首筋に向けての一撃目。そして胸に必殺の二撃目。



 執鬼流短槍術の十八番だった。シグレは身を翻し一撃目を躱すと、間髪入れず繰り出された短槍を蹴り折った。



「お前が来るのを待っていた、ミナモ。父の仇を取りに来たのか。それとも飼い主の依頼か。」

「分かり切ったこと聞くな、シグレ。」



 ミナモは右袖から二本目の短槍を伸ばすと、シグレに狙いを定めるように向けた。



 ミナモが着ている執鬼流の黒い忍装束の裏側には、急所を守る鎖帷子が網のように重ね合わされている。並の刃物では致命傷を負わせることが出来ないのは、シグレもよく理解していた。



「覚悟しろ、シグレ。」



 ミナモは豹の様に跳躍すると、短槍をシグレの胸に目掛けて繰り出した。胸への一撃目が避けられることは分かっている。ミナモは瞬時に左袖から短刀を取り出すと、シグレの首筋目掛けて振り下ろした。



 父から教えられた技だった。最初の二撃を仕損じたのち、相手と向かい合った際に使う、幼い頃より父から教わった執鬼流短槍術秘伝の奥義。



 振り下ろした短刀がシグレの首筋に吸い込まれていくとき、ミナモの左腕が止まった。左脇腹に激痛が走り、思わず短刀が滑り落ちた。



 シグレの右袖から伸びた伸縮式の短槍は、ミナモの左脇の下を刺し貫いていた。

「相手を殺すときは、声を発さずに殺せ。父からそう教わったんじゃないのか。」



 シグレが槍を引き抜くと、傷口から夥しく鮮血が噴出し、ミナモは血の塊を吐いてその場で崩れ落ちた。槍は肺を貫通し、傷は背中にまで達していた。



「私も、お前の父からその技を教えられていた。そして今と同じ様に、お前の父を殺した。」



 ミナモは答えなかった。開いた口から血の混じった泡を吹き出し、目は虚空を向いていた。



 自分は何の為に生きたのか。五年の間、シグレを殺し、仇を討つ為に、全てを拒絶し、心を殺し、心身を鍛え、技を磨き、満を持して機会を得たのではないのか。自分の見積もりは甘かったのか。それとも、相手が桁違いだったのか。



「言い残すことはあるか、ミナモ。」



 姉に会ったら、謝らねばならないだろうか。父に会ったら、叱られるだろうか。自分を産んですぐに死んだ母には、会えるだろうか。微睡の中で、皆が、笑う声がする。



「最低限の情けは掛けてやる。」

シグレが短槍を振り下ろしたとき、ミナモの意識は途絶えた。