戦闘!!(黄金の国)


 102体の兵士が降下。色とりどりの彗星が到着。

 【東側の建物から回ります】
 【了解】
 【じゃあこっちは反対から】

 即座に銃を構えて走りだす。一歩目を踏みだした時には、そう遠くない場所から銃声が聞こえていた。さらに別方向、輸送機を離着陸させる滑走路でも、特別な炎と氷柱が立ち上がる。

 【アーマーレベル1発見】
 【拳銃用の弾あるよー】

 べつの建物に向かった二人から、簡易チャットが飛んでくる。【あとで向かいます】と連絡を入れて、こっちも素材を集めていた時だった。

「早速か」

 こちらに向かって、走ってくる人影を見つけた。
 銃の安全装置を解除、戦闘モードに切り替える。


 【OpenMode.Executor】


 相手の両手を見る。大小一対の刀。
 現実の口元が、思わず笑みの形になる。

「そっちも、寝れなくなった口かな?」

 構えて発砲。初期弾数には限りがあるので、威嚇射撃は最低限に留める。

 【敵を2名確認。アサルト2。火属性】
 【こっちも1人遭遇。カタナ使い】
 【任せていいか?】
 【OK】

 スタンプを介して、意思疎通。
 同時に風魔法を詠唱。二段跳びで、研究所の壁を蹴りつけるように駆けあがった。連なる建物の間を繋ぐ、パイプラインの足場に飛びうつる。

 相手も追いかけてきた。おたがいの顔の表情まで見える距離。離れた位置から、小刀《こがたな》を投擲するのが見えた。突き刺さる。


 【Activated Magnetic_force(-)】


 伸縮自在の鎖を掴み、一息に昇り来る。逆の手には、刃渡りの長い打刀《うちがたな》。外見も合わせていて、見るからに、サムライといった井出立ちだ。小刀を引き抜き、さらに突進してくる。

 ――『GM』には、一種類だけ、近接専用の剣が存在した。
 ゲーム上の武器名は、無銘刀《nameless》。

 ビジュアルとしては、日本で『脇差し』と呼ばれる小刀と、それを重厚にした『打刀』。大小一対となったデザインだ。

 攻撃の起点となるのは、小刀。

 『魔法の詠唱』を感知すると、大小一対の柄の部分が、伸縮自在の鎖で繋がり、疑似的な磁場モドキを発生させる。極点の向きと、刀剣に生じる磁力の強さをキーで変更すれば、一方を引き寄せたり、逆に引き離すことができる。

 極点を同位置にした場合、支点でない側は、プレイヤーから離れようとする力が働く。キーを押して投擲すると、放物線を描かず、魔法の鎖を伸ばしながら、まっすぐに、勢いを増して飛ぶ。

 もっとも単純な使い方は、刀を投げつけ、相手に直接突き刺してダメージを与える方法だ。もう一つの手段は、鎖が縮小することを利用して、ワイヤーアクションのように移動する。

 ――それだけ聞けば、かなり「使えるんじゃね?」と思うかもしれないが、

「ほいっと」

 真正面から、まっすぐ飛んできた小刀をかわす。こっちの対策としては基本、距離を開いたまま、両手の拳銃で撃ち返すだけ。


 【HIT!!】


 刀の威力も速度も、高めの補正が掛かるが、所詮は単発に過ぎない。攻撃も直線的で、なにより予備動作がでかい。

 『GM』は、キャラクタのモーションまでしっかり作りこんである。それこそ間近で凝視すれば、銃の引金を引く瞬間の、指の動作さえ見えるぐらいだ。つまり、

「よっと」

 『刀を投げる』という動作も、しっかり見えてしまうのだった。ある程度にゲームをやり込んでいればわかるけど『攻撃のモーションが見える』というのは、それだけで致命的だ。

 コンマミリ秒。フレーム単位であっても、予備動作が視える時点で、ある程度にゲームが上手いプレイヤーは、考えるより早く、無意識で身体が動く。

 指先でキーを押す。少し横にズレるだけで、刀はなにもない地面に突き刺さっている。そのタイミングと同時に、こっちも相手を視覚に捉え、中央に収める。手にした拳銃の引金を押すだけで、


 【HIT!】


 バンバン当たる。そりゃね。気持ちいいぐらい、当たる。

 じゃあ、相手はどうすんのかというと、

「っ!」

 外れて、突き刺さった小刀の磁力を強、極点を逆位置として――

「はいはい、飛んできたな」 

 プレイヤー本人が、投げた小刀の元へ、まっすぐ飛んでくる。逆の手には、近接武器お約束の、威力のデカい一撃が待っている。

 手にした打刀で、辻斬りよろしく、お命頂戴! 斬り捨て御免ッ! イヤーッ! ズバァッ、ブシュウゥ!! ナムサン! サヨナラ! オタッシャデー! 

