Neetel Inside 文芸新都
表紙

Mito usausa
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窓から窓へ、キミに届きますよ~ぉにっ!
精一杯の電波をこめて送信した、ぼくのエトワアル。
だけど届きっこない・・・だってキミは。
・・・・・・今や、星の向こうの人。

「Told me,angel・・・」

その言葉はきっと遠すぎた。
朝起きて、さわやかな風と共に外に出ると、だってキミはいつもぼくの隣にいたから。
幼いころから、さくらんぼ。
でも今キミは・・・遥か、彼方?

(She was dead, 10 monthes ago・・・)

そうだった。
でもぼくは信じてる。
だって今もキミは、ボクの耳に言葉を残し、脳裏にその思想趣味プロファイル全部焼きつけて・・・・・・・。

・・・・・・あぁ、そうだったね。
ボクもそろそろ、逝かなきゃ。
さよなら、みんな。
そういってぼくはきっと、旅立ったのです。
遠い空の雲の間に間に。

(Run away,Run away,Run away,Run Far away・・・・・・)

だってキミはいつだって反則ばかり。
ぼくと約束してた遠足の日だって、一人で先に集合場所に行ってしまって。
お休みの日に遊ぼうって言ったのに、キミは抜け駆けで女の子たちと遊んでた。
勉強会の時だってそうだ!だってキミは・・・・・・。

・・・・・・でもその後キミは、取り残されたぼくを見かけては声をかけて、手を取っていつもの公園に駆けてったね。
いつも街灯つきっぱなし、鉱石ラジオがキラ星の如く流れるときに。
そしてきみとぼくは、こっそりとキスなんてしてしまったりしたんだ・・・・・・。

そんな街頭の鉱石ラジオも壊れっぱなし。
キミが壊れるたび直してたなんて、聞いたことも無かったよ。
その周波数はいつも月の裏側に。
ぼくへの、何がしかの言葉だったと知ったのは、彼女の小さな小箱の中から。

・・・遅すぎた。
ぼくは冷たい彼女の開かない瞳を見つめて、思わず駆けだしたんだった。
チャリンコ、タイヤからは空気の抜けかけのそれを走らせて。
全力で。ガキのころのように、心臓がブッ壊れてしまうかと思うくらいにシャカリキに。
そしてたどり着いた街頭の下、すっかり紅葉の公園。
鉱石ラジオは聞こえない。

聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。



・・・・・・聞こえた。

「クレイ、クレイ、聞こえるかしら?
 あなたにはわたしは見えなくなったけど。
 わたしからはあなたがとっても良く見えて。
 わたしはきっと、月の裏にいるよ。
 月の裏、ウサギたちの支配するあの暗黒空間だけど。

 小さなころ、お話したかしら?
 昔この世界にはヒトとウサギしかいなくって、ヒトはいつもウサギをいじめてた。
 だからウサギたちはその立派な足で、月まで一気に飛んでった。
 青の光で月を焼き払い、こっそり裏側にウサギの楽園を作ったのよ?だから月は赤くて黄色くて時々蒼いのよ?
 ・・・知ってたら、ごめんなさい。


 クレイ?クレイ?
 きっとこれが聞こえると言うことは、

 わたしはきっと、月のお姫様で。
 だってその壊れた鉱石ラジオが、マトモな放送を受信するはずが無いじゃない!!」

それはお姫様からのSOS。
それが本当だとしたら、ぼくは急いで走っていかなきゃいけないよ。
なぜかぼくは、メルシィと二人で食べたアップルパイのことを思い出しながら、急いで駆けだしたんだったね。

月にとらわれのお姫様。
それが本当だとしたら、ぼくは死んででも彼女を助けに行かなければならない!!!!

























「・・・あぁ、本好きで有名なクレイ君が・・・」
刑事はその屍を前に悲しそうにつぶやく。
「でもきっと、幸せだったんだろうなぁ。だって・・・・・・愛してたメルシィちゃんのところに逝ったのだから」
その刑事は、悔しそうに月を見た。

なぁなんだって、あの月は死んでまで俺たちを狂わせるんだい。
あの『黒い悪魔』、あるいは『怒りの日』が、とっくにさかさまの黒い十字架で葬ったんじゃなかったのかい?

     

昔々、あるところに男がいました。
男はウサギ狩りで生計を立てていましたが、貧しくて、更に王国のヒトたちの伐採で森が死んでゆき、ますますウサギは取れなくなりました。
困り果てた男はさてどうしようと思案の結果、今まで殺してきたウサギたちを助けて、牧場のようなものを作って買うことにしたのです。
男には土地を買う金もありませんが、山の裏の大地主のじいさんを自慢のライフル銃で撃ち殺して奪い取りました。
「ウサギよりも楽じゃねえか」
男はじいさんを殺したとき、にやりと笑いました。

今まで必死にウサギを撃ち殺してヒトに売っていたのを、その瞬間男の脳は逆転してしまい、撃ち殺したじいさんの死体を男は斬り刻んでウサギにやることにしました。
「なるほど・・・コレなら今までの俺の贖罪にもなるだろうか?」

・・・贖罪とは罪深い言葉!!

