DAYBREAK FRONTLINE(途中)


『セイトーステーション』

 全国にチェーン店を持つ、総合アミューズメントパークの名称だ。ネットでは冗談めかして『聖都』なんて呼ばれていたりする。

 その内のひとつ。某県の駅前から徒歩5分圏内。全国区にチェーン店を持った老舗の本屋の看板。同じビルの軒下に、テナントとして入っている『成都』の看板が並んで視えた。

「あそこだよ。あーちゃん家。あの建物の最上階」

 土曜日。俺と西木野さんは、その場にやってきた。まだ昼にも届かない、午前10時過ぎ。活気付きはじめた人波の間から、12階建てを超える高さの建造物を見上げた。

「マジすか」
「マジだよー」

 ここまで来るのに利用した交通機関は、新幹線だ。昨日のうちに両親に許可を得て、片道2時間かからない程度の旅を堪能した。その後で、俺はまたしても、軽く現実を喪失していた。

「ゲーセンの上が自分ん家とか…なんで、そんなとこに家があったりすんの…?」
「お金持ちの人たちの考えることは、謎だよねぇ。あっ、前川くん。そっちじゃなくて、こっちだよ~」

 駅前の表通りに面した玄関口は、最新のアーケード筐体をそろえたゲームセンターに通じている。しかしそこは通らず、西木野さんは裏口の方に進んでいった。自動車を止める立体駐車場の側を抜けると、エレベーターが二基稼働していた。

 一般客用のエレベーターの隣。『STAFF_ONLY』のプレートが掛けられた場所は、専用の電子鍵を差し込んでからボタンを押すと、スタッフルームのさらに上階へ進むことができる仕様になっていた。

* 

「いらっしゃい。二人とも」

 エレベーターを降りると、マンションのような細長い通路が広がっていた。その途中に、以前見た時と変わらない、日本人離れした容姿の、赤毛の彼女が立っている。

「わー、あーちゃん、その服どしたの、かっこいい!」
「…えっと、その格好どしたの?」

 俺と西木野さんの反応は対照的だった。
 
 彼女の服装は、赤いレザージャケットに、青い着物に、茶色のブーツ。ジャケットは完全に前開きのうえ、やたらと丈が短い。羽織っているというのも、なんだか正確ではない気がした。

 そもそも10月も半ばになりはじめた今日、外の風はだいぶ冷たかった。ここは建物内部の廊下だからいいものの、俺たちは相応の厚着をしている。そんななか、彼女の格好は完全に浮いていた。

「それ、なんのアニメのコス?」
「空の境界」

 あ、やっぱそうなんだ。東京に行った時は、割と普通の格好だったけど、最初うちに来た時は、すげぇ特徴的な制服だったから、微妙に判断がつかなかった。というか――

「もしかして、あの服もコスプレだったとか?」
「どの服?」
「うちに来た時に着てたやつ。シスター服みたいな」
「昔の事は覚えてないけど、たぶんそう」

 言うほど昔でもないんだけど。そっすか。コスプレは割と日常茶飯すか。

「ねーねー、空の境界って面白いの?」
「話はよく分からなかった。けど。主人公が好き」
「興味ありありです。あとで見せてー」
「地下1階にTATUYAがあるから、そこで借りれる。放送の収録終わったらいく?」
「いいですなー。ゲームセンターに、レンタルショップ屋さんとか、あーちゃんは贅沢空間に住みすぎだよ~」
「ネカフェもある。ついでに向かいの通りに、最近アニメグッズを売る専門のショップができた」
「あーちゃん! 来季アニメの限定グッズっ、推しの声優さまが登場する関連作品を、確保しておいてくださいっ!」
「いいよ。知ってる人だから、融通きく」
「わあああぁっ、神いぃぃーっ!」

 ぎゅっ。西木野さんが相手を抱きしめていた。肩越しに視線が重なった俺たちは、なんとなく言葉を探した。

「えぇと、あかねさんの、家の人とかは…?」
「いないよ。一人暮らし。それから前も言ったけど、呼び捨てでいい」
「マジで? ここに一人で暮らしてるの?」
「ん。家の名義は愚兄になってるから。こっちの居住区に関しては、あたしが管理してる」

 西木野さんに抱きしめられながら、つい、ついと、指先で扉の一方を指した。確かに非常階段に繋がる防火扉を除けば、玄関口が二つある。

「スタジオはそっちの部屋からいく。そら、離して。祐一を案内する」
「あぁ神よ~、わかりもうした~」

 限界オタク二歩手前の女子中学生が、なごり惜しそうに離れる。どうでもいいけど、ここ数日の間で西木野さんのイメージが完全に変わった。

 学校だと相変わらず、割と隙なく『読書が趣味の文学少女』『真面目な優等生』を貫き通しているのだから、女の子ってすげぇなぁと思う。

 それで向かった玄関先、そこに掛けられた不思議な形の錠前に、あかねがスマホをかざす。カチャリと音がして鍵が開いた。

「家の玄関の鍵も、携帯で管理してるんだ?」
「そう。スマホがあれば、財布も鍵も持ち歩かなくていい。近い将来、AR《拡張現実》の分野が発展したら、人は直接、服を着なくてすむようになる」