 という次第だ。

 実に格好いいよね。男子のロマンが詰まってるよね。ネタ込みで。

 特にこのゲーム会社は、LoAの時もそうだったが、日本を含めたアジア人オタクの好み、趣味嗜好といったものを、ヘタすると日本人以上に熟知している。

 噂では専用のAIがゲームディレクションを行っていて、『刀で弾をはじき返すのは絶対なのよ。ゲームバランスは多少壊れてもいいのよ』という、独断専行にも近い意見を採用したのだとか。

 人間のプログラマー達が、遅延だとか、その他諸々の処理的な問題だとかを、気合と根性でカバーしてクリア。できあがったのが、このゲームらしい。

 どこまで本当かわからないが。そんな感じで『ぼくたちのかんがえたロマン』を実現してしまったのが『GM』の特徴である。

 さながら走馬燈のように。そんなインタビュー記事をネットで読んだことを思いだしていた。

 目前、こちらの命を奪える武器を持ち、榴弾の如く迫る敵。


 ――だが、ここでひとつ、残念なおしらせがある。二つもある。


 相手は、まっすぐに、飛んでくるのだ。

 小刀を回避した時と同様に、軸をズラして回避することは当然可能だ。しかしそもそも、俺は銃を構えているわけで。

 ――バンバンバンバン。


 【HIT!!】


 うん。そりゃね。当たるよな。だって、真正面から飛んでくるんだもん。

 
 【DOWN!!】


 空中からの強襲とはいえ、まっすぐ急接近するのがわかっていれば、普通に構えて銃を発射するだけで、相手は死ぬ。

 結果。空中にいる間に、ライフがゼロになった相手は。「ズザザザザザァァ!!」と。派手に砂煙を散らすような格好で、目前で膝をついてくずおれた。

「おつかれ」

 瀕死時の演出で、キャラクタモデルは、自然にうつぶせの姿勢になる。角度によっては、完全な『ジャンピング土下座』の成立だ。

「またどこかで」

 ――バンバンバン。


 【Enemy Player Defeated!!】

 
 とまぁ、大体は、こういう結果になってしまう。残念なおしらせのもう一つは『ロマン武器は所詮その域をでない』ということだ。

 唯一の利点としては、威力自体は高いので、建物内で待ち伏せして、完全な接近戦に持ち込んで倒すぐらいだ。でもそれなら、べつに剣でなくても、近距離で強い銃を使えばいいよね。という話になる。

 プレイヤーの間では、完全なネタ武器として定着した『無銘刀』だが、これを使いこなして、あろうことか、ランカーまで昇り詰めた人間が、ホープだ。

 刀を地形に突き刺せば、鎖の伸縮を利用して、高速移動できることは知られていたが、なんにせよ、最後は敵との距離を詰めねばならない。強引に、ライフの殴りあいに持ち込んでも、倒せるのはせいぜい二人までだ。

 そこで、

 『角度を付けて跳躍し、相手の攻撃を誘導。接近する』

 『接近後、どうしても避けられない弾だけを、一方の小刀で斬る』

 『回避と同時、もう一方の打刀で、敵を斬り伏せる』

 『返す小刀で突き刺し、ダウンを取る』

 『他の相手から攻撃を受ける前に、即座に離脱』

 基本はこれを繰り返している。言うのは簡単だが、それはつまり、

 
 『食らわなければ、どうということはない』


 という、マンガの主人公みたいな道理をやっている。むしろ、ゲームに相応の自信があるプレイヤーほど「意味わかんない!!」と叫ぶはずだった。


 でも、そういうゲーマーは、実際いる。


 サーカスの曲芸師よろしく、変幻自在のチェーンアクション、超絶技巧を駆使した反応速度を伴った上で、全体図を俯瞰できる。ミクロ単位での反復作業をノーミスで実践して、勝ちあがってしまう。

 そのおかげか、ホープの真似をして、無銘刀を装備して自滅するプレイヤーが後を絶たなかった。時には『無銘ニンジャーズ』とかいう、パラメータをネタに全振りした実況動画も、人気を博したぐらいだ。

