ビショップが生きている頃の話だ。彼は誕生日をどの兄弟よりも愛していた。いや、正確には一番恐れていたのかもしれない。ルークみたいに儀礼的にケーキの蝋燭を消すのとは違い、ナイトのようにどんなプレゼントにも笑顔を見せるわけでもなかった。彼は本気で楽しんだ。この日だけは、自分が唯一の主役であり、家族は僕だけを愛してくれると信じて疑わなかった。そして、この家族の振舞いから365日で自分がどれくらい大切にされているのかを判断した。
 
 事件が起きたのは、彼の6歳の誕生日だった。その日、クイーンはまだ小さいナイトを連れて、パン屋でケーキを買ってから、家に帰る途中だった。彼女は車を運転しながら、ある種の気味悪さを感じていた。なにか大きな不安が隠れているようだ。はたして、私はどんなミスをしちゃったのかな、と彼女は考えた。ケーキはあるし、食材も冷蔵庫にあるし、蝋燭もちゃんと6本ある。家の鍵も閉めたはずだわ。信号の色が変わってから気づいた。……ああ、誕生日プレゼントだ、と。 

 計画では途中でデパートに寄って、予約をしていた銃の玩具を引き取るはずだったのだ。このままではビショップが泣き喚いてしまう。彼女は助手席に座っているナイトに、理由を話すと、急いでデパートに電話をするように頼んだ。ナイトは頷いたが、理由を聞いた時点で既に携帯電話でデパートの連絡番号を検索していた。いくつか会話の応酬があってから、ナイトは眉を困らせた。

 「……母さん、もうデパート閉めるんだって」

 クイーンは携帯電話を譲り受けると、許しを請うように言った。

 「あと五分で着くんです。子供が楽しみにしているし、その玩具がなかったらきっと傷ついてしまいます。五分だけでいいです。それだけだから少しだけ待ってくれませんか? 」

 「申し訳ございません。規則で六時に閉店することになっているんです」

 若い女の声だった。アルバイトか、精々入社一年目といったところだ。たどたどしく、少し自信がなさそうな口調だ。

 「いつも七時まで開いていなかったかしら? 」とクイーンはすかさず言った。「ねえ、違ったかしら? 」

 「いつもはそうなのですが、今日は創業記念日で従業員がいなくなってしまいます。申し訳ございません」

 「ねえ、お願い。少しだけでいいの。子供があなたのところの商品を待ってるのよ。五分だけ。ほら、今は五十六分だから、一分だけ待ってくれたらいいの。お願いしますから……」

 女の従業員は言った。

 「申し訳ございません。規則なんです」

 五分後、クイーンは電話を切った。色々粘って交渉したが、相手はすみませんの一点張りだった。デパートの目の前に着いたにも関わらず、また戻らなければならなかった。たった一分がビショップの誕生日をぶち壊しちゃったのだわ、と彼女は悲しくなった。ああ、もうどうしよう。

 「明日にでも他の玩具をやったらどうかな? もっといいやつ」とナイトは言った。「そうしたらビッショップも許してくれるかも」

 「そうね」とクイーンは搾り出すように答えた。「ビショップはいい子だもの」

 二人はそのまま車を走らせて家に戻った。やがて空が暗くなり、理由を知ったビショップはわんわん泣いた。その日、家族の誰も笑うことはなく、ケーキは丸いまま冷蔵庫に仕舞われた。クイーンは必死にビショップをあやしながら、彼を撫でようとした手を拒まれて胸が苦しくなった。ねえ、ごめんなさいね。もっといい玩具の銃を買ってあげるから。だからお母さんを許して、ビショップ。しかしビショップはベッドで伏せたまま、何も答えなかった。

 「それにしても、何で駄目だったんだろうね」とナイトが車で言ったことをクイーンはビショップを見つめながら、ふと思い出した。「一分で何がそんなに違ったのかな? 」