Neetel Inside 文芸新都
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「燃える花々」


薔薇は燃え落ちる
焦燥にあぶられ
もはやその素顔を保てずに
薔薇は燃え落ちる
屈辱に虫食(むしば)まれ
もはやその姿も支えきれずに

踏みにじられた花々の汚辱が
野を焼き、山を火の色にそめるとき
おまえの胸に映えるてりかえしは
消え入りそうな裏声で泣く、
血の出るような日没さながら
雲の薄絹をはだけさせつつ

痛ましい棘もつ蔓(つる)がのび
良心に絡まり離そうとしない、
わずか吐息ほどの嘲笑と誘惑ですら
気弱な花弁を散らせるに足るのだと、
冬枯れた木々の火の付きやすさを
老人たちは忠告してくれたというのに……

やがて生まれ変わった数知れぬ花びらが
羞恥をすすって赤く舞い上がりながら
逃れようのないくるぶしめがけて
つる草のあとを追ってくる
この炎と薔薇と恥辱の光景からおまえは
やっと逃げ込んだかに思われた
あの夢の中ですら追われつづける

おぞ気をふるう
手の施しようのない花園に
頬赤らめておまえは、仰向けに横たわっている
まわりには、性懲りもなく蝋燭など灯して、
正装し、腹の上で手を組んだおまえは
まるでなにかを待ち受けるように、慫慂として
目を閉じている
この期に及んで、死んだふりして
お茶を濁そうと考えるとは!
この窮地に立ったおどけ者には
心安らぐ安手のお棺が
せめてもの花向けといったところか



(2020/3/9 Mon.)

       

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