ピースサイン


「――本日のプレイ動画はここで終了とさせていただこう。チームとなったプレイヤー達もよく働いてくれた。最後にコメントの質問に答えさせてもらうとしよう。
 まずは恒例の、もっとも多い質問だが、twitterはやってないのかというものだ。この手のSNS、およびブログや個人のテキストページといったもので、オレ個人が発信している媒体は一切ないことを明言しておく。これは動画配信をしている理由にも結びつくが、このオレがLoAの動画をアップロードするのは、率直に言って『オレsugeeee!! Saikyooooo!!!』というのを、世に知らしめたいという欲求に他ならないからだ。
 故にそれ以外の媒体で発信するという行為自体が、オレにとっては、まったくの無価値であり、そもそも意味をなさない。だからこそこうして、プレイ動画配信だけに、徹底してこだわっていると言えよう。以上だ。その拙い脳みそに刻み付けておくといい。
 
 ふはははははは!! 
 では諸君、次の動画でまた会おう。アディオス!!!」


「………ふぅ」

 謡いたいことを終えて、俺は【keep your second】のアプリを停止させる。すると最後にモニター越しのオレが、フキダシで、余裕たっぷりに笑うのだった。


  実に楽しい一時であったぞ。我が半身よ。
  この力が必要になった時、いつでも呼ぶがよい。


 最近のAIはよくできている。この会話は、多少の雛形はあるものの【セカンド】を利用するユーザーによって、かなり多岐に渡るパターンが存在し、それだけを楽しんでいる人も、結構な数がいるぐらいだった。


  汝らに未来を。

  救い望む声あらば。

  我ら来たれり。

  新たなる導とならんことを。


* * *

 夕方、午後17時をすぎて、カラオケ屋をでた。

 家に帰ってからは、また少し家の手伝いをした。小学校低学年の男子と父親。親子連れのお客さんの髪を洗って、ドライヤーで乾かした。そのまま閉店の支度をする間、母さんが夕飯を作り、3人で食べた。

「――最初の叫びすぎたところは、さすがに字幕で注意喚起とかしたいたほうがいいな。……よし。あとは音量変になってるところもないし、あっ、画像ちょい乱れてる。ここも字幕で補正しとこう」

 自分の部屋に戻ってから、モバイルPCに、USBの無線マウスと別のキーボードを認識させる。もちろん、ヘッドセットのイヤホンもしている。天王山ハヤトに変換した、サンプリングのノイズを微調整。時々、ガガッと音がして、カーソルがとぶ。

「あー、やっぱいろいろ読み込ませると、重いなぁ。PCのスペック足りてないんだろうな。性能よさげなノートが欲しいけど…バッグに入れて持ち運びには、やっぱモバイルが便利だし。そもそもあの部屋だと、ノート置くスペースがねぇ。週1の動画編集だけで、最新のハイスペノート買うのもな……ってかそんな大金もってねぇし」

 夜、一息ついた自分の部屋で、ヘッドホンをつけ、指先だけの操作で黙々と編集してると、どうしても独り言が増えてしまう。それでも、最終的には自分の満足できる動画を、ようつべにアップロードした。一般視聴者サイドでも、特に問題なく再生されているのを確認してから閉じた。はぁ~と、ため息がこぼれる。

 充電機に立てかけていた、スマホを手に取る。

「うわ、もう9時じゃん。西木野さんに連絡しないと」

 ヘッドホンをして動画編集をしていると、時間を忘れてしまう。本当は昼間にメッセージを送ろうとも思ったんだが、例の『たぶん女子』と遊んでいる、あるいは、なにか約束があって外で会っているなら、夜の方がいいかなと思って遠慮した。

 正直言うと、やっぱり、女の子に連絡するというのが、なかなか心理的なハードルが高かった。自分に言い訳して、やっぱ後の方がいいよな。なんて思ってしまう。しかもこの期に及んで、弱気な心が「いや明日学校で会えるからその時にでもまた」とか声にだす。

