裸の幼女

 荒れた大地に土煙が舞う。
焼けるような日差し。馬に踏み固められた道。むせるような乾燥した空気。
この地に見えるのは赤茶けた地面と、岩山と、サボテンぐらいである。

 そんな広大な不毛の地に、一つの町があった。
木造の建屋を無造作にくっつけたような集合体。
それを町と呼べるかどうかは別として、実際に人々はそこで暮らしていた。

 政府からの発表―――
つまり『国のために未開の地を切り開け。代わりにその場所はお前らの物だ。』
という分かりやすい提案は多くの人々を突き動かした。

 自分達の土地を持つという夢に憧れて、
この地にやってきた人々が土地を耕し、獣を狩り、懸命に作り上げた場所。
開拓地の中で、最も東部にあることからサンダウン(日没)と呼ばれていた。


 大通りに入ると、両脇は雑貨店や仕立て屋、薬屋に鍛冶屋、
色々な店が詰め込まれるように並んでいる。
その一番奥に、この町で最も大きな店――酒場があった。
近づくにつれて、煙草と酒の臭い、
安い香水と火薬の臭いが混じった何とも言えない空気が流れてくる。


「どうしてこう、俺はツいてねぇんだ。」

 酒場のカウンターで空っぽのグラスを恨めしそうに見つめて男は言った。
くたびれたシャツとズボンに、穴の開いたブーツを履いた貧相な男だった。

「だってそうだろう?俺ぁ酒が飲みたいのにアンタが注いでくれねぇんだ。」

 男は鼠のような顔をしかめて酒場のマスターに訴える。

「お前ぇさんが金をもってるんなら喜んで注いでやるんだがな。」

 大柄で筋肉質、アゴ髭を生やした屈強そうな酒場の主人は溜息とともにそう言った。

「なぁ《漁り屋》、いい加減まっとうな仕事をしたらどうだ?
 牧場にでも行って下働きでもさせてもらえよ。」

 漁り屋と呼ばれた男は出っ張った前歯を突き出して、
マスターを馬鹿にするような顔をする。

「冗談じゃねぇや、俺だってなぁ…一応《銃使い》なんだ!
 男だったらコイツで勝負すんのが一番よ!牛のケツなんて追っかけてられるか!」

 そう言って腰から下げたホルスターを叩いた。
だが、そこに収められている拳銃は、
馬に踏まれてひしゃげてしまった使い物にならない代物だった。
漁り屋はとっくの昔にポーカーの負けで銃を巻き上げられているし、
賞金首を追ったり、獣狩りなど銃使いらしい事はまったくしていなかった。

 たまに現れる英雄気取りの若造に取り入って同行しては、
その若造がヘマをやらかして死んでしまった後に持ち物を漁る。
それを売り払って小銭を稼ぐ。だから漁り屋と呼ばれているのだ。

「ちくしょう…俺だってやるときゃあ、やるんだぞ…金さえありゃあよぉ…」

 そんな自堕落な漁り屋を見てマスターが再度、溜息をついてこめかみを押さえた時だった。
外から人の驚きの声が聞こえてきた。そしてそれが連なりどんどん近づいてくる。

「なんだ?なにかあったのか?」

「へっ!賞金首でも捕まったんだろ…どうせなら裸の女でも捕まえてこいってんだ。
 そうすりゃ…へへ…目の保養になるってもんだぜ。」

 漁り屋がくだらない冗談を言ったと同時に、
酒場のスゥイングドアが勢いよく押し開かれた。

――その瞬間、酒場にいた全員の目が入ってきた者に釘付けとなった。

 入ってきたのは幼女だった。
10歳程の可愛らしい子で、金髪のひどい癖毛がバネの様にあちこちに跳ね返っている。
人形のような大きな瞳とは似合わない、するどい目つきで酒場の連中をじろりと見渡す。
だがそれは別に驚く事ではない。牛乳や新聞を届けにお使いの子供だって酒場にくる。
皆が驚いたのは、幼女の格好だった。

 ほぼ、全裸に近かった。
頭には赤茶のカウボーイハットをかぶり、足には同じ色の皮ブーツ。
そしてその染み一つ無いような白い肌には、
胸と股間をぎりぎり隠すような布が紐で結ばれて身についていた。

