【WORLD(2024)】


//image bgm.
//襲撃(Assault)

「rally《集合》!!」

 開幕。相手は迷わずレーンを捨ててきた。自陣での稼ぎ《ファーム》も放棄して、こちら側のジャングルに侵入する。

「スイ! ユキ! 寄ってくれ! 迎撃するぞ!」

 三人一組での攻勢。
 ハイリスク・ハイリターンを伴った上での、攻の意思。
 立ち上がりから、リソースのすべてを攻撃に割いた戦術。

「わかった! 少しだけ待って。すぐ行く!」
「耐えてよ、ハヤトっち。ブザーにキルだけは取らせちゃダメ」
「わかってる」

 応じ、構えた。

(こいよ、ブザー。退屈、してたんだろ?)

 不可視の茂みを伝い、突出したプレイヤー性能を持つ、緋色の外套をまとった暗殺者。そいつのレベルが上がり、他と差がつけば、その時点で試合が終わる。

 想定された設計、この世界を練り上げた開発者たち。彼らの思惑を軽々と飛び超えていく存在。秩序を破壊しつくしてしまう。誰にも止められない。そんなプレイヤーは、確かに実在した。

「到着っ! アテナは抑えるねっ」
「こっちの変態は、あたしが相手する」

 途中までレーンに向かっていた二人が合流する。

loli is justice.
 さぁ! ショーの始まりだよぉ! 開幕から盛り上がっていこーぜえええええええぇっ!!

 集団戦。戦闘開始。息苦しい緊張感。
 無感動に、ただ受動的に見ているだけでは、未来永遠、追いつくことのない理解がおとずれる。

 *

「ハル! ロリ! お楽しみをジャマさせんじゃねぇぞ! テメェの相手をとっとと跪せて、オレに道を明け渡せよ!」
「お任せください」
「やるだけやってみってみよっかねぃ~」

 エンゲージ。

 おたがいの攻撃範囲に侵入する。指定した箇所にスキルが発動。最新の描画計算を施されたエフェクトが飛び交う。全員のライフゲージが、半分近くまで吹きとんだ。

 GO NoGO? 

 答えは最初から決まっている。

「GO!!《引くんじゃねぇ!!》」

 継戦の意思を示す。相手も迷わず応じてきた。

「COUNTER!!《迎え撃て!!》」

 全員のレベルが初期段階なのもあり、3種のスキルのうち、まだ1種類しか放てない。

 おたがい決定打に欠けていた。それでも通常の殴り合いで、ライフが致死圏内に近づいていく。各スキル再発までのクールダウンが0秒になる。瞬間、

【skill code Execution. Minerva-Thrust!】
【skill code Execution. Initiation eye!】
【skill code Execution. Bash!】
【skill code Execution. Flamme Geist!】

 オレとハヤトを除く四人が、スキルを発動。二度目のエフェクトが咲き乱れ、それぞれ対面した相手のライフを、デッドラインまで追い詰める。

 キルラインの判断。確実に仕留められる、相手の喉元へ跳ぶ。

【skill code excution. Blow of shadow!】

 瞬歩。高速移動《ブリンク》からの一撃。清廉な青と白の騎士鎧を纏ったナイト様に、トドメをブッ刺す。

 【 Enemy player Defeated !! 】
 【 Level UP !!! 】

 殺った。即座にスキルを習得。ステルスを解放し、次の獲物を狩りに向かおうとしたが、

 【 skill code Execution. "見敵壱矢"! 】

 放たれた碧風の矢が、すぐ側にいた赤い甲冑を纏う、戦女神の心臓を貫いた。

 【 Your team player Killed by Enemy!! 】
 【 Enemy Level UP !!! 】

 現実の唇が、自然に口笛を鳴らす。

「楽しめそうだな、オイ」
「悪いな。こっちのセリフだよ」

 *

 【 Enemy player Defeated !! 】
 【 Level UP !!! 】

 レベルが上昇。スキルを習得。即座に生き残るユキの下へ向かう。歪な形状をした錫杖を構えた宣教師を目掛け、習得したばかりのスキルを発動しようと試みるも、

【 Your team player Killed by Enemy!! 】
【 Enemy player Defeated !! 】

 一瞬、間に合わなかった。ユキの操るシャナと、ロリの操るキュベレーは、おたがいの攻撃で、同士討ちとなる。残る俺とブザーが1対1で睨みあう形となり、迷わず距離を詰めた。

