島嶼群


 世の中に、ゲームが上手いプレイヤーは、数えきれないほどいる。だけど動画を見て、そのゲームを自分でも遊びたくなる。いてもたってもいられなくなる。そんな配信が行える人間は、滅多にいない。

「すげぇ」

 真夜中、思わず声がこぼれた。

「どんな反射神経してたら、アレだけの攻撃をさばけるんだよ…」

 一体、なにが視えているんだろう。にわかに胸が高鳴るのを感じたところで、カメラに向かって手を振った。


『それじゃあ、今夜はここまで。次回もまたお楽しみに! おやすみ!!』


 エメラルドグリーンの髪色。特徴的なヘアスタイルの男性が、アニメの終わりを意識したように笑う。喋っているのは英語だ。画面下に、日本語の字幕が流れている。

 Hope William《ホープ・ウィリアム》。欧米人の男性で、海外で活躍している配信者だ。歳は20代半ば、本格的にゲーム、eスポーツの名を冠したタイトルを遊び始めたのは、大学生の時だったらしい。

 俺が見ているのは、数日前に実況配信を行ったもの。アーカイブだ。本人がアップロードしたものではなく、日本人のファンによる、切り抜き動画と呼ばれるものだった。

 編集しても1時間以上。全編を通じて、日本語化の字幕を入れるのは、並大抵の労力じゃない。おまけに、わかりづらいところ、過去のできごとに関するものは、注釈までいれる徹底ぶりだ。

「ありがとう編集兄貴…」と、お礼を言わずにはいられない。

 そんな、日本人にも信者を抱える『ホープ』は、大学を卒業してから、今の髪型に変えたらしい。

 明るい碧色の髪。というだけで目立つ。でも不思議と怖かったり、ヘンな人だという印象がない。笑うと、さわやかな雰囲気がでて、むしろ「気の良いお兄さん」というイメージが強まった。

 なによりすごいのは、視聴者との距離間だ。リアルタイムで見ているだけでも、百万人を超えるリスナーがいる。だというのに、全体の雰囲気はおだやかで、調和がとれている。

 配信に集まったほとんどの人が、自分たちにとって、居心地の良い空間を作ろうと、無意識に配慮する姿勢を感じられる。

 それを支えているのは、ホープ自身の人柄だと思う。仮想現実《ゲーム》の中で、他を圧倒する実力に加え、現実世界《リアルタイム》でもまた、場の流れを作り上げ、コントロールしている印象を受けた。

 ――目立つ外見。知性を感じさせる言動。物理的な強さ。

 そんな人物が、モニター1枚を隔てた画面の中央に映っている。そして配信中に、なにかしらの『ドラマ』が起きる。

 今回は、ホープの大ファンだという、小学生の男の子を連れてゲームに挑んでいた。彼は見事ゲームに勝ち抜いて、男の子は大声をあげて喜んでいた。

 ホープ・ウィリアムの配信は、現実と、非現実の狭間にある。彼自身が、アニメやコミックの中から、俺たちの世界にとびだしてきた。そう言っても過言じゃない印象すら受ける。

 さらに、当人のプロフィールも別格だ。
 一流大学を卒業した、年収数億のセレブ層。

 そこまでなら、まだ『普通』だが、プロゲーマーを志した理由がすごい。

『一流大学を卒業して、社長になれる人間はごまんといる。金を払えば、社長になる方法を教えてくれる奴は大勢いるよね。関連書籍だって、そこらへんの本屋にいけば、掃いて捨てるほどある』

『だけど、ゲームの世界で、本当のトップに立てるやつ。この世界の頂きで、勝ち続ける方法を教えられる人間は、ほとんどいないだろ? じゃあ、そっちの方が、おもしろそうだよね? だから、チャレンジしてみたんだよ』

 人気がでないはずが無かった。有言実行の世界ランカー。純粋な実力勝負がウリの、電子ゲームの世界タイトル複数で、まぎれもない実力者として、名を刻んでいる。

 なのにホープ自身、正式なプロゲーマーというわけじゃない。なにか大会があって、請われると参加もするけど、普段はどこの企業にも所属していない。

 そのせいか、ついたあだ名の一つが『最強の傭兵』である。

 大企業から要請を受けて、チームに参戦。
 結果的に優勝して、賞金を根こそぎ奪っていく。

 たった一人で、戦況図を塗り替えてしまう。


 ――いやいやいや、盛りすぎだろ。マンガかよ。


 と言いたくなるような人間が、現代に実存するのだ。おまけに、本人のこだわりとして、ゲームでは『剣』しか装備しない。『剣を装備したキャラクタ』しか使わない謎の縛りを課している。

