Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ミシュガルド一枚絵文章化企画
「アフターミシュガルド~話は続くよいつまでも~」作:防衛軍LOVE(7/30 21:33)

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人間の魂、それはそれぞれ異なる深度で異界と関りを持っている。
異界はこの世界とは異なる法則で世界が回っており、より異界と関わっている魂は異界の法則をこちらの世界に引き出し、それを超能力として現出させる術を持っていた。
古代の文明はこのわずかな異能者と優れた科学技術によって発展し、栄えていたとされている。

だが、ある日こう考える者がいた。

異界と深い深度で関わっている魂をきっかけとして異界にこちらの世界から干渉し、思う様にこちらのほしい法則を持ってこられないだろうか、と。
優れた科学技術はその考えに形を持たせ、多くの魂を犠牲にしてこちらの世界で異界の法則を自在に使えるようにしてしまう。
それが、魔法と呼ばれている物の始祖である。
科学と魔法を得た文明は飛躍的に発展し、更なる魔法が、更なる科学が生み出されていった。

だが、華やかな文明はある日終わりを告げる。
科学でも魔法でも見つける事が出来なかった重大な欠陥から異界の法則がこちらの世界で暴走を起こし、異界とこちらの世界が複雑に合わさってしまったのだ。
それによって狂気と破壊と絶望が世界を包みこみ、多くの人が異形へと変貌するか、あるいは星を、世界を捨ててどこかへと去っていく。
だがそれでも抵抗を続けた者達の活躍で、何とか世界の暴走は終焉を迎える。
そしてその後に残ったのは、文明を失った人々と異形と魔法が渦巻く混沌とした世界だった。




「やがて、崩壊した世界に新たな文明が産まれた、それが今ある文明だ」
「ふうん…そんな話を私にしてどうしようっていうの?」

薄暗いドーム状の施設の中。
羊の亜人の様な怪物が、筒状のカプセルに閉じ込められたビキニアーマーのた少女と会話している。
少女、と言っても彼女はもう20をこえている立派な成人だ。
だがエルフは加齢による外観の変化に個体差があり、200歳位まで若い姿の者もいれば、人間と同じ様に見た目が変化していく者もいる。
彼女は前者であり、ある時期からずっと外観が変わっていない。

「ヴィヴィア、君はこの世界の住民達をどう思っている?」

怪物はビキニアーマーの女性、ヴィヴィアの入ったカプセルに繋がる端末のような物に手をかざした。
古びてほこりがこびりついている端末はその動作で光を灯し、鈍い音を出して動き始める。

「この世界の住民はあの頃の連中と変わっていない、いや、更に悪いかもしれない」

施設のあちこちから鈍い音がし始め、次々と照明が灯っていく。
同時に、ドームの天井付近に立体映像のモニターが現れ、そこに様々な文字が出現した。

「…施設稼働率20パーセントか、だが、自動修復装置は生きている。これなら時間をかければ動くようになるな」

文字を確認した怪物はそう言うと、視線をカプセルの中のヴィヴィアに戻す。

「ヴィヴィアよ、今の世界の住民が、かつての文明の様に、高度な魔法や科学を手に入れたらどうなると思う?すぐに争いの道具に使うか、使い方を誤って世界を滅ぼす事だろう」

一歩一歩、ヴィヴィアに近づいていく怪物、カプセルの中のヴィヴィアはそれをきっと睨みつけるが、怪物は意に介さない。

「私は世界を救う為に、一度この世界に溢れた全ての魔の物を強制的にリセットする、その為に、君の命を使わせてもらう」
「魔の物をリセットする?精霊や魔法を消すっていうの!?」
「精霊や魔法だけではない、本来この世界に存在していない、亜人や、モンスター、超文明や超常現象、その全てを消し去り、世界をあるべき形へと戻すのだ」

あまりにも突拍子もない怪物の言葉に、ヴィヴィアの表情に驚愕が浮かぶ。

「そんな事、できるわけない!」
「いや、できるのだ、かつて世界に異界の法則をばらまいたこの施設…贄の祭壇と、君の魂を使えばな」

怪物の言葉に応えるように、周囲の施設の灯りがもう一段回明るくなり、施設の振動も大きくなる。

「この世界を守るにはこれしか方法は無い」

ヴィヴィアの目を見据えて、きっぱりと言い放つ怪物、ヴィヴィアはそれを真っ向から受け止めると、ふんっと鼻で笑って見せた。

「何がおかしい」
「ウルコー・モッコ、貴方は何もわかっていない、貴方は自分を救世主か何かのように思っているのかもしれいないけれど、もう精霊はこの世界と一体になっている、誰かが勝手にそれを引きはがせば、より状況を悪化させるわ」

その言葉に応えるように、施設内に警報が鳴り響き、モニターに施設へと進軍する100名ほどの軍勢が映し出される。

「来たか」
「ゲオルグさん!」

軍団を率いているのは、ゲオルグ・フォン・フランツベルグ。
「傭兵王」と呼ばれる、かつての大戦で最高の名将と称される人間の一人だ。
彼が率いるのはゲオルグの人格とその指導力に惹かれ、その下についた老若男女、亜人も人間も混成した精鋭達。
かつてゲオルグと共に大戦を戦ったハイランド出身の者もいれば、ゲオルグが戦後にこの大陸、ミシュガルド大陸に渡った後にその下についた者もいる。
故に、この軍団はゲオルグが王であるハイランドの軍では無い、ゲオルグが集めた軍、ゲオルグ軍、皆腕に自慢の猛者ばかりだ。

モニターの向こうの軍勢を見て、ウルコー・モッコはふんっと鼻を鳴らす。
その軍勢はウルコーには余りにも貧弱な物に見えた。
数はせいぜい100人弱、武器は原始的な剣、槍、弓とわずかな銃火器。
竜人や魔法の武器もちらほらと見えるが、数えるほどで、脅威には思えない。
かつての超文明の科学を身に着け、凶悪なモンスターを手なずけた自分達からすれば、アリの様な物だと思った。
ミシュガルドの各地にある人間の拠点には他の獣神将達が強大な力を持ったシャルフリヒター級を含む無数のモンスターを送り付けてその動きを封じている。
後はこの貧弱な軍勢を叩き潰しさえすれば、もはや邪魔をする者はいなくなるのだ。

「見ているがいい、ヴィヴィア、現文明の無力さと、神のごとき獣神将の力を」

ゲオルグ軍の前方の地面が割れ、地中から黒い四足歩行の巨大な怪物、マグマデモンがそのドリルの様な嘴を回転させながら現れた。
更にその後ろから土でできた鎧武者の様な怪物、ガン・ドネルに率いられた一回り小柄な土人形の怪物、ノーン・ドネル、フォール・ドネルがわらわらと湧いてくる。
前方の森からも槍や剣で武装した細身のロボット、キルがガチャガチャと金属音を響かせながら隊列を組んで歩いてきた。
土中と森から続々と現れるモンスターの数は、ゲオルグ軍の倍以上であり、これらのモンスターは並の冒険者ならば手に余るような力を持っている。