 その裸身に肩から弾帯代わりにガンベルトを掛けて、
ちょうど胸の前に拳銃のホルスターが下がった状態になっている。
さらに身の丈に合わないレバーアクションライフルを担いでいた。
淫猥と言うよりも、異様だった。

 幼女はブーツを鳴らしながらカウンターに近づき、マスターに言った。

「仕事はないかい?」

 その一言で酒場の連中は一斉に吹き出した。
酒場で仕事を聞くというのは、つまり荒仕事を探しているという意味だ。
歴戦の逞しい戦士が言う様なことを、
小さな幼女が言ったので皆は笑い出してしまったのだ。

 幼女はそれを横目で見て、「チッ」と舌打ちすると、再度聞きなおした。

「仕事をさがしてるんだよ、なるべく稼げるやつがいい。」

「おい…あのな、お嬢ちゃん。ゴッコ遊びは外でやってくれ。
 それとその格好はなんだい、破廉恥すぎやしないか。」

 マスターはなるべく柔らかい物言いで幼女を帰そうとしたが、
幼女はその途端に大人顔負けの速度で拳銃を抜いた。

「黙って仕事を言えばいいんだよ。保安官事務所から何か依頼されてるだろ?
 こっちは嫌な事だらけでムカついてるんだ。」

 マスターは一瞬、目の前の小さな子供に気圧された。
その大きな瞳の奥に、確かな殺気を感じたのだ。
ためらいなく人を撃てる、本物の銃使いの目だった。

「し…仕事なら、そこの掲示板に貼り付けてあるぜ。」

 横で縮こまっていた漁り屋が口を挟んだ。
幼女はじろりと漁り屋を見てから、入り口横の壁に備えられた掲示板に向かう。
木枠で作られた板に、大小さまざまなメモが貼り付けてある。
内容は、人探し、護衛、夜の見回りなど色々あったが、
幼女は爪先立ちになり腕を精一杯のばして、一番上にあったメモを剥がし取った。

「…グール退治か、これでいい。」

 幼女は店内に向かって大声で叫んだ。

「グール退治にいくぞ!誰か手伝う奴はいないか!」

 笑っていた店の連中が一斉に黙った。
それもそのはず、「グール」は並大抵の獣ではない。
成人男性と同じ大きさで、犬のように四足で素早く、皮膚は分厚い。
ぶっとい爪は人間を軽く引き裂き、鋭い牙で骨ごと噛み砕く。
一流の戦士でさえ命を落としかねない相手だった。

「誰もいないのか?!おまえら母親の腹ン中にタマ置いてきちまったのか!!」

 幼女の啖呵にも誰も反応しない。
大人が数人でもってやれるかもしれない、という仕事なのだ。
こんな小さな子供と組むなど自殺に等しいのは明白だった。

「……お…俺が行こうか?」

 言ったのは漁り屋だった。
薄ら笑いを浮かべておずおずと幼女に近づく。

「おい!漁り屋!おめぇ、いくらなんでもこんな子供に…」

 マスターが止めようとした時、それを遮って幼女が言った。

「漁り屋…ふーん……いいね、やろうか。」

 そう言って付いて来いと言わんばかりに酒場から出て行く。
漁り屋はへらへらとニヤけながら幼女の後を追った――。


 二人は雑貨屋と鍛冶屋に寄った後、それぞれ馬に乗り荒野を進んでいた。

「この先にある谷にグールが出るってよ…おっと。」

 幼女は大きな馬の背に両足を広げて跨っているが、
足の長さが足りずに踏ん張りがきかない。
馬が揺れるたびに左右に大きく振られて何度も落ちそうになっていた。
その少し後ろから漁り屋は貧相なロバに乗りながら、
じっと幼女の腰から下がる拳銃を見つめていた。

(ありゃぁ、なかなかのシロモノだ。売ればイイ金になる。)

 酒場で幼女の拳銃を見た時、漁り屋はそれが名品だとすぐに気付いた。
銀色に磨かれた銃身に、錆一つ無い回転弾装。
握りの部分は純白の象牙で造られており、美しい薔薇模様が彫ってあった。