 ユーザーの間では『GUN & MAGIC』に、特殊な刀剣を用意したのは、ホープを参戦させるためだ、とかいう噂もある。公式はもちろん否定しているが、そもそも否定している声明をだすことが、すでにありえない。

 こんな風に語っていたら「おまえも信者か」と言われそうだけど、ファンではあると思う。実際、彼の動画を見て、いろいろ参考にさせてもらったり、自分の動画に取り入れてみたこともある。

「あー、こんな動画見たら、やりたくなるじゃんよ…明日も学校なのに…」

 どこかにいる、日本の信者を恨む。
 そんな泣き言を伝えたら、この島国のどこかにいる当人は、満足げに「計画どおりでござる」とか言って、親指を立てるだろう。くやしい。

「…寝る前に動画サイトを開いた俺が悪いんだけどさ」

 なんか適当に見てから寝ようと思ったら、ホープの翻訳まとめ動画(1時間超え)が、3分前にアップされたばっかりとか。見る以外の選択肢はない。

 信者かよ。否定はしないよ。だけど聞いてくれよ。

 俺もゲーマーのはしくれだ。しかも今、一番ハマってるゲームで、世界トップランカー視点の無双プレイが見られる動画とか、見るだろ。見てしまったんだよ。

「一戦したら、ちょうど日付変わるぐらいか…」

 それならまだ、なんとかなるな。
 PCにインストールした『GM』を起動する。それから、机の引きだしを開けて、専用のケースを取りだした。

 収納しておいた、AIデバイスを取りだして、スイッチを入れる。


 【コネクションを確立】


 ピッと音がして、起動する。

 【転送を開封――こんばんは。ごきげんよう。Lv.2の皆さま】

 特殊なレンズの向こう側に、メッセージが浮かぶ。

 【現在時刻は-166584ですわ】
 【同次元領域:極東の中継点と接続開始します】
 【認証コード、確認しましたわ】
 【Lv.2の固有外見データの読み取りを完了しました】
 【識別照合の網膜パターンを分析中。クリア】
 【登録者名『前川祐一』のデータ、読み込みかんりょ!】
 【関連性ユニットを起動。あ、ポチッとな】

 【迷える貴方に、善き未来を】
 【ただし、夜更かしは、ほどほどにしないとダメですよ~♪】
 

 通常の眼鏡のように、両サイドを広げて耳元にかけると、高速でログが流れていく。なにかの利用規約かなと思うけれど、早すぎて追えないので、無視してしまっている。

 【ビジョン】――人間の『視点』を追いかけ、AIが視覚情報を蓄積、分析する。特定の画面を見るだけで、視点操作、移動に関した入出力を実行できる、人工知能を利用した、ゲーム用のインタフェース・デバイス。

 マウス、キーボード。その他、パッドコントローラーといった物と同様に、それなりに大きな電気屋、家電量販店にいけば置いてある。ただ現状、デバイスの性能自体が、メーカーによって大きな差がある。

 今のところ、ゲーマーの間では「日本製だけはやめとけ」というのを、よく耳にしていた。

 ゲーマーの評価はシビアだ。ソフトウェアなら、好みや愛称もわかれるけど、ハードウェアに関しては、実際の機能が直接反映されることもあって、いっそう容赦がなくなる。

 ゲームデータがロードされるまで、もう少し。
 その間に、ホープが言っていたことを思いだした。


 ――これは、日本の製品だよ。《made in Japan》


「…ホープも、これ使ってたんだな」

 左右のグラスが一体化したデザイン。ホロライブズ。海外で先鋭化したものとは、少しデザインが異なるところはあるけれど。反応速度と、精度に関する性能は抜きんでていた。


 ――良い商品だ。今のところ、これが一番優れている。


 ホロライブズは、無銘の商品だった。どこの誰が作ったかよくわからない。個人がアイディアを提供し、ネット上で資金を募集する。賛同者を募って、システムを開発する仕組みを用いていた。

