Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ミシュガルド聖典~仰~
千年竜の調査:それぞれの受難

ー祈りとは、呪いより脆く、欲望より儚く、しかし、何よりも無意識に、心の奥底に残るものだー

「…くだらねぇ。」
魔水晶(マウグ)の産出地である雪の渓谷。
通常の人間はおろか飛行能力をもつ者達すら忌避する猛豪雪が吹き荒れるその地は、留まるだけで生物の体力を削っていく。
吐き捨てるようにそう呟いた男は、その極寒の地に似つかわしくない風貌の男だった。
白い角に黒の尾、大きな翼。胸から腹にかけては人のような肌が露出しており、胸元には赤く輝く美しい宝玉。
…千年間封印されていたと言われる魔晶竜、アイギュリー・ディロゴール。
彼は気だるげに周囲のマウグを品定めすると、その内の一つに手をかざし、一呼吸おいた。

バキャッ

派手な破裂音とは相反し、マウグは一見何事もなかったかのように見えた。
しかしその中心にはどす黒い呪いのような何かが渦巻いており、ディロゴールはそれを見届けたあと、軽く指先でそれを弾いた。

「呪移しですか、思っていたよりも賢いんですね。」
「...呪術を逆流させて殺してやろうとも思ったが...オレの前にすら立てんような小物、興味もない。」

突如口をきいたのは、黒と白の大型の狼のような魔物。ディロゴールは姿勢を崩すことなく背中越しに応えた。
魔物はディロゴールの元に歩みよりつつ、その姿を人を模したものに変えていく。

「呪いの権化のようなあなたに呪いですか、無駄なことを。」
「よく吠える犬だな」
「違うのですか?邪竜アイギュリー。」

ディロゴールが煩わしげに振り返ると、魔物はかるく両腕を広げ、おどけたように笑いかけた。


ああ、やはり千年前と変わらない。掃いて捨ててもわいてくる。
害竜、邪悪の権化と呼び蔑む口々、畏怖や忌避の目、力を手にしようと己を罠や術で従えさせようとする強欲な輩。
魔晶石を手にするためならば手段を選ばない卑屈で卑怯で欲深い連中、そして己の力を利用しようとすり寄る者。

…己の自由と安寧のために、それらは滅して然るべきだ。

「知っているなら話が早え。消し飛べ。」
ディロゴールはそういうが早いか、間髪いれずに魔力弾を放つ。
そこに雷の障壁が現れ、相殺の風圧により辺り一面が真っ白に染まる。

「下らない冗談は感心しませんね、千年ただ眠り続けていただけで中身は未だに子供なんですか?」
「黙れ、話すことはねぇ」
「あなたに呪いをかけようとした輩も、今後あなたが会う者たちも、全てがあなたの敵でしょう?その魔力さえ捧げれば...オレの傘下にしてあげてもいいですよ。」
「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ。」
「わかっているのでしょう?あなたは他の者達から受け入れられる事はない。
 …オレ達と同じ、魔物のようなものなんですから。」

ディロゴールは目を見開き、魔力の渦で生成された竜巻を起こす。
魔物はひらりとそれをかわすが、暴れ狂うような勢いの竜巻は地響きを起こし、触発された大規模な雪崩が押し掛けようとしていた。

「…なるほど、あくまで一人で抗うと。」
「今までも、これからも、それで足りる。どうせ奴等は勝手に小競り合いしてるからな。」
「いつまで続けられるか見物ですよ、精々生き延びてください、あなたの力が侵略者どもの手に渡れば厄介ですから。」