 問題は、野良で強行した場合、晒されても文句は言えない。ということだ。

 ゲームの世界は、キャラクタの能力が基本的に等しい。条件もまったく同じだ。すべてが、プレイヤーのセンスに委ねられていると言っていい。だというのに、他とは明確な一線を画して君臨する、本物のスタープレイヤーがいる。

 その眼に、なにが視えているのか、なにを信じているのか。
 
【敵を一体、撃破した。そっちは?】
【カタナ持ちを倒しました。合流します】
【了解】
 
 人によっては「たかがゲーム」と口にする。だけどこの世界は今、あらゆる現実をさしおいて、もっとも多くの人々の注目を集めていた。

 * *

 ゲームは順調に進行していた。俺たち三人は全員が生き残り、いよいよ全体の人数は、6人まで減少した。つまりは、一騎打ちだ。

 ダメージエリアは、ほぼ最大まで拡大していた。残されたのは、首都の目抜き通り。身を隠す建物も多く、敵チームは見つからない。蒸気エネルギーを漂わせたパイプラインの伝う屋根に上がり、

【見つけた。北西の貯水層の裏だ】

 メッセージが流れた瞬間、銃音が轟いた。

【一人ダウンさせた。裏から回っていた敵が介護に戻るのも見えた】
【nice!!】
【やるぅ~】

 思わず感嘆の声があがる。

「半端ないな。今まで見たスナの中で、一番上手いかも」

 超遠距離からの狙撃。たぶん、相手が一瞬だけ頭をだして様子を窺ったところを、狙い撃ちした。隠れている位置の、大体の見当もついていたはずだ。名前は『M/K』さん。男性型の兵士の方だ。

【2対3っ! チャンスだよっ!】

 残る二次元女子も、全体的に隙が無くて、なにより位置取りが上手い。編成的に、若干耐久力に不安があるところを、上手くカバーしてくれていた。

【回り込んで詰めよう】
【合わせる】
【タイミングどーする?】

 とにかく「味方が強い」という感想に尽きる。チャットやスタンプは最低限しか飛び交ってないが、そらとあかねと組んでいる時とは、また違って戦いやすい。キーボードを使い即座にチャットを打ち込む。

【リング縮小と同時。2秒前にグレ投げます】
【了解】
【ごー、AHEAD!!】

 左右に分かれて走る。建物の隙間から、ダウンした味方を救援して下がる、相手チームが見えた。続けて死角に入り、裏に回りながら、ダメージフィールドが拡大するカウントの秒読みを確認。

 5秒前。二段ジャンプと壁蹴りで、建物屋上へ。

 4秒前。投擲用のグレネードを構え投擲。

 2秒前。跳ね返り着弾。

 1秒前。爆音。強化した爆薬が【建物破壊】の付与効果を発動。

 【リング縮小開始。ダメージフィールドの範囲を拡大します】


 防火用のシャッターが、物理演算上のシステムで弾け跳ぶ。

「もういっちょ!」

 ピンを抜いて、再投擲。吹き抜けとなった建物の入り口に落ちて、カラン、コロンとバウンドして――

 轟音。

 炎が吹き荒れ、粉塵が立ち込めるなか、取り囲むように距離を詰める。ただし向こうも、黙ってやられはしない。俺たちの頭上に影が落ちた。

【引きます!】
【了解】

 反転して建物から飛び降りる。即座に「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」と電子音が鳴っていた。ゲーム的な演出。広範囲のフィールドのあちこちに、『ここにいたら死ぬぞ』というマーカーが表示される。

 数秒後、その位置に降り注ぐのは――炎に包まれた無人衛生だ。

【火属性の最強魔法だったか?】
【YES】

 屋外の集団戦で打ったら、最強に気持ちいいやつ。見た目のインパクトと、その初見殺しっぷりは、やっぱりロマンに満ちていた。

 日本のプレイヤー達からは、畏怖と敬意の念を込めて『漁夫メテオ』とか呼ばれている。直撃すれば、まず間違いなく即死だが、着弾までの予備動作は、全スキル中でも最高に長い。