 つまり、人は全裸で外を歩くようになる。
 ――捕まるわ。

「ううん。そもそも肉体を動かす必要性もなくなるかもしれない。人の本体は、あと30年もすれば携帯に劣るから」
「…いや、さすがにそこまではいかなくね?」
「あーちゃん、出不精だもんねー」
「そうだよ。基本的に外出したくない。外出しないで済む未来ばかりを考えてる。24時間態勢で」

 外出したくないので、家にいながら生活できる世の中になればいい。ある意味究極の、ひきこもりによる健康思想法だった。あるいは利便さを追及し続けた、人類の進化の姿かもしれない。

 最大限、好意的に評価してみた。



 二つある扉の一方。その部屋はまさに『収録スタジオ』になっていた。防音素材の壁と床は元より、各種の電子楽器に音響機材、録音用のアンプやスタンドマイクをはじめ、配信用だろう、ノートPCやディスプレイも複数用意されている。

「うわぁ、すげぇ。当たり前だけど、本格的っていうか。すげぇ」
「祐一、語彙力が消えてる」
「だって、フツーこんなとこ来れねぇもん。…ん? あかね、この部屋はなに?」
「そこは愚兄の収集部屋」
「なに置いてんの?」
「楽器とか」
「…ちょっとだけ覗いてみてもいいかな?」
「いいよ」

 なんだか、さっきから、ワクワクした気持ちが止まらなかった。許可を得てドアノブを回す。中に一歩入ったら、

「……………………」

 語彙力どころか、言葉を失った。 
 その部屋には、壁の至るところに、棚上に、びっしりと、隙間なくギターが置かれていた。

 理屈じゃない。前提の知識があるかどうかなんて、一切の関係なしに、魂が叫んでいた。


 カッコイイ。


「……ヤバ……」

 俺の足は、ふらふらと、幽霊のように、一歩、二歩と、進んでいた。まるで冒険家が、旅先のダンジョンで、お目当ての財宝がたっぷり詰まった、宝箱を見つけてしまったような気持ちだ。

 ぜったい、触っちゃいけない。

 人の理性が、俺の心臓を、精一杯、綱引きするみたいに引っ張っていた。ドキドキする。エレガントな形状をしたギターが、とんでもない魔力を秘めた、伝説の武器のように、どこまでも心を魅了する。

 歯をくいしばって、どうにか目をそらすと、わずかに空いたスペースには、見た事のない、四角い端末機械のような物が、ショーケースの中に整頓されていた。

 こっちは、ギター本体よりもデザインが派手だ。地元の線路下なんかでもたまに見る、一種の落書き《グラフィティ》を施したように、勢いのある文字が原色と共に飾られている。

「それは、エフェクター」
「えふぇくたー?」

 気がつけば、あかねが隣に立っていた。

「電子の音を『歪ませる』装置。種類や使い方はいろいろあるけど、基本は電子ギターと、音を出力するアンプの間に繋いで、音質を変化させる目的で使われる」
「へぇ。すげぇな。こういうのって、パソコンの編集ソフトで音変えたりすんのが普通なんだと思ってた。昔からあるんだ?」
「あったよ。裕一の言う通り、単に音を『歪ませる』なら、DTMを始めとした、コンピューターでやる方が簡単かもしれない。原キーを視覚的なデータで取得して、調整できるから」

 でも、と。彼女はそこで一旦言葉を区切った。

「逆に言えば、そういう『綺麗に歪んだ音』は、現在では誰もが家で聞けるようになった。もっとも身近な音楽になったと言える。だからその代わり、現実世界での肉声によるライブ、あるいは生演奏のオーケストラ。昔ながらの、人の技術《テクニック》による『不完全な歪み』が、空気として伝わることの価値が再び向上した」
「なるほど、つまり昔からあったものが、再評価されたと」
「ざっくり言うと、TRUE」

 あかねの話は、面白かったし、興味深かった。

 当時の父さんが高校生の時『ロックンロール』の道を志して、じいちゃんと殴り合いをしたといった話が、今の俺にも、ほんの少しだけ分かったような気がした。

「もういい?」
「うん、ありがとな」

 俺たちは部屋を後にした。最後にもう一度振り返った時「せめて音楽の勉強をはじめてみようかな」なんて思ったりもした。

「…俺も音楽はじめようかな」

 実際言った。すると、

「はじめるなら、教える」
「マジか。神かよ」

 まさかの現役プロが講師になってくれる可能性が浮上した。

「そうだよ、祐一くん。あーちゃんは神だよ!」
「ほんま。あかねは神だわ!」

 俺たち二人が、同い年の女子を「神よ~! 神よ~!」と崇め奉ると、ものすごく冷静沈着に、

「わかったから。はたらけ、下僕ども」

 対応された。人を扱うのに慣れてる感があった。  

* *

「配信の準備をする。そら、祐一。二人とも、用意して。これから放送終了まで、お互いの呼び方は『芸名』の方で統一する」
「わかった。俺はなにしたらいいかな?」
「出入口近くのケースに、常温の水と乾いたタオルがおいてある。ハヤトはそれを、三人分持ってきて」
「了解。他にはなんかある?」
「それが終わったら、配信用PCを起動してチャンネル開いたり、スイのセッティング手伝ってあげて」
「オッケー、わかった」