「ダメだ! これは良くないムーブだ! 先延ばしにしてると失敗するパターンだ! 後回しはよくない! いけ! 俺!」

 図書館の帰りで交換したラインのグループを立ち上げる。そこには変わらず、俺と彼女の世界があった。『前川』と『西木野』


『竜崎』


「誰だおまえァーーーー!!!?」
「祐一? どうかしたのかい?」

 うっかり叫んでしまった。たまたま廊下にいたらしい父さんが、部屋の扉をノックした。

「すいませんお父さん! 隠れて卑猥な動画を見ていたら、サムネの女優と出演していた女優が違っていて、うっかり激怒の声をあげてしまっただけです!!」
「そうかい。よくあることだね。じゃあ父さんは、今から風呂に入って寝るからね。お前も夜更かししないように」

 父さんは去って行った。
 ふぅ。上手くごまかせたぜ…。


 改めてグループのメンバーを見る。そういえば確かに、グループの追加や公開設定も有りにしていたから、たとえば昨日の時点でも、俺のスマホに登録されている、滝岡や原田が気づいていれば、この中に入ることもできた。が、

「……非公開になってる」

 このグループ登録は、現時点で『前川』『西木野』『竜崎』という、3人限定の空間に変わっていた。他の人間、つまりこの3人が使っているスマホの端末以外では、こういうグループがあることすら、一覧には表示されなくなる。さらに、



「グループ名『V-Tryer』?」


 特に設定していなかった、グループ名も、何者かによって変更されてしまっている。いやまぁ、その何者かというのも、だいたい検討はついているんだが。

「竜崎…ぜったいコイツだわ…あれだよな。なんだっけ…クロックスノウ?」

 時計仕掛けの雪。という意味なら、まだ「snow clock」の方が意味合いが近いんじゃないかと思ったので、覚えていた。

 ただ、もう一つの可能性が思い浮かんだ。

「……名前の直訳……?」

 clock とけい トケイ 時計 クロック クロノ

 snow ゆき ユキ 


『V-Tryer』

 連想されるのは、それ。

 モバイルPCに戻り、閉じたブラウザをふたたび立ち上げる。お気に入りから、動画サイトへ――


『【VTuber】宵桜スイの麻雀配信 8回目の御無礼 』


 ――スイって、誰だよ。

 クリック。動画は開かず、彼女のチャンネルへ。

 サイトの誘導設計。俺の意思で一覧を見つめる。


『黒乃ユキ channel』


 クリック。サムネイルに並ぶイラストは、三角の猫耳を生やした、銀髪ナチュラルボブの女の子。その色と対になる、金色の瞳に惹きこまれそうになる。

 アニメの服装にはあまり詳しくないが、ゴシック系っていうんだろうか、基調は黒だ。レースなんかの装飾が多い。リアルにいたら完全にコスプレだ。首からは、たぶんトレードマークなんだろう、アンティークの海中時計が下がっている。


【ロゼリア - Opera of the wasteland を歌ってみた】


 トップ画面。チャンネル登録者が設定できる、優先して自動再生される動画。初見の視聴者に興味を持ってもらえる『看板』だ。

 3DCGのPVが流れる。
 背景に、かなり凝ったステージのPVが浮かぶ。どう見ても、素人の技術では追いつかない、完全に『企業の仕業』だ。相当レベルの高い、演出アニメーションバリバリのPVが流れる、

「……再生数、1千万……」

 今では星の数ほど増えた『VTuber』。
 再生数だけで言えば、トップクラスだ。

 ただ、総数が増えると当然、その知名度、人気は分散される。とてもじゃないが追いきれない。

 まずは自分がその分野に詳しくなるか、はたまたなにかの『偶然』によって気づくキッカケがないと、1千万を超えていようが、1億を超えていようが、気づかない時は、本当に気づかないのだ。

