Neetel Inside 文芸新都
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「1789年」


弾丸よりも早い布告が
闇夜の矢となり耳目を射抜く、
一夜限りの革命政府の
奇々怪々なる査問会

――進み出よ、首切り役人。血塗られた奉公人、
 われらが議会の権限をもって、今宵、貴様に申し渡すが
 よいか? おまえの使い古しのハサミは、とっとと、即時、可及的速やかに、
 あの《若木》をちょん切ってやらねばならん、
 見よ、おまえがなぜかと問う間に、あやつの若葉は早くもそよそよ、
 浮ついた気持ちでなびいておる。その匂やかな風こそが
 いつか自分を倒木させ、挫折と失態、後悔の原因になるとは
 ぞの細っこい茎にうたがいはのぼらぬのだ

――おお首切り役人、善意の猟人、
 いつになったらおまえのヤイバは
 あの胴のように成長した《幹》を切り倒すのだ?
 見よ、おまえがうかうかする間に、あやつの足指は地面に食い込み
 昼間の苦悩に根をめぐらして、苦汁を樹幹に吸いあげておる
 毒素を夜に持ちこして、後悔でこずえをいっぱいにしておるわ!
 
――ああ首切り役人、民意の証人、
 いつになったら貴様のナタは、
 あの重みにしなう《枝》を断ち切るのだ?
 見よ、おまえが目移りする間に、あやつの腕は酸っぱい血の束、
 ささくれた樹皮が赤くにじんでおる。苦役の記憶がつぼみをほどいて
 みるまに花弁がよろぼい出たわ――不幸の蜜の匂うこと!
 
――おお首切り役人、のらくら者の処刑人、
 まさか、貴様のご自慢のギロチンは
 あの毒々しい《果実》を切り落とすつもりもないのか?
 見よ、おまえがへどもどする間に、生き生きした花びらはどれも萎れはて
 後から、むくむく首を伸ばしたのがある――情け容赦ない太陽に照らされ
 浮き彫りになった恥辱の滋養が、たわわな首っ玉に結実しよったわ!
 どれ、ためしに薄皮を向いてみろ、誰にとっても同情つきない
 自虐の甘味がしたたるほどよ!

 まったくこいつは慨嘆に堪えぬ
 よもや、貴様の手持ちの辞書には
 悔悟の一語はござらぬか
 断頭台のダントンとても
 日没までには落命しよった
 夜の安らぎ――それこそ人民に平等の権利と
 マクシミリアンはマクシたてた
 コルシカ生まれのナリアガリものが
 君主の首にナリカワロウとも
 ああ、首切り役人、その職務が解かれるなどと
 のんきに鎌えてすごすなよ?

 さあ、やれ、一息にやれ! 迅雷の決意と
 シュツルム・ウント・ドランクの熱意で
 昼夜の境に切っ先をすえ、
 一刀のもと、行為と反省をつなぐ通路を、
 樹木と実りにかかる吊り橋を
 通り抜けできぬ状態にしろ。さあ――早く――ただちに――そら!
 だが――ああ、しまった、もう遅い! 犬めが奴の首をくわえて
 食いちぎって行きよったわ。
 なんということ――どうやら種子はばら撒かれるぞ、
 べつの夜の果て、朝日のこちら
 べつの大地の人ごみのうえに
 犬めの糞といっしょにな……



(2020/3/8 Sun.)

       

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