それから男は夜な夜な街に降り、罪無き人を男も女も、年も関係無く撃ち殺しつづけました。
その死体はまたたくまにつみあがり、男は台車に死体を積み込むと、翌日は大きな鍋で煮込んでほろほろにやらかくなったころウサギたちに与えたのです。
そのうちに、男の頭にはウサギの耳が生え、ウサギの言葉が聞こえるようになりました。

ウサギたちはいつも喜んでいました。
「お兄さんはいつも僕たちを殺していたけれど、気がつけば僕たちを生かしてくれている。ありがとう、ありがとう」
男は感激して、言いました。
「あぁ、俺はお前たちをもっと喜ばせたいんだ。どうすればいい?」

その日はとっても明るく蒼く、月が照らしておりました。

「・・・あなたの肉が、欲しい」

男は自ら、あの大きな鍋に飛び込んでしまいました。

     

昔々、ある砂漠に、一人の男が立っていました。
彼は立派な騎士の衣装に身を包み、ドラゴンと呼ばれる長い長いマスケット銃を持っていました。
傍らにはちいさなウサギ。

そんな滑稽な彼を、村のみんなは笑うのでした。
「今日び、そんな敵なんか現れるわけないじゃないか!!」
でも滑稽な騎士は、そんな彼らの言葉に耳も貸さず、昼夜を問わず一年中立ち尽くしていました。
時々、ウサギが食べ物を持ってきてくれます。
その、粗末な食べ物を口にするとき以外は、口を固く一文字に結んで、砂漠の遥か遥か向こうをじっとにらんでいました。

幾年も月日は流れました。
騎士のあごには白いひげが生え、身体はやせ衰え、あのきらめくような騎士装束はすっかり色あせてしまいました。
あのドラゴンも、すっかりさびついて。
変わらないのは、あのちいさな小ウサギくらい。
・・・もうひとつ、村人たちの罵声。

「敵」は、来ませんでした。
老騎士は良い笑い物!
ですが彼はそれを正義と信じて立ちつづけました。
さすがに、年老いてなお防人を続ける老騎士に、いくばくかのヒトは敬意を表しました。
けれど口には出しません。
老騎士の耳には、相変わらず罵声と、時々ウサギの小さな泣き声が響くだけ。

・・・彼は何を信じて、立ちつづけたのだろう。
こんな無意味なこと、普通の人間ならばあっというまに頭がおかしくなってしまうでしょうに。

そんな屈強な老騎士にも、最期の時は近づきます。
あの小さなウサギが、突然砂漠に倒れた老騎士に駆け寄ります。
老紳士はやっとマスケットを杖にして立ちあがります。
「心配してくれるな・・・私も騎士だ、最後くらいは自分でどうにかする」
小さなウサギの頭をやさしく撫でる騎士。
ウサギの目には、浮かぶはず無い涙がいっぱい、いっぱい浮かんでいました。

けれど村人たちはいつも通り。
「やーい、やーい、バカ騎士やーい!!」
子供たちがはやし立てていた、そのとき。
一発の光の矢が、子供たちに飛んでいきます。
おびえて立ちすくむ子供たちをかばったのは、ほかならぬあの老騎士。
助かった安堵感と恐怖で泣きだす子供たちをウサギになだめさせると、老騎士は銃を構えます。

「・・・カッコいい・・・・・・」

子供たちが目の当たりにしたのは、今までバカにしていた滑稽な竜騎士の、真剣で神々しいまでの姿。
必死に銃を構え、まっすぐに射撃する。
その弾丸は一直線に、見たこと無い鋼鉄の獣の身体を撃ち砕きます。
「逃げろ!ここは私が食い止める」
騎士はしゃがれた声で、子供たちに言いました。
子供たちは素直に逃げました。
「さて・・・ようやく!」
それは、まるでさびついていたような騎士が一気に生き返ったように。
男は嬉々として長い長い銃を構えます。
敵は大勢。こちらはあの滑稽な老騎士とちいさなウサギ。
どう見ても勝ち目は無いのに。


・・・何日も過ぎた。
砂漠を歩く、あの村のヒトたち。
彼らはみな、泣きながら。
あの小さなウサギもぴょんぴょんと。
なぜ泣いている?それは彼が亡くなってしまったから。
けれどウサギは知ってたよ?

