Neetel Inside 文芸新都
表紙

要するに短い話なんだよ
冷めたピザは不味い

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「他の侵犯を許さない、究極の到達点。二つのマテリアルから成る二つの境界は、新たな一つを生み出すに到る。在るが故に存在が確立した其を、人は絶対領域と呼ぶ」



アブソルティリィ・テリトリー 最終話 「究極の到達点」



 深く暗い色を思わせる時間。全てが停滞したかと錯覚させるほどまでに静まり返った場所。円形に囚われた世界の中で、唯一つ、月光のみが刺すような光を地上を照らす。
 学園。日中とのギャップを感じずにはいられない、不気味な雰囲気を放っているその校舎の傍、石灰で描かれたトラックが白く光るグラウンド。そこに二つの人影。
「あらゆる絶対《アブソル》を極めたこの俺に、まさか抵抗するとでも言うのか。……有り得ん。貴様が持つ絶対は“絶対領域”、その一つ。万に一つの勝ち目すら、神は与えぬぞッ!」
「それでも、あたしは勝たなくちゃいけないの。……ここに辿り着くまで、たくさんの人が犠牲になった。俺先生、利賀島君、アルちゃん、ドルゲデルクトル校長……みんなの為にも、あたしはここで勝たなくちゃならない!!」
 黒いマントをなびかせるは幼き魔王。されど魔王、無量大数に連なる事象に於いての“絶対”を従える者。法則に縛られた僕達私達は、法則内の絶対に敵う術を持たない。しかし、その魔王を強い意思が篭った瞳で睨む少女。それは自身が相手に勝っていると確信しているのか、それとも自棄になっているのか。だが、見ている者に期待の念を抱かせるように不敵な笑みを浮かべる少女は、中々どうして、劣っているつもりはないらしい。
「利賀島君の邪気眼から始まってしまったこの戦い、たとえ中二病と罵られようとも、あたしは前に進んできた! もう止まるわけにはいかないッ! 魔王ダヴィドレオーン、貴方を、ここで倒すッ!!」
「一個の人間如きが、俺に挑むか。ならばその思い上がり、全ての法則、その原点から、否定してくれるわ――ッ!」
 二人の闘気が頂点に達し、同時に眩い光が天からの月光を跳ね返す。――発生源は少女の足。ソックスとスカートの間、そこに生じる“絶対領域”、そこから、何かが溢れる。
「ただ光るだけの絶対が、ほざくなァー!!」
 幼き魔王の掌に球体が生まれる。水素を“存在足らしめる”程までに収束、圧縮、放出を可能とする“絶対水界”。
「雲水が如く漂う水、ニンゲン如きが敵うと思うなよ」
 不意に圧縮された野球ボール大の水球が、ビー玉くらいの大きさに縮み、女子が瞬きした瞬間、“放出”された。
 ただ一度きりの“なぎ払い”。一定以上の高度を持つ物質を加工する際に使われるウォーターカッター、その、人間ならば痛みを感じる前に両断できるほどの“水”。
 光を辺りに乱射させながら、少女は間一髪で跳ぶことにより避ける。
「甘いッ!」
 小さくなった水球、そこから伸びていた一筋の“水”。それとは別に、もう一本、“水が”少女に向かって放出された。
「あ、うっ」
 そのまま薙ぎ払われていたら、少女の体は二つに別たれていたことだろう。見事に脇腹を貫通した水は、幻想的な細かい光を空中に映しながら消えてゆく。同時に、痛みによって受身が取れず地面に落ちる少女。
「がっ……げほ、ぐっ」
「諦めろ人間。確かに人間がどのような形であれ“絶対”に辿り着く、その点は評価してやる。だが、貴様の到達した、唯一つの絶対では俺を倒すことは出来ない。今ならば命までは取らん、ここで止まっておけ」
「――――それでも、“絶対”。あたしが辿り着いたのは、“絶対”なのよ……!」
 脇腹を押さえながら、滴る血で地面を赤く染めながら、魔王を見つめながら、少女は立つ。依然と収まる事のない眩い光は、二人を照らし続ける。
「見せてあげる、魔王。このあたし、生涯で“ただの一度も”発現させたことのない“絶対領域”を……ッ!」
 ――光が、漏れる。
 ソックスとスカートの間に限定されていた光が、徐々にその光の強さを増してゆき、不意に、止まる。
「絶対領域……領域……まさか。女、貴様、門《ゲート》を出すつもりかッ!?」
「お察しのいいことで。そう、あたしは出すわ! この身から出るは、ありとあらゆる境界と境界とを繋ぐ門。絶対領域こそ、絶対不可侵にして万物を繋ぐダイバージェンスッ! 如何に魔王と言えども、メタ――高次の存在に敵うわけがない。あたしは、“それ”を呼び出すッ!」
 収まった光が、まるで瞬きによる一瞬だと言わんばかりに、再度輝き始める。直後、少女の目前に巨大な門が姿を現した。
 大体にして八メートル。目前にあるからこそ、隣で静かに建つ校舎よりも巨大に見えてしまうそれが、軋んだ音を鳴らしながら、扉をゆっくりと開く。
「出てきなさい、この物語の語り部、メタ視点で文を綴る“神”よ……!」
「神……だと……!?」
 開いた扉の奥には何も有らず。無が支配する最奥で、少女の言葉に呼応するように光が生まれる。
 ――気付けば扉は消滅し、対峙する二人の中心に一人の人物が立っていた。
俺「え、ここどこ。俺ピザ食ってたんだけど。いやまじでここどこ。ピザ冷めるんだけど。冷めたチーズって不味いんだけど。いやほんとまじでここどこだよ」
「そ、そんな……こんな普通の人間が、高次の存在……?」
「ワハハハハッ! 当てが外れたな女! このようなニンゲンが一人や二人増えたところで、俺の敵ではないぞッ!」
俺「なに、なんなの。お前らナンなの。状況説明してくれよ。産業で」
「……あたしは、高次の存在を召喚した。そして現れた者が貴方。そして、今あたしは色々なことを悩みながら目の前にいる魔王と戦っているところ」
俺「え? なに? 魔王? この優男っぽい顔した奴が魔王? まじで? 俺の中じゃヒゲ面のオヤジっぽい設定だったんだけど。勝手に改変すんじゃねーよ」
「!? まさか、貴様が俺の造物主だというのか!?」
俺「うん。そういや思い出したわ、俺こんな話書いてたね。すげー忘れてた。ピザ食ってた。そうだよピザだよ、早く食わないといけないから、もう終わらせるか」
「ま、待ってよ! もう終わらせるって、そんな簡単に言わないで! ここに来るまでに沢山の犠牲が……」
俺「いや、そもそもこれ一発ネタだし。設定もクソもないし。そんなわけでもうお開きね。ご苦労様ご苦労様、家に帰っていいよみんな」
 そう言い残すと、造物主は姿を消した。

 その後少女と魔王はなんやかんやと和解して、死んだ人も生き返って、作者は冷めたままのピザを食べましたとさ。ちゃんちゃん。

       

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