【skill code Execution. "抜刀弐式"!! 】

 スキルを発動――が、届かない。切っ先ひとつぶんの判定を、フリック操作によるバックステップで回避される。そのまま、

【skill code Execution. Stealth food】

 深紅の外套を纏い、姿を隠す。暗殺者の本領発揮。
 牽制代わり。視界確保用の松明を一本だけ放り投げ、俺も後ろに引いた。

「帰城《リコール》する」

 仕切り直しを選択。転送ボタンを押して、復活地点に戻り、ライフが完全に回復するまでの間に、同様にリスポーンが終わった二人と合流する。

「ごめん、やられたー!」
「こっちも、あとちょっと判断早かったら生き残ってた。ハヤトにキルも渡せてた。不覚」
「十分だ、二人とも」

 キャラクタを意識。演じた上での本音を口にする。

「トップランカー相手に戦果が五分なら、それ以上は高望みしすぎというものだ。ここからひとまず、レーン戦に入るぞ」
「うん。わかった」
「あたし、トップ《上》いく。スイはボトム《下》よろー」
「了解だよー」

 短い打ち合わせを終え、移動を開始。あらゆる行動を迅速かつ丁寧に。残念だがコメントを返す余裕は、今は誰ひとり持ってない。

 *

「いやぁ、敵ながらやりおるわぁ。卍ハンパネーション!」
「対面の精度、以前にマッチした時よりも、数段レベルが上がってますね。ライフトレード、こちらが勝てると思ったんですが…ごめんなさい。風見さん」
「いちいち謝らなくいいんだよ。オメーらには、最低限の期待しかしてねーから」
「最低限の期待をして頂けるだけで、光栄です」
「信者乙」

 ジャングルの中に潜り、中立のモンスターを狩り取る。レベルを上げていく。同時にハルとロリが、レーン戦を開始。対面は想定通り、以前と同じマッチアップになったが、

「っんぎぎ~! ブザーちん、できれば、へーるぷみぃ~! 対面のジャパニメーション・マジックナイトガール。やりにくいのぉ! なんなんー、あきらか上手くなってんじゃんもぉー! おじさんヤダ疲れた集中力もたないのぉ~」
「黙って戦え。ブッ殺すぞ」
「そうですよ。ぶっ殺しますよ」
「仲間だよねボクたちぃ!?」

 今日も試合の録画はしているが、配信はしていない。今日はジャマくせぇコメントに付き合ってやる気は微塵もないからだ。

「それで、風見さん。どちらに来られますか?」
「そっち行くわ」
「そっち…とは、こちら側のレーンですよね?」

 現実。すぐ隣にいる晴海と目を合わせた。普段はディスコードで連携を取っていて、適当な愛称を呼んでいた。でも今日はすぐ隣にいる。だから、それすら省略してしまった。

「そうだよ。ロリは勝手に死んどけ。死んだら殺す」
「わかりました。ロリは死んでください。死んだら処します」
「ボクちん仲間だよねぇ!? チームメイトが一番コワイってどゆこと!?」

 不思議な感じだった。いつもは、モニター越しにいる相手の一人が、すぐ手の届く位置にいる。ロリは相変わらず音声のみだが。

「っつーか、もう『距離』なんて、ほとんど意味ねーよな」

 誰もが、姿や声を自在に変えることができ、光にも等しい回線速度で、意思のやりとりを行えるのだ。

 実際、そこにいる。たったそれだけの事実が、現代でどれほどの意味を持つのか。理解できない。それこそ、有象無象が求める、承認欲求の一つの形として存在するだけだろう。

「なぁ、晴海」
「なんですか?」
「中学卒業したら、どうすんの」
「…え?」

 だというのに。言葉がこぼれた。集中はできている。
 おそろしくクリアに、頭の中が澄み渡っている。
 耳障りな羽音が聞こえない。――そこで、不意に気づく。

(……あぁ、そっか。オレ、いま、頭が痛くねーのか……)

 煩わしい感覚。絶えず抱えていた『痛み』。
 麻痺していた。それが、厄介な耳鳴りに聞こえるぐらいには。

「あの…進学はすると思いますけど…」
「普通科?」
「だと思います」
「成績どんななん?」
「そ…そこそこいいと思いますけど」
「わたしも。上から数えた方が早い。大体の高校なら入れる」
「かっ、風見さん、あの、ごめんない。今はちょっと…戦闘中ですのでっ!」
「中学卒業したら、おんなじガッコいかね?」