彼が、最大の幸福と共に死んでいったことを。
騎士にとっての幸せは、守るべきものを守ること、なのではないか・・・そう思わずには、いられない。

     

なぁジョニィ、ちょっと聞いてくれよ。
俺が少し前に聞いた話なんだけどよぉ・・・・・・。

昔々テキサスの辺りに、ちょいと鳴らしたカウボーイがいたのさ。
荒くれものでお調子もので、腕っ節も強かった。
いつも得意げに、愛車の69年式マスタングを乗りまわしてた。

その日カウボーイは、自慢の愛車で行きつけのバーに行った。
顔馴染みのマスターに、言いなれた口調で、
「ヘイマスター!いつもの頼む」
と大声で叫んだ。
マスターが出したのは飛びっきり強いテキーラ。ほら、男は酒に強いほどカッコ良いって言うじゃねえか?
でもよぉ。
男の一番の価値ってのは、酒じゃなければ腕っ節でもねえ。

ふとカウボーイは、ステージの上の女に目をつけた。
見なれない、べっぴんのバニーガール。
するとそいつぁ頼んだテキーラそっちのけで早速口説きにかかった。
バニーちゃんもまんざらじゃあなさそうにステージから降りて、二人カウンターに並んでそろってテキーラをあおった。
その後はご自慢のマスタングで・・・決まってるだろ?

さぁそのマッチョなカウボーイがビビったのはその後さ。
ヤることヤって、テキーラが回って眠っちまったそいつがベッドから起きあがって目にしたのは、なんと8人もの赤ん坊だったってのさ!
「おいおい!いくら性欲繁殖力旺盛なバニーだからってこいつぁねぇだろ!!?」

わかるか?ジョニィ。
つまりこの哀れなカウボーイはみごと女とハメまくったが、翌朝まんまと罠にはめられたって事さ。
さすがにその荒くれものも、すっかりおとなしくなっちまったってね。


どうだったい?ジョニィ。
・・・え?面白くもなんとも無いだって?せっかくヒトが話してやりゃあ・・・・・・。
ん?テキサスにウサギなんているのかって?俺が知るか!!

     

ガラスのウサギを砕いて出てったキミ。
ぼくはキミの面影集めるように、そのかけらを集めて取っといた。
女々しいとか、未練がましいと笑わないで。

ぼくとキミが出会ったのは、一風変わったアンティークショップ。
キミの見とれたウサギのガラス細工にぼくが手をかけた瞬間から、この恋は始まった。
それからぼくたちはちょっと照れ臭く、手をつないで歩いたね。
一体どれくらい経ったんだろう・・・。

けれど晴天の霹靂。
気がつけば、手をつなぐこともなくなって。
そして先週の土曜日、キミは耐えきれず出ていった。
でもぼくは、それが無性に悲しくて。
今でも砕けたウサギを手に、じっと立ちつくしたまんま。

このままではいけないと、足が向いたのは人里はなれた山の中。
ガラス工芸のお爺さんと、あのガラス細工の面影のウサギ。
ぼくは泣きながらウサギのかけらを見せた、お爺さんは悲しそうに頷いてくれた。
そしてぼくは思い切って。
「このウサギを、直したいんです」

大学もほっぽり出して、こもる山中、ガラスの日々に。
お爺さんと二人炎に向かう、あっという間に溶けた中から姿表す、透明なウサギの神秘。
聞けばお爺さんはウサギしかつくらないんだって。
いまさらキミに言っても仕方ないかもしれないけど・・・。

やがてぼくにもその赤い液体を操る術が見えてきた。
初めて丸い風鈴をつくったとき、お爺さんは不器用にぼくの頭をなでながらぶっきらぼうに喜んだ。
心なしか、ウサギもうれしそうだった。

山に雪がちらつくころ、ぼくの作るウサギも様になってきて、ぼくは思い切って切り出した。
「この砕けたウサギはぼくとあの人のものです。ぼくは、このウサギを直したい」
お爺さんは黙ってかまどを貸してくれた、ぼくは喜び勇んでそのかけらをゆっくり融かした。
見守るウサギ、お爺さん。
形になったウサギは、ちょっと不格好だったけど。

ようやく降りた、やさしい山を。
戻るのはちょっぴり不安だったけれど、学校のみんなは変わらず迎えてくれた。
あっという間に元に戻った気がする、後は貴方だけなのです。

この不格好なウサギを抱え、去ってしまったキミの家に向かう。
今更過ぎた話かもしれない。
ぼくの顔みて。キミはなんと言うだろう?
そして砕けてしまったウサギをみて、貴方はなんと言ってくれるだろう・・・。
ちょっと、不格好になっちゃったけれど。

ぼくは貴方の家に向かう。
砕けてしまった絆を、そして失った時を取り戻すために。
それは叶わないかもしれないけれど。
それでもいい、ぼくはキミの家に向かうんだ。

     