 音響監督――なんて、気の利いた大人はいない。強いていうなら、ユキがそうだった。生放送の段取りの一切を、現場監督となって取り仕切る。

 専門の音響機器に関しては、俺とスイに知識がないこともあって、彼女がチューナーやミキサーと呼ばれる機械を調整しつつ、たまに「あーあー」とマイクテストを行う。

 せめて自分たちにできること。ヘッドホンから聞こえるボリューム調整を行ったり、ノイズが入ってないことを確かめた。

 俺も生放送の経験はないが、動画を編集して、投稿サイトにアップロードした経験はある。だから一通りの手順は理解していたが、二人の手際の良さは想像以上だった。

「あー、マイクテステス。クロちゃん、ハヤト君、聞こえる?」
「ちゃんと聞こえる。テスト用の受信PCも音声入ってる。二人とも、10分後に配信開始するよ。スイは、SNSの方に告知ツイートして」
「了解です。あっ、クロちゃん、メンテ先生への連絡はお願いしていいかな?」
「やだ」
「え、なんでー?」
「あいつを喜ばせるの、生理的に嫌」
「もー、わがまま言わないのー」
「…悪い、メンテ先生ってだれか聞いていいか?」

 聞くと、スイがこっちを見て言った。

「ネクストクエストの、技術班の偉い人だよー。SNSの方では『メンテ先生』って名前で、うちの会社に所属してるVTuberのグループを支援してくれてるの」
「へぇ。どんな人?」
「16歳で、海外の難しい大学卒業した天才だよ。すっごい仕事マニアでね。おまけに超美人っ」

 それだけ聞けば「ほう。なかなか完璧じゃないか。おっぱいのサイズはどれぐらいだ?」と、相手が滝岡なら質問するところだったぜ。

「……その女の人って、もしかして、バナナとか食ってる?」
「えっ、バナナ?」
「会ったのね。ハヤト。あの女と」

 普段はあまり表情を変えないユキが、心の底から嫌そうな表情を浮かべていた。

「アレには、近づかない方がいいよ。最初は常識が、次に精神が、最終的には理性が崩壊するから」

 嫌そうな顔のなかに、確かな侮蔑の色がにじんでいた。こう言ってはなんだけど、気持ちは分からないでもない。

「いや、うん。最初は心を病んだだけの女性かと思ってたけど、単にヤベェ人だったわ」
「えーっ、そんなことないよーっ、巧さん、話おもしろいし、面倒見いいし、すっごく親切だよ? 深夜アニメの話とか、マニアックなゲームの話とかでも盛り上がれるし、わたし達の活動もすごく応援してくれるし、限定グッズ10セット買ってくれるし」
「どう考えても10セットは買いすぎだろ。えーと、それで、メンテ先生っていうのが、その人――嘉神巧《よしがみたくみ》さん、だっけ?」
「そうそう。この場所で、ネットラジオの生放送をする時はね。放送前に、竜崎プロデューサーと打ちあわせや、放送予定時刻を決めるのはもちろんだけど、実際に放送する直前には、メンテ先生に、今から始めますって、声を掛けるのが決まりなの。
 放送前に通信障害が起きてないかとか、放送中になにかトラブルが起きた時なんかにも、リアルタイムで対処してくれるんだよ」
「数年前、VTuberがでたばかりの時期は、まだシステムが安定していなかった」
「あー、あったあった。一番初期の頃は、いろいろバグってたな」

 VTuberという活動自体は、俺が小学生の頃には、すでにいくつも現れはじめていた。

 ただ、ユキの言う通り、オンライン上での負荷テストをはじめ、検証が不十分だったというか、開発したシステム自体が新しく、動作確認のチェック項目そのものが未完成だったので、いろいろと障害が起きていた。

「だけどさ、こう言ったら、当時の人たちには失礼かもしれないけど、小学生の俺、けっこうあの状況を普通におもしれーって思ってたんだよな」

 その最たるものが『虚空落ち』というやつだった。用意した画面背景が読み込まれず、真っ暗な中に、ぽつんとCGキャラクタだけが現れる。

 また機材を新調したりすると、従来のアプリと相性が悪い問題が新しく発生したりと、いろいろ不備が発生するといった事もあったのだ。

「…確かにね。放送事故をまとめた動画もあった」
「そうそう。テレビのNG集みたいな感じで面白かった」
「ハヤト君は、あの当時からVTuberやってたの?」
「いや、ネクストクエストが【セカンド】を発表してからかな。リリースされたのって、去年の春だったよな?」

 俺が中学生にあがった時。ついでに言ってしまうと、VTuberのブーム自体は下火になりつつあった時期に、【セカンド】はリリースされたといっていい。

 その言い方は若干、正確性に欠けているかもしれない。基本的にVTuberの活動自体は、今でも従来の『素人の個人配信』の域をでていないこともあり、率直に言うと、物珍しさのメッキ部分が剥がれると、関心をなくした人から去って行った。という流れだった。

