Neetel Inside ベータマガジン
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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「海辺のパン太」作:ウッチェロ(4/28 11:40)

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やれやれ。なんでこんなことになってしまったんだろう?

僕は、記憶をひとつひとつたどってみる。冬ごもりからめざめた熊が、自分のテリトリーを確認するようにゆっくりと。
朝起きると、大抵の朝がそうであるように二日酔いではじまったのだが、ベッドから天井のしみをみつめた。
俺はいったいどうしてこんな所にいるんだ。
大交易所。おそろしく退屈な街だ。いったいどんな目的でこれほど退屈な街ができたのか想像もつかない。
僕はこの街で、三人の女の子と寝た。僕はその三人の女の子の顔を思い出そうとしてみたが、
不思議な事に誰一人としてはっきり思い出す事ができなかった。
あらゆるものは通り過ぎる。誰にもそれを捉える事はできない。僕たちはそんな風にして生きている。

僕はうんざりした気分で煙草を一本吸うと、濃い目のコーヒーが飲みたくなった。
かりかりと豆を挽き、湯を沸かしてカップをあたためる。
あいまにベニー・グッドマンのスゥイング・ステーションをかける。
何年も前のバレンタイン・デーに僕のガールフレンドがプレゼントしてくれたレコードだ。
僕と僕のガールフレンドはこのレコードをかけっぱなしにしたまま何度もセックスしたものだ。
そしてコーヒーを飲む。きちんとした淹れ方をすると、コーヒーはすごくおいしい。
生命を与えられたような香ばしいコーヒー。これが僕の人生なのだ。僕の生活。

そういえばしばらく海を見ていないな。
大交易所にだって四季はある。不注意な人々はそれに気がつかないだけだ。
今は春の終わりで、南風に吹かれるには絶好のシーズンだ。
波止場まで行き、いつものボラードに腰を下ろし、タバコを吸う。
それからジェイズバーにピーナッツをかじりに行こう。すばらしい。完璧なプラン。
ぱちん、と僕は指をならした。ぱちん。
まるで春先のアリューザ河みたいに完璧だ。

そしてこれが今の僕。『孤独』という題でエドワード・ホッパーが絵に描きそうな光景だ。
道を横断してる僕に荷馬車が近づいてくると、はねることもなく、ただ乗り越えていった。
ひどく煙草が吸いたかったが、腕はもう動かないようだった。
やれやれ。と僕は思った。やれやれ。

もちろん僕はまだ死んでいない。ただひどく道路におしつけられ。中身が出ているだけだ。
あるいは裁縫の得意な女の子が現れて、僕の事をきちんと縫いあわせてくれるかもしれない。
そしてその女の子とも寝る事になるのかもしれない。

完璧な絶望などといったものは存在しない。完璧な文章が存在しないようにね。

       

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