昔々の、出来事です。
ある帝国が、世界侵略の野望を胸に、世界相手に戦争を起こしました。
これは、その帝国の、暗い闇の物語。

帝国は周辺の国々を支配しようと兵士を送り込み、様々な武器で人々を殺し、略奪しました。
その中に一風変わった武器がありました。それは缶に詰められた毒ガス。
ひとたびそれが外に漏れ出せば、人々はもがき苦しみ死んでしまうのでした。

その死の缶は、帝国のとある島で作られました。
国から技術者を集めて、「だれにも口外してはならぬ」と島に閉じ込められながら。
毒ガス作りは危険でした。何しろガスですから、いつも漏れ出す恐れがあります。けれど、味もにおいも
色もないのですから、気付かない間に死神は充満してしまいます。
遥か彼方で、他の国の人々を苦しめたのと同じ死神が・・・。
そこで彼らは、おとなしくか弱いウサギを見張りがわりに飼うことにしました。
人よりも弱いですから、ガスが漏れれば真っ先に死んで教えてくれるのでした。かつての炭鉱のカナリヤとおなじです。
点々と一定間隔で、籠に飼われる愛らしいウサギ。

彼らは、いつ死ぬとも知れない仕事場で唯一の友達になりました。
愛らしくおとなしい、その姿がいじらしく、毒ガス作りの作業員たちはウサギを眺めては平和だったあのころを少し思い出したりしました。

毒ガスが漏れてウサギが死んでしまった時には皆悲しみ、仕事が終わった真夜中にこっそり葬式を挙げたりしました。
そのうちに、人々はガスが漏れそうになると、何よりもウサギの籠を抱えて逃げ出すようになりました。
ウサギは人間よりも弱いから、死んでしまうことも多かったのですが、それでもあきらめず、人々はウサギを抱えて逃げるのでした。

・・・月日は流れて。
あの長い長い残酷な戦争も、ようやく終わろうとしていました。
連戦連勝を謳う帝国は、とっくにズタボロになっていました。
そんなことは、毒ガス工場の人々にはわかりきったことでした。・・・こんなことをやっているのだから戦争に勝てっこないと。

この島は、秘密兵器である毒ガス作りのために地図からも抹消された秘密の場所でした。
あんなにも人を長く苦しめ死に至らしめる残酷な毒ガス作りなど、ばれてはなりません。
人々は証拠を隠滅し、島を去ることにしました。

施設を破壊し、毒ガスの痕跡を可能な限り消し去って、さて逃げよう、となったとき、人々が気にかけたのは大勢のウサギたちでした。
できれば助けたい、でも船にこんな多くのウサギは乗せられません。
・・・誰ともなく、声が響きました。
「みんな、ウサギの籠を開けるんだ」

・・・何十年も経ったある日。
再調査に来た人々を迎えたのは、幸せそうに暮らす大勢のウサギでした。
あの時放ったウサギたちは、この島でいっぱいに増えていました。
調査団の一人が、おもわず漏らしました。

「これじゃあ毒ガスの島じゃなくて・・・まるでウサギ島だ」


※この話はでたらめなつくり話ですが、ウサギ島といわれる場所は本当にあります。
広島県にある大久野島。一度地図から消された毒ガス製造プラント、そして今はウサギの「楽園」・・・といっても、毒ガスの成分であるヒ素が残留していて、このせいでガンに苦しむウサギも少なくないのですが。
本当にカナリヤがわりに連れられたウサギたちは、どれだけ哀しいことを目の辺りにしたのでしょう。
想像するだけで胸が詰まります。かつてそんなことがあったのだと、知っておかなければならないと。

     

昔々、バラの花で知られた国がありました。
その国は町という町、畑という畑、山という山すべてがバラに覆われていました。
バラの香りに包まれた美しい国だと、だれもが誉め称えておりました。

バラの国の王様には、一人の美しい、しかし気難しいお姫さまがいました。
お姫さまは赤い色が大好きで、お姫さまの周りを取り囲むものはすべて目の醒めるような鮮やかな紅色に染められていました。
お城も例外ではありません、かつては色とりどりの花々が咲き誇った中央庭園も、今やうんざりするくらい赤いバラに敷き詰められています。
「お姫さま、様々な花々が色とりどりに咲くからこそ美しいのですよ?」
と、家来が言っても、
「いいえ、私は赤が好きなのです。だからこれが最も美しいのです」
と耳も貸しません。

