Neetel Inside ベータマガジン
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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「弔辞」作:新野辺のべる(5/1 21:50)

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 コッペパン太君のご霊前に、慎んで哀悼の辞を捧げます。
 僕が君に初めて会ったときのこと憶えているかい?
 もう30年も前になるかな。
 夜明けの波止場で、僕はラッパを吹きならし言ったんだ。
 こんばんわーって。
 僕は甲皇国兵のラッパ卒のおもちゃだったからね。
「海ぐらい静かに見たいんだがな」
 君は深淵な黒い瞳にニヒルな笑みを浮かべて、そう言ったんだよ。
 ふたり連れだって、夜通し歩いたこともあったね。
 歩き疲れて、ふらりと立ち寄ったバー。
 安酒で悪酔いして、どっちがアルフヘイム人形を落とせるか競い合ったよね。
 あの娘ももう買われてしまったよ。人気者だったからね。
 東の空が白んできてころ、おもちゃ屋さんのショーケースに帰ってきた僕たちは綿のように疲れて眠りについた。
 太陽が一番高いところにきて、ようやく僕たちは目を覚まして。
 仲間のひとりが消えていて、さすがの君も落ち込んでいたね。
「あんな不格好なグヌーのぬいぐるみまで売れてしまった」
「次に売れるのは君かも知れないじゃないか」と僕は慰めたけども。
「ほっといてくれよ、あんたにゃわかんない」
 そう言う君の手は震えていた。
 僕はわかっているよ。
 誰かのおもちゃにされるなんて君に合わない。
 その後なんとなく疎遠になって、僕が先に売れてしまってそれきりだ。
 しばらくしてから知ったよ。
 君がショーケースから脱走して、車にひかれたって。
 みんなは売れないことを苦にしての自殺だっていうけど、僕は信じない。
 君は海を見に行こうとしたんだろ。
 だって君はあちこち綿が飛び出ていたけど、最期まで笑っていたじゃないか。
 君ともう二度と海をながめられないなんて残念でならない。
 それでも僕は君の笑顔を胸に生きていくよ。
 ありがとう。
 どうか安らかに。

       

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