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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「欲望のままに」作:後藤健二(5/5 17:56)

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欲望のままに








 何ということでしょう。
 あの長い舌、まるで生き物のように蠢くではありませんか。
 ああ、それがハーゴさんの陰茎を飲み込みました。
 ……口淫? 
 そう、あれが口淫フェラチオというのですね。
 うふふ、おかしい。
 ハーゴさんの必死なお顔と言ったら。
 まるで全神経が陰茎に集まったかのようです。
「ラ、ラライラさん……ッ!」
 ハーゴさんが助けを求め、口をぱくぱくさせている。
 感心なこと。
 あれだけ追い詰められても、わたくしが潜んでいる方を見ようとはしない。
 それともその余裕がないだけかしら?



 ミシュガルド大陸、大交易所付近にある広大な草原。
 そこに、男ばかりを狙う新種のローパーがいるという情報が、三大国合同報告所へもたらされていた。
 ローパー…触手と消化器官しか備えていないようなモンスターだ。
 妙なことに、ローパーは女性しか狙わない。
 おっさんの臭いがすると、たちまち逃げていく。
 ローパーの体からは絶えず粘液が滲み出ているが、それが空気とまじわると催淫成分のある蒸気となる。ローパーはそれで近くの女性を痺れて動けなくさせ、“捕食”してしまう。
 とはいえ、本当に食われてしまうわけではない。
 ローパーに捕食されても、一通り“堪能”されると、ペッと吐き出されてしまう。
 実は、ローパーは肉食動物ではなく、植物のようなものらしい。
 欲しいのは興奮した女性から滲み出る汗、涙、膣分泌液…つまり愛液である。
 実際、ローパーは人一人をすっぽりと丸呑みできる口腔を持つが、牙は無く、女性から体液を吸い出した後は吐き出しているのだ。
 だが、そのローパーには様々な亜種が誕生しており…。
 ローペリアという亜種ローパーは、男しか狙わない。
 ということは、欲しいのは精液ザーメンであろう。
 ローペリアの手配書を見た時、オツシアの滅多に開かれない目が見開かれていた。
「───美しい」
 男を誘い出すためであろうか、植物のような普通のローパーと違い、ローペリアはまるで人間の女性のような姿をしていた。
 豊満な胸、腰にはくびれもあって、尻もでかい。
 人間のように頭髪があって目元は隠されているが……その顔が、奇妙にも己に似ているような……オツシアも、普段は頭髪で目元を隠している。
 まるで、己が裸に剥かれて手配されているように、オツシアは感じ…。
 そして、興奮した。
 
 

「しゅるるるる……」
 ハーゴの陰茎をなぶっていたローペリアが舌を離す。
 キョロキョロと周囲を伺う。
 ハーゴに仲間がいないか警戒しているのだ。
(お生憎様ね)
 だが、オツシアはその様子を伺いつつも、決してローペリアから気配を悟られる心配はしていない。
 何せ、オツシアが潜んでいるのは、ローペリアとハーゴがいる位置から1000メートルも離れているのだ。
 セルゲイ・エミールM1890。
 ボルトアクション方式、装弾数は5、口径は7.62mm。
 ロンド・ロンド式スコープを載せている狙撃銃タイプの小銃。
 有効射程距離はおよそ350~500メートルと言われている。
 だが、オツシアの持つそれは、通常1230mmであるものを、全長1890mmにした長大な特別製である。
 射程距離は750~1000メートルにも及ぶ。
 その狙撃銃のスコープ越しに、ハーゴやローペリアを視界に捉えていたのだ。
 ローペリアは普通のローパーとは逆で、女性が近くにいるとその臭いで姿を見せない。
 ならば、童貞ハーゴを餌として単独で向かわせればよいのだ。