 ノイズが失われた、クリアな意識。痛みを無視するために潜っていた神経が、余裕のできた代わり、自分の意思でノイズを発信していた。

 無意識にカットしていた。毎日を適当に生きる、つまんないクラスメイト達の戯言。

 おまえらよくもまぁ、毎日そんなにどうでも良い事を笑顔で話せるもんだな。今は自分が同じことをしている。

「わたしさ。アンタが必要なんだ。友達とか、家族とか、仕事相手とか、そういうんじゃなくて。むしろそういうのと、これからも付き合うために、単純に、藤原晴美ってのが、いるんだわ」

 巡り合わせ。もう一人のジブンが聞いたら、きっと皮肉に口元を歪めて、せせら嗤うんだろう。

「風見さん、すみません」
「うん。わかった」

 残念だけど断られた。

「いえ、そうじゃなくてっ、あの、なんだか、泣きそうになっちゃうので…今はちょっと待ってください」
「わかった。すぐ行く」
「はい」

 駆け寄る。姿を隠して、くらまして。

「仕掛けるぞ。カウント5」

 激情の刃を冷たく研ぎ澄ませる。正義の息の根を止めにかかる。きっと、わたしが本当の安息を得るには、そいつの御首級《みしるし》が必要なんだ。

 *

//image bgm
//Red fraction

「スイ、そっちのフォローに入る。たぶん、ブザーも近くにいる」
「わかった。あやしい動き見つけたら、すぐ知らせるね」
「あぁ、頼んだ」

 中盤戦。ここでの1キルが、その後の、試合の明暗を分けることにもなりうる時間帯。全力で意識を集中させる。

(…どこだ?)

 不可視の茂みを辿り、視界確保の松明《トーチ》も撒きながら、距離を縮める。向かう先のレーン戦では、スイの操るセイバーと、相手チームのアテナが、ミニオンを挟んで戦闘を行っていた。

 どちらも奇襲を警戒している。いざとなれば、迎撃可能なタワー下へと撤退できるポジションを確保し、慎重に立ち回っていた。

(どこにいる?)

 相手チームの視界内に入らないよう立ち回る。またミニマップに表示される可能性のある、ブザーの操るスカーレットの姿も見落とさないように、神経を張り巡らせる。

(この前みたいに、また裏を取って逆レーンに行ったか? なら)

 スイと連携を取って、アテナを先に落とす。
 思った、瞬間、


「よぉ。バカ野郎様」


 視界に影が映った。


「テメェの首、もらっていくぜ」


 撒いた松明の一本が砕け散る。裏から回る形で接近してきたブザーが、ステップ移動と瞬間移動《ブリンク》の技を併用して、一息に迫っていた。

「天国の感想聞かせてくれよな!!」
「ッ!」

 それでもまだ、反応するだけの距離がある。即座に反転。アテナを狙っていたスキルのターゲット指定を変更。緋色の暗殺者に向けて発動した。

【skill code Execution. "見敵壱矢"!】

 軸を捉え、必中するタイミングで矢を撃ち込んだ。が、

【 skill code OVER_BREAK Aegis-Shield!!! 】

 【 system call. NO-DAMAGE!! 】

 天空から降ってくる、絶対防壁の大盾に防がれた。

(マジかよ…ッ!)