「行け!獣神将の力を示すのだ!!」

怪物、獣神将ウルコー・モッコの号令に、モンスター達は一斉にゲオルグ軍に襲い掛っていく。

「…何っにもわかってない」

その光景を見つめながら、ヴィヴィアはぼそりと呟いた。





「グオオオオオオオオオオオオオオ」

雄たけびを上げながら、マグマデモンがゲオルグ軍に襲い掛かる。
土煙を上げ、その巨体でゲオルグ軍を蹴散らさんと向かってくるマグマデモンに、ゲオルグは前列の軽装の兵士を下がらせ、主にエルフで構成された弓兵を前列に展開させた。
マグマデモンの皮膚は大砲すらも弾き返す強度を持っている。
構えられた弓の群れを恐れる事無く突っ込んでくるマグマデモン達。
それ目掛け、ゲオルグ軍の弓兵達は一斉に矢を放った。
ドドドっと鈍い音がして、マグマデモンが悲鳴を上げ、その場に倒れ伏してのたうち回る。
放たれた矢は寸分たがわず全てマグマデモン達の巨大な一つ目に突き刺さっていた。
悶えるマグマデモン達目掛け、後方からハルバードをもった女戦士に率いられた重装兵士が躍りかかっていく。
魔法を付与された剣やハルバードの一撃は、マグマデモンの皮膚を叩き切り、急所をつぶされたマグマデモン達は次々と息絶えた。
そこに、後方からキルの群れがガチャガチャと金属音を響かせながら突撃を仕掛けてくる。
それに対し、ゲオルグの号令を待たずに重装兵士は後退し、代わりに前に出た魔導士達が一斉に雷撃呪文を放つ。
雷撃を受け、回路がスパークした前列のキルが行動を停止し、後ろのキルもその余波で動きが鈍り、キル達の隊列に乱れが生じた。

「突撃!」

その瞬間を逃さずにかけられたゲオルグの号令に、騎兵隊が一斉に突撃し、未だに動きが鈍っているキル達にとどめを刺していく。
本来ならば、斬撃も銃撃も受け付けない強固な合金で体を覆っているキル達だが、動きが鈍っていれば、装甲の継ぎ目や、関節を狙うのはゲオルグ配下の兵達には容易い。
放たれた必殺の斬撃や技を受けて、キルは次々と地に付していった。
キルの隊列が乱れた中を浅黒い肌の男に率いられた銃兵達が突破し、後方から迫りいたドネル達目掛けて銃撃を浴びせかける。
飛び道具を持たないドネルは強力な銃撃になすすべもなく倒されていき、更に弓兵、魔導士も攻撃に加わって、瞬く間に数を減らしていく。
ゲオルグ軍の巧みな攻撃に、倍以上の数を有していたはずのモンスターはあっという間に総崩れとなってしまった。





贄の祭壇のモニターで戦いの様子を伺っていたウルコー・モッコの表情から、余裕が消えていた。

「馬鹿な、戦力的には圧倒的に劣っているはずの奴らが、何故ああも戦える?」
「ウルコー・モッコ、人間を甘く見ない事ね」
「獣神将を舐めるな、戦いはこれからだ!」

ヴィヴィアの言葉に、ウルコーはそう叫ぶと、通信機を取り出す。

「サイボーグ獣戦士達よ!ゲオルグ軍を迎え撃て!」






マグマデモンを全滅させ、キルとドネルの群れと優勢に戦うゲオルグ軍。
その中のエルフや兎人と言った感覚に優れる種の者達が何かに気づいて、空を見上げる。
そこには後ろから煙を吹いている筒の群れが、高速でこちらへと迫ってきている所だった。

「ゲオルグ様!何かが迫っています!!」

エルフの声に空を見上げたゲオルグは、すぐに危険を察し、叫ぶ!

「散れ!爆撃だ!散れ!!」

その掛け声に素早く反応し、すぐさま散り散りに逃げる兵士達。
それと同時に上空から次々と筒状の物体、ミサイルが降り注ぎ、周囲のモンスターを巻き込んで大爆発を起こした。

「皆無事か?」
「何人か巻き込まれました!」
「第二波を警戒しろ!陣形を崩すな!」

ミサイル攻撃を受け、それでも戦意を落とさず、武器を構えて戦闘を継続しようとするゲオルグ軍。
だが上空から更にミサイルが降り注いでくる。

「後退!下がれ!下がれええ!」

降り注いでくるミサイルから逃れようと後退するゲオルグ軍。
そこにゲオルグ軍の前方に展開しているドネルやキルの群れから突然激しい銃声が鳴り響いた。

「がはぁ!」
「ぐあっ」

後退する背に凄まじい猛銃撃を浴びせられ、ゲオルグ軍の兵士がバタバタと倒され、着弾したミサイルが被害を増やす。
更にモンスターの群れの中から異様な姿をした亜人型モンスターが二体現れ、片方、白いモンスターは腕から白い冷凍ガスを、黒いモンスターは手にした三日月形の刃物をゲオルグ軍に投げつけてきた。
冷凍ガスを浴びた兵士は次々と凍り付かされ、三日月形の刃物は高速で飛来して兵士の首を簡単に切断してしまう。

「畜生!」
「あ、よせ!」

その光景に、浅黒い肌の指揮官の制止を無視し、数名の兵士が後退をやめて銃を手に黒と白のモンスターに向かって走り出した。
だがその前方に、今度は光沢を持った鉛色の体のモンスターが立ちふさがる。
復讐に燃える兵士達はまずはこいつからだとばかりにそのモンスターに銃火器を構えた。

「喰らえ!」

一斉射撃を放つゲオルグ軍の銃兵達。
だが、城壁にも穴を開ける威力の鉄砲の一斉射撃を受けても、鉛色のモンスターは物ともしない。

「馬鹿な!?ぐへぇあ」

驚く兵達の前で鉛色のモンスターの腹が扉の様に開き、中から放たれた棘が銃兵達を串刺しにしてしまう。

「ひい」

逃げようとする他の兵士達。
だが黒い影がモンスターの群れの中から飛び出し、素早くその兵士達の頭を切り飛ばしてしまった。

新たに現れたモンスターの攻撃でゲオルグ軍が一時体制を崩した事でモンスター達はその間に体制を立て直し、再びゲオルグ軍の前に立ちはだかる。
その先頭に、先ほどゲオルグ軍を襲った4体のモンスターと、更に奥からミサイルや銃火器で武装した2体のモンスターが姿を現し、横一列に並んで見せた。