 慣れてくると「た~まや~」と歌う余裕もでてくる。

 それでも、突撃のタイミングを逸らされたのは確かだ。逆に向こうのチームは一丸して、散り散りになったこちらに対して、突貫する姿勢を見せていた。

「適当に打ったわけじゃないな」

 連携の手順が早い。ダウンした敵も復帰している。

「固定のチームだな」

 身をさらして、両手の拳銃を構えて撃つ。敵の一人が即座に反応。
 ビジュアルはほとんど、こっちと変わらない、最低限のアバターだけを付けた、男性キャラ。

 両手で構えたマシンガンが火を噴く。建物の角に身を隠して回避。撃ち返す。視線の先、向かいにある建物では、同じく銃撃戦が展開されていた。

【瞳、そっちは任せた】
【OK。最後だし、全力でいくぞー!】

 二次元女子が、数体の指方向性を持った、自立四足型の機械人形を操る。


 【てき、はっけん】


 タレットと呼ばれる兵器。その大群が物陰から現れ、視界の端に映る。

 電子音と共に、パカッと、機械人形の両左右が開く。


 【うちます。うちます】


 縦に連なった三砲の機銃が一斉に火を噴く。相手に幾発か命中したようだが、当然撃ち返される。中央のアイセンサーにヒット。


 【致命的なエラー!!】


 どこかユーモラスな声をあげて、タレットが、バランスを崩して転倒する。ここまで集めた物資を使って、次から次へ、わらわらとでてくるも、


 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】


 大合唱。大量のタレット達が、次々にやられていく。個々の耐久値がかなり低めに設定されている自立兵器たちは、一発撃たれただけで、あっさりやられてしまう。真正面からの撃ち合いでは、単純に押されてしまう。そこで、


 【magic code Execution Type_Tec】
 【Add_warp_Point(x,y,z)】【dimension return】


 彼女が唱えた『魔法』と、不思議な光線銃が、攻略の『道』を作りだす。


 【OpenPortal(α)!!】


 俺が手榴弾を投げ、朽ち果てた一角。半ば瓦礫となって、焼け焦げた壁面に、彼女が手にした光線銃から、青色の光が走り着弾した。すると、円形状の『輪』があらわれる。


 【OpenPortal(β)!!】


 続けて発射。おそらくは、彼女自身の手前に撃ったはず。こちらからは視えないが、夕日の色にも近い、オレンジ色の『輪』が出現しているはずだった。

 彼女が持つ武器の名称は『ポータルガン』。
 これも現実には存在しない銃で、攻撃性能もゼロに設定されている。その代わり、特別な『魔法』が使えるようになる。


 【てきをはっけん】


 魔法の効果は、二点間の時空を捻じれさせ、繋ぎ合わせるというもの。


 【うちます。うちます】

 
 青い色の『輪』から、赤外線によるサーチレーザーが伸びた。続けて、タレットの電子音声が響き、『輪』の向こうから、銃弾が発射された。


 【HIT!!】


 相手からすれば、とつぜん、背後から攻撃されたにも等しい。相手の一人が、あせった様子で振り返り、開かれた空間――青の『輪』の先に映っているだろう、大量のタレット目掛けて撃ちこむが、


 【OpenPortal(α)!!】


 それを見越して、彼女はまたべつの場所に、青の『輪』を撃ちこんだ。二点間の時空をつなげる、ポータルの生成位置が変わる。


 【てきをはっけん】


 撃った場所は、その敵プレイヤー二人の『足下』だった。一人はとっさに避けたが、もう一人は飲み込まれた。その相手が行きつく先は、タレットの大群が待ち構える、どまんなか。


 【うちます。うちます】


 ――銃声のハーモニーが折り重なる。ドドドド


 【Hit!!】
 【致命的なエラー!!】


 ダダダダダ。


 【Damage!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】


 ババババババ。
 

 【Shield_Break!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】

 ガガガガガガガ。


 【Down!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】
 【致命的なエラー!!】


 ズドドドドドドドドドドドドドッッ!!


 【Enemy Player Defeated!!】



 【ふはは! やったぁ!】

 それは、純粋な暴力だった。戦いは数だよ。兄貴。
 プレイヤーの人命がひとつと、大量のタレット達の亡骸が散らばる。

【詰めます】
【了解】

 数的有利を確認し、ダメージ覚悟でマシンガン持ちに特攻する。


 【magic code Execution Type_WIND】
 【Enchant Level_2】【Extend_Action!!】


 空中を疾走する。壁を伝い、可能な限り、相手の上を取る形で立ち回る。ただ相手もかなりやり込んでいた。


 【magic code Execution Type_EARTH】
 【Construction Level_2】【Extend_Generator!】


 土属性の魔法で足場を生成。角度をつけた段差で、向こうも残存する建物に移り、即席の壁と覗き窓を作って、その隙間から冷静に撃ち返してくる。高さで不利になったと悟れば、さらに足場を組んで上がってくる。