『――――』

 歌っている。声が聞こえない。そういえば、ヘッドホンを認識させたままだった。俺は吸い寄せられるように、耳にかけた。



『 思いだせ、命を 』


 ビクッと、全身に電気が奔った。
 身体が、本当に動いた。細胞が、耳を傾けた。

 最後まで聞いてしまった。うっかり何も考えず、彼女の再生リストをクリックすると、

 新グループ結成。

 【桜華雪月】1stシングル発表。

 クリックすると、また「企業の仕業か」と言わんばかりのPVに二人の『VTuber』が映る。

 そこで俺が見たものは、


「――おっぱいの! おっぱいエクササイズの女じゃないか!」


 ビクッと、全身に電気が奔った。
 身体が、本当に動いた。細胞が、耳を傾けた。

 俺の、一時お気に入りの一覧にて、麻雀配信をしていた『宵桜スイ』が、今度はマイクを持って立ち、光と音の波間に揺れる狭間で、黒乃ユキの隣で歌っていた。

 まるでアイドルのように、キラキラと、二人で踊って、歌っていた。

「……この女、いったい、なんなんだ……?」

 俺には音楽的なセンスはないし、知識もない。たまにネットで音楽を聞いて、滝岡と「あれイイよなー好きだわー」と言いあうぐらいだった。

 自他ともに認める完全な素人だが、二人の歌にあえて感想を言うなら「ヤベェ、ハンパねぇ」だった。

「なんだよ…猫耳ゴス女はともかく…宵桜スイとかいう奴…おまえ…ただ、麻雀打って、奇声を発して、おっぱい揺らして、いたいけな学生から、金を巻き上げるだけじゃなかったのかよ……アイドル、だったのか?」

 だまされたぜ。完全に。

 女は怖いぜ。

 俺は大きく息をこぼす。


「……それで、だ」

 俺はどうにかして、考えを整理しようとする。

「……つまり、どういうことなんだってばよ」

 ふたたび、スマホの画面に目を戻す。まだ登録してあるだけで、一切の連絡が交わされてない、白紙のような画面に想いをよせる。


 グループ名:【V-Tryer】

 前川祐一  14歳。【天王山ハヤト】

 西木野そら 14歳。【宵桜スイ】?
 
 竜崎??? 14歳?【黒乃ユキ】?


 現時点で、俺にわかるのはコレだけだ。とか、なんか探偵のような前振りをしてしまったが、べつに大いなる謎やら、悪の秘密組織が待ち構えている事もないわけで。

 ただ、割と、普通のこと。

 実際の世界と、この目で映る虚構に、今時、そんなに大きな差は存在しない。信者を抱えていようが、いまいが、俺たちはただ、叫んでいるだけなんだ。ぐるぐる、回っている。


「――どうせ、明日には、わかる事だよな」

 俺はメッセージを打ち込んでいった。竜崎さんにも見えるわけだが、構わないだろう。


祐一
『こんばんは、前川です。麻雀の集まりの件だけど、来週の日曜。俺と友達が1人参加してもいいよって話になりました』


 ちょっとだけ待つ。
 3分経って反応がないから続けた。


祐一
『じいちゃん達の話では、朝に掃除して、終わったら集会所に移動して、昼まで麻雀打って解散かなって感じらしいです』

祐一
『俺は付き合いがあるから、掃除、手伝おうと思ってます』

祐一
『もちろん、麻雀だけの参加で全然OKです。じいちゃん達、西木野さんが麻雀打ってくれるってだけで、喜んでたから』

祐一
「もしなにかあったら、ここか、学校で直接聞いてくれると、助かります。俺は今日は寝るね。返信きてたら朝確認になります」

祐一
「あ、あと、グループメンバーの、竜崎さんのことが、ちょっと気になってます。もしかして『VTuber』と関係あったりする? 見当違いのこと言ってたら忘れてください」

祐一
(おやすみ、また明日)