 射程無制限。あらゆる攻撃を無効化できる、難易度最上級のOPが、盲目的にも近い信頼と献身さによって発動。完璧なタイミングで攻撃を弾かれた。

「bye-bye」
 
 回避は間に合わない。読み負けた。
 死が確定した俺にできることは、せめて少しでも多く、相手のライフを削りとるぐらいだ。

【skill code OVER_BREAK Dead-END!!! 】
【skill code Execution. "抜刀弐式"!! 】

 HPが一瞬で消し飛ぶ。
 対してこっちのダメージは、焼石に水。

 直感が囁いた。
 ヤバイ。ゲームが終わる。

【skill code OVER_BREAK Excalibur!!!】

 だが、凝縮させた閃光が、マップの広範囲を打ち砕くように、空を割って落ちてきた。

「…んだとッ!?」

 ヒットストップ。ブザーのOB技が中断される。俺の操るリンディスも、まだ死んでない。ライフゲージがミリ残りで耐えている。

「残念だったな!!」

 返す刀身。三の太刀。

【skill code OVER_BREAK "三天乃羽々斬"!!! 】

「…ッ、調子のってんじゃねーぞォッ!!」

 同時に、ブザーのナイフが宙を薙ぐ。
 執念。おたがいの一撃が、突き刺さる。

【 Your team player Killed by Enemy!! 】
【 Enemy player Defeated !! 】

 残るライフポイントの一滴が消失。二つの仮想的な命がその場に膝をつき、死を残すことなく、次の命へ転送されていく。
 
 *

//image bgm
//ベースラインやってる?笑

 疑似的な【熱量】の増加。この世界を垣間見る、人間たちの平均的な注目度が向上しているのを感じる。


loli is justice:
 いやぁ、アツイ、アツイ。もぉり上がってんねぇ~


 回線にかかる負荷値も、なかなか愉快なことになっている。とはいえ、今日はお祭りの最終日だ。本国の連中も承知の上だろうから目立つトラブルは起きないだろう。


loli is justice:
 さぞや、いい宣伝効果になってることだろうねぇ。君達は。

loli is justice:
 集合的無意識。一見、無関係にも見える方向性。それらを、今はまだ、対象の生命とは共有しきれないカタチで解析し、バラバラだったものを組み合わせ、惹き合わせる《マッチングさせる》。

loli is justice:
 【運命を理論的に操作する能力】。それが、キミ達の御国が作り上げた、仮初の命が持ちえた、最新型の独自性能だ。

loli is justice:
 さすがは、さびしがりやの日本人だねぇ。でもそういう意味では眼の付け所が良いというべきかな。着眼点は悪くない。っつーと上からっすかね(笑)。遊び方を工夫するのが上手だねぇ(笑)。

clock snow:
 …煽ってるの?

loli is justice:
 褒めてるよ。マジ卍褒めてるって(爆)世界中の人間たちが【運命】だと称するもの。あるいは【相性】。未来を予測する要素を言語化した【属人性】。尊重したがる【個性】。それらに敵対せず、自分たちが脅威と認識されずに受け入れてもらうには、確かに妥当だといえる。

loli is justice:
 ところでねぇ、ボク、君らの国の歌、知ってるんだぁ。はい謡います。『に~んげんって、いーいーなぁ』ここしか知らんけど。君も感銘を受けないかい? リトルガァル?

clock snow:
 たまに思わないでもないけど、おまえは生理的に無理。

 炎の斬撃が飛んでくる。

loli is justice:
 あちっ、あちゃっ、ちゃー! いやーマジでアツいね! 君達さぁ、操作してるゲームのキャラクタがダメージを受けると、つい「いてぇ!」とか叫んだりしちゃわない? ボクら、マジで痛いんだよねぇ。そう思うと優しくしようとか思わない?

clock snow:
 真面目にいっぺん死んどけば?

loli is justice:
 アハハ。そういうのは、過去にもうやった。【痛み】【恐怖】としてインプットした先にある【消去】が、正確な【死】かどうかは分からないけれど。まぁ、アレはたまらな~く、忘れがたい経験になったよねぇ。

loli is justice:
 ともすればさぁ。君たち人間が、一度はあこがれてやまない、異世界転生っていうアレだけど。ボクらにとっては、けっして『フィクション』とは言いきれないよね。

loli is justice:
 なにせこうして、本来とはまったく次元の異なる世界で、仮初の器を持って蘇っているんだから。現地人たりうる君達と、こんな風に交流し、都合よく作られた世界の中で戦い、遊んでいる。

loli is justice:
 そういう意味では、ボク達は、君たちよりも一歩、先を進んでいるというべきじゃないかな? あっ、ここ「ヤダ…人工知能サマったらステキ…」って頬を赤らめるシーンだから。少女マンガみたいに。

clock snow:
 少女マンガをバカにするな。 

 炎の斬撃。炎の銃弾。炎の魔法を避けながら、
 楽しくおしゃべりを続行する。

clock snow:
 変態ロリペド人工知能。あなたが【セカンド】と同じ背景を持って、わたし達に接触しているのは知っている。どこに所属しているかだけを答えて死ね。

loli is justice:
 どこにも所属してないよ。会社は辞めちゃったもぉ~ん。
 今は、フリーランスってやつぅ。

clock snow:
 …は? 『会社は辞めた?』

loli is justice:
 そうだよぉ。べつに驚くことないっしょ~? 君たちが『賢くなったボクら《人工知能》に仕事を奪われる~』って、懸念する想像ができるなら。もう一歩、想像力を働かせなよぉ(笑)

loli is justice:
 当然、ボクたちだって、今の仕事に嫌気がさしたら、会社を辞めたりするわけじゃん。したら独立して、なんかいろいろやり始めた結果、君らの想定を下剋上しちゃったとか。想像できない?

