広大な眺めに目を見張る。
果てしなく打ち寄せる波。

目を閉じ息を吸い込む。
不思議だ。心が安らぐ。
ゆっくりと目を開く。

それは
海に思える。

砂浜に腰を降ろし履物を脱ぐと締め付けられていた
足にじわじわと血が巡る。
開放された足がほっと息をする。

寄せて来た波に足を浸けると
いろいろなものが洗い流される。
旅の疲れ。路銀の心配。どこへ向おうという漠然とした不安。

もう一度、息を吸い込むと生まれ育った
郷の川の匂いがした。
深い緑に覆われた山の中の
郷の匂いがした。

目の前には霞むように島々が浮かぶ。
そのはるか先には岸があり山々が薄墨のように広がる。

故郷のように心地良く。
見慣れぬ景色がどこまでも拡がる。
ぽつんと、旅の途中であることを知る。

これが、淡海なのだ。

寄せてきた波に袴が濡れて
あわてて立ち上がる。
あははと大声で笑うと
履物も履かず波と戯れ歩き始めた。