Neetel Inside ニートノベル
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 千寿の王の片腕であり、金剛不壊の守護神。片腕でありながら天下無双の武人。呂角の名前を聞いたとき、心が滾った。ただ頂点を目指し、この世で最も強い者になる為に修練を続けてきた。幼い頃に高名な武術家に拾われて二天豹爪術を習い、二本の刀を振るえばいかなる相手にも負けなしだった。



 周囲からは百年に一人の天才と持て囃されたが、それに感けることなく腕を磨いてきた。身体に流れる気の流れを自在にし、肉体は柳の如く柔らかい。体術や隠密の術も身につけ、それらを極めてきた。それでも、まだ十八歳で無名の自分が呂角に挑める機会を得られるとは考えていなかった。



 数週間前、名を売る事を目的に龍門会のキム・ジュオンに接触した。彼は何者かに怯え、焦燥しきっていた。一通りの技を披露し仕官の旨を伝えると、二つ返事で了承された。



 彼が怯えていた相手とは呂角だった。襲撃に遭い、幹部を大勢殺され、自分もまた命からがら逃げ出したという。仕えて数日と経たないうちに、キムは自分に呂角を殺す事を命じた。



 自分もまた二つ返事で了承した。名を売るには、これ以上の相手はいない。



 そして、実行の夜がきた。



 黒の忍び装束に着替え、腰には二本の愛刀を差し、準備を万端にした。迎えに来たのはアカメという名の間者で、年齢は自分とそれほど変わらなそうな女性だった。



 簡潔な説明を受け、呂角が潜むというビルの前まで案内された。一見、何処にでもあるような商社ビルで、守衛すら見当たらない。窓からはぼんやりとした明かりが漏れ、外から見る限り特に警戒している様子は見当たらない。



 漸く、名を立てる事が出来る。後頭部にぞわぞわとした感覚を覚え、武者震いを必死に抑えた。



「アカメと言ったな。呂角を討てば、私はどれほどの名誉を得られる。」



「そんな事を考えている暇があったら集中しろ。殺しの間で功名心は邪魔になる。勝てないと思ったら撤退しろ。ライゾウ様の命で、私がお前をサポートする。」



 一瞬、感じの悪い者だと思ったが、彼女なりの気遣いなのかもしれない。



「ビルの敷地内は監視カメラだらけだ。何処に罠があるかも分からん。どうやって侵入するかは、お前の隠密の術に任せるそうだ。」



 アカメはそう言うと、風の様な速さで何処かへ消え去った。



 春にしては冷たく感じる風が吹く中、一人になった。



 これより呂角を討ち、伝説を始める。



「二天豹爪流、スイレン、参る。」



 腰に差した二本の愛刀の鍔に指をかけ、建物に向かって駆け出した。

       

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