「夜に瞼を下ろさぬ者よ」
夜に瞼を下ろさぬ者よ
葉むらのそよぎを聴く者よ
風に祈りを託さぬ者よ
声なき木霊(こだま)を呼ぶ者よ
おまえは眠る、誰より目覚めたその双眸を
燐光のように浮き立たせ
おまえは下る、螺旋の形にねじくれて待つ
暗い悔恨の階梯を……
渦巻く地底湖の中心に向けて
力弱くも思いを投げ入れ、
過ぎ去る時のにがい水流に
疲れきった舌をひたしている
幾千年と喜びを聞かぬ
化石のような耳朶のうらがわ、
寡黙な壁に身をひそめながら
結晶するこの孤独に聞き入る
願いの死骸の横たわる底で
切り取った闇をたずさえつつ
昇る階梯の足どり重い
おまえは瞼を下ろさない
「夜に瞼を下ろさぬ者は
葉むらのそよぎを聴いている
風にその身を預ける者は
果てなき夢路を運ばれる
海に木船を浮かべる者は
星のさざめきに竿を入れ
風の行く先をうらなう者は
心のありかを問いつづける」
(2020/1/26 Sun.)