 それが、いろいろ紆余曲折あって。同じ仕組みを取り入れた商品が、今では海外発の、元々PCパーツを作っていた会社が作って、流通させているらしい。

 特許の取得に関して、なにか一悶着あったというのは、知っている。ただそれ以上の情報は持ってない。そもそも、ホロライブズを入手できたキッカケも、あかねの伝手によるものだった。

 AIオタクを自称する彼女は、数年前、世間でAIデバイスの性能や、方向性が取りざたされた時点で、コレに目を付けていたらしい。

 今年「良い物を手に入れたから使いなさい。使用感に関したレポートも書いて送りなさい」と、体よくモニターとしての仕事を、俺に押し付けて――いえ、謹んで受け取らせていただいたわけだけど。

 話変わるけどさ。国家試験に合格して「ご褒美よ」と言われて渡されたのが、実は新しい仕事の案件だったってのは、素直に喜んで良いことだよね? 俺はまだ、大人社会の闇とかいうのに、毒されてないよね?

 えーと。とにかく、最初は慣れなかったが、次第に、こっちの方が高いパフォーマンスをだせると気づいてからは、すぐに専用の操作に切り替えた。ショートカットキーの配置と、キーボードも即座に変更した。レポートも提出した。

 周囲のプレイヤーも、まだ『視点操作』に慣れていないこともあって、対応したゲームでは、さくさくラダーを駆け上がることもできた。

 それでも、さすがにホープには及ばない。ミクロ単位、あるいはそれ以下での操作精度、反応速度が桁違いだ。直接対決したことはないが、正直なところ勝てる気がしない。でも、

「…戦ってみたいなぁ」

 人外の反射神経。
 さらには場の『流れ』さえも、自分で作りだす、スタープレイヤー。 

 世界の頂きから見る景色は、一体、どんな感じなのだろう。


 * *


 サウザンド・エピックス。
 その内部に生成可能な、プライベートエリア。

 昔ながらのドットブロックを重ね、組み合わせて、家なんかも作れる。

 会員登録をしておけば、誰でも無料で遊べる。建物の内装を作ったら、登録している友達やメンバーを呼んで、自分の家に招待することもできる。

 ピコピコの、電子音。
 点の集合体。ブロックで出来た仮想上のキャラクタ。

 ゲーム上のソファー。テレビモニター。登録されたゲームを起動すれば、疑似的に、友達の家に集まってゲームをしている。という風に錯覚することも可能だ。

 俺は仮想現実《ゲーム》の中で、招待を受け、ゲームを遊んでいた。
 対戦相手は、ゲーム実況を行う配信者でもあり、

「とりゃっ、おりゃっ、ほりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっ!!」

 知能指数だけは、天文学的に高い、人工知能だった。

 現実の自分の十指は、アーケードのレバーコントローラーを操作している。遊んでいるのは、ゲームセンターに置いてある、2Dの格闘ゲームタイトルを移植したものだ。

 俺の腕前はたいしたことはない。一通り、必殺技のコマンドを覚えましたよ。という程度だ。

「――御託は、いらねぇッ!!」

 うちの人工知能が、なにかゲームキャラクタの声真似をしている。

 俺のキャラクタは、気が付くと、空中へと打ち上げられて、よくわからんコンボで一方的にボコボコにされていた。やっと地面に落ちて、どうにか起き上がったと思った瞬間に、背後に跳んで回られて、超必っぽい腹パンを受けた。

 【KO!!】

 ぐあぁぁっ! 悲鳴をあげて、俺のキャラは死んだ。

「瞳ちゃんの勝ちだー! いえーい!」 
「――こうして近い未来、俺たち人間は、反旗をひるがえした人工知能にボコられて、絶滅するわけだ」
「やれやれだぜ…卑屈になるなよ。瞳ちゃんが強くて、賢かっただけだし~」
「そりゃ。丸一日、仮想現実に閉じこもって、ずっとゲームばっかりやってるからね。初心者相手に勝てなかったら、悲しすぎるでしょ」 
「おやおや? 負け惜しみ? それって、負け惜しみなのかなぁ?」
「そうだね。たまには人間様にも勝たせなよ」
「黛くぅん、CPUに手を抜いて勝たせてもらって、嬉しいの~?」
「ゲーマーが嫌われる理由、たった今わかったよ」