(このガキは失敗する。いや……
 グールを目の前にしたら小便もらして泣き叫んで腰抜かすに違いねぇ。)

 漁り屋は幼女が死ぬと確信していた。
そしてその時が来たら、荷物をかっさらってさっさと逃げてやる――
つまり最初から幼女を見捨てて、荷物を持ち逃げするつもりなのだ。

「…おい、きいてんのか?もうすぐだっていってるんだよ。」

「え!あ…あぁ、きいてますとも!へへ…」

 漁り屋はへらへらと愛想笑いを浮かべて相槌を打つ。

 ――それにしてもなんてぇ格好だ。漁り屋はそう思った。
子供に欲情する趣味は無いつもりだったが、
真っ白な絹のような肌にどうしても目が奪われてしまう。
柔らかそうな小さな尻が、馬が歩くたびにぷるぷると揺れているのを見て、
漁り屋はおもわず生唾をごくりと飲み込んだ。

(…どうせグールに食われて糞になっちまうんだ…それなら…いっそ…)

 漁り屋はロバの速度を上げて幼女に距離を詰める。
もう少しで手が届きそうな所で、幼女が急に振り返った。

「うわっ!」

 漁り屋は驚いてバランスを崩し、ロバからずり落ちた。

「なにやってんだ?着いたぞ。」

 そこは急勾配の崖に挟まれた谷間だった。
幼女は辺りをぐるりと見渡し、一人で納得したように頷いて馬から降りる。
鍛冶屋で調達した鎖の付いた杭とハンマーを荷物から取り出し、
谷の真ん中にある岩に杭を打ちはじめた。

「あー、ぜんぜんささらないなー」

 幼女は猫撫で声を出して漁り屋を見た。

「なにするのかわかんねぇけど、俺がやろうか?」

 幼女の期待のまなざしを受けて、漁り屋は力仕事を買って出た。
ガンガンとハンマーで杭を打ち付けると、少しづつ岩に突き刺さっていく。

「すごーい!力持ちだなぁー!」

 幼女のわざとらしい声援だったが、
普段は女子供から賞賛を浴びることなど無かったので、
漁り屋はだんだんといい気分になって調子があがってきた。
気が付けば汗だくになって杭を根元まで打ち込んでいた。

「はぁ…はぁ……へへ、まぁこんなもんよ」

 漁り屋は息を上がらせて岩にへたり込んだ。

「ありがとー!すっごくたすかったよ!」

 と、幼女が言ったと同時にガチャリという音が漁り屋に聞こえた。
見ると、にっかりと笑みを浮かべた幼女が漁り屋の足首に枷をはめていた。
枷は鉄製で鎖が付いており、それは岩に打ち込んだ杭に繋がっている。

「………は?」

 状況が飲み込めない漁り屋は、間の抜けた声をあげる。
足を引っ張り、枷が抜けず岩から離れられない事を理解すると顔を青くした。

「おい!なにしてんだ!これをはずせ!」

 悲鳴にも似た声をあげて漁り屋は幼女に叫んだ。
だが幼女はライフルを手にして作動確認をしながら言った。

「役割分担」

「は?」

「役割だよ、素早いグールの頭をぶち抜くには、囮(おとり)を用意して、
 それを襲ってるところを遠くから狙撃するのが一番だ」

 幼女は荷物から小ぶりの松明(たいまつ)を取り出して漁り屋の足元に投げた。

「お前が囮で、アタシが撃つ。とっても効率的だろ?」

 そう言ってニコッと笑うと馬とロバを連れて何処かに行ってしまった。

「おい……おい待てよ!冗談だろ、おい!戻って来い!ふざけるな!」

 何を叫んでも幼女は戻ってこない。
谷間に一人残された漁り屋は死に物狂いで枷を外そうと杭を引っ張ったが、
自身で深く打ち込んだ杭は微塵も動かなかった。

 そうこうしている内に日が暮れて、辺りが暗くなる。
漁り屋は急いで松明を拾い上げると、震える手でマッチを擦り火をつけた。

 グールは強い明かりを嫌う。
だから昼間は外に出てこないし、入り口に大きな火を焚いている町にも近づかない。
だが、漁り屋の持つ松明程度では怯まない。
特に目の前に『ごちそう』がある場合ではなおさらだ。

