気性は激しくも、公平で寛大な男だった。惻隠の心を持ち、偽りを最も嫌う。
イザヤを従者としてから、導かれるように彼と出会った。
彼の名はアライ・ゲンジロウ。玄龍会の会長であり、裏社会の王であった。
半年前、二十歳になったばかりのゴンゾウは玄龍会の本部でアライと出会った。
イザヤの予言に振り回されつつもその言に従い、薬物の売買を成功させていたゴンゾウだったが、
手違いで玄龍会のシマで取引を行った為、捕われる形でアライの前に立たされた。
だが、ゴンゾウは不思議と落ち着いていた。玄龍会の幹部達が睨み付けている空間で、目の前のアライと視線が交錯したとき、互いに通じるものを感じた。孤独でありながら、魂の救済など微塵も求めない。他者に理解を求めず、確固たる信念で己が道を往く。
ゴンゾウが微笑むと、アライもまた笑みを浮かべる。
やがて、アライが左手を上げると、ゴンゾウは左側の末席に座った。そして今、本部におけるゴンゾウの席はアライのすぐ横にある。
千寿中央の大きなシマを任されたゴンゾウは、与えられた事務所の裏でイザヤと会っていた。
「イザヤよ。天意とは妙なものだな。俺は四年前、食事にすら難儀していたというのにな。」
「お戯れを。本当は、天に確たる意思など無いとご自分は思っていらっしゃるというのに。」
ゴンゾウはふっと笑うと、手に持っていた煙草の先を地面に押し付けた。
「アライは面白い奴だぞ。公平かつ寛大。怒らせると残虐だが狡猾さはない。非道な行いもするが逡巡はない。」
「確かに魅力的な男でしょう。ですが、貴方の星は更に上を往きます。」
「思いあがるな、イザヤ。俺は貴様の指し示す道をただ歩くだけの人間ではないぞ。」
「勿論です。私はあくまでも道をお伝えするだけ。道を決めるのは貴方で御座います。」
イザヤに恐縮している様子はなかった。むしろ、遠慮や謙遜とは程遠い。物怖じせず妙な詩を吟じ、時には酒を飲みながら歓喜の唄を謡う。だが、ゴンゾウはこの男を嫌いではなかった。
「俺はやがてアライを殺すだろう。千寿を手にし、混沌とした闇を照らす星となろう。」
「私には見えます。貴方の闘争が民を動かし、万来の喝采を持って迎え入れるでしょう。」
ゴンゾウは満足げに頷くと、懐から酒瓶を取り出し、イザヤに向けて放った。
「俺の道を祝う詩を吟じよ。」
「承りました。」