「…やりおる!」

 一連の反応速度が俊敏だ。向こうもAIデバイス持ちだろう。視点操作による構え打ちは正確で、こちらの攻撃が命中しようものなら、瞬時に上体をそらし、自分が作った石壁の中に一瞬逃れる。少し位置をずらしてから、打ちなおす。

「仕切り直しかな、これは」

 純粋な瞬間火力、地の利は相手が上。こっちはMPが尽きる直前だ。衛生爆撃の影響で、倒壊した民家の屋根裏に飛び込む。おたがい牽制しあうように撃ち合っていると、

【敵を撃破】
【あと一人~!】

 メテオ持ちを、二人掛かりで倒してくれたらしい。たすかる。

【狙撃できるポイントに移動中。10秒後、相手の動きを止められるか?】
【了解!】

 キーボード直打ちらしいチャットメッセージを見て、相手の言わんところを理解する。野良でここまで意思疎通できるのは、滅多にない。心が躍る。

(あぁ、やっぱおもしれーな)

 ゲームは楽しい。夢中になれる。
 弾倉を入れ替え、メカ子が生成したマナPOTを飲む。簡易シールドも張り直す。残る一人も、完全回復してるだろう。


 【magic code Execution Type_WIND】
 【Enchant Level_2】【Extend_Action!!】


 
 疑似質量を得た不可視の床を、空中に並べて走る。生成された石壁に向かい撃ちこむ。相手も一段高さをあげて、同程度の高さからマシンガンを乱射。


 【HIT!!】
 【Damage!!】


 視点の軸をそらしつつ、空中を飛び回るように撃ち続ける。一点を狙うこっちと違って、向こうは相当やりづらいはずだが、射線はしっかりとこっちを追ってくる。

「鬼エイムかよ! やり込んでんな、畜生ッ!」

 空を跳び回り、MPがまた尽きかけたところで判断する。折れかけた尖塔、本来の機能を消失し、先鋭的なオブジェと化した、物言わぬ一点を目掛けて跳ぶ。

「――!」

 脳裏に浮かんだのは、二刀流の剣豪。
 両手の拳銃、右手だけを近接モードに切り替える。

 銃が変形。手に宿るグリップ以外の箇所が剥きだしに。
 銃弾を発射するピストン機構は、杭を打つように刺突する、マズルスパイクの運動エネルギーを支援するものに早変わる。

 拳を繰りだす。ズガンッ! と、硬質なSE音が響いて突き刺さる。その姿勢のまま、視点を反転。宙吊りになった格好で、左手の銃口を相手に向ける。

 
 【HIT!!】


 命中。ただし、ダメージをカットする、シールドにしっかり弾かれる。対してこっちは、


 【Damage!!】
 【Shield_Break!!】


 ハチの巣状態だ。空中をぴょんぴょん動き回っていた獲物が、一点にぶら下がって、無防備な姿勢で撃ってくるのだ。熟練プレイヤーの鬼エイムなら、当てるのはたやすいだろう。

 ――だから、賭けだった。

 相手のミスを誘った。新たな足場を組まず、銃を上向きにして、こっちを狙って撃つだろうと。

 安全な場所から、一歩身を乗りだして。
 頭部をさらして、注意を引き付けた。


【nice play】


 10秒後。マシンガンを乱射する相手のさらに向こう側。狙撃箇所に到着したスナイパーが、必殺の一撃を後頭部に見舞う。背後からのヘッドショット。

 クリティカルの補正値が掛かり、相手の全身から一瞬、ガラス破片が散るようなエフェクトが浮かび上がる。

【シールドを破壊。次弾装填】

「ッ!」

 相手の反応も早かった。即座に攻撃を打ち止めて、身を隠す。石壁の防御網を強固にするも、次の一撃が着弾する。

 ――吹っ飛んだ。

 火属性を込めた、マークスマン専用の、炸裂徹甲弾。
 相手プレイヤーが、爆炎と黒煙にまかれて宙を舞う。建造したオブジェクトが無散して消失。大量のダメージカウントを連れて、落ちていく。

【刺します】

 右手の銃を、通常の遠距離に変えて追いかける。おたがい、ライフゲージはほとんど残っていない。相手はそのまま転倒する形で着地。こっちは視点を変え、パイプラインの走る壁を蹴りつけ、加速度をつけて落下。