* * *

//Image Side chapter Music or Songs
//nightbird (Album: Food and Musik) by 削除


 前川くんから、グループアプリの返信がきていた。ちょうどお風呂に入っていたところで、確認が遅れてしまった。

 それより、いろいろ、びっくりした。

「……もー、あかねちゃん……また勝手なことして~」

 アンタ、勝手にグループ入っとるやないけ。
 しかも設定いじって、非公開にしとるやんけ。
 グループ名の変更、せめてウチらに相談してよ。

 びしっ、びしっ、びしっ。

 エセ関西テイストで、ツッコミを入れてしまった。

 いや、追加設定とか、公開とか、なにも制限かけなかった、わたし達もいけないんだけど。でも、制限かけたら「キミのこと意識してます」って取られても困るし、前川くんだって、同じ考えだったに違いない。

 とにかく、内容をざっと目で追った。それで、リアルで麻雀が打てる。もうそれだけで嬉しくなって、難しい事を考えず返信してしまった。

 あわてて最後に「急いで返信しなくても大丈夫です」的な一文を添えてしまって、逆に「既読無視すんなよ」的な意味合いに取られてしまわないか、心配になった。

 それにしても今日。
 直接、あかねちゃんに会って、びっくりした。

* * *

 株式会社『ネクストクエスト』
 都内にある一等地のビル。そのオフィスに足を踏み入れて、彼女と目が合うなり、告げられた。

「スイが言ってたの、ハヤトでしょ」

 開口一番だった。
 わたし達のルール。この建物にいる間は必ず『芸名』の方を名乗る事。

「2戦やったけど、両方、頭おかしい強さだった」

 あかねちゃん――クロちゃんは、アインシュタインのように、天才型の女の子だった。わたし達にとっては、本来必要な言葉を省略して話す。詳しくお願い、と聞けば

「チーム組んでわかったけど、あいつ、たかが10分そこらの試合の途中で【敵味方5人の思考、行動パターン、クセ、特徴とかいった要素を把握して、先回りして、読み勝ちして、相手の連携を途絶えさせて、一人でゲームをぶっ潰して、勝ちやがった】」

 ハヤトの強さを、ものすごく、嫌そうに語った。
 いやいや、そうじゃなくて。

「なんで、前川くんが、ハヤトだって分かったの?」

「勝手に暴露した」

 その暴露の過程が気になったけど、たぶんそれ以上聞くと、怒りそうだったので、やめた。

「わたしも気になる。スイ。なんで知ってたの」
「え、いやー、わたしには『スキル』がありますので」
「…あぁなるほど。人生でなんの役にも立たないアレか」
「ひどいよ。確かに役にたたないけど! そういう風に言われると傷つくよ!!」
「スイは存在自体が、あたしの役にたってる。可愛い」
「おふわぁ!? てれるー…」
「意味がわからない。てれる必要がどこにもない」

 バッサリだった。その時に、

「OH! HA・YO・OH!」

 わたし達のプロデューサーが、やってきた。

「YEAH! 今日は遠路はるばるご足労願い、もうしわけなかったね、スイちゃん!」
「いえそんな…」
「ちなみに、37歳のおじさんは徹夜だよ!! 寝てないよ!! あぁ忙しい忙しい!! っかー、最近寝てねぇわー!! 平均の睡眠時間2時間だわー! 家に帰れず会社で寝泊まりしちゃってるわー! 栄養ドリンクのおかげで、テンション上がっちゃゥー!!」
「ウザイから普通に喋れ。処すぞ」
「あー、ダメ。それダメ。アウトアウトアウト。アイドル辞書を探してもそんな言葉のってないからねー、使っちゃダメだぞー」

 外見だけは二枚目。中身はおかしい『37歳のへんなオジサン』が、わたし達のプロデューサーだった。

「はいはいはい! なんかね、今ね! スイちゃんから容赦のない心の暴力を受けて、おじさんのガラスのハートはコナゴナになった気がするけどね、それじゃまず、今後の打ち合わせ始めようね!
 あとおじさんお水飲むね! ミネラルなウォーター飲んで血糖値とアドレナリン薄めて、ついでにテンションも下げるね!!」