鮮やか過ぎる赤いバラに誰もがめまいを起こしそうになっていた、ある日のことです。
隣の国の王子さまが、お姫さまを尋ねてやってきました。
王子さまは城門をくぐり、驚きました。
しばらく見ないうちに、お城はすっかり紅に染まっていたからです。
驚く王子さまを、お姫さまは満面の笑みで迎えました。
けれどその格好は、真っ赤なバラの庭園の中にもひときわ映える深紅のドレスでした。
王子さまは目を回してしまい、耐えきれずこう言いました。
「姫、確かに庭園は美しく、そなたはそれに勝る美しさだがいささか程度が過ぎています。私には耐えられません」
お姫さまは、怒って言いました。
「あなたはわかってくれると思ったのに!もういい、二度と顔も見たくありません・・・」
その言葉を聞いて、王子さまは悲しそうに振り返り、立ち去りました。

帰り道、王子さまは従者につぶやきました。
「あのやさしかった姫が、ああも変わってしまった・・・」
とてもとても、残念そうに。
その言葉に、従者も黙ってうなずきました。


王子の一件から、お姫さまはいっそうわがままになってしまいました。
そして、自分の部屋に閉じこもることが多くなりました。
あの美しい赤の部屋も陽の光にすっかり色あせ、カーテンを閉じて一人泣いているのでした。

お姫さまが久しぶりに庭園に顔を出しました。
あれほど好きだった赤いバラが、ちっとも綺麗に見えません。
お姫さまは無性にいらいらして、家来に当たり散らしました。

お姫さまが家来をどなりつけていると、庭園に一匹のウサギが迷いこみました。
真っ白な、かわいいウサギ。
けれど赤の中ぽつんと白い点になったウサギが、お姫さまにはとても気に入りません。
「見苦しい!誰かあのウサギを捕らえよ!!」
金切り声で、お姫さまは命令します。その声におびえるように、城中の家来は皆、ウサギを追って必死になります。
けれどウサギはすばしこいもので、だれも捕まえることが出来ません。
最初は庭園をぴょこぴょこ楽しそうに跳ねていたウサギは、いつの間にかお城の中へ。
王様の玉座にちょこんと乗ったり、こっそり古い物置に忍びこんだり、調理場で呑気にニンジンをかじったり。
そのウサギの様子と、対照的にくたくたの家来たちを見て、お姫さまは思わずくすりとしてしまいました。
「こんなことでは・・・誰か、さっさと捕まえなさい!」

相変わらず跳ねるウサギと家来。
そんな事が続く間に、気がつけばみんな、ウサギを見失ってしまいました。

みんな城中を捜索しましたが、一向にウサギは見つかりません。
家来全員があきらめかけたそのとき、お姫さまが思い出したように言いました。
「私の部屋に、いるかもしれません」

日も暮れて、鮮やかな夕焼けがお姫さまの部屋を照らします。
紅に染めたとげとげしい色合いと違い、とてもやわらかい、暖かい光。
お姫さまは、何かを思い出しかけていました。
お姫さまの部屋はとても広くて、あちこち探しても見当たりません。
あらかた探して見つかったのは、お姫さまのベッドの上でした。

真っ白な体に、赤い点が浮かんでいます。
ぴくりとも動きません。お姫さまは、誰かが猟犬か銃でウサギを殺してしまったのだと思い、わぁっと大声で泣き出しました。

「私は殺せとは言っていない!ただ目触りだからどこかへやってしまえと言ったのだ!おぉ、かわいそうに・・・」

お姫さまは、泣いていました。
その表情は、誰もが見る、久しぶりのやさしいお姫さまでした。
お姫さまが泣き続けていると、突然ドアが開き、もう2度と顔も見たくないと言われた王子さまが現れました。
お姫さまは王子さまの顔を見るなり、抱きついていっそう大声で泣き出しました。
「ごめんなさい、私はあのウサギを殺してしまったの・・・ただ迷いこんだだけなのに・・・」

王子さまはお姫さまの頭をやさしくなでて、それからベッドに横たわるウサギの体をひょいと持ち上げ、言いました。
「ほら、姫・・・みてごらんよ。アレは血じゃない、この子のつぶらな愛らしい瞳だ」
お姫さまはきょとんとしてしまいます。
茫然とするお姫さまに、王子さまは白いウサギを抱かせて言います。
「このウサギはきっと、姫と仲良くなりたかったのです」

王子さまの言葉に、お姫さまはハッと思い出しました。
お姫さまが小さなころは、聞きわけもよく、とてもやさしい娘でした。
時々やんちゃな王子さまとこっそり野原にかけ出すと、庭園にはない可憐な花や変わった草をいっぱい摘み、かわいいウサギを追って遊んだりしました。
時々なつくウサギがいて、気がつけばとっても仲良しに。
こっそりパンくずやニンジンなどを持って行ってはそれをウサギにやっていたのですが、ある日それが王様に見つかってしまいました。
お姫さまと王子さまはとても悲しみました。
それ以来、お姫さまはとってもわがままになってしまったのでした・・・。

