日の沈む頃になったが宿場には辿りつけ無かった。遊びが過ぎたのだ。
見晴らしがいい。水辺のはるか彼方に灯りが見える。あの小さな光は人が寄り集まり街を構成している。飯があり、酒があり、宿がある。
宿では布団で眠れる。もしかしたら風呂が沸いているかもしれない。
急ぐ訳でもない。と辺りに座ろうとすると水辺の方から
「もうし。」と呼ぶ女の細い声が聴こえる。
突然のことに「わっ。」と飛び退く。
声の主は切れ長な目の娘だった。
娘は音も無く近寄ると手を取り、倒れた男を引き起こした。
こんな夜更けに娘がひとりとは妙なことだと思い尋ねると娘は言った。
連れとはぐれて困っている。家に帰りたい。
家はどこだと聞くと何も言わず。淡海の方を指差す。
不審に思い娘の方を振り向くとそこに娘は居なかった。
「もうし。」と声のするほうに目をやると
どこにあったのか。小舟に娘が乗っている。
こんな夜更けに舟などよせと言うが娘を乗せた舟はゆらゆらと沖のほう
へと出ていく。
しかたが無いと小舟に駆け寄り乗り込むと櫓を手に漕ぎ始めた。
水面を娘の指すほうへ進んで行くと
「ここで。」と娘は手を上げた。
辺りは静まり返り波ひとつ無い。
娘は髪をほどき帯を解き衣服を脱ぎ去った。
月の光の中白い肌がぼうと浮かび上がる。
娘は男に覆いかぶさると衿から手を差し込み胸を撫でる。
胸元がはだけ男の身体を這うように女の手が袴のひもに伸び、躊躇い
無く解かれる。
女のねっとりした唇が胸に触れぬめぬめと舐めまわす。
情の濃い女に出会ってしまったのだと男は身を任せることにした。
酔ったような目でからだじゅうを舐めまわし、身を擦りつける。
いつの間にか解かれてしまった下帯が情けなく船底に落ちている。
身を起こし、女を組み伏せると口を合せる。
薄く開いた女の目に微かに涙が浮かんでいる。