信用出来ない男だと思った。感情的で傲慢。部下には当たり散らすくせに、立場が上の人間には媚び諂う。彼が自分に依頼を持ちかけたときは、猫なで声まで出していた。



 虚言を用いて人を騙し、用済みと判断すれば簡単に人を殺す。義理や温情とも無縁の露悪の性には嫌悪感を感じた。



 しかし、今回の依頼は願ってもないものだった。父の仇を取るべく、五年待った。筋骨を鍛え、内に気を練り、技を磨いてきた。殺しを生業とする一族に生まれ、周りの者からは一族きっての秀才と持て囃され、亡き父からは殺しの為の技術を徹底的に叩き込まれた。



 かつて、自分には双子の姉がいた。姉は自分に比べて病弱で気が小さかった。いつも自分の後ろにくっついていた。時折鬱陶しく感じて、泣かせてしまう事もあったが、彼女は自分の傍から離れる事はなかった。



 そして十二歳の夏。私は姉を殺した。一族における成人の儀で、まず最も仲の良い者と二人一組になるよう命じられ、直後、殺し合うことを強要される。



 病弱な姉は修練用に使うナイフすらまともに扱えず、その手は震えていた。そんな姉を、自分は容赦なく首を刎ねた。



 首は二メートルほど飛び、地に落ちた。悲しいとも思わなかった。自分によく似た姿の影を切って、むしろ達成感のみが残った。



 だが、そんな自分でも、父の死には心を動かさざるを得なかった。父は殺しの術を何でも教えてくれた。自分にとって、それは生きる術だった。



 無口で近寄りがたい父だった。読み書きができず、土を耕すことや飯を作ることもままならない父だった。そんな父が自分に殺しの術を教えたのは、父なりの精一杯の愛情だったのかもしれない。



 父が殺された日から数日、飲食もままならなかった。そんなあるとき、部屋の虚空を見つめていると、一匹の蝿がうなるのを聞いた。



 部屋の中の静寂は、嵐の高まりの間の大気の静寂のようだった。父が死んだことで、幼かった自分もまた死んだ。親の庇を抜け、酷薄の日の下で修羅の道を歩む。人は誰しも、一人で生き一人で死ぬもの。それは、姉の首を刎ねた成人の儀のときですら感じ得ないものだった。



 父は村の外れに埋葬された。墓石どころか、名を示すものは一つもない。遺灰を埋め、土を盛る。戦いに敗れた者は年齢や身分の上下関係なく葬られるのが掟だった。姉と父。二つ並んだ土を横に五年間、修練を続けた。



 父を殺したのは、自分の姉弟子だった。



 ひと月前に村に来て、彼女は父に弟子入りを願った。そのときの彼女の眼差しはよく覚えている。無機質で突き刺さるような目線。それは自分に死を連想させた。



 彼女が危険なのは分かっていた。だが、父は弟子入りを承諾し、彼女に殺しの技術を伝授した。彼女は強かった。年は自分より二、三ほど上ではあったが、並の者が習得に十年かかる術を、僅かひと月で身に付けた。そして修練を終えた頃、彼女は父を殺し、行方を眩ませた。



 彼女の名は「シグレ」。そして今、自分はシグレの姿を見止めている。ビルの屋上に、彼女はいる。彼女ほどの殺し屋ならば、既に自分の気配には気づいているだろう。



 いや、もしくは自分を待っているのか。あと二十歩、あと十五歩。闇の中で黒の忍装束を纏い、ビルの間の跳びながら、必殺の間合いに近づいていく。そして、十歩目に差し掛かったとき、袖の内側から短槍を伸ばすと、大きく跳躍した