「その異形…サイボーグ獣戦士だな!」

ゲオルグの言葉に、モンスター達は一斉に構えを取る。

「サイボオオオオグ獣戦士!!ヘルメラン!!」
「サイボオグ、獣戦士、ブラックスカルゥデモォンッ」
「サイボーグ獣、戦士!ホワイトヘルゴオオオオオオオオオオスゥト」
「サイボオグ獣戦士ガトリングプランタァ!!」
「サイボーグ獣戦士、アイアンヘル!!」
「サイボーグじゅうううせんしィデエエエエビルミサイラァ!」

馬鹿でかい声を張り上げ、なんと一斉に名乗りを上げ始める怪物達。

「あれが…サイボーグ獣戦士…」
「なんだろう、亜人ともモンスターとも違うような独特の雰囲気ね」

武器を構えつつお互い初めて見た怪物に対して感想を述べ合う浅黒い肌の指揮官とハルバートの女戦士。
幾多の戦場をめぐり、様々な亜人や怪物と対峙してきた彼らだったが、そんな彼らから見てもサイボーグ獣戦士は独特の異様さを放って見えた。

「油断するな、一体で甲国の一部隊を壊滅させられるだけの力を有している」

ただ一人、過去にサイボーグ獣戦士と交戦した経験のあるゲオルグは剣を構え、油断なく真っ向からサイボーグ獣戦士を睨みつける。

「魔法攻撃と銃撃で波状攻撃を加えろ!」

ゲオルグの指示に魔導士と銃兵が前に出るが、それよりも早くガトリングプランターが腕に着いたガトリング銃をゲオルグ軍目掛けて猛射し始めた。

「喰らえ喰らえ喰らえぇええええええ」

激しい銃撃に怯まされ、思う様に陣形をとれないゲオルグ軍。
そこにヘルメランの投げた三日月形の刃が飛来し、魔導士を切りつける。

「があっ」
「この!」

更に飛来する三日月を撃墜しようとハルバートを構える女戦士、だが、横からブラックスカルデーモンが獣の様に素早く襲い掛かってきた。
勢いよく食らいついてくるブラックスカルデーモンを斧でいなし、攻撃を受ける女戦士。
だがブラックスカルデーモンは鋭い爪と牙を振り回し、女戦士を攻撃し、反撃のチャンスを与えない。
必死にハルバートで攻撃を受ける女戦士だが、ブラックスカルデーモンの鋭い一撃は女戦士の鎧や手甲を確実に傷つけていく。

「シャーロット!」

浅黒い肌の指揮官や周囲の兵士達が助けに向かおうとするが、強烈な冷凍ガスが吹き付けられ、一同の進路を妨害する。

「貴様らはここで死ぬのだ!」

ホワイトヘルが腕から冷気を噴き出して一同を妨害してきたのだ。
触れただけで骨まで凍る冷凍ガスを撒かれ、やむなく後退する兵士達。
それならばと反対方向からゲオルグが駆けつけようとすると、ゲオルグ目掛けて複数の三日月の刃が飛来してきた。
ヘルメランがハルバートの女戦士…シャーロットの相手をブラックスカルデーモンに任せ、投げつけてきたのだ。
撃墜しようと剣を振るゲオルグ、だが、確かに当たったはずのゲオルグの剣は三日月の刃を捉えられず空を切り、あらぬ方向から飛んできた刃がゲオルグの体を切りつける。

「ぐう!」
「見たか!ヘルメラン様の幻覚ブーメランの威力を!」

間一髪体をそらした為に深手を負わなかったゲオルグだったが、刃に怯んだ所をドネルやキルに阻まれてしまい、シャーロットへ向かう事ができなくなってしまう。

「そおらまとめて吹き飛ばしてくれる!!」

そこでデビルミサイラーが再び体からミサイルを出現させ、発射してきた。
魔導士も銃兵もサイボーグ獣戦士やモンスターと戦っていて反応できない。
ミサイルがさく裂すれば、ゲオルグ軍と戦っているモンスターやサイボーグ獣戦士達もただではすまないだろうが、お構いなしだ。

「いかん!何とか逃げろ!」

ゲオルグが叫ぶが、とても逃げ切れる状態ではない。
激しい爆発と煙が、ゲオルグ軍を包み込んだ。




「…見たかね?ヴィヴィア、これが現文明の力、君が信じた者達の末路だ」

贄の祭壇の中でそれをモニタリングしていたウルコー・モッコは、勝ち誇った様子でヴィヴィアにモニターを指さして見せた。

「そして……これが我々の文明の力の恐ろしさだ。もし、この力がこれ以上流出すれば、世界は確実に崩壊する!それがわからないのか?ヴィヴィア!」

力を込めて力説するウルコー。
対し、ヴィヴィアは首を振る。

「もし力が暴走する事で世界が滅ぶのなら、必要なのは力を放棄する事じゃない、諦めずに暴走を抑えようとする事だ、力と向き合い続ける事だ、諦めて殻にこもるばかりじゃ、決して前へは進めない」

そう言って、モニターを指さして見せるヴィヴィア。

「そして私は知っている、常に強大な力と向き合い、頑張ってる子がいる事を」

振り向いたウルコー・モッコは目を見開き、驚愕した。

「馬鹿な!奴は死んだはずだ!」
「人間を…あの子を…私達を舐めないで!」

モニターの向こう、もうもうたる黒煙の向こうから、黒い装飾された刀を持った、一人の少年が無傷のゲオルグ軍を背に現れた。
彼の名は、ルキウス・サンティ。
かつてのアルフヘイム戦役の英雄、クラウスの息子、そして…現代の勇者である!

