角へ剣を投げた。
 鎖が伸びる。今度は短い距離をおいた壁に刺さり、即座に


 【Activated Magnetic_force(-)】


 唱える。鎖が縮小。間髪いれず、彼の身体が場を離れる。直後、


 ――――!!!!!!!!


 銃声。瀕死状態にあったプレイヤーだけが、その銃弾をまともに浴びて絶命する。敵味方関係なし。ただ『有名ランカーに一泡吹かせたい』と願う、有象無象のギャング崩れのようなプレイヤー達。

「悪いけど、1対多は、もっとも得意なんでね」

 連携もなく、ゲームで勝ち残る気概もなく。
 ただ単に、数で押し寄せる。

 気づいていなかった。
 彼ら自身、自分たちが体の良い『撒き餌』にされていることに。

 その後も彼は魅せた。

 まるでコミックアニメの主役《ヒーロー》だった。誰もが銃を使って闘争を繰り広げる中。たった一人、時代遅れの武器を駆使して、群がったプレイヤー達を、一人ずつ仕留めていく。


 【Enemy player Deferted !!】
 【45kills!!】


 開始10分。ゲームに参戦したプレイヤーの半数近くを、たった一人で壊滅させた。魅せプレイ、というレベルに留まらない。ティーンエイジャーが妄想してやまない、架空のヒーローが、モニター1枚を隔てた先に実在していた。

:ヤバイヤバイヤバイ!! ホープ強すぎんじゃん!!!
:神プ
:人間やめてる。

 配信の熱量、登録者数が増えていく。

「さて、あらかた片付いたかな?」

 辺り一面には、プレイヤーがそこで死んだことを示す、アイテムストレージの山が散らばっていた。

「まぁ、俺が本気をだせば、ざっとこんなものだよ?」

 調子にのった素振り。油断を誘う。あと一体、自分の背後、視覚となる物陰に立って、こちらを狙っているプレイヤーがいることには気づいていた。

「それじゃ、遠慮なく、アイテムを頂くとしようか。ご愁傷様」

 地面に落ちたストレージに近づく素振りをみせる。意識の外、おそらく残る一人が、銃の引金に指をそえただろう、感じた時だった。


 【CRETICAL HIT!!】
 【Enemy Player Deferted!!】


 致命的なダメージを受けて、倒れる。口角が吊り上がるのを耐えた。

「ホープ!!」

 リアルの音声通信。チームを組んだ少年が「隠れていろ」といった場所からでてきて、走ってくる。彼のキャラクタは、見るからに少年たちが好みそうな、赤い髪がトゲトゲに逆立った、マシンガンを構えたガンナーだった。

「危なかった、まだ敵の生き残りがいたのか」
「うん!! 僕がやっつけた!!! 隠れたところにアイテムいっぱいあったからね。銃をアップグレードして、頭バーンッてしてやった!!」
「あぁ、見事なもんだ」

 最後の敵が倒れたのは、位置的には、自分の真後ろ。

 配信者の彼からは、身を隠す位置だったが、逆にこの少年からは、完全に背中をさらす格好にもなっていた。おまけに狙撃を狙っていたから、身動きもせず、少年からしてみれば、実に『良い的』だった事だろう。

「ナイスキル。おかげで助かったよ。ありがとう」
「うん! でもホープの方が凄かった!! すごいよ!! 一人で45人もやっつけるなんて!!!」
「それでも、これから50killチャレンジが達成できるかどうかは、さっきの君の一撃のおかげだよ。ありがとう」
「うん!!!」

 自分の夢。今もっとも世界中で憧れの一人と言っても過言じゃない、スタープレイヤーに褒められた。

「画面から、まだコメント見えるかい? 俺の方だと、君を称えるコメントで埋まってるよ」
「ほんとう!? 嬉しいな!!」

 少年の分身が、銃を持って、嬉しそうに笑った。

「あっ、でもあいつら、ぜったいホープの配信を見てたリスナーだよ! だってみんなチームを組んでるはずなのに、全員ホープだけ狙ってたもん!!! 卑怯者だ!! ゆるせない!!!」

 流れるコメントが、いっせいに少年の言動に賛同する。純粋な熱と怒りに後押しされたように「アンチざまぁ!」「登録解除しろよ」といった攻撃的な言動も目立ちはじめていた。

「まぁ、おたがい無事だったんだから、そのぐらいにしておこう。次もピンチになったら助けてくれ」
「わかった、僕にまかせて!!」
「あぁ、期待してるよ」

 魔法の剣を鞘に戻す。もう一人の彼があざ笑った。

『――いつも思うが、良心は痛まないのか?』
『良心だって?』

 現実で配信中の彼が、自然なスマイルを浮かべる。

『本当に。君はユーモアを解するセンスに長けてるなぁ』

 彼は同時に口にする。現実と、ゲーム。
 二つの世界共々に目を向けて、別々に発信した。

『そんなもの、どこにも在りはしないさ』