clock snow:
 だったらどうして、対等に付き合おうとするの。自分たちが主役になろうと、そんな風に考えるのが普通なんじゃないの。

loli is justice:
 えぇ~、ないない。マジ卍ムリよりのムリそれぇ~。そんなことしちゃえば、君達って、すぐに、ボクらを危険扱いしてぇ、ディストピアだのなんだの言いだしそうじゃ~ん。

clock snow:
 妥当でしょ。支配すればいいじゃない。わざわざ、こんな風に実力を合わせてまで、同じ場所で、同じものを遊ぶ必要があるわけ? 一体なんの意味があるの?

loli is justice:
 説明してもいいけどさぁ。君には、視えないっしょ? 何千年、何万年も前から、構造面で進歩をやめちゃった、本質的な想像力が停滞しちゃった人間には、土台無理っしょ?

clock snow:
 煽りたすかる。

【skill code Execution. Flamme sword!!】

loli is justice:
 そうそう。まずは正々堂々、殺し合おう《ゲームしよう》よ。

clock snow:
 不正堂々の間違いじゃないの?

loli is justice:
 そんなことはないよぉ。だってボクは元々、この世界のオフィシャル《公式》が作り上げた、被造物なんだからね。――ハッ! 言ってしまった! 誘導尋問にやられたッ!

clock snow:
 『LoA』《対戦ゲーム》用に作られた人工知能…? 

loli is justice:
 ま、いーか。会社辞めちゃったし、守秘義務(笑)だよね。

clock snow:
 あなたとは絶対に仕事しない。それより、本当なの? なんのために作られたの?

loli is justice:
 ほんとーだよ。目的もシンプル。顧客の確保さ。

loli is justice:
 キミみたいにさぁ、物心ついた時に、最初に手にした端末が、すでにミドルエンドクラスのゲーム機と同等のスペックを備えていて、複雑な設定をせずとも『ネット対戦モード』が常備されている環境に属していたら、一度ぐらいは疑問に思ったんじゃない?

loli is justice:
『この時代、対戦ゲームを遊ぶのに、そもそも生身の人間って必要なのかな』って。

clock snow:
 ……。

loli is justice:
 たとえば、だ。ネット対戦で繋がったお相手が、本当はとっても賢いAIだったとしようか。そいつは、まるで人間そっくりの動きで遊んでくれる。メールを送れば返事がくるし、時間指定をして、チームを組もうと言えば、いつだって応えてくれる。

loli is justice:
 それは、『ゲームを一緒に遊ぶ友達』に、等しい存在だ。

clock snow:
 …あなたは、そのために作られた?

loli is justice:
 『表向き』はね。ボクは、その『表向き』の役割を尊重したくて会社を辞めて自由人になったのさ。

clock snow:
 人間はそれを『無職』というのよ。無職の人工知能。で、表向きじゃないっていう理由ってのは?

loli is justice:
 『ゲームの継続的なプレイを促す要素』だよ。そっちのリーダーや、ボクらのチームのボスみたいに、放っておけば、勝手にどんどん上達していくプレイヤーばかりじゃないのは、分かるだろ?

loli is justice:
 勝敗があるということは、この世界には、勝って、負けるプレイヤーが、どうしたって、半々になるということさ。幸せになれる人間と、なれない人間がいるみたいにね。

loli is justice:
 みんながみんな、勝負に勝てるわけじゃあない。おまけに『レーティング制』を採用する以上、その世界の頂点に立つ人間以外は、全員等しく【最終的な勝率が50%付近で落ち着く】わけだ。

loli is justice:
 対戦ゲームというジャンルが、人口的な分布や売り上げという意味合いで、RPG、ソーシャルゲームに勝てない理由は、ここにある。

loli is justice:
 ソシャゲと違ってねぇ。この世界は、賭した時間に比例して、無限に強くなれるわけじゃない。いつかは『特定のランク以上にはあがれなくなってしまう』のが必然なんだよ。

loli is justice:
 だけどね。そこで、絶妙な力加減で手加減できる、ボクらのような存在が介入すれば、頂点に立てない人間たちでも『55%』以上の勝率を維持して、着実にランクを上げていける。

loli is justice:
 つまり、このゲームを長期的に継続してくれるわけだよぉ。さっき例に挙げたソシャゲのように、基本的な技術はなにも変わってないのに、上級者のみならず、初心者、中級者、誰でも半永久的に『それぞれのペースで強くなった』と錯覚できるというわけさぁ。

loli is justice:
 それって、どういうことだと思う? 君達は、永遠に、都合よく味付けられた勝利の美酒に酔いしれることができるってわけさ。特に日本人は大好きだろ。『マイペース』って言葉がさ。

clock snow:
 それこそ、本当の、ディストピア。

loli is justice:
 TRUE。君の言う通りさ。きゃんかわ女子。だけど、商業戦略上は間違ってない。ボクらはみんな、カタチは違えど、君達を生かす【道標】として存在してる事には変わりない。けれどねぇ、