「…ならばこちらも切り札を使うまでだ!」

そう言うと、ウルコーは後方に控えていた最後の戦士に前進を命じた。
これでもはやウルコーとこの施設を直接守る物はいなくなるが、ルキウスが現れたからにはもはや対抗できるのはその戦士しかいないとウルコーは判断したのである。

「出て来い!メタルメゼツ!行け!ルキウスを打ち倒すのだ!!」







「馬鹿な!俺のミサイルを!」

驚愕するデビルミサイラーの前でルキウスは刀を真正面に構え、叫ぶ。

「サイボーグ獣戦士ども!お前達が今の世界を壊そうとする限り、僕は何度でも蘇る!」
「しゃらくせええ!」

今度はガトリングプランターがルキウスに腕のガトリングを向けて射撃を開始した。

「武真ノ太刀、海の太刀!」

それに対し、ルキウスが剣を一振りすると、彼の前に青い光の膜が展開されて銃撃を弾き返してしまう。

「な…俺のざ…がべらっ!?」

自慢の銃撃が破られた事に驚愕するガトリングプランターに突如横合いから斬撃が振り下ろされ、その体を袈裟懸けに叩き切った。
ゲオルグだ、ゲオルグが隙を見てガトリングプランターに忍び寄り、奇襲を仕掛けたのだ。

「勝てぬ敵ではないぞ!陣形を整えろ!魔導士!冷凍ガスに対抗しろ!銃兵は距離を取って雑魚を狙え!」

強力な味方を得て敵を一体倒したゲオルグ軍は再び勢いを取り戻し、サイボーグ獣戦士へと反撃する。

「シャーロット!」
「ゴンザ!」

シャーロットの下にも浅黒い肌の指揮官、ゴンザが数名の兵士を引き連れて応援に現れ、ブラックスカルデーモンを引きはがした。

「このままこいつらを突破しましょう!」
「うむ!」

ガン・ドネルとキルをまとめて叩き切りながら言うルキウスに、応じるゲオルグ。
そのままゲオルグ軍がモンスターの群れを突破しようとした……


…その時

上空から今度は赤い熱線が数条降り注ぎ、ゲオルグ軍の進路上にさく裂した。
爆発に怯み、動きが止まるゲオルグ軍。
その前方、爆発で立ち込める煙の向こうに上空から何者かが着地する。
それに対し、刀を構えて応戦の構えをとるルキウス。
瞬間、煙の向こうから先ほどと同じ熱線が数条放たれ、中空で曲がりくねりながらルキウス目掛けて降り注いできた。
ルキウスはそれを光の膜で弾くと、刀から光の斬撃波を煙の向こうへと放つ。
斬撃波は煙を吹き飛ばして何者かに迫るが、相手は斬撃波を容易くかわし、煙を割って姿を現した。
それは、金属製の部品を体に埋め込んだ人間だった。
その人物は手にした身長よりも巨大な剣をルキウス目掛け凄まじい速度で振りかざしてくる。
再び光の膜でそれを弾き返すルキウス。
だが、相手は連続で次々と光の膜に斬撃を放ち、ルキウスに反撃の機会を与えない。

「ルキウス!」

ゲオルグが助けに向かおうとするが、横合いから三日月形の刃やミサイルが次々と飛んできてその進行を妨害し、恐れを知らないキルやドネルが進路上に割って入ってその進行を妨害する。

「海の太刀!最大出力!」

ルキウスの叫びに応じて光の膜の力が増し、斬撃を繰り返していた人物を吹き飛ばした。
だが、相手は空中で身をひるがえして簡単に地面に着地し、再び手にした大剣をルキウスに向ける。
同時、ルキウスの手にしていた刀の根元についた三つの宝玉の一つが光を失った。
武真ノ太刀には陸海空三つの力があり、その力の一つ、海の太刀を最大限に使った為、エネルギー切れを起こしたのである。

「現れたな…メタルメゼツ」

目の前に立つ機械人間に構えを取りながら、ルキウスはつぶやいた。
メタルメゼツ、それは大戦時の甲皇国の英雄、メゼツを獣神将が回収して改造したサイボーグである。
かつて一度メタルメゼツと対決したルキウスは力及ばず倒され、その際ヴィヴィアを連れ攫われてしまったのだ。

どの程度メゼツの部分が残っているのだろう、感情の読めない目でルキウスを見つめながら、剣を構えるメタルメゼツ。
それに対しルキウスは刀の根元を動かし、太刀の力を変更した。

「武真ノ太刀、空の太刀!」

ルキウスの言葉に応じてその体が浮き上がり、空へと飛びあがる。

空ノ太刀は空中戦を主体としとした力で、音速を越える速さと遠距離攻撃能力を持ち主に使えるようにするのだ。

空へと飛びあがったルキウスは、腕にエネルギーを溜め、光弾にしてそれをメタルメゼツ目掛けて連射する。
メタルメゼツは飛び上がってそれをかわすと、背中から光の羽を出して空を舞い、再び大剣でルキウスに斬りかかってきた。
ルキウスはその攻撃を受けるが、抑えきれずに後ろにさがり、再び光弾を発射する。
だが光弾は大剣に切り払われ、メタルメゼツは反撃に体のあちこちにある赤い光点から先ほどの光線を連射してきた。
高速で空で飛び回り、何とかそれを回避、あるいは刀で払いのけるルキウス。
その隙にメタルメゼツは、ルキウスに肉薄し、再び連続で斬撃を放ってくる。
何とか打ち合い、距離を取って光弾を放つルキウスだが、容易くかわされてしまう。

一方ルキウスが地上から離れた事でサイボーグ獣戦士達は改めてゲオルグ軍へ総攻撃を開始した。

「デビルミサイラー!撃ちまくれ!ホワイトヘルは俺とゲオルグを攻撃だ!ブラックスカルデーモンとアイアンヘルは将校を狙え!」

ヘルメランが指揮を執り、デビルミサイラーのミサイルが戦場に降り注いでゲオルグ軍が陣形を組むのを妨害し、ホワイトヘルの冷凍ガスとヘルメランの三日月刃がゲオルグ目掛けてアウトレンジから襲い掛かって指揮を妨げ、ゴンザにはアイアンヘルが、シャーロットにはブラックスカルデーモンがそれぞれ襲い掛かっていく。
数が減ったとはいえ、まだゲオルグ軍よりもモンスターの方が圧倒的に数が多い為、うまく対抗できないゲオルグ軍の兵士はモンスターに囲まれ、一人、また一人と倒されてしまう。

「あっ!」

ブラックスカルデーモンの爪の一撃が、シャーロットのハルバートを弾き飛ばした。
素早く身を翻したシャーロットはすぐそこに落ちていた剣を拾おうとするが、それより早くブラックスカルデーモンの牙がシャーロットへと喰らいつくく。
彼女の腕がブラックスカルデーモンの牙に食いちぎられる…

…瞬間、どこからか放たれた雷撃がブラックスカルデーモン、そして周囲のモンスター達を薙ぎ払い、シャーロットを救った。

「え?」

驚愕するシャーロットの横でまるで爆発でも起きたようにモンスターが中空に数体吹き飛ばされ、獣の咆哮が響き渡る。
更に別の方向からも凄まじい斬撃の音が響き、モンスターが次々と吹き飛ばされていく。
やがて、シャーロットの後方から彼女の見知った、頼もしい青年が現れた。