 普段はLivechat、いわゆる『テレビ電話』でお話する事が多いんだけど、今日は新曲の収録の関係で、飛行機に乗って『ネクストクエスト』の会社まで、おじゃましていた。

「えー、まず、先週お話しした『LoA』で来月開催される『フェス』の件ね。これは予定通りやります。社内のスタッフにも、このゲームのファンが多くてね、ぜひやって欲しいと。
 それはともかく生放送の実況形式で『フェス』の期間中、最低2回。隔週で放送している【桜華雪月】の2時間枠のどこかで、このゲームのプレイ動画を配信しようと思ってます」
「はい、わかりました」
「ユキちゃんはともかく、スイちゃんもまた、親御さんの了解は事前にとってね。必要なら僕がお話しさせていただきます」
「わかりました。でもそれに関しては大丈夫かなと。両方、結構なオタですから」
「まぁそうだね、キミのお父さんは、世間でも名の知れたイラストレーターだし、二人の元々のデザイン画を考えてくれたのも、キミのお父さんそうだしね」
「はい」
「ただ、やっぱり学業や将来のこともあるからね。僕としては、少なくとも、本人とご両親の納得を得てから、この世界で頑張って欲しいと思ってる。現実からの逃避、という形で活動を続けていくのが一番、不幸なことだろうからね。そういう時はすぐに相談してください」
「はい。お気づかいありがとうございます」
「アイドルやめてぇ。一日ゲームして寝転がって人生終えたい」
「お前はもう少し本気だしていこうな?」

 クロちゃんが、ぐでーん、やるきねーって、某キャラクターみたいに、机を上体を預ける。

「んでー? あたしらとコラボする相手はー?」
「あぁ、それだな。えぇと、昨日の夜に、スイちゃんからのメールで確認したんだけど、なにか、意見があるって?」
「あ、はい。そうです、あの実は――」

 プロデューサーに説明する。

 スマホで、彼がアップロードしてる動画――ではなく【天王山ハヤト】のファンが作った、見どころのピックアップ、編集されたおもしろいシーン、ダイジェスト集が、字幕つきで流れる。

 いわゆる二次創作なのだけど、それも再生数としては『100万』を超えていて、目の当たりにした竜崎さんも、たまに噴き出して笑ったり、いいね。とか声にだしてくれた。

「なるほど、おもしろいね。この彼も、14歳なのかい?」
「はい。内緒ですけど、同じクラスです」
「すごい偶然だな。でもどうして分かったんだい?」
「えーと、それはですね…」
「スイには『スキル』がある」
「『スキル』?」
「そう。通称――【ダメ絶対音感】」
「は? ダメ、絶対音感が? なに、どゆこと?」
「説明しよう。スイが」
「えっ、そこでわたしに振るんだ!?」
「いいだろう。説明してくれたまえ。37歳のナイスミドルにも分かるように頼む」
「あ、はい。えーと、スキル【ダメ絶対音感】というのはですね。生きていく上ではまったく役に立たないスキルだけど、オタクであるなら、必要最低限は身に着けてしまう、悲しい技能のことです」
「ふむ。続きを」
「たとえば、アニメの声優さんって、キャラクターによって、声を変えたりしますよね。それを、正確に見極められます」
「なるほど。確かに実生活ではなんの役にも立たないな」
「わたしの場合はさらに、当社『ネクストクエスト』が独自に発表している、人工知能【セカンド】の、自動声域変換機構を、瞬時に見分け把握し、生身の人間とVTuberを一致することが可能です」
「素晴らしいじゃないか――。うちの開発スタッフが聞けば、さぞ悔しがるに違いない」
「だがなんの役にも立たないのだよ」
「そう。なんの役にもたちません。しかし、ついに! わたしの、このスキルがっ! チート級の天下無双に成り上がる時がきてしまったんですよ!!」