「───ええっ、ぼくが囮になるんですか?」
「大丈夫ですよ。わたくしがこの狙撃銃でローペリアを撃ちますから」
「うーん……ビューティー……ぼくはどうしたら……」
 最初は怖気づいて渋っていたハーゴだったが、“ラライラ”の提示した大金に目がくらみそうになっていた。
 オツシアは甲皇国の名門貴族、乙家の係累である。
 それなりの大金を動かすこともできる。
 貴族たるもの、力なき民を護るためにモンスターを討伐、研究もせねばならない。
 それこそが“ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)”である。
 そんな信念に基づきオツシアは動いているが、乙家の名だたる貴族たちは、自ら前線に出ようとするオツシアを快くは思っていない。
 ということで、ラライラと名を偽って一介の冒険者として活動しているのだ。
「その美しい銃」
 オツシアはそっとハーゴに寄り添い、彼の持つ愛銃を撫でまわした。
「ううっ…」
 女性に慣れていないハーゴは、それだけで頭がくらくらしていた。
「メンテナンスにお金がかかるのでしょう?」 
 ハーゴの愛銃ビューティーは、オツシアからすれば、みすぼらしく古臭いリボルバーにしか見えない。
 が、それにこだわっているハーゴの弱みに、オツシアは躊躇なくつけこんだ。
 ローペリアは男を獲物にするというが、特に童貞を好むという。
 このハーゴはうってつけの人材だった。



「おううっ」
 ハーゴが喜悦の雄たけびをあげ、尻をよじった。
 ローペリアの長い舌が、ハーゴの尻の穴にねじりこまれ、前立腺が刺激されている。
 ハーゴの陰茎は露出したままだが、硬く怒張しており、濡れててらてらと光っている。
 目を剥いて、口をぱくぱくと開いている。
 かつてハーゴが味わったことのない快感が押し寄せてきているのが分かる。
「ど、どうして……!?」
 ハーゴは泣きそうになりながら戸惑いの呻きをあげる。
 ハーゴの肉体は、とっくに射精してもおかしくない快楽の極みを、もう何度も超えて、さらなる快感の高みを押し上げられているのである。
「……わたくしは、卑怯者です」
 オツシアは、自嘲すると共に、自慰をしていた。
 右手と肩で構えるセルゲイ・エミールM1890のスコープで、ハーゴとローペリアの様子を覗きながら。
 左手の方は、己の股に手を伸ばし、まさぐっているのだ。
 あさましい姿であった。
 何がノブレス・オブリージュだ。
 ハーゴさんも護るべき民ではないのか?
 なのに、そんな彼を金で釣って囮にしている。
 そして、もっと危険度の高いモンスターはいるというのに、このローペリア討伐に乗り出しているのか?
 それは、わたくしがこのローペリアに魅せられたからだ。
 大義名分を掲げて、実は、己の欲を満たすためにモンスター討伐や研究をやっているのだ。
「ぬわーっ!」
 ハーゴが絶叫する。
 遂に、ハーゴが体内に溜めに溜めた精液を放出していた。
 何という量だろう。
 精液というのは血液が前立腺液と合わさってできたもの、つまり元は血液だ。
 それをあれほどの量を失って、ハーゴは果たして無事なのだろうか。
 滝のように噴出したハーゴの精液を、ローペリアは一滴も余さず口腔で受け止めていた。
「あれと、わたくしと…どう違うのかしらね」
 スコープを覗きながら、ローペリアの表情を見ようとする。
 だが、やはり頭髪に隠れて見えない。
 獲物を得ることができて喜んでいるのかもしれない。
 モンスターだが、人間のような姿をしている。
「……!」
 ローペリアの目元が見えた。
 その顔は……。
 バン。
 オツシアは狙撃銃を放つ。
 ローペリアの頭が弾けて飛んだ。



 ───わたくしが何を見たか、ですって?
 世の中には、知らない方が良いこともあるのよ。



 酒場の上にある宿の寝床。
 燭台がちらちらと明かりを灯している。
 わたくしは寝間着だけとなって、あの子を待ちかねている。
 モンスターを殺した後は、体が疼いてしょうがない。
 あのローペリア…。
 仕留めた時、軽くイってしまいましたわ。
 欲望のままに生き、男の精をあさる、おぞましいモンスターなのに…。
 美しいと、思ってしまった。
 扉が開く。
 おどおどとした足取り。
 うふふ。
 そんなに緊張しなくても良いのよ?
 さぁ、いらっしゃい。
 わたくしは掛布団をあげ、相手を寝床に招き入れる。
 あのローペリアのように。





おわり

       

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