「ケーゴ!」
「待たせたな!俺達も加勢する!」

ケーゴの言葉に呼応するように、ドネルを食いちぎりながら、巨大な灰色の獣が赤い鬣を震わせながら現れる。
その背には同じく燃える様な赤い髪の青年の姿があった。

「だらしねえぞ!女トロル!」

青年、フリオはシャーロットにそう言うと、紆余曲折冒険の末に手に入れた大事な相棒、ライジングビーストを駆って、手近なサイボーグ獣戦士、デビルミサイラーへと立ち向かっていく。

「ぬおっ!?」

ゲオルグを攻撃していたデビルミサイラーは突然現れたライジングビーストに一瞬狼狽えたが、すぐに腕を向け、そこから小型のミサイルを放って応戦する。
しかし、フリオとライジングビーストは身を低くしてミサイルをかわし、そこから一気にデビルミサイラーへと飛び掛かった。
二発目を放つ間もなくデビルミサイラーはライジングビーストに覆い被され、喉元を爪で叩き切られる。

「シャーロット!」

ケーゴの声にシャーロットが視線を巡らせると、そこには雷撃のショックから立ち直ったブラックスカルデーモンが、再びこちらに飛び掛かろうとしている所だった。
だが、素早くケーゴがその間に割って入り、手にした魔法剣を構える。
幾多の冒険を経て様々な装飾と強化が施されたその魔法剣は音を立てて形を変形させ、剣先から光の刃を出現させた。

「喰らえ!」

ケーゴの叫びと共に魔法剣から光の斬撃波が放たれ、こちらに飛び掛かってきたブラックスカルデーモンにさく裂し、その体を爆発四散させる。

「やるぅ」

よろよろと立ち上がりながら、シャーロットがケーゴを賞賛し、ケーゴはにやりと笑ってそれに応じた。

「一気にカタをつけるぞ!」

ゲオルグ軍の側方から新たに応援に現れた黒髪の青年が、同じく金髪の青年と共に剣でモンスターを切り倒しながら一気にゴンザと戦うアイアンヘルへと突っ込んでいく。

「図に乗るな!」

アイアンヘルは体を開いてそこから棘を発射するが、二人の青年は剣でそれを難なく撃墜し、アイアンヘルへと肉薄して剣戟を見舞った。
だが、渾身の斬撃はアイアンヘルの体に通らない。

「馬鹿め!俺の体はミシュガルド文明の技術の結晶、暗黒超鉄でできている!貴様らの下等な武器等蚊ほども効かんわ!」

アイアンヘルはそう言って青年二人を薙ぎ払い、再び体を開いて棘を発射する。
二人はそれを身をひるがえして何とかかわすと、互いにうなずき合う。

「ソウイチ、奴の弱点は腹が開いた所だ」
「ああ。…だがコウラクエン、俺はあえて野郎の挑発に乗ってやりたい」
「ふっ…また手にマメができそうだ」

この二人は腕利きの冒険者、ソウイチ・ミツルギとコウラクエン・ボクトアクシュ。
正義を志し、英雄を目指す若者達である。
そして、ミシュガルドで腕を磨き、幾多の冒険をしてきた二人はある人物に技を師事する機会を得ていた。

「「同じ鉄なら、気合が強い方が勝つ」」

師の言葉を復唱し合った二人は、笑みを浮かべて、剣に裂ぱくの気合を込めてアイアンヘルへと向かって行く。
ソウイチの持つ剣は想いを力に変える効果を持っている。
本来は殺意を籠めるのだが、ソウイチがミシュガルドで剣を振るう内、魔法剣はいつの間にか気合により反応するように変化していた。
コウラクエンの持つ剣はただの剣であるが、気合があれば問題ないだろう。

アイアンヘルは棘を放って迫る二人を迎え撃つが、二人はそれを簡単に切り払い、アイアンヘルと突っ込んだ。

「無駄だあ!暗黒超鉄は無敵!」

「ツイン!」
「ギガ!!」

「「ブゥレイクウウウウウウウゥ」」

渾身の気合をありったけ籠めて放たれた二人の必殺の一撃が、同時にアイアンヘルとさく裂した。
刃はバターの様にアイアンヘルの体を構成する暗黒超鉄を叩き切る。

「な…に…!?」

容易く体が切り裂かれた事を信じられず、その場に崩れ落ちるアイアンヘル。
コウラクエンとソウイチの二人は拳をぶつけ合って勝利を喜び合うと、二手に分かれて周囲のモンスターへ攻撃を開始する。

「ぬうぅ…クソがぁあ!」

次々と倒される味方に業を煮やしたヘルメランが、手当たり次第に三日月の刃を投げつけてきた。
分身しながら飛び交う刃は、だが巧みに回避するゲオルグ軍の兵士よりも無防備なモンスターを叩き切り、かえって被害を増していく。

「もう好きにはさせん!」

暴れ狂うヘルメラン目掛けて、ゲオルグが聖剣を手に駆けだした。
それを見たヘルメランは再度分身する刃をゲオルグに投げつける。

「本物が見切れぬというのなら…うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ゲオルグは叫び、分身して迫りくる刃全てに高速で斬撃を見舞い、本物の刃を両断した!

「そんな…馬鹿な!?」

聖剣一閃!ヘルメランは胴体を真っ二つにされ、倒れ伏してドロドロに溶けていく。

他のサイボーグ獣戦士が全滅し、ホワイトヘルゴーストは狼狽え、たじろいで後退する。
既にゲオルグ軍の猛攻でキルとドネルも数を減らし、大勢は決した状態だ。

「な…何故だ!?おかしい!ただの人間が…下等なお前達が、何故我々に勝てるんだ!?」
「力と能力に自惚れ、エゴでしか動けぬお前達に、我々は負けん!」

ホワイトヘルゴーストの叫びに、合流した冒険者達と己の軍団を引き連れ、悠然と前進しながらそう断じるゲオルグ。
最早勝ち目も無く、気迫でも負けているホワイトヘルゴーストは冷凍ガスを出す事も忘れてただただ後退するしかない。
と、そこに空から何かが落下してきた。
上空でメタルメゼツと戦っていたルキウスだ。

「ルキウス!」
「っ…大丈夫です」

ソウイチの呼びかけに、ルキウスは何とかよろよろと立ち上がる。
その前に、悠然と空から無傷のメタルメゼツが降りてきた。

「おお!メタルメゼツ!まだ我々にはお前がいた!」

援軍の登場にホワイトヘルゴーストは元気を取り戻し、その足元へと駆けていく。
だが、それに対し、メタルメゼツは手にした大剣を向けた。

「うおっ…ど、どうした!?暴走か!?」
「……情けない」

冷徹な目をホワイトヘルゴーストに向けながら、メタルメゼツは口を開いた。

「な…何?」
「お前は揺るがない目的をもって戦ってるんだろう?それがなんだ?相手が強いってだけで狼狽えてそんな情けない醜態晒しやがって」
「ぬ…」

メタルメゼツの言葉を受け、ホワイトヘルゴーストは固まる。
メタルメゼツが急に饒舌に喋ったのを見て、ゲオルグ達は驚愕した。
これまで感情を表に出さなかったメタルメゼツが初めて感情を見せた、しかも、それは単純な怒りや、憎しみではない、味方に対する激励の想いが込められた、明確な人間らしい感情である。

