Neetel Inside ニートノベル
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(三)

 その後、警備員の詰所に連れていかれたが、尋問は最低限だった。あからさまな犯罪行為を働いたわけでもないのだし、警備員も面倒を抱えたくなかったらしい。とはいえ、しばらく学校に近づくなと釘を刺されたために一時の撤退を余儀なくされた。
 捜索は一旦中止。僕は自宅の居間で椅子に座り、天井を眺めていた。
 フウリの姿をした女の子に、他人だと突っぱねられたのはショックが大きい。一方で、八方ふさがりだった状況に光明が見えたのも事実だ。
 落ち込むのもそこそこに、スマホの地図アプリを開く。ビップラ学園を調べると、僕が捕まった正門以外にも入れる場所はあった。反対側の裏門は当然として、業者が出入りする通用口も候補だ。写真を見るにフェンスも超えられるだろうから、顔が割れていることを考えるとそちらのほうがいいかもしれない。
 目的地なく街を徘徊するよりも、学校への侵入経路を探すのは張り合いがあった。スパイ映画さながらだ。しかし冷静になると、警備をかいくぐったとしても本人に拒絶されているのではどうしようもない。
 液晶を指で叩きながら策を案じていると、点けっぱなしにしていたテレビニュースが耳に入った。思索の最中でも意識に届いたのは、キャスターが伝える言葉のなかに、身近な単語が混じっていたからだ。
『――ゴチャン県ブンゲイ市ニイトシャの廃倉庫で男性の遺体が見つかりました。身元確認の結果、遺体は行方不明になっていた上村正史さんと判明。正史さんはビップラ学園に通う二年生で、発見現場から五キロ離れたワロスで独り暮らしをしていました――』
 僕はスマホを取り落とした。それを拾うこともできず、テレビに映される被害者男性の顔写真を見つめる。
 あどけなさのある、一見普通の男だ。しいて特徴と挙げるとすれば、額の中央に痛ましく刻まれた傷跡。その一筋を起点にして、彼の目つき、口元、耳の形、すべてが既視感に満たされた。
「ああ、ああ……」
 僕は白痴のように口をひらき、テレビを指さした。
『――ゴチャン県警は殺人とみて捜査を――』
 全身が大きく震えはじめる。非道な犯人に殺されたという男に、僕は特異な容姿を重ねることができる。毒々しい紫色の肌、額に生える二本の角。
「こいつは、ィユニュルだ」
 どうして……。こぼした疑問が虚空に吸い込まれる。
 この手で殺したはずのィユニュルが、上村正史という殺人被害者として報道されている。
「何かの間違いだろ、そうに決まってる。僕が殺したのはィユニュルだ、人類の敵だ。ヒトじゃない」
 言い聞かせながら、頭を抱える。
 様々な情報が浮かびあがり、バラバラの点が線として繋がれていく。
 いなくなったフウリのこと。そして、ビップラ学園にいたフウリそっくりな女生徒。彼女の態度が意味するところを想像し、凄惨な帰結をもたらそうとしていた。
「いいや、まずは、確かめるんだ」
 テレビの電源を切り、纏わりつく悪寒を追い払うように立ち上がった。

       

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