Neetel Inside 文芸新都
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「夜の水」


煮沸されたよ
夜の水、
滅菌されたのは
ぼくの目だった
ぼくをうかべた
黒い水、
どんな魚を
溺れ死なせた?

麻酔に漬かった
プランクトンが
きのうの晩、だれかを
生み落としたらしい
沼地のそこから
ふきあげる
くさい風にも似た
産声が、
木につりさがった
仔猫のてあしを
生きてるみたいに
ぶらぶらさせる

だれも
あいつがだした紅茶は
飲みたがらない、
ノミタガラナイヨ。
母親の耳たぶを
刻んで
入れているって
ウワサだもん

(赤い水には、
 腸が浮かぶ
 茶色い水には
 尿がまじってる)

この泉の水も
半年前、あの娘たちが
身をなげるまでは
澄んでたものさ。
波ひとつなく、日差しにあふれ
人魚たちだって
目をうるませて、
わざわざ
死を
もとめたりは
しなかったものさ

〈水洗式の
 海馬なんだよ
 汚物といっしょに
 記憶をながす
 つまみをひねれば
 ほらこのとおり、
 きのうの朝日も
 おもいだせない〉

〈水洗式の
 葬儀なんだよ
 汚物といっしょに
 死体をながす
 紐をひっぱりゃ
 ほらこのとおり、
 生きた証も
 みずのあわ……〉

煮沸されたよ
夜の水、
消毒されたのは
ぼくの目だった
ぼくをうかべた
暗い水、
どんなひかりを
溺れ死なせた?



(2020/5/15 Fri..)

       

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