Neetel Inside 文芸新都
表紙

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月を、見つめてた。
いえ月が、見つめてた。
どうせ無くなってしまうならと、朧月夜に飛び出した。
覚えていますか?メッセージ。
私はなぜ、ここにいるかはわからないけれど。
From the moon, to the earth.
私は今、月にいます。


「月にはウサギが住んでいるんだって・・・」
何べんも聞いた、悲しいくらいのおとぎ話。
子供心に信じてた、うち砕かれた理科の授業。
「月は岩だらけ、水も空気もなく死の大地」
あぁ理科の先生、子供の夢を、どうかどうか砕かないで。

聞いて、聞いて。
私は今、月にいます。
宇宙飛行士になったんじゃない、月面着陸は夢のうちに。
静かの海のただ中に、死んだときと同じ格好で眠ってました。
静かの海には水が満ち、見えないはずの月の雲が、はっきり見えたのを覚えています。

私はかぐや姫?
月の従者は侍らねど。
気がつけば私の周りには、おどおどしたウサギが跳ねてます。
見渡せば一面すすき野。
けれど色のない、死んだ世界Monochrome Heavenry。

私は死んでしまったのですか?
今でもこんなにはっきりと、あなたの声が聞こえるのに。
誰か、誰か、教えてください。
今や私の目には、白いすすきと白黒のウサギ、そして赤いウサギの瞳しか、写りこんではくれないのです。

日に日に月になじんでく様に。
ウサギたちも私に馴れ、私もウサギの顔を覚えました。
月の風は静かにそよぎます。
私はさみしくありません、ただただあなたがいないのが悔しくて。

ふとたどり着いた、月の小川のせせらぎのほとり。
風に揺れる、彼岸花。
白くても、彼岸の彼方のあなたの顔を、思い出すには十分で。
ふと水面に写った顔、髪は白く、目は赤く。
まるで、ウサギの精みたい。

日に日に月になじんでいきます。
ウサギの数が、多くなった気がします。
すすきの根をかじり、月の小川の水を飲むたび、けれど浮かぶはあなたの笑顔。
まだ月の人には・・・。

久しぶりに、地球が出ました。
あなたたちが、月が出ると言うように、月の空には地球が出るのです。
それはそれは、青い星。
けれど今の私には、その色の意味もありません。

帰れない、帰れない・・・。
永久に会うことはないでしょう、まん丸に満ちた地球を見ながら。
数万キロ、真空に隔たれた、悲しい哀しい恋物語。

さみしくさえ、なくなりました。
だって私には、ウサギたちがこんなにもいるから。
私の顔を見て、つまらなさそうだとおどけてみせたり、悲しいときには心配そうに、じっと私を見つめたり。

もうわたし、かなしくないよ。

けれど一つ、心配事があるのです。
空に浮かぶ地球の青が、少しずつ消えている気がします。
それにあわせてウサギも増えていると思うのは、月の姫の思い過ごしかしら?

       

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