混沌

 また私が診察室に呼ばれた。回診の日だろうか・・その日、初めて見る女性の医者だった。
焦点が合ってないような…、ちょっと不思議な眼差しをした若い女性だ。
泣きながら喋る私の話を聞いて「かわいそうだなーっ、アハッ!」・・・「かわいそーだなぁ〜、アハハハーっ!!」と目を合わせることなく楽しそうに笑っていた。
この時はそんなに不快に感じなかったが・・、今思うとあの女性は本当に医者なのかなぁ??
・・・この日も問診だけされて部屋へ帰った。
 
 気づくと、さっきの女性のお医者さんが病室に入っていて、他の患者さんたちに聴診器をあてて周っていた。
こっちにも周ってくるのかなーと思ったが、私は診察室の問診だけでいいのか、私だけ触診みたいな診察には来なかった。
この女医さんの診察を受ける患者さんたちの様子はみんなリラックスしていて、終始室内のムードが良かった。顔なじみなのか・・、いつも彼女がここへ回診に来てるのかな・・・
 鉄格子の中は患者、職員含めて全て女性だった。入り口近くの診察室に男性医師が来たりする事はあったが、それより奥に入る所は見たことがない。
病室内に診察に入るのは女性の医者だけだった。


 廊下にあった予定の書いた黒板だが、日にちが正確に書き換えられていない。
入院初日、◯月◯日火曜日 この日はあっていた。就寝した翌朝、ちゃんと日にちは進んでいた。水曜日と・・。一旦、木曜日まで進んだが、また水曜日に戻っている日があった。
その後この黒板の日付は私がここから出されるまでずっと水曜日のままだった。
 何か仕組まれている…私を試す?だか、騙す…、みたいな・・・良からぬ策略を練られているように病院に疑心暗鬼になった。

「なんか違うみたいよー、トイレも自分でいけるしー」ナースセンター内からスタッフの電話している声が聞こえてくる時があった。
「もうこっちもいっぱいなのよねぇ〜」とか・・・前者の発言は私のことかなぁと思った。
 閉鎖病棟内での私の発想が奇妙だった。幻覚というか・・・・・・・・。
知り合いが乗ってくる飛行機が墜落してしまうーーとか、世界恐慌が起きて銀行周辺がパニックになるとかーー・・・
実在の人物や街の風景を絡めながら妄想というか、予知みたいなフシギな精神感覚・・・・短時間のうちに浮かんでは消え、を繰り返した。
悪い未来に意識を支配されている間は怖くて仕方ない。迫り来る焦燥感に、ただただじっと耐え続けるだけだった。

 転じて、妙に楽しくなってくる時もある。
「うんこ出たらおしえてね」看護師にそう言われていたので、排便があるとすぐにに言いに行った。
「うんこ出たよー」     「うんこ出たよーうんこ出たよー」「うんこ出たよー」   
    「うんこ出たよー」   「うんこ出たよー」     「うんこ出たうんこ出た」             「うんこ出たよー」   
         「うんこ出たよー」 ・・・・・・・・
看護師だけでなく、廊下や部屋中にいる人、会う人皆に言って回った。“うんこ”って言うのが楽しくて仕方がない。
はい。はい。看護師が言うたび笑いながら返事をした。患者のみなさんも笑う。皆が楽しそうでますます楽しくなってくる。よくウケるので何度も言う。
「うんこ出たよー!」
sage