 一時期の流行、ムーブメントの推移ともいえる。変わらず『VTuber』という存在が好きな、一部の人たちが、継続して興味のある人々を追いかけるような形になっていた。

 そんな折に、2023年の春に。これまでとは一味違う【keep your second】という、高性能な【VTuber自動生成アプリケーション】が基本無料でリリースされた。

 俺のように、興味本位で【セカンド】をダウンロードして『作ってみた』人々が急増し、二度目のムーブメントを引き起こした。

「すごかったよな。【セカンド】前のVTuberって、好きな人は、好きだっていうか、一般世間とかメディアの反応って『まぁオタクの趣味だな』って冷めた感じだったけど、【セカンド】のリリース後って、なんていうか、むしろそういう反応してた人らも、ハマってる人はハマってるじゃん」
「【セカンド】は、外見ファッションや、アクセサリー小物類なんかも、世間の流行を取り入れた上で反映する。目立たない、小さなこだわりは、より大きな個性を満足させる。人は誰しも、他人への関心を払う前に、まずは『自分を理解し、共感性をもつ存在』を求めているから」


 ――――宇宙【人】を、信じてる?


「【セカンド】を作ったのって、その…嘉神さんなんだよな?」
「そう。あの女が、だいたい一人で完成させた」
「すげーよな。新しい技術ってさ、こう言ったらなんだけど、リリース直後って、だいたいバグるじゃん? だけど【セカンド】に関しては、そういうの、ほとんど聞いたことがないし、俺もハヤト作ってから、特に不具合が起きた記憶ないし」

 アップデートは頻繁にされている。履歴を見たら、大体は課金で購入できる、見た目を変更する、ファッションアイテムの更新と『倉庫』の拡張ぐらいだ。

 【セカンド】は基本無料だが『もう一人のジブン』の外見を変更させるアイテムの所持数には上限があり、その上限を引きあげるアイテムを、課金することで増やすことができる。

 課金要素はそれだけだ。期間限定の衣装もあるが、どれも価格はたいしたことはない。それでも人によっては、その膨大なアイテムをコレクションするために『倉庫』を買い足し、百万単位で課金する大人も少ないないという。

 管理するデータ量も当初とは比べものにならず、ユーザインタフェースもだいぶ更新されて、リリース当時よりもさらに使いやすくなっているのだが、そうした更新をする度にお決まりの『不具合の修正』という項目を見かけた覚えがないぐらいだ
 
「――中の人たちが、日々、軽量化と安定した動作を目指して、改良してるからね」
「あぁ、プログラマーさん達のことだよな」

 本当に、技術のある、すごい人たちを雇っているのだろう。

「だけど嘉神さんって、本業はっていうか、普段は、あそこの開発室で仕事してるんだよな? 時間が取れなかったりすることとか、ないの?」

 あの女性は、竜崎達彦さんも認めるほどの、仕事中毒だった。実際、俺がはじめて顔を合わせた時も、ふらふらと、美しい幽鬼のように揺れていて、会話もままならなかったけど。

 そんな俺の疑問に答えたのは、スイだった。

「その場合はね、代わりの人に頼むことになってるから大丈夫。でも今のところは、毎回即レスしてくれてるよね。クロちゃん」
「たまには仕事サボればいいのに」

 さらりと、そんなことを口にした。

 ともかくそうして『メンテ先生』と連絡を取り、配信許可が降りると、続けて現実の二人は、自分用のアカウントである『宵桜スイ』と『黒乃ユキ』で告知をはじめた。

 いよいよ本番が近づくと、確認用のPCモニタ上に、生放送の告知を聞きつけたユーザーアカウントが並びはじめる。

『こんにちはー』
『待機するのはここでいいのかな?』
『あってるあってる』
『久々のコラボ放送楽しみ』
『今日は雑談枠だよね』
『なんか今日は、ゲストが来るんでしょ?』
『男性VTuberが来るって言ってたね』
『ネククエ所属の、VTuberじゃないんだろ? 誰だろ?』
『ゲーム配信予定だから、ゲーム上手い人らしいね』

