八雲立つ。
雲が湧き出る千年の都に、八重垣を巡らすように、雲が立ち昇った。
降り、降らず、定めなき時雨が、季の移り変わりを都に伝えた。
雫は葉を色付かせ、やがて、それを散らす。
湿りは水墨の香りを漂わせ、金梨地の漆器の気品を放つ。
いずれ、薄墨の寒い雲に灯が差し込み、止む感傷に追われた。
あの影は、渡り鳥。
遠ければ遠いほど空は青く映え、濡れた都の地に、一羽が影を落とす。
あの影は、渡り鳥。
遠い晩景の渡り鳥が旅人の姿となり、透明な青空を超えていった。