 喋っている間に、興奮してきた。ノッてきた。

「VTuber『天王山ハヤト』の正体を知っているのは、わたし達だけですっ!! すなわち彼を仲間に入れてしまえば、老後の保身にしか興味のない、天下り官僚の勘違いミッションなどクリアしたも同然ですっ!!」
「そうだー、いいぞー、やれやれー、もっといえー」
「落ち着こうねスイちゃん。キミら、繰り返し言うけど、アイドルとして売ってるんだからね? クライアントのこと悪く言っちゃダメだぞ。あと37歳のおじさんの胃の虚弱さを見くびらない方がいいからね。マジで」
「す、すみませんっ!! 悪気はなかったんですっ!!」
「あーうん。いいよいいよ。キミ達若者の将来が明るいものならば、37歳のおじさんの胃の1つや2つや3つなんて、安い安い」
「ではわたくし、アイドルをやめてお金に困ってしまったら、その臓器を売って、天井までガチャを回しますわ。お兄様」
「おまえは血も涙もないのかっ。あ、いた。ヤベ。リアルにいたたたた……」
「お兄様ぁ! いやぁ、しっかりなさってっ!」
「この世には神も仏もないようだ…」

 二人が、ほのぼのとした、会話をはさむ。仲が良い。

「…………まぁ冗談はさておき。うーん……」

 心なしか、青白い顔をして、竜崎プロデューサーは言った。

「コラボをする相手としては…ちょっと難しいかなー」

* * *

西木野
「それじゃ、日曜日、楽しみにしてるね」

西木野
「あっ、それから『竜崎』さんについてなんだけど、ちょっと長いお話になってしまうので、できれば日を改めてお話しさせてもらえたら嬉しいです」

西木野
(おやすみ~)

 わたしはベッドで横になり、スマホの画面をのぞき込んでいた。

 そらが、落ち込んでいる。

 正確には、今日の昼間。VTuberという偶像を用いてやっていく案件にて、この『前川祐一』という相手を、仕事相手の候補から外すという決断を受け、けっこう落ち込んでいた。

 まぁ、そらには悪いけど、愚兄の方が正しい。

 あたし達のフォロワー、すなわちファンが望んでいるコラボというのは『カワイイ女の子のビジュアル』だ。

 他にも却下した理由は、愚兄の中で山ほどあったのだろうが、まずはその点を踏まえて丁寧に説明することで、そらも折れた。

 まぁ、わたし達の関係は、ちょっと特殊だ。普通の芸能事務所ならば、こんな風に意見を交わすということがまずない。

 オンナノコには、賞味期限がある。

 だけど『VTuber』には、ある意味で、それがない。

 年齢と性別。外見上の美醜。

 場合によっては、誰もがその前提条件をクリアしている。

 単に『良い』と思われたものが、生き残る。

 新しい可能性、ではある。

 そしてわたしの愚兄は、そうした未来を追い求める、夢追い人の一面がある。だが本質は商売人であり、第一に『仕事』を最優先する人間だ。

 わたしの愚兄は、よく口にする。

 僕は幼少の頃より、人から愛され、育つことができた。
 だから、自分の生き方として『仕事』を選ぶことができたんだ。

 その感性が、人を惹きつける魅力として生かされている。彼の夢やビジョンに共感した才人が集い、その思想設計が形になったものとして【keep your second】が完成した。

「……」 

 だけど今回は、まぁ仕方がないというか、メリットとデメリットの比を考えた上でも、どこかの企業か事務所に所属している、女の子の外観を持った、人気のVTuberとコラボした方が賢明だろう。

 ただ、

 ―――そういうわけで正直、僕としては別の相手を推したい。
 ユキちゃんは、どう思う?

 我が愚兄は『大人の事情』よりも、あたし達の想いを優先した。

 それで、あたしは、


 『前川祐一の家ってどこ? 教えて』


 メールで直接、そらに、聞いた。
sage