 コメントが、滝のように流れていく。

 いつもと環境が違うせいか、にわかに緊張感がこみ上げた。世間一般では人気VTuberとして、正式な企業に所属し、グッズ販売で実益をあげている『プロ』の二人組。

 その活動に混じる実感が、今さらながらにわいてきたのか。口の中が乾いて、用意していたペットボトルの水を少し飲んだ。

『きんちょうしてますか?』

 タブレットPCに起動された、イラストソフト。その上にペンタブレットを走らせて、スイが聞いてきた。

『少しね』

 俺もまた、自分に用意されたもので、同じように返した。

『だいじょうぶ。いつものハヤト君なら、平気でしょ?』
『確かに』

 二人で、声にださずに笑う。

『10秒前』

 ユキが相変わらず、真面目なのか、単なる無表情なのか、判別のつきづらい顔をしていた。

 ――カチ、カチ、カチリ。

 気持ちの噛み合う音。
 緊張感は、綺麗さっぱりに、吹き飛んだ。

* *

//image music or songs
//失想ワアド

「みなさん、こんにちはー。宵桜スイですー」
「どーも。黒乃ユキです」

『こんにちはー!』
『こんにちは!』
『はじまった~!』
『スイちゃん、ユキちゃん、こんにちはー!』

「今日は久々の、コラボ配信だよー」
「べつに一人でいいのにね」
「ちょ、クロちゃん。じゃまものみたいに言わないでよー!」
「スイが来なかったら、今日は一日、家にひきこもって、ごろ寝してすごす予定だった」
「いやいや、働いてこ? 竜Pからも、普段からもっとやる気だして。本気だしてくださいって、言われてるでしょー」
「終末の日が来たら、ほんきだす」
「ダメだよ。異世界転生には、まだ早いよ!」
「転生なんてしない。ってかさ、今よりも不便な世界に行ってなにすんの?」
「えー、でも転生したら、みんなからちやほやされるよ。自分だけが、スーパーマン? スーパーガール? なわけだし、人生イージーモードが確実だってわかってたら、転生するのはアリじゃん?」
「いや、あたし、普段から割とちやほやされてるから。いいや」
「まさかの自白!? ていうか、そこは自覚あったんだ!?」
「スイは裏切らない。一生面倒みてくれる」
「わたしに依存しないでください」

『百合営業はじまった』
『てぇてぇ』

「…まぁ、スイがあたしの面倒をみてくれるかは、ともかく。けっこう正直な疑問なんだけど、異世界って、いわゆる中世ファンタジーをベースにしたゲーム世界でしょ。そこに転生したら、スイならなにがやりたいの?」
「んー、やっぱりねぇ、人里離れた、魔法使い的な家に住んでみたいと思うよ。そこで薬草摘みやったり、調合とかしながら、お家にくる不思議なお客さん。妖精とか、半獣みたいな人たちとお喋りしてフラグたてたり、冒険者みたいな人たちと一緒に、ダンジョンとか潜って、なんかすごい宝物とか見つけたい!」
「そんな面倒なことせんでも、そこにゲーム機があるじゃん…」

『身も蓋もねぇww』
『クロちゃんが正論言ってる(白目)』

「やっぱりさ。現代の人間は、家に閉じこもって、指先の運動をしてるぐらいがちょうどいいんだよ」
「クロちゃんは、たまにはお外に出ようね? かく言うわたしも、どっちかっていうと、インドア派だけど」
「…どっちかっていうと?」
「全力ですけどっ! すみませんね! わたしだって基本は、全力で在宅モードで自宅待機して、推しのアイドルとか、声優さまとか追いかけていたいよ一生!!」

『声優さまwww』
『スイ、あなたもアイドルなのよ…?』
『在宅派オタク兼アイドル…なるほど。新しいな…?』
『会長は、もっと自分に自信もって?』

「ほらあれだよ。自分以上のひきこもりを見たら、連れ出してあげたくなるやつだよ」
「迷惑です。やめてください」
「もー、またそういうこというー。」
「詰んだ? 配信やめる? グループ解散する?」
「嬉しそうな顔しないでよー! そろそろ怒るよ~? 配信おわったら、お外でハンバーガーとかたべにいこ」
「ピザ頼むからいい」
「そんなこと言ってると、本体がピザになるよ!!」
「ヴァーチャル世界の住人は、太らないんだなぁ…」
「じゃあ食うなよ。断食しろよ」
「食事は趣味なんだよ。こたつで寝転がってるからさぁ、ごはん買ってきて」
「外でろっつってんだろ、おらぁ!!」
「とつぜんパワー系になるのやめてください」
「誰のせいやねんーーーっ!」

 べしっ。
 現実とVRの両方で、バーチャルツッコミが入った。


 ――――なんだこいつら。漫才師か?。

 俺の中のアイドル像は、完全に崩壊していた。データテキストで共有していた台本は、冒頭の数行だけをなぞって、後はもう完全なアドリブだった。

 というか、途中で俺の紹介が入るはずだったのに、消えたぞ。ちょっとしたエフェクトをつけてから、『天王山ハヤト』を二人が配信してる隣に表示する予定だったのに、謎のJCコントが始まり、完全においていかれてしまった。

『クロちゃん。ちゃんとお昼たべてね。
 :1000円を投げ銭しました』
『ハンバーガーセット代。
 :650円を投げ銭しました』

 しかも羨ましいことに、謎のコントで、そこそこの金額が、ぽんぽん飛び交っている。なんだか少し、イケナイものを見ているような気がする。そして尚の事、男子の俺としては入りづらい。