子供のころの、素直な表情に戻って、お姫さまは言いました。
「ごめんなさい、前は王子さまにひどいことを言ってしまった・・・とても許されることではありません」
そしてまた泣きそうになるのを、王子さまが抱きしめて言いました。
「気にしてはいません。それよりあなたが心配だった。あなたはやさしい人のはずなのに、すっかり人のことも考えなくなってしまった。けれど今日は安心しました、昔のやさしいあなたに戻ったようだから」
泣きそうだったお姫さまの顔は、いつの間にか笑顔で、けれどまるでピンクのバラのように頬を赤く染めていました。
ふたり手を取り合っていると、王様とお妃さまが、まるで王子さまとお姫さまと同じように手を取り合ってやってきました。

「まぁ、いつの間に貴方たち仲直りしていたの・・・」
お妃さまの言葉に、二人の足元にいる白くて小さなものに目を止めた王様が、笑って言いました。
「この白いウサギが、二人の仲を取り持ったのか!」
そして王様とお妃さま、家来も王子さまの従者もみな嬉しそうにおお笑いしました。ちょっぴり決まりの悪そうな二人でしたが、ウサギがぴょんと跳ねると顔を合わせて、にっこりと笑いあいました。
そして二人は、キスをしました。
とっても幸せに。


二月経って、王子さまとお姫さまは結婚式をあげ、それとともに王子さまは王様に、お姫さまはお妃さまになりました。
二人はよく国を治め、臣民の誰もが敬愛する王様とお妃さまになりました。

庭園は前のように、いいえさらに色とりどりで、来るものの目を楽しませてくれます。
その中に飛びっきり、目を引くものが・・・・・・。
垣根の間を通って、庭園に遊ぶかわいいウサギ。
咲き誇るバラの元、幸せに遊ぶウサギは、まるでこの国の人たちのよう・・・そして、王様とお妃さま。
昔、こっそり野原へ抜け出した、小さな王子さまとお姫さまのように。

     

昔々、とある町の外れに、大きな牧場がありました。
そこには牧場主と三人の息子、そしてたくさんのウサギが暮らしていました。
牧場は開放されていて、休日にはたくさんの親子がウサギと遊ぶためにやってきました。
牧場の一家は、わずかな入場料でつつましく暮らしていました。

ところがある日、牧場主は病に倒れてしまいました。
二人の兄が知らんぷりする中、ただ一人末の息子が懸命に看病していましたが、その甲斐もなく牧場主は亡くなってしまいました。

牧場主は、広い牧場とたくさんのウサギを遺しました。
彼は死ぬ直前に、三人の兄弟にこう言いました。
「私は死ぬが、おまえたちには協力しあって、ウサギたちを守ってほしい」
息を引き取ろうとしている父を前に、三人は涙目で精いっぱいうなづきました。

次の日、三人の兄弟は話し合いでどうするかを決めることにしました。
ここで困ったのは、牧場にいるたくさんのウサギのことです。
三人とも、ウサギは大好きでした。けれど、好きな理由は三人とも違いました。
一番上のお兄さんは、ウサギのステーキが大好物でした。
二番目のお兄さんは、ウサギの毛皮が大好きで、いつもウサギの帽子をかぶっていました。
三人目の末っ子は、ウサギのあの優しいまなざしが大好きでした。

結論は出ませんでしたが、とりあえず三人は引き続き、ウサギの世話をすることに決めました。
二人の兄は真っ先に大きな檻をつくって、牧場のあちこちでのんびりしているウサギを集めては、放り込んでしまいました。
「ねぇ兄さん、どうしてそんなかわいそうなことをするの?」
窮屈そうな檻の中で悲しそうな目をするウサギを見て、末っ子が尋ねます。
二人の兄は笑いながら言いました。
「馬鹿だなぁ、こうでもしないとウサギが逃げちまう。俺たちはこいつらをうんと増やして市場に売ってやるのさ!」

冬を越し、春が過ぎて、緑鮮やかな夏になるころにはウサギはかなりの数になりました。
二人のお兄さんはウサギの世話を末の弟に任せっ切りで、いつもだらだらしていました。
一人黙々とウサギの世話をする末っ子は、檻の中の窮屈そうなウサギを見て、とても悲しい気持ちになりました。
押し込められ、体中すり傷だらけのウサギたち。端っこには、仲間同士のおしくらまんじゅうでつぶれて死んだウサギの姿もありました。

弟は決心しました。
「ごめんね、こんな狭いところに閉じ込めてしまって」
そう言うと、末っ子はウサギの檻の扉をあけ、ウサギをみんな逃がしてしまいました。
とっても月がきれいな晩、ウサギたちは久しぶりに、うれしそうに飛び跳ねました。