「き…貴様、正気なのか?」
「そんな事はどうでもいい、それよりも…お前は理想の…獣神将の為に最後まで戦うんじゃなかったのか?戦い抜く覚悟ってのがあるんじゃなかったのか?」

メタルメゼツの言葉に、己の心と向き合うホワイトヘルゴースト。
獣神将の語る理想、それを叶える事こそが、自分達が産まれた存在意義であり、喜びであり、全てである。
それを思い出し、ホワイトヘルゴーストはメタルメゼツに力強く頷いた。

「お前の言うとおりだ!サイボーグ獣戦士は獣神将の崇高な目的の為に戦っている!この身を惜しみ、敵に臆する等あってはならなかった!」

闘志を取り戻したホワイトヘルゴーストに、メタルメゼツは爽快な笑みを浮かべた。

「それでいいんだよ!てめえら!まだ俺達の方が数が多い!気合を入れろ!!」

メタルメゼツの叫びに、モンスター達も雄たけびを上げて応じ、ゲオルグ軍の兵士達に対抗し始める。
メタルメゼツと言う強力な将を得て、モンスター達は勝利を感じ、士気を取り戻したのだ!
更にメタルメゼツはモンスター群の間を飛び交い、全体の指揮を執り始める。

「そこのお前らは陣形を組め!お前らは周り込め!キル!騎馬を狙え!弓を持ったドネルどもは魔導士を集中攻撃しろ!」

メタルメゼツの指揮でモンスターは統率の取れた反撃を開始し、もともと数もいた為ゲオルグ軍の兵士達を押し戻していく。

「なんてこった…奴を叩け!」

ゴンザの指示で数名の銃兵がメタルメゼツ目掛けて一斉射撃を見舞う。
だがメタルメゼツは手にした大剣を鋭く振って飛び来る銃弾を叩き落とし、逆に斬撃波を放ってきた。

「ぐあっ」
「ならこれでどうだ!」

斬撃波で吹き飛ばされたゴンザ達に代わり、ケーゴとライジングビーストにまたがったフリオが前に出て、同時に強力な雷撃を発射した。
しかしメタルメゼツは体の各所の発光体から赤い熱線を発射し、雷撃をかき消してしまう。
凄まじいスパークと共に消える雷撃、その向こうからソウイチとコウラクエンが剣を手にメタルメゼツへと斬りかかった。
大剣を振り回し、それを迎え撃つメタルメゼツ。
激しく剣戟がぶつかり合い、打ち負けたソウイチとコウラクエンが後ろへ吹き飛ばされる。
その背後から、今度はゲオルグが飛び掛かり、メタルメゼツへと斬撃を放った。
怯まず応戦するメタルメゼツ、再び激しい剣戟がぶつかり合い、今度はメタルメゼツがじりじりと後ろへ後退する。

「させん!」
「!」

そこに横合いからホワイトヘルゴーストが冷凍ガスを噴射した。
避けきれず、半身を凍らされるゲオルグ。

「行け!メゼごはっ!!」

叫ぼうとしたホワイトヘルゴーストの背後からシャーロットが渾身のハルバートをその首にさく裂させた。
命中した個所や口から冷凍ガスを吹き出し、のたうち、息絶えるホワイトヘルゴースト。
その目は最後までメタルメゼツへと向けられている。

「ありがとよ!!」

ホワイトヘルゴーストの援護を受け、メタルメゼツは散った仲間に礼を言いながら、ゲオルグ目掛けて渾身の斬撃を放った。
半身が凍り付いたゲオルグはそれをかわす事も受ける事もできない。

だが、剣戟がさく裂するすんでの所で何者かがゲオルグとメタルメゼツの間に割って入り、その斬撃を受け止めた。

「武真ノ太刀、陸の太刀!メタルメゼツ!まだ勝負は終わっていない!!」

ルキウスだ。
ルキウスは手にした武真ノ太刀でメタルメゼツの大剣を受け止めると、大剣を弾き、メタルメゼツへと構えをとる。

「いいぜ、来な!」

不敵な笑みを浮かべ、手招きにするメタルメゼツ。

武真ノ太刀、海の太刀は防御に特化した力で、バリアを自在に起こす事ができる、空ノ太刀は速度と移動に特化した力で、音速を越える速度で空を自在に飛ぶ事ができる。
そして、陸の太刀は身体能力をありったけ強化し、攻撃魔法を自在に操れるようになる、武真ノ太刀の真骨頂と言える形態だ。

輝く太刀で幾度となくメタルメゼツへと斬撃を放つルキウス。
だが、メタルメゼツはそれを容易く大剣で受け、弾き、逆に自分の剣戟をルキウスへと放っていく。

「ぐっ!」
「どうしたぁ!そんなもんかぁあ!武器の力を使うだけじゃあ俺には…獣神将には勝てねえぞ!」

武真ノ太刀の力で圧倒的に強化されているはずのルキウスはいつの間にか防戦一方になってしまう。
ゲオルグ軍の兵士が取り囲んでメタルメゼツを攻撃しようとするが、戦いが激しく割って入る事ができない。
やがて武真ノ太刀を受け止めたメタルメゼツの強烈なキックが、ルキウスの腹にさく裂し、彼を吹き飛ばした。
弾き飛ばされたルキウスの手の中で、武真ノ太刀が光を失う。

「終わりか?」

吹き飛ばされ、地面で悶えるルキウスにゆっくりと近づくメタルメゼツ、その背後、贄の祭壇から激しい光が上った。

「ウルコーが儀式を始めた」

ルキウスに見せつけるようにそちらを指さしながら、メタルメゼツは言った。
それはすなわち、ヴィヴィアの死が迫っているという事である。
何とか立ち上がろうとするルキウスを、メタルメゼツは黙って待ち続けた。

「そうだ、それでいい、それでこそ…あいつの見込んだ奴だ」
「え!?」

立ちあがり、メタルメゼツの言葉に驚愕ルキウス。
それ目掛け、メタルメゼツは容赦なく斬りかかってきた。
ルキウスはそれを光を失った武真ノ太刀で何とか受け止める。

「ルキウス!」

側面からソウイチが剣戟を放ってルキウスとメタルメゼツを引き離し、反対からコウラクエンもメタルメゼツへと斬りかかる。
更に後方からもフリオが雷神ビーストを駆って襲い掛かり、その尾についた刃でメタルメゼツを攻撃した。
しかしメタルメゼツは三方から放たれる攻撃をそれぞれ受け止め、かわし、叩き落とし、物ともしない。