 漁り屋のいる谷間は、月の明かりも崖に阻まれて完全な闇に覆われていた。
松明の明かりが届くわずかな範囲にしか視界が届かない。

「こんなの……ふざけんな……ふざけんなよ……」

 呟くように悪態を吐きながら、せわしなく前後左右を警戒する。
鼓動がドクドクと早鐘を打ち、瞬きをするのも恐ろしかった。

 ふいに、漁り屋の鼻に嫌な臭いが流れた。
生暖かい風に乗って、届いた臭い。
昔、狼に食い散らかされた牛の腐った死骸を見た事があったが、その臭いに似ている。

 じゃり。

 音がした。
漁り屋は息を飲み込んで音のする方に松明を向ける。
闇の中に何かがいる。
それは少しづつ、漁り屋に近づいてきていた。
腐った臭いが濃くなり、やがて松明の明かりがそれをぼんやりと照らし出した。

 谷間に悲鳴がとどろいた。
漁り屋は、まるで暴漢に襲われた乙女のように泣き叫んで岩にしがみつく。

 松明の赤い光に照らし出されたそれは、グールだった。
大の男が四つん這いになったような風貌。
身体のあちこちに縮れた剛毛が生え、皮膚はひび割れて岩肌のようだった。
手足には歪んだ太い指と、それから生えた太い鉤爪。
目は異様に離れていて、鼻は潰れ、
裂けた口から牙の生えそろった歯茎が異様に突出している。

 グールは黄ばんだ牙からどろりとヨダレを垂らして、
真っ直ぐに漁り屋を凝視している。
その目は、肉屋に吊るしてある干し肉を見つめる飢えた乞食の目にとても似ていた。
まさに「ああ、今すぐにでも食らいつきてぇ」という目だった。

「やめろ!くるな!くるんじゃねぇ!」

 漁り屋は松明を突き出して叫んだが、グールは首を揺らしながら、
まるで品定めしているかのように距離を詰めていく。

「たすっ!たすけて!おかあちゃん!」

 漁り屋のズボンに暖かい染みが広がり、
グールが大きく口を開いて飛び掛った時だった――


 鋭い炸裂音。

 次いで闇夜に閃光が走り、グールの側頭部が飛び散った。

「ぎゃああああああ!!」

 頭を吹き飛ばされたグールの死体が倒れ掛かり、漁り屋は悲鳴をあげる。
なんとか巨体を押し退けると、またもやズボンに染みが広がった。

 闇の中からグールが2体、ぬぅっと姿を見せていたのだ。

 グールのかぎ爪が漁り屋の足を引っ掴む。
知能が低いのか、殺された仲間など気にもせずに、漁り屋を食らおうとしている。
足を引きちぎろうと腕を振り上げた瞬間、
またもや炸裂音が響き、グールの手が吹き飛んだ。
ぶっといかぎ爪がバラバラに飛び散り、咽を潰した牛のような悲鳴をあげる。

