Neetel Inside 文芸新都
表紙

脳内麻薬が氾濫したら・・・
記憶の欠落

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 閉鎖病棟の中で、気が付くと服が変わっていたことがあった。自分の服が、である。着替えた覚えは微塵もない。
コートはリュックを没収された時に一緒に持って行かれたのを覚えているが、服は初日に着ていたものでずっと過ごしていた。が、ある瞬間・ 
グレーのスエット上下を着ている。自分が持っている服でもなかった。
???・・・!?一瞬の放心の後、びっくりした。というか、ショックだった。
スエットを着ているのに気がついたのは立った状態であったからだ。気絶とか、眠っていて目が覚めたら…って訳でもない。
スエットになる前の最後の記憶も思い出せない・・・。
記憶喪失だ・・・と、理解した。こんなことは初めてだと思った。が、それは病院に連れてこられる以前から度々起こっていたことのようなのだ。
あの、寝てたわけじゃないのにフッと目覚めるカンジがしてたのは、記憶が所どころ抜け落ちているものだった。
記憶を失っている間、自分は何をしているのだろうか・・・。

     

「多治見さん、診察室に入って」ある日の日中、看護師にそう言われた。
 体のしびれが残っていたがかなり回復し、普通の速度で歩けるようにもなっていた。 
視力は病前に比べるとかなり落ちているようだが、ひどかった時よりかは、ずっと見える。
 閉鎖エリア内の診察室に行くと、そこにはあの男性医師と旦那が座っていた。私も旦那の隣に座らされる。
医師と旦那が会話をしていた。序盤は意味がつかめなくて、しゃべっていた内容を思い出せない。
覚えているのは旦那の「連れて帰ります」と医者の「大丈夫ですか」のやり取りの繰り返し部分だ。
旦那がやたらとアツく「連れて帰りますっ!」医者がためらいがちに「…大丈夫ですか?」
旦那「連れて帰りますっ!!」
医者「ほんとに大丈夫ですか・・・?」
旦那「連れて帰りますっ!!!」
だんだん強い口調となりながら、医者に迫っていた。
何をそんなに怒ってるんだろう…と、私は不思議に思いながら眺めていた。

     

 看護師に促されるまま閉鎖病棟を出る準備に。医者は「ほんっっとに大丈夫ですか?」と繰り返していたが、旦那の気迫に押されたのだろうかー
じゃあ…ということになったらしい・・・・・・・・
「病室の自分の荷物(洗面器に、ブラシやら)を全部持って」部屋に戻るとすぐ看護師にそう指示された。
言われたまま動く。「これも持ってくのよ」使いかけのチリ紙だ。まだ半分は残っている。この部屋に入ってから見かけなくなっていた私の靴がどこからか知らないが出てきた。履くように言われる。鉄格子の扉に向かいかけて「あ、これも」と、ここで暮らす間、廊下で履いてたスリッパも持たされた。これは自宅にあったもので“多治見”と記名がしてある。
外用の靴を履かされ、私物をスリッパごと持たされててもまだ私はピンときていなかった。
“檻”の外に出られることに・・・。

       

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多治見リョー 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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