魔物は冷めたような目でそう言い放つと、雪崩の隙間を避けるように素早く、その場を離れていった。

「…魔物、か。」

ディロゴールは上空からそうこぼすと、雪崩の中、ぽつりと取り残された何かを見つけ出した。



~~~~

寒い寒い寒い寒い!!
寒いというか、痛い!!

今日は厄日だ、とダーク・ジリノフスキーはかじかむ手足を擦り合わせ唸った。
乙家のお嬢様があの雪の渓谷に一人で行くと言う話を聞き、心配で仕事が手につかないアンネを見かねて、休日返上で様子を見に来た。

失敗だった。
お嬢様はとっくの昔にこの天候で探索は不可能だと下山したらしく、アンネからはどこにいるのか、帰還するようにと信号が送られて来た。
まさかアンネも様子を見に行くと言った方が遭難しているとは夢にも思わないだろう。完全にやらかした。まずい。

さらに不幸な事に、救援を呼べる広い場所に出られたはいいものの、なんとクエスト発注所の張り紙で見かけた千年竜がいるじゃないか。
いかに屈強な甲皇国軍人ダークといえども、単独であんな災害級の存在に歯が立つ訳がない。
降り積もる雪のお陰でかろうじて身を隠せているものの、見つかればどうなるかわからない。

視界の悪さと極度の緊張状態は、息を殺して気配を消すダークの耳をエルフ顔負けの精度に跳ね上げ、千年竜が何をしているか、聞き取ることができた。
...どうやら最悪の事態に陥ったらしい。

千年竜に語りかけているのは危険度シャルフリヒターの中でも討伐最優先と言われる獣神帝、ニコラウスだった。
どうやらニコラウスも千年竜の力には一目おいているらしく、取引を行おうとするも失敗に終わったようだった。

爆風で雪が大量に飛んできた。痛い、冷たい。雷が当たらなくてよかった本当に。

安心したのもつかの間、地響きと共に雪崩が襲いかかってきた。
今度こそ終わった。そう思っていると、重い羽音が徐々に近づき、風圧で周囲の雪崩が中和されていく。
…助かったか?いや助かってないな、ここにいるのは千年竜か獣神帝だけだから。

「…何だ…?お前」

千年竜は訝しげにダークを見下ろす。

「遭難者だ。...助かった、礼をいう。」

刺激しないよう言葉を選びつつ一応感謝を伝えたつもりだったが、千年竜はきょとん、と首を傾げた。
もしかしてアレか、ウンコかなんか落ちてるな~と思って見に来ただけで助けるつもりは微塵もなかったとかか?
よく見たら吹雪く中で腹や胸を、素肌をさらけ出したすっ頓狂な格好をしているし。
竜だからとか寒さに耐性があるとかそういうレベルじゃない。...バカなのか??

「…お前は違うな。なんか………バカっぽい。」

千年竜は頭をかいて小さく呟いた。聞こえてるぞ、バカにバカって言われた。

「…もしよかったら、帰り道なんかを教えてくれると助かるんだが」
「飛んで帰れよ………いや飛べない、か。」

バカはお前だ。と心の中で毒づくも、このままでは凍死も時間の問題だ。帰れないおじさんにはなりたくない。

「教えられることは教える、出来ることならやるから頼む。俺をここから出してくれ。」
「そうか。じゃあ、ビャクグン、って奴を知ってるか?」
「…ビャクグン?」

そういえば兵士の中にそんな名前の奴がいた。
温厚で力持ち、丙家のナノコ様の想い人だと聞いている。

「うちの軍にそんな名前の奴がいるな。今は開拓班としているはずだが…」
「…そうか。」

何やら神妙な面持ちで千年竜は考え込んでいる。
彼に何かするつもりだろうか、もしそうならとんでもないことをしてしまったかもしれない。
少しばかりうろたえていると、千年竜は突然表情を陰らせ問いかけてきた。

「...お前、オレを魔物だと思うか?」

「!?」

心臓が体の外に放り投げられたかのように凍りつく。
最初から気づかれていたのか?

「……魔物であろうとなかろうと、平和に害をなすなら倒す。
 そうでないなら…平和を祈る者だというなら、守る。それが俺の仕事だからな。」

寒さと焦りで体が震え上がりそうになるのを抑え、まっすぐ千年竜の目を見て答えた。声が裏返らなくてよかった。

「よくそんなカッコつけたセリフ言えたもんだな…オレは魔物じゃないし、アンタに害をなさない、と言えば安心か?」

千年竜は深いため息をついたあと、ダークの体を片手でひょいとつまみ上げて羽ばたいた。

「!?」

「…祈りってのは、下手な呪いよりタチが悪いもんだ。」

「……?それは、どういう…」

「…もういい、聞いたこと全部忘れてさっさと帰れ。…死ぬなよ?」

少し憂いを帯びたような顔をしていた千年竜は、すぐに悪巧みしたような不気味な笑みを浮かべると。


ダークを勢いよく放り投げた。

「うぉおおおおおおおおお!!!!??」

体が空を舞ったかと思うと、勢いよく雪山の柔らかな雪に滑り込み、そのまま勢いが止まらず雪を巻き込みながら転がっていく。

「ヘタレのウッドピクスと根暗女に伝えろ、お前らの目論みなど、オレには通用せんとな。」

いや誰だよ、わからんぞ…というツッコミが千年竜に聞こえたかはわからないが。
大きな雪玉と化したダークは猛烈な速さで山を下っていき……
…麓にいた竜人の娘、ドラコのブレスによって何とか一命をとりとめた。

クエストによるダークの報告

・雪の渓谷で対象を発見
・寒さに強い、吹雪く中でも薄着
・呪術や魔術による従属はほぼ不可能
・従属術を使うものを毛嫌いし、従属者、支配者を積極的に攻撃する危険性あり
・獣神帝と接触。戦闘となるも両者無傷、手を組む可能性は低いが、獣神帝も魔力に目を付けている
・獣神将らと違い、魔物ではない(自称)
・封印というより寝ていたような感覚らしく、中身も外見通り若い印象
・魔力によって雪崩などの自然災害を引き起こせる
・男一人を片手で軽々とつまみ上げる腕力
・気に障るような事をしなければ害意はない、しかし粗暴でありさして友好的でもない
・祈りによる術が効く?(比喩表現の可能性が高く、信憑性は低い)

報告したもの(ビャクグンの事については、まずい事に巻き込んでしまったかもしれない、という負い目もあり報告できなかった)
のいくつかは有意義な情報であるらしく、報告の報酬額はなんと破格の14万VIPだった。ラッキーナンバーだ。
散々な目に遭ったが、助けてくれた竜人の娘に、何かお礼でもしよう。
ビャクグンには今度会ったときにでも埋め合わせしよう。
ダークは頭の後ろをかき、報告所を後にしたのだった。


あとがき

主な(セリフのある)使用キャラ

アイギュリー・ディロゴール
獣神帝ニコラウス
ダーク・ジリノフスキー

最近報告された二つを参考に書きました。
ディロゴールはバカかもしれないし、賢いかもしれないし、強いかもしれないし、脆いかもしれない。
そして、何かの拍子に魔晶石が渡ってはいけない者の手に渡るかもしれない。
あらゆる意味で危険な存在として報告しました。

3年越しの動き、どうなるか楽しみです。
表紙

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Neetsha