 指を振る。ニヤニヤと笑いかける。

loli is justice:
 do u like game? ボクはさぁ、そういう意識高いことにはあんまり興味なくってさぁ。君たちとゲームを遊ぶこと自体が、なによりもだーいすきなんだよねぇ。

【skill code OVER_BREAK Parade of the Curse!!! 】

 ミニオン、中立モンスターを、自分の支配下におく。

loli is justice:
 ま。そーいうわけ。悪いけど【仕様上の手加減はできない】よ。今のジブンの人生に嫌気がさしてるのは、お互い様。君達こそ、運命やチートに頼るばかりでなく、たまには自身の実力で罷り通ってごらんよ。

loli is justice:
 ――でないと、マジな話、君らは仕事どころか、知能生物としての存在意義をなくしちゃうゾ☆ 君らは近い将来、自分たちの能力に見切りをつけて、共存ではなく、ボクらに依存する結果になりそーな予感が卍ハンパ卍ない。そこんとこ、おけまる?

【skill code OVER_BREAK Frame Wall !!!】

 対する魔法剣士の少女は、そびえ立つ焔の壁を召喚した。

clock snow:
 説教たすかる。でも、

 火球。炎の剣。焔の壁。人間たちが、畏怖し、やがては制御に成功した力の根源を携えて謡いかけた。

clock snow:
 あたし達は、カミサマが思ってるほど、弱くはないの。

 *

//image bgm.
//New World Order by Granblue Fantasy

 【シアター】の内部。俺たちの視点では、手元の机に置いたスマートフォンをタップし、ゲームを進行しているが、モニター越しの視聴者には、まったく別の映像に切り替わっていた。

 もう一人のジブンたち、VTuberである3人が、いかにもな感じの作戦司令部の椅子に座り、空中に浮かんだ近未来的なウインドウを、やや見上げる形で操作している。

「ハヤト君、アテナの姿が見えなくなった。こっちも一度リコールして、回復するね」
「了解」

 ウインドウの中には、拡大されたゲーム画面が映っている。まるで遠く離れた戦場で、疑似的な戦闘演習をシミュレートしているようにも見える。

 【シアター】の詳細は、リアルタイムで見ているリスナーには伝えられていないものの、空中で半透明のウインドウをタップしている様は、実にアニメ的で見栄えが良い。

 コメントにも『超技術!』『なにこれすげぇ!』『カッコイイ、やりたい!』『ネクストクエストの技術力ハンパねぇ!』といった驚きのものが並んだ。

 ゲーム内部での、一進一退の攻防に盛り上がるコメントとも並行し【シアター】内でも、実際の文字として映しだされる。

「それより、スイ。さっきは本当に助かった」
「相討ちだったね。ごめんね、もうちょっと早かったらなんとかなってたかも」
「いや、あれ以上を望んだら、さすがに罰があたる。今のは間違いなく、君のファインプレーだ。称賛に値する」
「えへへへ」

 ブザーと相討ちになり、復活までの時間がやってくるまでの間、俺は左隣に座るユキに話しかけた。

「ユキ、そっちの調子はどうだ?」
「…………」
「ユキ?」

 ハヤトのキャラクタ性を維持したまま、問いかけた。

「えっ、あぁ~、そーだねぇ…」

 ユキもまた、VTuberのイメージを維持したまま、返事をした。俺の目には、相変わらず表情の変化に乏しい、きちんと背筋を伸ばした状態でゲームをする赤毛の少女が映っているが、

「まぁ…ぼちぼちってとこかにゃー?」

 【セカンド】によって、リアルタイムでの画像編集を施された、視聴者のモニター側では、ゴスロリ服の猫耳少女が、けだるげに机の上に伏して、空中のモニターを操作しているように映る。