 どうしようかと悩んでいると、ユキがペンタブレットを躍らせて画面を見せてきた。

『ハヤト、なにしてるの? そろそろ会話まざって?』
『無茶言ってんじゃねぇ!! 火に油を注ぐ気かっ!!』

 これはもう完全にアレだ。可愛い女の子の二人組が、独特の距離感で、仲睦ましくお喋りしてる様子を、視聴者全体が一丸となって楽しむ様に変わってる。

 そんな場所に、男子の俺が『ごきげんよう諸君!!』とか言って参入したら、炎上必至だ。

『せめて台本通りに、俺の紹介してくれ! 動けねぇよ!!』

 高速かつ無音で、新規レイヤー化した白紙の上に、ペンタブを躍らせる。指さし、現実の二人に口パクで伝えると。

『もー、しょうがないなぁ。不甲斐ない男子のために、ひと肌ぬいであげますかぁ?』

 パワー系アイドルが、ニヤニヤしながら、笑っていた。

 ――なんなんだ、この女子は。

 実は不倶戴天の敵なのではないだろうか。この女子にかまっていたら、俺の人生は破滅する。そこまではいかずとも、平穏無事に、同じような毎日が過ごせる事はないだろう。

 仮に、彼女に憧れ、同じような道を志すことになっても。
 あるいは、その道を応援する側に回っても。

 どちらにせよ俺の人生の一部は、今後しばらく『西木野そら』という女の子と、『宵桜スイ』というアイドルに掌握された。

「それじゃクロちゃん。今後の活動告知で、情報解禁になった内容をお願いしますー」
「んー、eスポの話する?」
「そうそう。日本でも話題になりはじめた、今が旬のmobaゲーのひとつ『LoA』ですよ。クロちゃんは、だいぶ前からこのジャンルを遊んでてて、結構上の方のランクにいるんだよね?」
「ん。ダイヤモンドってジャンルにいる。一応、マッチングの範囲としては『最上位フリーマッチ帯』とか呼ばれてるところで、大体70万人中の、500位から1000位前後。それで、各サーバーに10人だけいる『グランドマスター』とも当たるのが、ココ」
「最上位ランカーさんって、やっぱりお強いんでしょう?」
「そうなんじゃない? 毎試合、上級者と対戦して、勝率6割越えをキープしてないと、ランク維持すら無理っぽいし」
「へぇ~、すごいなー。あこがれちゃうなー。『たかがゲーム』っていう人もいるかもだけど、実際それだけのアクティブプレイヤーがいて、世界レベルで経済回してる一角を担ってるんだから、これってやっぱり、すごいことだよねぇ」

 ――意味心な眼差しを向けられる。

『…ハードル上げすぎじゃね?』

 この女、煽りよる。

 リアルの外見だけはおとなしい、この世界の普通に遠慮して、たくさんの言葉を飲み込んできた彼女は、その枷が解き放たれると、本当に生き生きと、自由に言葉を躍らせた。

 普段は、距離感を取るのがヘタクソだからと言って、相手の事を慮り、それ以上に慎重になってしまう。俺と一緒で、物事の見極めに長けている。

 彼女はいつも、物事の対象となる、成否のラインを、自分なんかでは超えられないんじゃないかと、恐れ続けている。

 他ならぬ自分自身が大好きだった人たち。先駆者たちが活動の継続をあきらめ、そっと静かに消えていく。直接ではないけれど、そんな『事実』を、たくさん目の当たりにしてきた。


 ――どうしても。
 従来の環境では、輝ける才能は、限られてしまうからね。


『LoAいいよねー』
『うちの学校、クラスでもやってる奴おおいぞー』
『moba好きだから、日本でも流行ってきてくれて嬉しいわ』
『まだまだメジャーって言えるか微妙だけど、eスポ自体の風向きはここ数年で変わってきたよなー』
『昭和の時代とかは、ゲームやるだけでバカになるとか言われてたからね。その時代と比べると全然進歩してるわ』
『そのジャンルを好きな人が、楽しそうに宣伝してくれると、こっちも興味わくんだよなー』
『せやせや。マイナなジャンルの拡張って意味では、動画投稿者とかVTuberって、本当に貴重な存在だと思う』
『わかる。スイちゃんのおかげで、俺麻雀はじめたよ』
『麻雀プロの、勝負事に関する哲学本買ったわ。面白いぞ』
『僕はユキちゃんの歌ってみたで、昔の曲とかアニメの曲知った』

『本当に少なくてごめんだけど、これからも頑張ってください。
 :390円を投げ銭しました。

『いつも楽しい時間をありがとうね。
 :2000円を投げ銭しました。


 ――求めるのは、一流のレストランではないんだよ。
 規模は小さくとも、末永く環境が続けていける
 相互作用のコミュニティだ。


 未来に続く、通過点。その【標】。

 勇気を持って、1歩目が踏みだせるような。彼女がこれまで好きになったものを引き継いで、その灯火を絶やさぬように。一度は落ちて転がってしまったバトンを拾いあげ、息の続く限り、次のゴールを目指して、全力疾走できる可能性。


 ――人生には、早いも、遅いも、本当はない。
 ヒトは、生きている限り、いつだってチャンスがある。


「さぁ、そういうわけで、実をいうと本日は、もうゲストがきちゃってるんですよー。LoAは3人チームによるゲームですからね!」

『だれ?』
『ゲーム上手い系か、LoAやってるVTuber?』
『あ、もしかして……』

 いつか終わってしまうかもしれない。べつのものに置き換わってしまうかもしれない。でもそれは、きっと今この瞬間よりも、ずっと素晴らしいものに違いなくて。

 同時に触れていなければ、次の『新しいもの』がやってきた時、きっと置いていかれてしまう。旧い価値観だけで、ぐるぐると、同じところだけを、巡り回ってしまう。

 そんなのは、嫌だ。


 ――過去と未来、どっちが好きかね?


