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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「一流を目指して」作:後藤健二(5/3 15:48)

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一流を目指して







 スーパーハローワーク商業連合国、通称SHW。
 甲皇国、アルフヘイム、SHWという三大国で最も経済的に豊かであり、世界の富の半分を所有すると言われている。
 そんなSHWでは様々な革新的な産業やサービスが生まれている。
 例えば食文化。
 宮廷料理などでしか見られなかったような高級な食材を使った料理や菓子が、貴族などいないSHWでは金さえ出せば誰でも食べられる。SHWの各都市では多くのレストランや菓子店が営業しているのだ。
「一流のパティシエ(菓子職人)になるのが夢なの」
 例えば芸術。
 絵画や音楽もやはり貴族の嗜みでしかなかったが、SHWでは漫画や小説といったより庶民に親しみやすい大衆文化となり、更にはヒットした漫画を作者の断りなく海賊版を発行して売りさばく輩まで現れたりしている。
「ロリも熟女も貧乳も巨乳もBLも百合も古い! 何か目新しいエロジャンルはないものかしら」
 SHWのとある港町のカフェで。
 パティシエのアサモと、エロ同人作家のティア・コミケは、紅茶を飲みながらため息をついていた。
「それにはやっぱり?」
「新大陸・ミシュガルドに行くしかないわ!」
 二人は親友であり、それぞれの分野で一流のパティシエや漫画家を目指して奮闘する若者でもあった。
 二人は新大陸で見聞を広め、より新しい菓子や漫画を生み出そうと考えた。
「時代は新大陸開拓ブームだよ」
 そう言ったのは元甲皇国海軍のペリソン提督だった。
 ミシュガルドへ向かう船旅の途中。
 アサモとティアが乗り合わせたミシュガルド定期便は、何と元提督であるペリソンが船長をしている船だった。
「戦争も終わってしばらく平和が続きそうだ。軍縮も進んでいて、テロ組織エルカイダへ備えるための警備艦以外の軍艦はかなり減らされた。私も肩を叩かれて、こうやって定期便の船長などをしているのさ」
 ペリソンは日焼けした顔をほころばせ、齢六十を超えてなお逞しい上半身を露わにして、他の船員と共に甲板を走り回っている。
 甲皇国は高級軍人=貴族というイメージが強いが、彼は海軍の将官だったが平民出身であり、ちっとも偉ぶるところがない。若くて粗野な船員たちと笑い合いながら、食事も同じものをとり、下っ端の見習い船員とも肩を並べて甲板掃除までする。
 若い船員たちもそんなペリソンを尊敬し、好ましく思っているらしく、この定期便は非常に和やかで、船員の男たちの笑顔に溢れていた。
「ムムム……」
 そんな船員たちの様子を見ていたティアが、眼鏡を煌かせていた。
「どうしたの? ティア」
 不思議そうに声をかけるアサモに、ティアはにやにやとだらしのない笑みを浮かべる。
「閃いたかもしれない……おじ×若い男のBL……これはイケる!?」
「……この健全な光景で、よくまぁそんな邪な考えを思いつくわね」
 そう憎まれ口を叩きつつも、ティアの妄想力には唸らせられるものがある。
 それに少し羨ましい。
 エロ同人作家は、妄想さえあれば食材はなくとも作品が作れる。
 だが、パティシエの自分は…目新しい菓子のアイデアが閃いたとしても、完成させるための食材が必要だ。そして誰も見たことのない菓子を作るなら、食材からして珍しいものを使うのが手っ取り早い。
 新大陸・ミシュガルドならば、目新しい食材となるようなモンスターもいるだろう…。
 ミシュガルドに上陸した二人は、情報収集のために交易所にある三大国合同報告所に訪れた。ここでは、甲皇国、アルフヘイム、SHWそれぞれの冒険者や開拓者たちが見つけた新発見のモンスターや遺跡やアイテムなどが登録、研究されている。新種のモンスターなどであれば危険度など設定され、討伐依頼も出されたりしている。冒険者たちは報酬を目当てに情報を登録しにくるし、討伐依頼をこなしたりしているのだ。
「何か目新しい食材になりそうなモンスターっていないかしら?」
「モンスターを食材に?」
 アルフヘイムの職員が驚いた表情を見せる。
「ああでも、大戦中にドイール・スミスという甲皇軍の兵士がいましたね。彼はモンスターや亜人を討伐して、その皮や牙を使って武具を作成したと言います。発想としてはそのドイールと同じ訳ですか」
「ちなみにそのドイールさんは?」
「大戦中に死にました。精霊戦士に返り討ちにあって」
「……」
「あなたがやろうとしていることは、それと同じく危険なことですよ?」
「承知しています。でも…私、一流のパティシエになるまでSHWには帰らないって決めたんです!」
「決意は固いようだ…であれば、せめて兵士を雇っていってください。若いお嬢さんだけでモンスターを討伐するのは無理でしょうから」
 とはいえ、余りお金もない。
 アサモは、冒険者ギルドで暇をもてあましていたアルフヘイム出身の元兵士という、モブオとモブミという男女二人組の傭兵を雇うことにした。
「いかにもモブ兵士じゃない。心もとないわ…」
 またため息をつくアサモ。
「YOYO! 何をしょげてるんだいおねーさん!」
「ダイジョーブ! 乗ったつもりでいて!大船!」
 モブオとモブミはやけに陽気な二人だった。
 どうも趣味はラップというジャンルの音楽らしい。
 うるさいので軍を解雇されたというのは内緒だ。
「……じゃあ、行くわよ。討伐したいのはこのモンスター、三つ目のヌルヌット」
 合同報告書で手に入れた情報で、ヌルヌットの牙を砕いて粉にすると、まさに電撃的な旨さのスパイスになるという。
「ヌルヌットは放電のような攻撃をしてくるらしいわ。人語も解するというから、結構頭も良いみたい。でも別に倒す必要はないわ。牙が手に入れればいいから」
 かくして、宿でペリソン提督×若い船員たちの乱交BLを描くというティアを残し、アサモとモブオとモブミはヌルヌット討伐のため、大交易所の東にある夜の森に足を踏み入れた。
 すぐ近くに大交易所があるとはいえ、夜の森は危険だ。
 だが、ヌルヌットは夜行性であり、昼間はどこにあるか分からないねぐらに潜んでいるから探しようがない。
「でも夜の森でどうおびき出せばいいものかしら」
「良い手がありますYO!」
「……はい、どんな手でしょう?」
「ラップでおびき出しましょう」
 静かな夜の森である。
 そんなところで大音量で歌でも歌えば、人語を解するヌルヌットなら何事かと思って様子を見にくるのではないかと。
「なんか別のものまでおびき出しちゃいそうだけど、とりあえずやってみましょう!」
 女は度胸だ。
 何でもやってみようというチャレンジャー精神で、アサモはモブオとモブミにラップしてもらうことにした。
「じゃあいきまーす」
「タイトルは…“俺らミシュガルドさ行ぐだ”」