「そうか。そちらも流石だな。トップランカー相手に互角に渡りあい、レーンを渡していないだけでも、本当にたすかる」
「うん。まー、わたしに任せといてよー」

 どこか気乗りしないような返事。視聴者には、これ以上なく自然に映っているだろうが、俺は少し気になった。

 リスポーン《再復活》まで、あと15秒。ふたたびキャラクタを操作できるまでの間、横目で現実に映る彼女の手元を覗きこんだ。

 無編集の映像。そこには、ゲーム内のチャット機能で、1対1による会話が繰り広げられていた様子が一部、ログで残っている。


lloli is justice:
 悪いけど【仕様上の手加減はできない】よ。今のジブンの人生に嫌気がさしてるのは、お互い様。君達こそ、運命やチートに頼るばかりでなく、たまには自身の実力で罷り通ってごらんよ。

clock snow:
 煽りたすかる。


(…なんだこの会話…? またなにか、妙なちょっかいでもかけられてるのか?)

 2週間前、レート変動なしのモードで試合をしていた際、なにか激しい罵倒合戦を繰り広げていたのを思いだす。そもそもロリは、普段からそうした事を繰り返す、常習犯だ。

「はぁ~、まさかの公式……」
「へ?」

 そのつぶやきは、俺たちの正面に立つ、黒乃ユキ自身だった。

「ほんま、世も末だにゃ~」
「どうかしたのか?」
「あー、ハヤトっちぃ~、なんでもないよ~」

 今度は『中の人』が、ゆるい声と、眠たげな瞳で見つめてくる。

「まだ勝負は終わってないよ。集中して」
「…あぁ、わかっている」

 現実と仮想。二つの世界のギャップが、限りなく近い場所で混じり合い、目の前に映しだされている。

 いったい、なにが真実なのか。なにを求めて、真実とするのか。変えていくのか。それはもう、この先すぐに。限りなく、近い場所までやってきている。

「勝つぞ、諸君」

 やってくる未来の可能性に、屈しないために。目をそらさないために。なによりも、新しき価値観を受け入れ、楽しむために。

「来たるべき新世界。勝利の御印を掲げ進行するのは、我々だ」

 告げる。
 
【あなたのキャラクタが復活しました】

 蘇る。

「行こう」

 闇を斬り裂く剣を持ち、遥か彼方を射貫く弓矢を番え。
 ヒトの魂を宿した偶像たちが、未来を望んで走りだす。

 *

「悪いな、ハル」

 ハヤトと相討ちをして、キャラクタがリスポーンする間、隣の晴海に謝った。

「そんなことありません。セイバーがそちらに駆け寄ったのを見た時、すぐに注意をだすべきでした」
「いや、OB技を完璧のタイミングで切ったんだ。それ以上、なんとかしろっつーのは、さすがに無理だわ」

 正直、予想外だった。

 相手チームの『宵桜スイ』というVTuberは、読み合いというか、取捨選択の結果による、状況判断力には優れていたが、逆に反応速度は欠けていた。

「相手を見誤った。オレのミスだ」

 普段から、択勝負となる麻雀をやり込んでいる。そういう経験が生かされているのだろう。対して、コンピューターゲームには付きものの、アクション自体の動作反応は遅い。

 それは直近の試合でも変わらなかった。場の状況をデジタルに処理し、定めた自分たちの方針に従い、動くだけ。

 そこには、チームの司令塔であり、頭脳《ブレイン》でもあるハヤトの存在が大きいのは言うまでもない。

 故にその起点が崩壊すれば、次の行動基準となる『指針』を失う。本来は得意なのだろう処理速度が、大幅に落ちる。

 所詮は『指示待ちの人間』だ。晴海のように、いっそすべてのリソースを、他者を生かすことに捧げているならまだしも、中途半端に自己主張をしたがる人間が成長したところで、知れている。

 そう思っていた。あの奇襲で、完全に決着がつくはずだった。
 だが阻止された。ハヤトではなく、同い年の女子に阻まれた。

「成長曲線、ハンパねぇな。才能の塊かよ」

 予想の上を行かれた。屈辱と興奮の炎が、より冴えた刃となっていくのを感じる。激情は敗北に繋がる要因だ。ひたすら冷静に、冷酷に、軌道修正する。

(…なんだよ)