 「 ご き げ ん よ う ! 

   諸 君 ッ ! ! 」


 台本を閉じろ。声をだせ。

 既定路線を破壊しろ。


「――オレは今回、【桜華雪月】の二人から依頼を受け、馳せ参上した、天王山ハヤトというものだ」

 あたたかい、息を吸い込む。

「オレのことを、まったく知らない。そんな視聴者の方々も大勢いらっしゃることだろうから、まずは自己紹介をさせて頂きたい」

 現実の二人が、小さくうなずいた。

「普段は、LoA《レジェンド・オブ・アリーナ》というゲームで、実況解説動画を上げている。現在のアジアサーバーでの個人順位は5位だ。先も黒乃ユキから説明があったが、最上帯で活動する『グランドマスター』の称号を冠している」

 流れてくるコメントは、半々の割合で『ハヤトじゃん!』というものと『誰だよ?』という内容の二極だ。

 コメントの流れ、その空気の色が如実に変わる。それでも完全に否定的なものは少ないはずだった。

「男子諸君ならば、生まれて一度は抱いたことがあるだろう【最強】という称号を求め、日々を生きている」

 ゲームに理解のある人々は、聞き耳を立てるように。そうでない人たちもまた『二次元のアニメイラスト。3DCGモデルの美少女』のファンになる層だ。

 まったく理解が及ばない。というわけでは、けっしてないはずで、どうしたら伝わるか、受け入れてもらえるかを模索した。

「俺は、ゲームが好きだ。自分のやりたいように、自由にできるからだ。好きになれば、なるだけ返ってくる。たくさんの事実関係が見えてくるし、仮に飽きてしまっても、その経験はまたべつのゲームや、現実世界の生き方に応用できる」

 答えはたったひとつ。自分の『好き』を、まっすぐに伝える。

「だからオレは、他の誰よりも、そのゲームをしている間は、対象世界の事を、仕組みを真剣に考えた。技術を習得するつもりで実践することを繰り返した。そして世界に費やした『愛情』の質は、他の誰にも劣っていないという、自負があった」

 それが、自分にできるすべてだ。

「そういった、自分なりの知識や学習成果を、動画にしてアップロードとした。言うなればイキっていた。だが中には、そんな動画を喜んでくれる人たちがいる。それで十分だと思っていた」

 すぅーと、声を吸い込んで、吐き出す。

「だけど、本当は、そんなものでは足りなかった。本音を言えば、もっともっと、たくさんの称賛と羨望の声がほしかった。故に俺は今回、己のエゴの為だけに、参上したというわけだ」

 いざとなっても、アンチが二人を攻撃しない形になれるよう、立ち振る舞うことを意識する。クソコラを作られ、おもしろがられ、叩き台にされ、罵倒されるのが『俺の仕事』『俺の役目』だ。


 良い覚悟だ。我が半身よ。
 キミにしては上等な余興だ。付き合ってやろう。


 画面に映るオレが、得意げに『フッ』と前髪をかきあげる。
 心なしか、ほんの少しだけ、短くなっている。

「あぁ、そうそう――諸君らは、心のどこかで、こう思ってはいないだろうか。テレビゲームなど、しょせんは『たかが子供の遊び』であり、ましてや、ヴァーチャルアイドルとはいえ、性別が、女子供のゲーマー気取りが、真剣に取り組むといったところで、そんなのものは、どうせ『たかが知れている』と。野球の始球式のようなものだ。格好だけつけて、投げたボールが、ミットのど真ん中に入れば、拍手をしてもらえるのが関の山だ。そんな風に、みくびってはいないだろうか」

 二人の顔が、逆に驚いたものに変わっている。返すように、俺は不適に笑い返してやった。

「――冗談ではない。オレたちは、至って真剣だ。至って大真面目に【最強】を目指している。今日この時、現実の瞳に移る世界と、モニター越しの液晶世界に差はない。ゲーム世界での勝利は、現実での勝利にさえも結びつく時代だ。それをどれだけ否定したところで、我々の世界が『そういうもの』に変わり果ててしまうのは、もう誰にも止められない」

 笑う。現実で、仮想で。オレ達は謡う。

「――我々が、従来の認識そのものを変えて御覧にいれよう。諸君らには、我々が【最強】の称号を獲得する瞬間を、ぜひ見届けていただきたい。以上だ」

 不遜に。尊大に。二人と視線を交わす。
 すると今度は同じように笑われた。

『結局、一番ハードル上げてるの、君じゃん』

 目で直接訴えながら、ひとしきり声にだして笑ったあと、

「――リスナーの皆さん、お聞きになった通りです。わたし達のコラボ相手は、近年まれに見る、馬鹿です」
「すごい馬鹿」
「ヤバイですね」
「クレイジー」
「なんとでも言うが良い。諸君らも、いずれ気づくだろう。この世界、現代社会の価値観において、【真の王】とは一体どこを、何者を指し示すのか。次に求めるその標を、教えてやろうじゃないか」