 ほぼ同時、大地に着地する。
 両手拳銃を、再び近接モードに。迷わず、真正面から走り込む。

 ――相手の顔が見える。瞳の虹彩さえも映る。

 よく作り込まれたゲームキャラクタの向こう側に、次の動作を思考する『間』が生じているのを感じた。

 ――ゲームが上手くなればなるほど。選択肢が増える。
 勝つための手段が、視えてくる。

 おたがい、あと一撃でライフが消失する状況下。真正面から殴り合うか、防御してカウンターを狙うか。一度その場を離脱して立て直すか。

 手段の数と種類が増えると、迷いが生じる。
 善悪を割り切れないのと同様に。知識の量が増えると、判断が鈍る。

 ――そうした、人間特有の逡巡さえも。

 正確無比に。誤たらず『読みきる』プレイヤーが実在する。今は頂きに届かずとも、知識と経験で、そこまでは、俺にも見えていた。

「!!」
「――――!!」

 選択を少しでも迷った時点で、勝敗が決するのを予感していた。懐に入る。相手がマシンガンを構え、指先が、引金に添えられるのすら見えるのと同時、


 【HIT!!】


 繰りだした拳を、相手の胸元に叩きつけた。


 【Good_Game】

 ――お見事。


 スタンプが飛んでくる。送信者は、目前の敵自身だった。
 口元が笑むような形に変わる。見届けて、現実の俺も笑っていた。


 【Good_Game】

 ――そっちこそ。


 スタンプを返す。一回の試合中、一度だけ、味方以外の相手を称えることができる。わずかだが、ゲーム内で使えるお金も増えるので、今回のベストバウトだったと思った時は、自然とその相手を称賛する流れができていた。


 【Enemy Player Defeated!!】


 最後の一人だった相手の全身は、ダウン状態にならず、そのまま消失。
 それを最後まで見届けると、空の彼方に、たくさんの花火が咲いた。

 
 【GAME is OVER】

 Congraturations!!
 You are the GrandMaster.


今日もまた、勝ち抜いた。俺たち三人は、最後におたがいも讃えあった。

 【Good_Game】

 * *

【お疲れ様でした】
【おつかれ】

HIT_ME:
「やったぁ!! 勝ったねぇ!」

 3人、それぞれがエモーションを発生させる。一人は高速でチャットを打ち込んでいるようだった。最後にリザルト画面に切り替わり、それぞれの戦歴を確認していると、


 【HIT_ME さんが、連戦希望をだしています。招待を受けますか?】


「さすがに寝ないとな」

 チャット入力画面を呼びだして伝える。

YOU1:
「残念だけど、今日はもう寝ます。フレンド登録だけしませんか?」

HIT_ME:
「うんうん。ぜっさんっ、きぼーちゅう!!」

 絶賛希望中だった。続けて登録を申請するポップアップが表示されたので、了解のボタンを押す。登録されたのを確認して「それじゃ失礼します」と入力しかけたところで、

HIT_ME:
「あ~っっっ!!!!!」

 なんか反応がきた。

HIT_ME:
「きみ、VTuberの天王山ハヤトじゃん!!」

 ……え?

HIT_ME:
「そっかぁ。本体の方だから分かんなかった。確か…前川祐一!!」

 …………えっ

HIT_ME:
「キミ、黛の学校の生徒でしょ!」

「…え?」

 ちょっと待て。どういうことだ。個人情報がダダ漏れなんだが。
 しかも、俺のだけじゃなくて。

M/K:
「違っていたら悪い。前川なのか?」

 ――黛先生? 思えば、イニシャルが黛景でそのままだ。

M/K
「驚かせて悪かった。うちのポンは、空気が読めないというか、それ以前の問題でな」

 ……ポン?

M/K:
「とりあえず明日、聞きたいことがあれば釈明する。今日はもう遅い。俺は寝る」

 あの、いや、俺も眠いですけど! 

M/K:
「じゃあな。おやすみ」

YOU1:
「あの先生ちょっと待ってください!!!」


 【M/Kがオフラインになりました】


 ――うおおおぉぉぉいっ!!!?? せんせえええぇい!!?

 
 待て待て、一体なにがどういうことだ。とりあえず、

「…寝れねーよっ! 気になって眠れねーよ…っ!!」

 真夜中なので、必死に小声で叫ぶ。わかっていた。
 眠る前に、動画を見たり、ゲームをプレイしてはいけないと。

 でもこの展開を予想するのは、さすがに無理ゲーだった。