三か月の監視期間を終えたゴンゾウが六文組に入ったことを聞いたとき、ライゾウは思いのほか落ち着いていた。想定していた事だった。あの男が簡単に終わるはずがない。近い内に騒乱は必ず起きる。



 キムに一通りの連絡を済ませると、ライゾウはテーブルに一枚の地図を広げた。千寿の複雑に入り組んだ路地や地下の水路が描かれた地図だった。その地図の上に、一つずつ駒やピンを乗せていく。ライゾウなりの戦の仕方だった。大に囚われれば小を見逃し、小に囚われれば大に敗れる。



 戦いは負けない事が最も良いとされるが、今回は必ず勝たなければならない。



 前回はコーポス等の自警団との連携の末、ゴンゾウの逮捕で一応の勝利を収めたが、今回はゴンゾウを仕留める為に策を練る必要があった。



 先週、龍門会のナカムラが殺害された。事務所にいた者の全ては皆、首を刎ねられ、床に並べられていた。ここ最近、キムに追いやられていたとはいえ、龍門会の重鎮として一定の力を持っていたし、十年前と同様にゴンゾウとの戦では戦力の中核に置くつもりだった。だが先手を打たれ、ナカムラは死んだ。



 間違いなく、動いたのは呂角だった。十年前、ライゾウはゴンゾウを討つべく手練れの刺客を幾人も送り込んだが、悉く呂角に血祭に上げられた。銃弾を躱し、握りしめた大方天戟の一閃で幾人もの敵の首を刎ねる。遠目に呂角を見たとき、呂角を何とかせねばゴンゾウを倒すのは不可能だと悟った。



 そんなあるとき、呂角に殺された弟の仇を討ちたいと名乗り出た男がいた。ライゾウは彼の全身に爆薬を括り付け、ゴンゾウと呂角が同時にいる瞬間を狙わせた。結果、計画は成功した。爆風からゴンゾウを庇った呂角は右半身に大火傷を負い、戦線から退いた。



 だが十年後、呂角は再び現れた。手の者によれば、左手で大方天戟を振るらしい。シグレに呂角を討つよう依頼しようにも連絡がつかない。また、ゴンゾウを狙おうにも情報が足りない。近しい者を捕えて情報を得る必要があるが、その駒もまた足りない。



 ライゾウは再び自警団と連携を取ることを考えた。十年前よりも少なくなったとはいえ、コーポスの二代目を始め、千寿には未だ活動を続けている者もいる。今はゴンゾウ派の組を締め付けつつ、自警団との繋がりを強めていくことが急務だった。



 ライゾウが机の鈴を鳴らすと、天井から一つの影が下りてきた。



 灰色の忍装束を纏った金髪の少女だった。目には火のような灯が輝いている。



「お呼びでしょうか。ライゾウ様。」



「命令は二つだ、アカメ。コーポスの素性を探れ。あと、呂角らに目を付けられぬよう六文組の動きを逐一報告しろ。これは十年前、お前の死んだ父が行った仕事だ。」



 アカメはかつてライゾウに仕えた忍の一人娘だった。今年で十八歳となる。十年前、父のマゴロクが呂角に斬られ、ライゾウに技を教え込まれて育った。戦いの腕は並だが、記憶力がよく五感に優れ、足が恐ろしく速い。諜報戦においては抜群の技量を持っていた。



「承知しました。ですが、六文組を探る事は為さらないのですね。」



「お前の父はそれで死んだ。動向を見るだけで十分だ。」



「お心遣い、感謝致します。では、早速行って参ります。」



「待て、命令はもう一つあった。」



 ライゾウは机上のシガーケースから手巻き煙草を取り出すと、先端に火を灯した。



「シグレを探して伝えろ。仕事は山ほどある、とな。」



 ライゾウが白い煙を吐くと、室内を甘い香りが包んだ。