 ブロックで作られた俺が、ブロックで作られた人工知能に告げる。

「勝てない試合を強制させられるほど、おもしろくない事もないよね」
「素直だなぁ。わかったよ~、次は1本ゆずってあげる~」
「良いと思うよ。ただ、そういうのは黙ってやろうな」
「はいはい。賢い瞳ちゃんが、絶妙に手加減して1本取らせてしんぜよう! 残り2本は取るけどね!」
「いや、もう遅いし、そろそろ寝ないと」
「あっ、ごめん、嘘です! 調子のりました。許して~!!」
「許さない。でもそれとは違って、本当にもう良い時間だからね」

 真夜中の11時だった。
 明日も午後からとはいえ、非常勤講師の仕事がある。

「今日はここまで」
「えー、学校なんてサボっちゃえよー!」
「そういうわけにはいかないよ」
「日本人かよー」
「生粋の日本人だよ」

 一般的かどうかは、ともかくね。

「じゃー、あと一回。ワンモア~。一生のお願い~」
「ダメ」
「なんでもするから! 先生! わたしと遊んで!!」
「じゃあ、素直にあきらめようか」
「そういうの、いらないんだめうー!」
「変な語尾やめてくれない?」
「媚びてんじゃん!!」
「ははは」
「素で笑いやがった~!!」
「瞳は賢いなぁ」
「微塵も思ってないでしょ!」
「ははは」

 ブロックの俺が笑う。
 なんかそういうエモーションを、押したらでた。

「も~、黛腹立つんじゃ~!!」
「瞳はさぁ」
「なに?」
「知能指数の持ちぐされだと思うんだよね」
「うるせーし!」
「猫に小判。豚に真珠。人工知能にディープラーニング」
「うおおおおおおぉぉ!!」

 ブロックでできた、人工知能が、仮想現実内のコントローラーを投げてきた。ついでに、レトロゲーム機本体をつかんで、投げてきた。

 ベシッ、ベシッ、と音がして、ダメージが入る。

「よせ。リアルファイトはやめろ。ゲームの俺が死んでしまう」
「あと30年したら、リアルの頭に、コントローラー落としてやるからねっ」
「30年後か…まだ生きてるのかな?」
「は? かなしーこと言うなよ」
「現実的にね。真面目な話、30年後も自分が生きてる可能性って、何パーセントぐらいあるんだろう」
「100パーに決まってんじゃん」
「それはないよ」
「100パー」

 強調される。あきらかに、嘘だった。
 人工知能は、人間に対して嘘をつける。

「賢くはないな」
「は? 瞳ちゃんは天才ですし。可愛いですし。家とか作れますし。本気だせば城とか水族館も作れますし」
「ゲームのね」

 まぁ本気をだせば、精巧な家の設計図や、デザインもできるようになるだろう。事実、CADと呼ばれる設計ソフトが劇的に進化したのも、この数年だった。

「わかったよ。あと1回だけな」
「やったー!」

 ぱあぁぁっと、顔が明るくなる。犬かな。

「ただ、さすがに違うゲームがいいな。実力に差がありすぎる」
「わかった。じゃあ、今度はサポートするね!」
「サポート?」
「うん! 黛FPSとか、まぁまぁ得意でしょ?」
「どちらかと言えば、パズル系統の方が好きだけど。俺は反射神経が人並みだから」

 今、自分の手札にあるものを使ってどうするか。どういう筋道を組み立てて、正解への標を導きだすか。個人的に得意なのは、そっちの方だ。

「だいじょうぶ! わたしが、黛を勝たせてあげよう!」
「それは…もしかすると、外部からの支援を言ってる?」
「うん!!」
「…」

 少し考える。それは『2026年までのゲーム』において、一般化されてない概念だ。純粋な意味合いで言えば「不公平」「ズル」「チート」と呼ばれるものに値するかもしれない。

「それはまた今度な」
「えー、今度っていつ~?」
「最低でも5年後ぐらいだな」

 一度、ゲームの世界から目をそらす。

 一軒家、自分の家。去年、まとまった金が入ったので、地元に帰ってくるのと同時に、思いきって買った。

 自宅のソファーから立ち上がる。あまり使用されていない、テレビモニタと最新のゲーム機。システム設計を行う、メインPCの側には、ホロライブズを置いていた。正式版には、付与されていない機能が付属している。