「我々の勝利だ」

贄の祭壇の中、轟音を上げて動く機械を操作しながらウルコーは言った。
カプセルの中のヴィヴィアは徐々に弱り、顔色はどんどん悪くなっていく。
だがそれでもヴィヴィアはウルコーを睨みつけ、言葉を紡ぎだす。

「この戦いを見てもまだわからないの?貴方は自分の力を過信し、エゴに溺れているだけだって!貴方の自慢の科学の力は全部私達に破られ、今あそこで活躍しているのは全部この時代の物だけ。
この状況を見て、まだ、自分の考えを強行しようと思うの?」

その言葉に、ウルコーはじっとヴィヴィアの視線を受け止める。

「…確かに、お前達は強い。私の軍団はそれに敗れようとしている、それは認めよう」

無念そうにウルコーはそう述べる。
そこに嘘や皮肉、憎しみは感じられず、素直なウルコーの感想であることが伺えた。

「だが、この世界には欲望に満ちた者、力を滅びへ平気で向かわせようとする者が大勢いるのもまた事実だ、いずれそういった者達が…」
「そういった連中が現れた時、私達がそれを打ち倒せばいい、間違ったり滅びに向かったりする人達が未来に現れるなら、世代を繋いで想いを残していけばいい!」

ウルコーの言葉を遮ったヴィヴィアの言葉に、ウルコーは言葉が止まり、俯く。
確かに、その通りだった。
便利な力を滅びへ向かわせる者がいるのなら、誰かがそれを止めればいい、止め続ければいい。
そしてそれはエゴにまみれた自分勝手な物であってはならなかった。
ウルコーはヴィヴィアの言葉からそれを悟る。

「お…お前らでは世界は救えない!」

だが、ウルコーは頑なに負けを認めない。
その姿勢こそが彼が否定している者達と同じ物であるが、それでもなお、彼のプライドが、道を改める事を許さなかった。

「もし救えるというのなら!今やって見せろ!」

ウルコーが叫んだ瞬間、施設のあちこちがスパークし、次々と爆発が起こった。

「な!?」

同時、天井からヴィヴィアの入っているカプセルの横に何者かが着地し、カプセルの施錠を素早く解除する。

「ショーコ!」
「待たせたねビビ!!」
「こっちだ!」

天井からする声にヴィヴィア…ビビが上を見上げると、そこには天井にできた穴からこちらを覗く、見知ったダークエルフの女性の姿がある。

「メン・ボゥ!」
「一気にずらかるよ!」

ショーコから回復役を受け取ったビビはそれを一気飲みすると、体に精霊の力が満ちていく。

「待て!待てええええ!!」

狼狽えつつ、ウルコーが雷撃を放つが、それよりも早く、ビビはショーコを抱えてその場から飛び上がった。

「魔導の8!ヤクモ!!」

中空に魔法の足場を作り、雷撃を素早くかわしながら天井へと駆けあがるビビ。

「ありがとう、二人とも」
「これでいつかの貸しは無しだよ」
「無事で何よりだ」

天井へたどり着いたビビは二人と再会を喜び合うと、その場を後にしていく。
残されたウルコーは、ただ茫然と、虚空を見つめていた。





彼方から聞こえた爆音とともに、キルやドネルが戦意を喪失し、ぞろぞろとその場を後にし始める。
その様に、メタルメゼツはウルコーが敗北した事を悟った。

「負けたなぁ…」

周囲の肩で息する戦士達を見渡しながら、どこか達観した様子で、メタルメゼツは言った。

「どういう事だ?」

剣を握る手から血を滴らせながら、コウラクエンがたずねた。
彼も、周囲の仲間達ももう戦う体力は残っていない。

「ウルコーの野郎がしくじりやがった、多分、ビビが助けられたんだろう。なあそうだろ?」

メタルメゼツの問いかけに、周囲の視線がルキウスに集まり、その中でルキウスは頷く。

「ショーコさん達に先行してビビの所に助けに向かってもらったんだ」
「………いい戦い方だな」

ルキウスの返答に、メタルメゼツは笑う。
最初からルキウスは自分が負けた時に備え、万全の体制を整えて戦っていた。
どちらにしてもこの戦い、メタルメゼツがウルコーの傍を離れてルキウス達と戦い始めた時点で、獣神将側に勝ち目はなかったのである。
メタルメゼツはもう一度一同を見回した後、ルキウス達に背を向けた。

「メゼツ!」
「俺の役割は終わった…。今日はこの位にしとこうぜ」

ルキウスにそう応じると、メタルメゼツはいずこともなく去っていく。
戦いで疲れ、かつ強豪であるメタルメゼツを相手に、ルキウス達は後を追う事はできない。

「また、やろうぜ」

不敵にそう言うと、メタルメゼツはどこかへ消えていった。




ビビが去った贄の祭壇の中で、ウルコーは一人、ただ茫然としていた。
その後ろの暗がりから、何者かが近づいてくる。

「失敗しましたね、ウルコー」
「ニコラウス様…」

ウルコーは振り返ると、力なく項垂れる。

「申し開きもありません…このウルコー、完全に負けました」
「負けました…ですか…」

ニコラウスは一瞬でウルコーとの距離をつめると、その首を左手で持ち上げた。

「が…ぐ…」
「今回の戦いに我々がどれだけの投資をしたと思っているんです?」

そう言ってニコラウスはウルコーの左腕を掴み、軽々と体から引き抜き、地面に投げ捨てた。
地面に転がった腕の断面からは機械部品がのぞき、青い火花が散っている。

ウルコー・モッコ、その正体は亜人ではない。
機械人形、ロボットだった。
かつての文明で、人間のパートナーとして強い自我を持たされて産まれた彼は現代に目覚めてなお、人間のパートナーとして、人類にとって最良と自分なりに考えた方法を実行していたのである。

故に、ニコラウスにとってウルコーは仲間ではない、ただの駒だ。

「欠陥人形のあなたを拾い」

ニコラウスの拳がウルコーの腹を貫き、中の機械を周囲にぶちまける。
貫かれた腹から、バチバチと壮絶なスパークが起こった。
だがウルコーは悲鳴一つ上げず、なすがままに攻撃を受けている。