翌日。
どうもいつもと様子が違うと、一番上のお兄さんは珍しくウサギ小屋を覗きに行きました。
からっぽのウサギの檻。
お兄さんは怒って、二人の弟を問い詰めました。
二番目のお兄さんは、
「俺は知らない、弟がやったんじゃないか?だってあんなにウサギをかわいがってたじゃないか・・・」
と、他人事のように言いました。
末の弟は首を振って、
「ぼくはそんな事してないよ、兄さんたちがあんなに大切にしていたウサギを・・・きっと狼がやったんだ、そうに違いない」
と言いました。
そこで一番上のお兄さんは、末っ子を連れてウサギの檻に行きこう問い詰めました。
「狼がこんな鍵付きの扉あけるわけないだろう!おまえ以外に誰がいる!!」
そう怒鳴ると、怒り狂ったお兄さんは、納屋にしまってあった狼除けの猟銃を引っ張り出して、末っ子を撃ち殺してしまいました。

「兄さん、殺してしまったのか!?」
血みどろのお兄さんを見て、二番目のお兄さんは驚きました。
「ちょうど良かったじゃないか、どうせおまえも邪魔に思っていたんだろう?」
一番上のお兄さんは、ぞっとするような笑顔で言いました。
二番目のお兄さんは恐ろしくなって、
「あぁ、なんてことを・・・」
と、おびえていました。
一番上のお兄さんはその様子が気に入りません。そのうちに二番目のお兄さんは、
「警察だ、警察だ!!」
と叫んだので、一番上のお兄さんは恐ろしくなって二番目のお兄さんも撃ち殺してしまいました。
二人の血で真っ赤に染まったお兄さんは、狂ったように笑いながら、
「ウサギめ、どこ行きやがった!」
と、もう日の傾き始めた広い牧場へウサギの姿を求めて駆け出しました。

「食った食った・・・久しぶりのウサギのステーキはうまかった」
お兄さんは逃げたウサギを撃ち殺し、二人の弟の脳みそをつけ合わせにして食べてしまいました。
ところが食べ終わってふと我に変えると、自分はなんと言うことをしてしまったのだ・・・と、とたんに恐ろしくなりました。
震えは止まらず、お兄さんは風呂にも入らないでベッドへ入って眠ってしまいました。

その夜は、満月がとてもきれいでした。
まぶしい月の光に寝付けない一番上のお兄さんは、なぜか無性に気になってウサギのいたからっぽの大きな檻を見に行きました。
檻につくと、空っぽだったはずのその中にはたくさんのウサギが戻っていました。
夢かと思って頬をつねったり、目をゴシゴシこすりますが、どうやら夢ではなさそうでした。
「そうか、俺におとなしく飼われることにしたんだな?よしよし」
お兄さんは、ウサギの檻をあけました。

すると。
お兄さんめがけて、たくさんのウサギが飛びかかってきました。
お兄さんはたくさんのウサギたちにかじられて、跡形もない肉塊になって死んでしまいました。
ウサギたちは一斉に牧場から逃げ出し、後にはなんにも残りませんでした。

     

月を、見つめてた。
いえ月が、見つめてた。
どうせ無くなってしまうならと、朧月夜に飛び出した。
覚えていますか?メッセージ。
私はなぜ、ここにいるかはわからないけれど。
From the moon, to the earth.
私は今、月にいます。


「月にはウサギが住んでいるんだって・・・」
何べんも聞いた、悲しいくらいのおとぎ話。
子供心に信じてた、うち砕かれた理科の授業。
「月は岩だらけ、水も空気もなく死の大地」
あぁ理科の先生、子供の夢を、どうかどうか砕かないで。

聞いて、聞いて。
私は今、月にいます。
宇宙飛行士になったんじゃない、月面着陸は夢のうちに。
静かの海のただ中に、死んだときと同じ格好で眠ってました。
静かの海には水が満ち、見えないはずの月の雲が、はっきり見えたのを覚えています。

私はかぐや姫?
月の従者は侍らねど。
気がつけば私の周りには、おどおどしたウサギが跳ねてます。
見渡せば一面すすき野。
けれど色のない、死んだ世界Monochrome Heavenry。

私は死んでしまったのですか?
今でもこんなにはっきりと、あなたの声が聞こえるのに。
誰か、誰か、教えてください。
今や私の目には、白いすすきと白黒のウサギ、そして赤いウサギの瞳しか、写りこんではくれないのです。

日に日に月になじんでく様に。
ウサギたちも私に馴れ、私もウサギの顔を覚えました。
月の風は静かにそよぎます。
私はさみしくありません、ただただあなたがいないのが悔しくて。

