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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「暴力のサーカス団殺人事件(解決編)」作:シャーロック・レイト(7/21 22:10)

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 ラプソディのアリバイをソウ・ファが証明し、ソウ・ファをガンダラが庇い、ガンダラをコーン・トンガリが、コーン・トンガリをピザ・ポテコが、ピザ・ポテコを
 暴力のサーカス団。サーカスとはあくまで表の姿。それを隠れみのに裏では違法な格闘技賭博をしていたらしい。天網恢恢疎にして漏らさず。本日17時に団長のスカロプスの死体が発見され、18時には私のところに依頼が舞い込んだ。当然のこと。この難事件を解決できる探偵は、私シャーロック・レイトをおいて他にはいまい。
 19時に現場につくと、私はすぐに暴力のサーカス団の従業員をスカロプスの死体があるサーカスの舞台中央に集めた。
 私は一同を眺めまわして言い放つ。
「ここに集まってもらったのは本件の容疑者です」
「HAHAHA。この中に犯人がいるってのかい」
 逆三角形の鍛え抜かれたこげ茶の体がテカテカとオイルで光っている。容疑者の中でただひとりの成人男性、ラプソディが暑苦しく笑っていた。
 不満、不安、不信。人の容疑者はお互いの顔色を窺いザワついている。
 私は未だに息絶えたまま保存されている亡骸のほうを見やった。
 スカロプス。サーカスのテントのど真ん中であおむけに倒れている。検死の結果、16時から16時半の間に全身を強く打って即死。衣服の乱れはシルクハットが落ちているくらいだ。凶器もみつからない。大の男が無抵抗のままに殺すことができる人間は限られる。女子供、老人にはまず無理だ。
「ラプソディさん、16時から16時半の間何をなさっていましたか?」
 笑うばかりのラプソディを見かねて、女武道家のソウ・ファが助け船を出す。
「アリバイってやつか。それならある。ラプソティはその時間、ずっと私と組手をしていたんだ」
 言うなりソウファはラプソディをかばうように前に出て、私の前に立ちふさがった。
「では共犯の可能性もありますねえ。武道をたしなむソウ・ファさんならば適任だ」
 なじるように問い詰める私に、警備担当秘書のアルマ・フラッシュポイントが拳を振り上げて抗議する。
「スカロプスは死んで当然の野郎だ。スカロプスの罪は裁かれず、それを殺したヤツは裁かれるのか?」
 アルマの悲痛な言葉も私を止めることはできない。私は正しいとか正しくないとかはどうでも良かった。ただ謎が解けさえすればいい。
「アルマさんは警備担当秘書官だ。右利きのスカロプスの必ず右側に立って仕事をする姿からスカロプスの右腕と呼ばれていましたよね。殺せるチャンスはいくらでもあったんじゃないですか?」
 にじり寄って追い詰める私に、ちょっと待ってとフフムという売り子の少女が止めるために言った。
「スカロプスはダイイングメッセージを残していた。見なさい」
 私はあおむけになったスカロプスの死体の左側に書いてあるダイイングメッセージを読んだ。
 全員唖然として間があり、ためらいがちに振り向いてなるべく死体を見ないように文字だけに注目する。
 ひとりを除いて全員がまた驚いて向き直り、一斉にポテコの顔を見た。貧しい身なりの薄着の少女を。ダイイングメセージはアルフベット(アルフヘイムという国で使われている文字)で、ポテコと三文字書かれていたから。
「決まりだね。犯人はポテ……」
 私が言い終わる前に、ポテコの兄のコーン=トンガリがかき消すような大声で訴えた。
「待って。ポテコにはアリバイがあるよ。16時から16時半の間、僕といっしょにロッカールームにいた。ダイイングメッセージはきっと、捜査をかく乱するための真犯人の罠だよ」
「だけど共犯って線もあるね。どの道、子供単独では無理だ。気心の知れた兄妹が力を合わせて……」
 またしても私が言い切る前に、ガンダラが椅子から立ち上がり一喝。
「いいかげんになさい! 16時から団員の休憩室で私はポテコちゃんにお菓子もらっていたわ。確かに16時半ごろに何かが地面を叩くような大きな物音が聞こえて、ポテコちゃんは見に行ってしまったけど2分ぐらいで戻って来たのよ。ポテコちゃんにスカロプスを殺す時間なんてなかったはずよ」
 私の興味はもうポテコからガンダラに移っていた。
 ガンダラの手は細く筋張っていたが、よく見れば手のひらはタコだらけだ。タコの上に新しいタコができて硬質化している。剣を生業にしている者の手だ。どうやら武をたしなむ者はソウ・ファだけではなかったようだ。
「それではガンダラさんはアリバイがありますか?」