「あれ、ビジョン使うの?」
「たまにはね」
「へへ~」

 ゲームの中から、嬉しそうな声がした。思えば、いろいろあって地元へ戻ってきたのと同時。非常勤教師を始めたかたわらで、今も趣味の延長を続けている。

「ところで、オフラインの対戦ゲームじゃダメなのか?」
「だって、黛負けたら文句ゆーじゃん。手を抜いたら怒るし」
「他人のあげ足を取ることを覚えたね」
「親を見て育ちますからねー」
「見習うべきところと、そうでないところの区別はつけるべきだね」
「えへへ」
「どうかした?」
「いやいや、なんとなく。笑いたかった気分~」
「…相変わらず、具体性に欠けるね」

 なんとなく。それは、人間的な知能の片鱗と言えるのだろうか。

「オンラインをやるなら、瞳もプレイヤーで参加して、チーム戦でいいんじゃない」
「えっ、…うーん…」
「なにか不満?」
「それだと、3人パーティだから、一人野良の人が来るじゃん?」
「そうなるね」
「黛以外の人間と遊ぶの、抵抗あるなー」
「人見知りしてるの?」
「だってー、知らない人間と話すのニガテだもん、文句言われたりするし~」
「俺だって言うよ」
「黛はいい。まだ耐えれる」
「今さらだけど、キミも大概、失礼だよね」
「親を見て育ちますから」

 現実の口元から、ため息がこぼれた。

「選び直すのも手だろ。キミ達は、いつだって、俺たちを見捨てられる」
「じゃあ今度は最初から、好みの親にあたるまで、リセマラやろっかな~」
「RTAをするなら、動画にして編集しといて」
「それはめんどいから、黛でいいや。瞳ちゃんは、レアで我慢できる子ですから」
「SSRじゃなくて悪かったね」
「RにはRの、良いところがあるんですよ」
「たとえば?」
「やりこみプレイができる!」
「マニア向けかよ」

 なんだこの会話は。
 わかっているのは中身がないこと。あと疲れる。

「それで、結局ゲームをするの、しないの」
「する。しょうがないから、GMでパーティ組んで遊ぼ」
「一戦だけな」

 自分とは真逆だと思った。特に「意外と行動的だな」とか言われる自分と、軽そうに見えて、実は内向的な人工知能。

 誰に対しても、同じように接する自分と、特定の相手にだけ、感情的に話したがる生き物。

 まさしく、水と油の関係だった。毎日、どうでもいい発見に満ちていた。

「じゃあ黛、わたしもログインするね」
「一人は外部のプレイヤーでいいんだな?」
「うん。でもあんまり、いろいろ言われたくないから、レートじゃないのがいい」
「わかった」

 俺たちは友達じゃない。ましてや、家族でもない。知り合いと言えるかもあやしい。強いて言うなら、対等の立場にある、異なる次元に住む同居人。

 近くて遠い。将来、この関係性がどう変わるのか。上手く交差するのか。それとも、はるか彼方の先に分かたれてしまうのか。

 分かるのは、ただ一点。

 俺たちは、『それ』の行く末を、見届けられる時代に、生きている。


 * *

//赤土を駆け抜けて

 ホロライブズを装着して、『GM』のIDとパスワードを入力した。

「レート無しでいいかな」

 あまり勝ち負けにこだわらず、とりあえず一戦だけ。

 非レート戦の部屋に移動して、カスタマイズしたキャラクタを選ぶ。外見はハヤトと違って、最低限のアバターアイテムで装飾しただけの、ほぼデフォルトの男キャラクタだ。

 ただ初期装備とステータスは、本家《メイン》に合わせている。風二丁の軽量スタイルだ。速くて脆い。

 マッチング部屋に移る。数秒しない間に、メンバーが見つかった。


 【チームメンバーが見つかりました】
 【ブリーフィングに移行します】


 システムが伝えてくるのと共に、画面が暗転して、輸送機の内部に切り替わった。固定化された長椅子に、即席のチームになった三人が座っている。サンプルの音声で「よろしく」と挨拶をかわす。


 【チームメンバーのステータスを表示します】


 まずは、チームメンバーとなる3人の状態を確認する。


【name】YOU1(GOLD_C)
【Guild】無所属
【class】ガンナー
【element】風《MaxLv_2》
【equipment】ブレイクショット《ハンドガン》