 * *

//image chapter music.
//Infected Mushroom - Spitfire

 口元が歪んだ。
 手にしたタブレットペンを、ブンブン回す。

「――いいねぇ。バカが。イキってんねぇ」

 『たかがゲーム』で、そこまで、得意気になれるか。
 ニヤニヤしながら、わたしは、ファンアートを書いていた。

 土曜の昼前。ヘッドフォンをつけて、自分の部屋でネットラジオの音声だけを聞いていた。仕事用の絵を描く合間に、最新の『落書き』を描いていた。この時間、母親はまだ眠っている。

 描いた絵は、あとでツイッターのアカウント上に、アップロードする予定だ。描いているのは、ラジオ番組の内容にも関連した、ゲームのイラスト。日本でもムーブメントとなった『moba』だ。

 そのキッカケとなった『LoA』の本家と、日本界隈の運営を取り仕切るディレクション部は、なかなかに、この国でのサービス形態というものに理解を示している。

「いいねぇ。インスピレーションわいてくんじゃん」

 運営元は、ファンの二次活動。イラストや音楽面での創作活動を全面的に支援している。それがアジア方面のオタク、特に日本という国で『対戦ゲーム』というジャンルの成功に結び付くことに、強い理解を示している。

 そこで公式では度々、イラストや、ノベル部門のコンテストが採用されている。

 特にイラスト関連では、優秀賞となった一部の作品には、ゲーム内で『スキン』や『壁紙』アイテムが実装されるため、絵を描く人間のみならず、一般のユーザーからも人気が高い。


 ヒトは誰しも、他人への関心を払う前に、
 まっさきに、テメェを理解し、共感性をもつ存在を
 求めているからなァ。
 

「――特に日本人はね。遊び方の幅が広い。自分が好きなキャラクタを気に入って使い続ける傾向が多いと言われるけど、要はそれなのよね。外国人よりも『ジブンの事を認めてほしい』って気持ちが世界中を見渡しても、トップクラスに強いのよ」


 アッハッハ。むしろ協調性がないんじゃねぇか?


「そう。日本人ほど、協調性のない人種はいないわよ。だから、直接的な戦闘力として評価される、サッカーやバレーを始めとした集団戦の能力では、実績として数値に現れない。日本人の言う協力プレイって、本質的には年功序列のワンマンプレイよ」

 サラサラと、PC上のイラストモニター上で書き込みを加えていく。キャラクタの拡大縮小をしながら、微修正を行い、自分で決めたタイムリミット内に終わるよう、筆を進めていく。

 直接的な報酬に繋がるものではない。
 単なる1枚のファンアートだから、掛ける時間コストは薄い。

 『落書き』レベルだ。


 ――おっと。フジワラさんから、ご連絡だぞ。

 
「わたしの携帯ハッキングすんなって言ってんだろ」


 気にするなよ。
 おまえのプライバシーは、オレのプライバシーだ。


「意味わかんねぇわ。死ねよ」

 答えながら、充電していたスマホを手に取り、ラインを確認する


fujiwara:
「こんにちは。本日は、ゲームの配信はどうされますか?」

kazami:
「今日はやらないかもー。ってかさー、うちら序盤に勝ちすぎて、相手が警戒するようになってるぽいんだよねー」

fujiwara:
「50戦目以降は、マッチング相手の検索に、30分とか、かかりましたからね」

kazami:
「そーそー。レーティングトップなのも影響してるんだけど、あきらか、こっちが生で配信中、マッチング待ちしてるの確認してる連中が『引いてる』よね」

fujiwara:
「…配信を一時中断する。というのは如何でしょうか。対戦中もブッシュのどこに隠れているのかとか、こちらの狙いや戦略も分かってしまいますし」

kazami:
「まぁねぇ。こっちのチームだけ、相手のガチ勢に情報筒抜けみたいなもんだから。ハンデっていうには、ちょーっちキツイよね。でも止める気はないんだわー」

fujiwara:
「どうしてですか?」

kazami:
「イキりたいからに決まってんじゃん。イキれもしないのに、ゲームやるとか、意味わかんねーわ。投資した時間に対する損益増やすだけの行為とか、わたしぜってーやらねー主義だから」

fujiwara:
「さすがです。風見さんは素敵です。尊敬します」

kazami:
「フッジー。キモい」

fujiwara:
「ごめんなさい。本当にその通りだと思ってしまったので、心から賛同してしまいました」

kazami:
「はいはい。よかったね。じゃあ今日はゲームはしないから。わたし今日は一日中、絵ぇ描いて、たまにツイッターしたりするぐらいだから。ロリにもあったら適当にそう言っといて」

fujiwara:
「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 ラインを終了してスマホを元の位置に戻す。それから再び、集中力を高めて『落書き』を完了させた。ツイッターにタグをつけて、画像データをアップする。

 #『LoA』落書き30分勝負。

 ハヤト様のリンディスを描きました~。
 生放送のラジオも楽しかった! いつか勝負したい!!

 ヘッドホンを付けた、ゲームキャラクタのイラスト。1時間も経たずにお気に入り数が1000件を突破する。仕事を要請するDMも飛んでくる。ザコ共はすべて無視して、元データの画像ファイルに、赤ペンで大きくバツ印をつける。
 

 FXXK YOU !! 


 他人の生き甲斐をブッ潰してやんのって、最高だよな。

sage