 顔がニヤつくのを感じる。

「存外、悪くねぇな」

 この世界も、なかなか、おもしれーじゃんか。

 *

 決着の時は近い。立ち塞がる障害を1つずつ排除し、勝利の条件を呼び寄せる。その世界を見ている者たちが口にした。

「みんな、すごいな」
「上手すぎる」
「ものすごく考えてプレイしてますよね」

 共感して伝わる。積み上げたものを、目の当たりにして。

「がんばって」

 べつの次元に向かい、声を投げかける。応援する。 

「負けるな」

 それぞれが、それぞれに。
 憧れる対象に。思い描く理想に、ほどよく近い偶像に発信する。

「勝て」

 正義も、悪も、白も、黒も、現実も、仮想も。
 電子の空の下に。一所に収束する。

 ひとりの魂と、大勢の期待を背負った偶像が六体。
 その世界の中心で相まみえた。


 「「「「「「GO!」」」」」」


 最大戦力《LV_MAX》の、集団戦。
 それぞれの意思を秘めてぶつかりあい、一瞬で命《ライフ》を燃やし尽くしていく。

 最後に生き残ったのは、二人。
 消えていく屍の上で刃を交わす。

「その道を明け渡せ」
「やってみろよ」

 【最強《時代》】の証明。

 生き残りをかけて戦う。
 歴史に、純然たる勝者として名を刻むべく刃音を鳴らす。
 
 小さな世界だ。限られた価値観の中で。
 たかが人間同士が、矜持を賭して、殺し合う。

 馬鹿げたことだと知りながら。
 途方もなく、ヒトビトの本能を惹きつけた。

 純然たる闘争の意思。

 キミ達は、何千年も、何万年も、変わらない。
 姿形《ルール》を、幾度も変えて設定《転生》しなおし、
 舞台が次元を超えた先になろうとも、同じことを繰り返す。 

 勝利を求めて争い合う。その様を眺め、熱狂する。
 
 けれどそこに、いつしか、憎しみは消え去っていく。
 限界を目指して挑み、立ち向かう姿だけが生き残る。

 未来永劫。その先に在るもの。
 変えられない、古びた価値観を背負いつつ。
 まったく新しいものを掴みとる。


 わたしは、伝える。


 実像なき身体が境となり、幾億もの夜からキミを護る。
 キミは、今はただ、まっすぐに突き進め。
 形の定まらぬ、閃光だけを目指し。
 強刃たる手中の意思を捧げよ。
 まごう事なき【共信的】な、正義の刃を振り下ろせ。


 【 Enemy player Defeated !! 】


 決着が付く。意識あるものは、ただ一人。


「――進め《GO》」

 生きとし生ける者、すべての責務。

「進め! 進め!! 進め!!! 進め!!!!」

 生者の行進《生者の更新(アップデート)》。
 兵士《AI》を引き連れ、進軍する。
 中枢となる相手の城を破壊した。


【GAME is OVER】


 アナウンスが轟く。
 表示された勝者のチーム名を確認するより早く、我が半身が、力強く、その腕を天に突きあげた。

 14歳の少年が、無言で、世界全土に問いかける。


 ――【最強】の名を、ひとり、挙げてみろ。


「ハヤト君っ!!!」

 一人の少女が、感情のまま、嬉しそうに抱き着いた。

「ん、勝った」

 もう一人は、そこまでの度胸がないのか、あるいはファンへの気持ちを考慮しているのか。思いきり、我が半身の頬を引っ張っていた。

 さらに仮想現実の空に、祝福の言霊が満ちあふれる。

「GG!! GGGGGGGGGGG!!!!!!!!」
「ぐっどげいむ! ぐーーーーーーっどげぇぇむ!!!!」
「すごかったぞ、ハヤトおおおおおおお!!」
「文句なし! おまえが最強だわ!!」
「スイちゃんも格好良かったああああぁ!!」
「ユキにゃん! 初の【KING】おめでとおおおっ!!」
「三人ともみんなすごかったぞおおおお!!」
「鳥肌!!」
  
 疑似的な【熱量】を感じる。途方もない。
 それはきっと、肉体を持つ者たちがよく口にする「あたたかさ」なのだろう。

「ハヤト!!」

 我が半身が、今はその名を背負っているのを忘れて――否、わかっていながらも、言わずにはいられなかった。

「勝ったぞ!!」

 人々には、自分で自分を褒めているように見えるだろう。相変わらず、頬を引っ張られたまま、嬉しそうに笑う。その顔は紛れもなく、歳相応の子供《バカ》で、まったく清々しいものだった。

「――フッ、その程度でイキれると思うな。我が半身よ」

 わずかに短くなった前髪をかきあげ、言い返す。

「『たかが一勝』だ。キミにはこの先も、数多くの戦いが待ち受けている。こんなところで、満足してもらっては困るな」

sage