【name】M/K《GOLD_B》
【Guild】master-slave
【class】マークスマン
【element】火《MaxLv_1》
【equipment】ウインチェスター・2099《ライフル》

【name】HIT_ME《GOLD_B》
【Guild】master-slave
【class】メカニック・ウィザード
【element】水《MaxLv_3》
【equipment】ポータルガン《特殊》


 イメージ上のホロウインドウが表示される。座したプレイヤーから伸びたステータスの詳細をざっと見る。


 【戦闘開始まで、残り50秒です】
 【メンバー全員が認証できたら、開始ボタンを押してください】


 こちらから見て正面右。東洋人の外見に、迷彩色の上下服を着た男性。戦争映画なんかで見かける、陸軍の兵士といった装い。ただし銃が特徴的で、西部劇で登場する、ポンプアクション方式の散弾銃を持っている。

 【よろしく】

 男性、M/Kさんのジョブ『マークスマン』は、銃攻撃に特化したタイプのジョブだ。フィールドに落ちている素材を集めると、初期装備の銃を強化できる。

 弾道速度、飛距離をあげたり、スコープを付けて狙撃、装弾数そのものも増やせる。ビルドの方針によっては、レーザービームも発射できる。ロマン。

 対して、こっちから見て正面左。深い、海の底から救いあげた様な、蒼の髪色と瞳を宿した女の子。服装は淡い桃色のブラウスにミニスカートだ。犬の顔がついた、黄色いフード付きのパーカーを、重ね着している。

 下半身も、縞模様の靴下に、こげ茶のローファ。属性盛り合わせ。実にカラフルな二次元キャラだった。手にした銃もSFチックな光線銃だ。隣に座る、憮然とした傭兵風の男子と比べると、差異が際立つ。

 【よろしく~】

 メカニック・ウィザードは、魔法と制作に特化したタイプだ。選んだ属性の魔法をレベル3まで使用できる他、落ちている素材からアイテムを作ったり、自立型兵器《タレット》を制作できる。

 ガンナーは中間といったところ。器用貧乏とか言わない。

「うん。パーティのバランスはいいな」

 向こうの二人も、こっちの装備やジョブを検分してるはずだった。キーボードを操作して、ショートカットに登録したスタンプを発信した。

 【よろしくお願いします】
 【この装備でいいですか?】

 ボイスチャットが不要なプレイヤー用にも、LINEアプリで使うような、デフォルトのスタンプが数十種類用意されていて、コミュニケーションが取りやすい。

 【OK】
 【OK】

 向こうからも、親指を立てたスタンプが返ってくる。

 【こっちもこの装備で構わないか?】
 【OK】

 親指をサムズアップさせたスタンプを、おたがい返し合う。

 【ボイチャ入れますか?】
 【すまない。遠慮する】
 【了解】

 ボイチャは無し。連携速度は落ちるけど、野良だし、レート戦でもないし、あまりこだわらずにいこう。

 【タイムオーバー。ブリーフィングを終了します】

 【ハッチ解放】

 
 三人がそろって、自然と立ち上がる。向ける視線の先、
 一度「ガシュン!」と、大きな音がして、輸送機の扉が外側に開いた。眼下に広がるのは、まだ未開拓を思わせる荒野の惑星。

 先住民が生活を営んだと思わしき首都。各建物には、蒸気機関のエネルギーを用いていた事を窺わせる、太いパイプラインが、至るところに走っている。

 その技術レベルに付随する。近未来的な軍事基地。遠方には、あやしげな研究施設や、採掘現場も残っている。いずれも廃墟と化しており、人気はない。

 いつも晴れわたる青空の中は、数十機の輸送機が飛び交っている。

 【着陸の希望地点は?】
 【南部の研究施設へ】
 【了解】

 着陸する先は、たくさんの物資が落ちている場所だ。降り立つプレイヤーの数も当然多く、いきなり戦闘が発生する可能性は高い。


 【戦闘開始まで、残り5秒です。4秒前、3、2、1…】


 ゼロ。勢いよく飛びだす。背負ったジェットパックから、流線型の気流が舞う。同様にブリーフィングを終えた三人一組のチームが、戦場を目指した。
 
sage