Neetel Inside ニートノベル
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 生きる事の最大の障害は、期待を持つという事である。それは明日に依存して、今日を失う事になるからだ。また、過去を忘れ、現在を疎かにし、未来を恐れる者の生涯は短く、悩み事が多い。



 ゴンゾウにとって、現在とはただ凡庸に生きる時間ではなかった。



 己の身命の限りを尽くす場であり、己の意志を信じるまま遮二無二進む事だった。



 アライゲンジロウに取り立てられてからというものの、ゴンゾウは常にその右腕として働いた。時折、僻む者や羨む者から讒言を受ける事もあったが、アライはゴンゾウを重用し続けた。



 ゴンゾウはアライに対し悪い感情を抱いていなかった。それどころか、ある種の親近感を抱く事もあった。かつての自分であれば、一生その片腕として生きることを望んだかもしれない。だが、それは己の意志とは反するものとなっていた。



 千寿の王。イザヤにそう告げられたとき、ゴンゾウの魂は大地が鳴動するような感覚に襲われた。黒光りの千年の都を、真に生まれ変わらせる。父の果たせなかった夢を越え、その果てに崇高な王となる。



 その為に、アライは踏み越えるべき相手だった。



 言葉を失い、奴隷同然に人買いに連れてこられていた呂角を買い取ったとき、その時間は動き出した。天はゴンゾウに武運を与えた。



 そして、イザヤの予言に導かれるように、ゴンゾウはアライを抹殺した。

巷に流行する信仰宗教に対する方策を検討するという名目で、ゴンゾウは呂角を伴って玄龍会の本部に出向いた。



 騙し討ちのような手段であったが、最も犠牲の少ない方法だった。



 ゴンゾウは会長室に通されると、一番奥の椅子に座るアライと目が合った。



 いつもと変わらぬ威圧感を放ちながら、光る眼を向けてくるアライに、ゴンゾウは蟀谷の辺りに一滴の汗を垂らした。



「ゴンゾウ。お前らしくない手段に出たな。」



 一瞬にして見抜かれた。ゴンゾウは頭の後ろがざわざわと冷えてくる感覚に襲われた。



「狡猾であることを嘲るなら俺を罵るといい。天が俺を選んだだけの事だ。」



 アライは左腕を真横に上げると、十人ほどのアライの側近たちが一斉に銃を抜いた。



 その瞬間、呂角の大方天戟が一閃した。



 側近達の首は血しぶきと共に床に転がった。床や壁には血が飛び散り、一瞬にして凄惨な場となった。



 ゴンゾウはアライを見下ろしながら、その額に拳銃を突き付けていた。



 アライは微笑んでいた。まるでゴンゾウが自分の跡を継ぐ事を望んでいたかのように、その顔は満足げに見えた。



「アライゲンジロウ。お前の一睡の夢は此処に終わる。これより始まる我が闘争を、地獄より見ているがいい。」



「俺を殺すのだ。雄々しく生きろ、ゴンゾウ。」



 ゴンゾウは引き金を引いた。



 銃声と共に脳が弾け飛び、まるで糸が切れた人形のようにアライは倒れた。



 王の死。ゴンゾウは一瞬の感傷を覚えたが、それもすぐに冷めた。



 アライゲンジロウは千寿の王に相応しい男だった。



 だが今は自分が踏み越えた男に過ぎない。



「呂角、これよりは修羅の道となろう。俺と共に歩めるか?」



「御意。」



 呂角は血まみれの床に膝を付くと、拱手をしつつ深々と頭を垂れた。

       

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