Neetel Inside ニートノベル
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 今まさに千年の都が希望と光の冠を戴くときだった。崇高な眉目の上に、敬愛と賞賛を浴びながら、再び王冠は戴かれる事となった。自由を勝ち取る平等の精神は、王国を永く、平和に治める。自由を勝ち取り、真理を保ち、王国は真に平穏となる。希望と栄光の王国は自由の母に包まれ、民に安らぎを与え、広く、より広く光は広がっていく。王の名声もまた大海原と同じ位に広まり、その賞賛を気にかけない勇気、厳格で静かな勇気は、夢で満足するような偽りの喜びではなく、真の喜びを民に与えていく。



 壇上に立った、かつての千年の都の王は、立ち並ぶカメラの前で静かに話し始めた。







「まずは、一昨日の火災で被害に遭われた方たちに、哀悼の意を表します。忌まわしく、痛ましい事件でした。炎は千寿の三分の一を焼き、多くの人々の命を奪いました。親しい友人や、愛する者を失った悲しみは、消える事はありません。ですが、人間はそれを乗り越え、再び立ち上がる事が出来ます。希望を捨ててはいけません。胸に勇気を秘め、明日を生きる精神を保たねばなりません。私もまた、悲しみを堪え、今日まで生きてきました。私の父は高潔な人間でした。叩き伏せられ、傷を負ってもなお、諦めずに立ち上がる精神を持っていました。ですが、私が十歳の頃、父は死にました。貧乏な家庭に生まれ、職工として生きてきた父は、千寿を良くするべく市長選挙に立候補しましたが、闇に生きる者達に命を奪われました。

 そして、今回もまた、闇に生きる者達によって、千寿は破壊されました。一昨日に起きた火災は、それらの者達によって行われた事なのです。実行犯はイイダ・スイレンという殺し屋で、千寿を牛耳る土地買収マフィア、龍門会の雇った者です。防犯カメラには、その者が建物に不法に侵入していくが映されています。龍門会は、今回の火災に乗じて、千寿の土地を買収していく事が目的なのです。」

 王は静かに息を吐いた。

「私の名はワタリ・ゴンゾウ。かつては私も闇の勢力として悪事を働いてきました。そして、十年間投獄されました。私は罪を償っている期間に、高潔だった亡き父を思い出し、自分を深く恥じました。そして、父の言葉が私を変えたのです。市長選に立候補を決めた父が、私にかけた言葉です。

父は、誰かが行動を始めなければならない。誰かが其の礎にならなくてはいけない。たとえ捨て石となろうとも、私はそれを成し遂げたい、と。

 私は父の精神を受け継ごうと考えました。例え父と同じ末路を辿ろうとも、千寿を良くする努力を惜しみません。そして、私は闇に生きる者達を憎みます。彼らによって市民は命を脅かされ、貧しくなり、千寿に生きる十分の一は職を転々とし、粗末な暮らしをせざるを得なく、一部は危険な路上で住む事を余儀なくされています。行政は闇の勢力と手を結び、彼らを救おうともしない。よって、民衆の信頼は揺らぎ、全ての希望と自信を失っています。このような状況の中で、千寿は少しずつ崩壊への道を歩みつつあります。闇の勢力は千寿の全てを破壊しました。そして今、ようやく彼ら自身を破壊するときが来たのです。大事な事は、彼らに同調するのではなく、彼らと戦い、千寿を崩壊する危機から守る事なのです。従って、いま存在する闇の勢力を消滅させることが、我々の責務であるのです。彼らはこれまで、千寿の発展は自分達の功績であると説き、市民を洗脳させてきました。ですが、それは誤りです。彼らは市民から財産を搾取し、市民の生活の崩壊を招いています。千寿が崩壊の危機に瀕しているという状況の中にあって、行政もそれに対応ができていない今日において、立ち上がるべきは我々なのです。重要なのは、悪を打ち倒すべく、我々が共有している理念や価値観なのです。共に団結し、苦しみを共にすることだけが、千寿の明るい未来への唯一の道であり、さもなくば、絶望しかありません。我々の堅い団結によって、行動を共にする他の者への尊敬や労りの念も育まれ、お互いへの理解も深まっていきます。この様に育まれてきた精神により、我々全員が共に前進をするべきなのです。全ての市民が、同じ目的に向かい、運命を共にできる共同体をもう一度この千寿に誕生させる事こそが私の願いです。私はこの共同体を信じています。私はこの共同体のために戦います。そして必要であれば、私はこの共同体を守るため、魂をこの共同体に捧げる覚悟もあります。

 もし責務を全うすることができれば、その努力により、誇り高き自由な千寿を取り戻すことがいつの日か必ずできるはずです。そんな未来の実現のために、私と共に立ち上がり、悪しき者達に対して、毅然と戦おうではありませんか!」



 王は話し終えると、壇上から去っていった。







                      【騒乱の章 完】

       

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