 はぁ~~~~!
 食い物も無ェ 金も無ェ
 精霊もそれほど残って無ェ
 漫画も無ェ 雑誌も無ェ
 禁断魔法で腐った土地で 毎日ぐーるぐる
 朝起ぎで 牛連れで
 二時間ちょっとの散歩道
 電話も無ェ 新聞も無ェ
 アホドラゴンは一日一度来る
 俺らこんなアルフヘイムいやだ 俺らこんなアルフヘイムいやだ
 ミシュガルドへ出るだ ミシュガルドへ出だなら
 銭コァ貯めで ミシュガルドで牛飼うだ

「……アルフヘイムも大変なのね」
「ううっ…泣けるのぉ」
「!?」
 作者の都合か、展開が早い。
 アサモのすぐ近くに、噂のヌルヌットがおびき出されていた。
「ウヌらも大変じゃのぉ」
 人語を解するヌルヌットは案外話の分かるやつだった。
 討伐するまでもなく、アサモがパティシエであると名乗ると、美味い飯を作ってくれるなら協力してやると言われたのである。ヌルヌットは“ごはんをくれる人は大切にする”という信条を持つらしい。
 かくして、ヌルヌットの牙を手に入れたアサモは、交易所に戻り、それを煎じて新作ケーキのスパイスにふりかけた。
「さて、どうかしら…」
 びりり。
 ヌルヌットの放電体質がなせるわざだろうか。
 電撃的な旨さであった。
「これは…イケる!」




 数日後、ティアの新作同人漫画「ペリソンと愉快な仲間たち」
 そしてアサモの「電気ショックケーキ」
 それぞれはヒットし、彼女らはミシュガルドで名を馳せていく。
 だが一流への道は遠い。
 ミシュガルドにはこれからも様々な開拓者が現れ、新たなブームを生んでいく。
 次々と新作が出てこねばすぐに飽きられていくだろう。
 ミシュガルドは新たな開拓者を常に待ち望んでいるのだ…!







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