Neetel Inside 文芸新都
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ベル詩集
“動植物”

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「冬の鴉」


冬の曇り空のうえに
不吉な黒点となって生まれたそれは
あの味気ない空を固定する
鋭い鋲(びょう)であるかのよう
追いつめられた悲鳴とも、局外者の冷笑ともつかぬ
そのぞんざいな鳴き声は、実体のない井戸の底ででも
鳴りひびいているかのよう、あるいはそれらは
子供時代という名の井戸から浮かんだ
黒衣の伝令ででもあるかのよう

羽ばたく手は、せわしなく、もどかし気に
地上の魂を、影という影を
まねき寄せ、その身の色合いに引き受けていた
鴉たちは先駆けだ。まつろわぬ者、さまよう者、
この地に飽きたりぬ者のほほをはたいて
起き上がらせる先駆者だ
夜を予告する狩人であり、
見えざる太陽をうちおとす射手

彼らの庭に感傷はなかった
あるのは渇いた事実だけだった
つまりは明日も、そのまた明日も、あるいはこの先一年ずっと
われわれは、あの考えぶかく気難しげな空のように
だれにも本心を隠しとおすだろうということ
何食わぬ顔して、くちびるには潤いも失せ
自分で自分を見捨てるような
やみくもな諦念だけをかかえて

うつろな中空の一点から
つと舞い落ちた一枚の黒い羽根が
森にのぞむ湖のうえに落ち
その水面をざわつかせもせず、人知れず凍りつかせるのにも似て
霜枯れた岸辺のうえに立ちながら、涙のひとしずくを沈める者の姿を
鴉たちは、いや鴉にも似ないわれわれは、
この先一体いつ見出すというのだろうか?



       

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