シズカが拷問で死に、ソウジは行方が知れない。チヅルとイシンは役目を全うして死んだ。そのほか、六文組の再起を誓った大勢の組員が死んだ。
そして、自分とジンパチが残った。
死人が出る度にゴンゾウ傘下の組から人数が補充され、数自体は変わっていないものの、士気の低さが目につく。しかし何より、六文組の未来を担うはずだった若い者達が命を散らし、先の短い自分達が生きている事が、身を裂かれる様に甚い。
新組長となってから戦略設計や人事決定、物資管理などに忙殺されていた。だが、休んではいられなかった。机に座っている間、今までに命を散らした者達の顔が頭に浮かんだ。日に日にそれらが多くなり、自分を突き動かす。
止まるな。彼らの分まで戦え。
自分に言い聞かせる度に、沸々と闘志が沸き上がってくる。
ジンパチには窶れたと言われたが、内なる炎の勢いは強く滾っている。
「サブロウよ、茶を煎れてきたぞ。あと、羊羹も。」
サブロウが顔を上げると、白い髭を伸ばしたジンパチが顔を綻ばせていた。
「すまない。あと一枚を書き終えたら食べる。」
「お主の一枚は百枚だからのう。」
ジンパチは椅子に腰を下ろすと、湯気の立っている煎れ立ての緑茶に口を付けた。
「そちらはどうだ? ジンパチ。連中は物になりそうか?」
「いや、奴らは身体ばかり大きくて使い物にならんわい。すっかり勝ち馬に乗ったつもりで浮かれておる。」
「浮かれている、か。死んでいった者達が見たら怒るだろうな。」
自分もまた怒っている。
新しく入って来た者達だけではない。自分に対しても、大切な者達の犠牲の上に成り立つ現在の六文組に対しても、やり場のない忸怩さを感じている。
「なあジンパチ、本当にこれで良かったのだろうか。死んだ先代や、チヅルやシズカの様に命を投げ出した組員達は、本当に今の六文組を望んでいたのか?」
「わしにも分からん。だが、死んだ者が冥府より戻る事はない。奴らが投げ出した命を、無駄にする事だけはしてはならん。」
「分かっている。それでも、俺は時折聞こえるのだ。雌伏して時の至るを待ち、遂に命を燃やし尽くした彼らの声が、意志が。」
「わしらは失くし過ぎたのだ。今は休め、サブロウ。」
ジンパチは眉を顰めると、諭す様な目線を向けてきた。
危うい、と思っているのかもしれない。
確かに多くを失くした。新組長として自分を顧みず働いたつもりだった。だが、後ろを振り返れば、付いてきた者達は死に、自分は生き残り、今の六文組がある。
「そうだな、少し休む。また一から始めよう。」
「うむ、六文組はまだ残っておる。お主の戦いの先は、まだまだ長い。」
ジンパチは満足げに頷いた。