Neetel Inside 文芸新都
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とあるワンルームマンションの一室、いつになく賑やかなその部屋の中で、コートを着た初老の男が頭をかきながら目の前の遺体と向き合っていた。
「ふむ、睡眠薬の過剰服用か……」
「付近の住民の話によると、最近足を悪くしていたそうで、歩行もままならなかったとか」
聞き込みを終えたばかりの若い巡査の報告に対して、男は静かに頷いた。
「なるほど、それを苦にして、所謂尊厳死って奴か……まぁ、理由はどうあれ自殺で間違いないな」
「あ、先輩古いですね、今は自死って言わないと駄目なんですよ。確か自殺って表現だと道徳的に良くないから……」
「バカ野郎。それくらい知ってるよ。それでも今回は自殺で間違い無いんだ」
「……どういうことですか?」
男は後輩の問いには答えず、苦い顔をしながら目の前の遺体に手を合わせた。
「嬉しく思う……か。こいつは確かにそうなんだろうな。けど、最後の瞬間、今際の刻みで、あんたは一体誰だったんだい?」
男は顔をしかめたまま、目の前に横たわる苦悶の表情に布を被せ、そっと彼に日記帳を返した。

       

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