ふとたどり着いた、月の小川のせせらぎのほとり。
風に揺れる、彼岸花。
白くても、彼岸の彼方のあなたの顔を、思い出すには十分で。
ふと水面に写った顔、髪は白く、目は赤く。
まるで、ウサギの精みたい。

日に日に月になじんでいきます。
ウサギの数が、多くなった気がします。
すすきの根をかじり、月の小川の水を飲むたび、けれど浮かぶはあなたの笑顔。
まだ月の人には・・・。

久しぶりに、地球が出ました。
あなたたちが、月が出ると言うように、月の空には地球が出るのです。
それはそれは、青い星。
けれど今の私には、その色の意味もありません。

帰れない、帰れない・・・。
永久に会うことはないでしょう、まん丸に満ちた地球を見ながら。
数万キロ、真空に隔たれた、悲しい哀しい恋物語。

さみしくさえ、なくなりました。
だって私には、ウサギたちがこんなにもいるから。
私の顔を見て、つまらなさそうだとおどけてみせたり、悲しいときには心配そうに、じっと私を見つめたり。

もうわたし、かなしくないよ。

けれど一つ、心配事があるのです。
空に浮かぶ地球の青が、少しずつ消えている気がします。
それにあわせてウサギも増えていると思うのは、月の姫の思い過ごしかしら?

     


忘却のウサギ

悲しいくらいの存在証明。
二人の少年が、ある賭けをした。
少年の名前は、ハンスとアルフォンス。
彼らはウサギを使って、ちょっとした奇妙なことを思いついたのだった。

「最近この街では、記憶を失って死んでゆく奇妙な病気が流行ってる・・・」
「だったら、そこらへんの野山にいるウサギを捕まえて、試してみればいいじゃないか」
そう意気込んで山へ入る。
30分もせずに、哀れなウサギはつかまった。

「次は死体だ、どこがあるかな・・・ハンス?」
「アルフォンス、死体といえば墓地だ」
そう言って入るモルグ。
地下に備わった、それはあたかもカタコンベ。
壮麗な死体の山をくぐりぬけ、まだ新鮮な死体を探す。
二人が選んだのは、息を飲むような若い女性の死体。
二人は服を脱がせてひとしきり死体をもてあそぶと、とうとう脳をほじくりだし金属のバケツに収めた。

「アレは流行り病なの?」
「違うさ、だって俺の母さんはあの病気で死んだけど、父さんはあの病気じゃない」
そう言いながら、女性の脳をウサギに与える。
存在証明は冷酷。
子供は無邪気で、残酷。

「ハンス、嫌な予感がするよ・・・」
「大丈夫、こんな事じゃ伝染りはしないさ」

10月10日立ったころ。
ウサギは見事に痙攣してた。
二人はすっかり忘れてたころ、その恐怖をまざまざと思い出させる。
「・・・俺たち、死ぬのかな・・・・・・」


さて、忘れ物がある。
あのバケツの中身、どうしたと思う?

     



「ねぇ、ちょっと・・・」
私とミサは、ルームメイト。
でもミサは、外に出るのが嫌い。

「・・・ミナ、どこに行くの?」
「買い物」
正直、私はミサに冷たかったのかもしれない。
私がそう冷たく言い放って買い物に出てたころ、彼女は手首を切っていた。
帰ってくると、ミサは手首からドクドクと血を流しながら、泣いていた。
私はいたたまれなくなって・・・・・・。

その日以来、二人の部屋を仕切ったカーテンをはずし、二人いっしょの布団に寝た。
買い物に行くときは、手をつないで。
離れてしまわぬよう、絆と言う名の鎖でつないで。

そのうち私もミサから離れられなくなって。
目を離せば、あの日のように手首を切ってしまうから。
もうあんなミサの目は見たくない、そう思っているうちに、ふとした事で出かけなくてはならなくなった。
出かけて帰ってきて、ミサは全身血まみれで部屋に倒れてた。


・・・・・・私もミサとおんなじ痛みを分かち合おうと、全身をカミソリで傷つけた。
そして、血まみれ同士、抱き合った・・・・・・。


私も外へは出なくなった。
次第に消衰してゆく二人、けれどそれさえ恍惚の中で。
残り少ない時間。せめて、この瞬間だけはと。

そんな平穏なある日、ミサはつぶやいた。
「ミナ、月の見える部屋に住みたい」

私は屋根を壊した。
大分時間がかかった。なにしろ疲れていて、力が入らなかった。
やっと壊したころには、ちょうど月が天頂に上っていて。
きれいな月光が、二人を照らした。

「・・・まるで私たち、ウサギみたいね」
ミサがつぶやいた。
ミサの瞳はまるでウサギのように、透明な赤色をしていた。
私は微笑んで、
「そうね」
とだけ、つぶやいた。

       

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Neetsha