「今度は私を疑っているのかい? そうさね。私はSHW戦闘力ランキング6位の実力者。私が一番怪しいかもねえ」
 不敵に笑うガンダラに二人の幼い兄妹が取りすがり、まるでこちらが犯人であるかのように叫んだ。
「おばあちゃんをいじめるな、ヘボ探偵!」
「ちょっと待ってください。わたしはサーカスの司会進行を任せられているので休憩中も一部始終見ていました。ガンダラさんのアリバイはあります」
 バスガイドのような格好をしている天城院るるぶがウグイス嬢のようなよく通る声で参戦する。
 私はるるぶの鼻っ柱を折ってやろうと太ももに右手をはわせた。
「はわわ、やめてください。セクハラですよ」
 私は特異体質だ。性別が不定期に入れ替わる。今は女性のほうだから問題ないと思っていたが、まずいことに性別が入れ替わるときの兆候が出始めていた。
 頭がくらくらする。いそいで私はの太ももに吊ってあった拳銃を見つけ出して引き抜いた。
「この銃を使えば非力なあなたにも人殺しができるね」
 のどぼとけが突き出して、わずかに低くなった声で皮肉る。中性的な顔立ちのせいで誰も私の体が男に変化していることに気づく者はいないようだ。少し観察すれば、肩幅が広がりコートがキツくなっているのに気づくだろうに。
「死因は全身を強く打ってでしたよね? 死体に銃創がないのでは?」
 るるぶのいうことももっともだ。銃創がなければ、今回の事件の凶器は銃ではないことになる。
 死後硬直が解けたせいで、複雑骨折したぼろぼろの死体を動かすのには骨が折れる。私は四苦八苦して、スカロプスの死体を寝返りさせてうつぶせにした。背中には生々しい内出血のあとが散見されたが銃創はない。
 これでるるぶも容疑者からはずれてしまったが、私のバラバラだった着想はひとつの仮説に結び付いた。
「ようやくわかったよ。スカロプスは即死でなかったとしても全身骨折していたので、ダイイングメッセージは残せなかった。スカロプスは左利きではないしね。つまりダイイングメッセージを残したのは被害者ではなく、ポテコさんに濡れ衣を着せようとした真犯人さ。ガンダラさんの話ではポテコさんのアリバイだけでコーン君には触れていなかった。そしてコーン君がポテコさんとロッカールームにいたという証言とつじつまが合わない。ここから導き出される犯人はあなただ」
 私の指さすほうを見て一同は驚きを隠せなかった。
 コーンは腹を決めて話し始めた。
「そうだよ。全部僕がやったんだ。あのスカロプスというやつは毎晩毎晩僕にいやらしいこと強要したんだ。僕は股間のコーンはかじっちゃ駄目だよぉって言ったのにあいつは……。だから空中ブランコ用のやぐらの上から突き落とした。そしてダイイングメッセージを書いて、妹に罪をなすりつけたんだ」
 ある者はあっけにとられ、ある者はあまりに痛ましい独白に胸をつまらせ、ある者は事件が解決して安堵した。
 しかし思わぬところからコーンを擁護する声が聞こえた。濡れ衣を着せられたポテコが兄を庇ったのである。
 これはいったいどういうことだ。なぜ罪をなすりつけられたポテコが兄のコーンを庇っているんだ? そもそもコーンは妹に罪を着せたいなら、妹といっしょにロッカールームにいたと、なぜ嘘の証言をしたのだろう。黙っていた方が都合が良いはずなのに。
 兄妹はお互いをかばい合い自分こそが犯人だと息巻いている。
 私は目をつむり、余計な情報を遮断する。怪しい人物は多かれど、決定的な証拠は見つかっていない。そしてアリバイの崩れたコーンは自分がやったと自白しているが、妹のポテコまで自分がやったと自白している。どちらが嘘を言っているのだろう? もしかしたら……。
 私は目を見開いてスカロプスのほうを見ると、右手人差し指を天高く掲げた。
 一同の視線が私の指先に注がれる。
 ゆっくりと手を降ろしながら私は告げた。
「犯人はいません!」
 誰もみな立ち尽くすばかりで、私の次の言葉を待っているようだ。
「スカロプスは殺人ではなく事故死。空中ブランコ用のやぐらから誤って転落しただけだ。しかし転落した音を聞いて駆けつけた第一発見者のポテコさんは殺人だと勘違いした。スカロプスに兄のコーンがセクハラを受けていたことを妹さんは知っていたのでしょう。兄を救うために自分の名前をダイイングメッセージにしたためた。妹さんは自分が罪を被ろうとしたが、ひとつだけ計算外のことが起こった。妹を犯人だと勘違いしたコーンがポテコの嘘のアリバイを作って辻褄が合わなくなってしまったことだ。兄妹はお互いを犯人だと思い込み庇い合っていた。これがことの真相だ。完全にありえないことを取り除けば、残ったものはいかにありそうにないことでも、事実に間違いない。爺様の名にかけてね」

       

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