Neetel Inside 文芸新都
表紙

ベル詩集
“朝”

「夜明けの子供たち」


夜明けの子供たち――彼らはいつから
あの東の地平線をかけまわっていたのだろう?
ぶあつい夜の鉄壁をくりぬいて
薄明かりの平野に鳴り物入りでなだれこもうなんて
そんな人騒がせで、あどけない暴挙は
いったい誰のさしがねだろう?

夜明けの子供たち――度肝をぬく角笛のひびきと
空を揺るがす大太鼓のばくはつで
罪のない野兎の眠りをやぶり、若木を乱暴にしならせるつもりの
手に負えない夜明けの銅鑼打ちたち――ほとばしる朝の清流にそって
水のように軽い身ごなしでもって
まばゆく、すばやく、転がってゆく、君ら
怖れも背もなき水夫たち。なけなしの勇気で明日へ漕ぎつける
君らお得意の最上の一手は
いったい誰に教わったの?

涙の重みをその手に握らず
へつらう笑みの皺(しわ)に縁もなく
戸惑うぼくらの脚の樹林のあいだに
目もくらむ音楽のたすきをかけにきた
日差しを背に負う口笛吹きたち――さざめく歌声はステップする鈴
はためく手のひらは絶え間ないタンバリン
吹けばとびちる綿毛のような
やさしい軽さをもつ声を運ぶ
無心な笑みの伝道者たち

「ねえ、冷ましてちょうだいよ、さっき光を飲みこんだ
このほっぺが火照って仕方ないんだ、メロンソーダをちょうだいな
くすぐったい夜風に仕返ししてやるための
音のでかいロケット花火も一緒にね、でないと
ぼくたち、きっとあなたに悪戯してやるからな!」

ところがいつのころからだろう、
あの恥じらう群雲のこざかしい分別が
君らの横顔に影を落とし、作り笑いのよそよそしい響きを
野のこちらがわへ放ったのは?
冬枯れた野原にうずくまる
野兎の不安な夢をやぶるべき
たったひとつの大太鼓すら、今ではまるで嘘みたい

夜明けの子供たち――ぼくらは待った、野兎も待った
待つことに疲れ、眠りこけ、
目覚めてなお空が暗いことを見て取り、しかも
そのための動揺をわかちあえるだけの
ことばも純真さも持ち合わせず

夜明けの子供たち――ぼくらは待った、いつまでも待った
厚顔な空のぶあつい外殻が
その裏側からひな鳥につっつかれ、やがてそこに
金色に輝くひびを走らせるという、高らかな産声の朝が来るのを
沈んだ顔して待ちわびた
かじかむ指をそのままにして
ズボンのほつれも放っぽらかして

だって仕方がないじゃないか!
ぼくらにできることって言ったら、待つより他に何もない
ぼくらにできること、それは吹きすさぶ夜風にひざを屈して
だらしなく両手を地に垂らして、こわばる顔を無理に上向けて
取りつく島もない無数の星座のあいだから
夜明けの子供たち――君らが潜ませたわずかな信号を、
実に一万光年も先からの
おぼろな合図を読み取るくらいなものだった、
「ねえ、お兄さん、しっかりしなよ、
いい歳こいてみっともないよ、
そんなかぼそい吐息じゃ長くもたないよ、
体中の熱がお空へ逃げてくみたいじゃないか
見なよ、あなたのその渇ききった瞳からだって
人知れず泉はわきだすんだ、頬っぺたに小川が筋をつくって
筏(いかだ)遊びにもってこいじゃないか、そこには何を持ち寄ってもいい
何を振り捨ててから来てもいい、結局そのどれもこれもが
海に流され洗われるんだからね。
ねえ、今、あなたの振りまいた塩辛い夜露が
まわりの草花をしっとりさせていることに
気付かないわけじゃないでしょう、そうして
あなたの心は見逃さないでしょう、その一夜かぎりの水滴をすすって
ようやく息を吹き返した一匹のホタルが
明滅しながら飛び上がるさまを、
とぼしい灯りのえがく絵を」

けれども君ら夜明けの子供たちなら
そんな憂悶はなんのその
重たく更ける夜の虚をついて
きっとひょっこり、寝ぼけ眼のぼくらの背中に
また声を掛けに来てくれるかもしれない

もしも本当にそうなるならば
そんな人騒がせで、あどけない振る舞いは
そんな無邪気で、くすぐったいいたずらは
そんな朗らかで、ほほえましい蛮行は
だれにそそのかされたのでもない
きっと神様の入れ知恵さ



(2020/2/21 Fri.)
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Neetsha