「信じて我々の戦力を貸し与えたにも関わらず、このありさま…」

ウルコーの首を掴むニコラウスの手に力がこもり、その首を握りつぶす。

「……奴等の遺産である貴方を、少しでも使えると判断したのがそもそも私の間違いでした、何か言い残す事はありますか?」

ウルコーは目を瞑り、口を開く。

「貴方もきっといずれ…」

最後の言葉が終わる前に、ウルコーは体を激しくスパークさせて、その機能を停止しさせる。
ニコラウスは舌打ちをすると、ウルコーを施設の壁に投げ捨てた。






「ビビ!」
「ルキウス!!」

夕陽の下、贄の祭壇から走ってきたビビとルキウスが抱擁し、再開を喜び合う。
十歳以上年の離れた二人だが、ビビの容姿が若いため、それはまるで姉弟か、あるいは恋人同士のようにも見えた。
仲間たちはその光景を優しく、そして誇らしく見守っている。
彼らの心中には、温かい達成感が広がっていた。

「メゼツは?」

ビビの問いに、ルキウスは首を振る。
結局、ルキウスはメタルメゼツに力及ばず、ショーコとメン・ボゥがいなければウルコーの野望を阻止する事は出来なかった。
情けない想いがルキウスの中に湧き上がるが、それを察したのか、ゲオルグがルキウスの隣に立ち、語り始める。

「ルキウス、君が来なれば我々はサイボーグ獣戦士に敗れ、壊滅していたかもしれない」
「そうさ、ルキウスがメタルメゼツを食い止めてくれたから俺達はサイボーグと戦う事に集中できた」

ケーゴもまた、ルキウスを賞賛し、その活躍を褒めたたえた。

「そうだぜルキウス!お前はすげえよ!」
「自信持ちなよ、あいつ逃がしたのは私達にも責任があるんだからさ」

フリオとシャーロットもルキウスに激励の言葉を送る。

「ルキウス、私達は私達のできる事をしていきましょう、これまで通り、そしてこれからも」

ビビはそう言って、ルキウスの肩を抱く。
ルキウスは少し俯いていたが、すぐに顔を上げ、一同を見回し、強く頷いた。

「皆、ありがとう!」

ルキウスの言葉に一同は笑い合った。





その後、ルキウスとメタルメゼツは幾度となく戦う事になったが、結局決着はつかなかった。
最初から獣神将に操られていなかったらしいメゼツは嬉々として戦い続け、最後はある日突然いなくなってしまった。
もしかしたらそれはアーティファクトと体を繋ぎ合わせた為に起きた不具合による突然死だったのかもしれないが、もう彼に何があったのかを知る術はない。
そして雄々しく戦ったルキウスも、ゲオルグ王も、他の大勢の者達ももういない。
長い時の流れが、彼等を過去の人にした。

時は流れ…ダヴ999年。

はるか大宇宙の彼方…宇宙戦艦スウィートホーム・サンティ。
激しい衝撃に揺れるその艦橋内で、頭から飛んでいきかけた指揮官帽をキャッチしたビビ…ヴィヴィア二―テリア連合宇宙艦隊提督は、ブリッジクルーの無事を確認すると、声を張り上げる。

「本艦及び艦隊の被害状況を知らせ!」
「中央ブロックに被弾!装甲を貫通!炎上箇所多数!」
「ミサイル艦シルバーサムライ、大破炎上中!巡洋艦ゴルドプラス轟沈!その他にも被害多数!」
「隔壁を閉鎖!回避運動続けつつ反撃を継続!」

ビビの命令に従い、艦のフェーザー光線砲が一斉に敵目掛けて発射される。
随伴する艦隊もミサイルや光線砲を放つが、光線もミサイルも標的に着弾する寸前に見えない壁にぶち当たり、効果は見えない。

「やはり遠距離攻撃ではダメか…」

攻撃を受けた相手、古代ミシュガルド文明人の集合体である超巨大な脳の様な姿をした侵略者、通称「脳みそボス」は巨体の各部を発光させながら反撃の姿勢を取り始める。
ビビは数百年の時を経てなお、あの時ウルコーに言った通り、できる事をやり続けていた。
魔法力を失い、ハルバートを持てなくなった今でもなお、指揮官として戦い続けている。

ミシュガルド大陸発見以降宇宙からの古代ミシュガルド文明の介入は日増しに増加し、近年、遂に全面攻撃を開始していた。
ビビはこれを迎え撃つべく宇宙艦隊を率い、こうして宇宙の彼方で戦っているのである。
だが、その旗色はよくなかった。
古代ミシュガルド文明由来の技術から作られた二―テリア連合宇宙艦隊の宇宙艦艇はどうしても侵略者古代ミシュガルド文明に科学力で劣り、苦しい戦いを強いられている。
今回の戦いも敵に先手を取られ、更にビビ達の攻撃は思う様に効果を上げていない。

「ふっ…まあ、こっちが有利だった戦いなんてろくなもん無かった気がするもんね」

だが、それこそ何百年も苦しい戦いを続けてきたビビには、この程度の苦境はどうという事もない。

「ブシンバスター隊、発艦はじめ!」

後方に待機している宇宙空母から50mの人型兵器、ブシンバスターが次々と発進する。
武器を手に高速で脳みそボスへ肉薄せんとするブシンバスター隊だが、その前方に突然巨大な黒い球体が大量に現れ始めた。

「戦闘型クロボシです!瞬間転移してきました!」
「く!読み違えた!奴等もう瞬間転移できるようになっていたなんて!」

黒い球体、戦闘型クロボシは人の顔の様な模様をその表面に浮かべると、2kmあるその巨体でブシンバスター隊へと次々と喰らいかかってきた。
腕から光線を放って応戦するブシンバスターだが、クロボシは次々と現れ、ブシンバスターは一機、また一機と撃破されていく。
やがてブシンバスター隊の陣形を突破したクロボシがスウィートホーム・サンティへと襲い掛かってきた。

「総員衝撃に備え!」

叫ぶビビの前に、口を開けたクロボシが一気に突っ込んで来る。
その時、何者の一撃がさく裂し、クロボシを真っ二つに切り裂いた。


「ようっ、相変わらずそうだな」


驚愕する彼女の前に、何者かが瞬間移動で現れる。
ブシンバスターに似た外観をしたその巨体は…。

「え!?あんた…ちょ、えええ!?」
「まだまだやんだろ?行こうぜ!!」

何をどうやってそうなって、どうしてそんな姿になってここにいるのか。
そんな疑問を吹き飛ばし、彼はそこに現れた。

「さあ、俺たちの戦いはこれからだ!!」

超巨大な大剣を構え、メゼツは脳みそボスへと突っ込んでいく。
彼らの物語は終わらない。
終わらせまいとする意志がこの世界にあり、戦い続ける人がいる限り、終わらない。
いつまでも、いつまでも!

       

表紙
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Neetsha