 間髪居れずに炸裂音が轟き、グールの頭頂部が花火のように弾け飛んだ。
岩のような巨体が、糸の切れた人形のように倒れこむ。


「感覚は鈍ってないな…」

 谷の上でライフルの銃口から細い煙が立ち昇る。
幼女は膝をついて銃のレバーを勢いよく押し下げる。
空になった薬莢が飛び出し、レバーを引きあげると次弾が装填された。

 仲間を二匹やられてさすがに感づいたのか、
グールは漁り屋からじりじりと距離を置いて、くるりと背を向けた。

「おっと、逃がすかよ」

 幼女の恐ろしい目がギリギリと標的に的を絞り、
銃口がまるで顕微鏡のような精密さでグールを捉えた。

 引き金を静かに引くと、火薬の炸裂音と閃光が放たれる。
鉛玉が唸りをあげて飛び、逃げるグールの後頭部に直撃した―――。




「おい、いつまで丸虫みたいにまるまってんだ」

 うずくまった背中をブーツで蹴られて漁り屋は飛び起きた。

「あっ…!?てっ、てめぇ!!よくも……」

 拳を振り上げる漁り屋の足元に枷の鍵が投げられた。
漁り屋は飛びつくようにそれを拾うと焦って足枷を外す。

「ほら、次はこれだ」

 幼女はそう言って鉈を投げよこした。

「な…なんだよ?!これでどうしろって……」

「切り落とすんだよ、グールの頭を。
 頭を持っていかないとゴネられて賞金をもらえないからな」

 幼女は吊るし縄などを手際よく用意し始める。

「なにしてる?はやくやれよ」

「い…いやだよ俺…そんな…きもちわるい……」

 鉈を抱えて震える漁り屋に、幼女は拳銃を突きつけた。
銀色に光る銃口が、ぴたりと漁り屋の眉間に向けられている。

「…おまえが不運な事に《流れ弾に当たって》死んだとなれば、
 賞金はアタシ一人の物だなぁ?そうだろぉ?」

 そう言って幼女はにやりと恐ろしげに微笑んだ。

「やるよ!まて!やるから撃つな!」

 漁り屋は鞭を打たれた馬車馬のように跳ね上がると、
すぐさまグールの死体に駆け寄り鉈を振り上げた。



 返り血でぐちゃぐちゃになった漁り屋は、
幼女の乗ってきた馬に跨りてろてろと進んでいた。
その馬の脇にはキツイ腐敗臭を放つグールの頭が三つ括り付けられている。

 その前には漁り屋のロバに乗った幼女がご機嫌な様子で鼻歌を歌っていた。

「うん、この身体だとロバの方が乗りやすいなぁ……
 おい、お前のロバとアタシの馬、交換しようぜ?いいだろ?」

「あぁ…いいよ、もうなんでもいいからはやく帰りてぇよぉ…」

 そう言ってげっそりとした漁り屋と満足そうな幼女は町へと帰還した――。



 酒場では二人が帰ってきて大騒ぎになった。

「どういうこったこりゃあ?!」
「漁り屋ができるわけがねぇ……となると…」
「あの、ちっこいのが撃ち殺したってのか?!」

 酒場の前に置かれたグールの頭三つを見て、誰もが信じられないといった顔だった。
一匹でも相当に厄介なのが同時に三つとなると、神業ともいえる銃の腕が必要なのだ。

「まさか本当にやるとは……おい、漁り屋。
 こりゃあ本当にあの子がやったのか?」

 マスターの問いかけに酒場の入口でぐったりと座り込んでいる漁り屋は、
疲れ切った顔をあげて、うんざりした様子で答えた。

「ああそうだよ…あのクソガキが俺の事を餌にして、
 全部狙い撃ちしやがったんだ…もう少しで…もう少しで死ぬとこだったんだぞ!」

 マスターは信じられないと言った顔で店内のカウンターを見る。
そこでは小さな身体をちょこんと椅子に乗っけて、
受け取った賞金を数えている幼女の姿があった。

「まぁ、こんなもんか」

 幼女は椅子から飛び降りると、金の入った皮袋を抱えて出てきた。
そして少し小さめの皮袋を漁り屋へ投げ渡した。

「いてっ……なっ、なんだよ」

 頭に当たった袋を拾い上げる漁り屋。
その中身を見て驚きの声をあげる。

「こっ、こっ、こりゃあ……」

「お前の取り分だよ、組んで仕留めたんだから正統な報酬だよ」

 そこには『漁り』で稼ぐ何倍もの金が入っていた。
きらきらに光る金貨を一枚、震える指で取り出すと、
漁り屋はまるで宝物を見る子供のように目を輝かせた。

 その後ろから幼女が漁り屋の耳元にぐいっと顔を寄せて呟く。

「またグール退治のときは《よろしく》なぁ」

 それを聞いた漁り屋は顔を青くすると、
金の入った袋を抱えて悲鳴を上げながら逃げてしまった。

「どうしたんだあいつ……まぁいいか。
 それよりも、お前さんは一体何者なんだ…?」

 マスターの問いに幼女は仏頂面でそっぽを向いた。

「なんだっていいさ、そんな事は今重要じゃない。
 それよりもマスター……」

 幼女は金貨を一枚、マスターに指で弾き渡すと、
ぎらぎらとした鋭い目つきでこう言った。



「このへんで《悪魔》の話を聞いた事はないか?」