Neetel Inside 文芸新都
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要するに短い話なんだよ
会話

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「クジラ」
「へ?」
「シロナガスクジラ」
「は? なに?」
「シロナガスクジラってやばくね。大きすぎね。地球に残された最後の巨大生物だよ」
「だからなんでクジラ?」
「いや、なんでもなにもクジラやべえじゃん」
「会話する気ある?」
「俺に言わせてみればそっちこそ会話する気あるのかよ。繋げろよ。シロナガスクジラから繋げろよ」
「繋げろって言われてもねえ。ああ、クジラと言えば、最近クジラの肉ってスーパーに並ばないよね」
「クジラすげえっつってんのに、いきなりそれを食う話に繋げるのかよ。ほんとマジ、世が世ならオージーに嬲り殺されてますよ」
「世が世じゃないから安心だわね。で、クジラの肉が無性に食べたくなったんだけど、どうやったら食べられると思う?」
「あー、スーパーじゃ今後並ぶことは無いと思うけど、それっぽい飯屋に行ったら食えるらしいな。というか何ヶ月か前に食ったわ。クジラの舌を“さえずり”とかなんとかいったものを。うまかった」
「なんだかんだで食ってるんじゃないの。性質悪い」
「いやまあ、ね。人間とは斯くも愚かしいというかなんというか。この調子でステラー大海牛のようにクジラも絶滅していくんだわ」
「なにそれ。ステラーとかなにそれ」
「何百年か前に絶滅したでけえアザラシみてえなやつだよ。マジ8メートルもあるアザラシとか可愛いなんて言ってる場合じゃないぜ。そんなのが海岸で転がってたら思わず登るわ」
「確かに気持ちはわかるけど、それはともかくなんで絶滅したの? なんか強そうなんだけど」
「逆だよ逆、弱すぎたんだよ。転がってるところを捕食されたり狩られたりしたんだって」
「繁殖出来ていたのが不思議でならないわ……」
「止めを刺したのは人間だっていう話なんだよ。眉唾な感じはするけど、絶滅までの話を調べると中々楽しい感じだぜ」
「ああ、それで人間はおろかとか言う話になるわけね」
「そうそう。まあ、でかい生き物が好きなのもあるわ。でかいやつは軒並み絶滅していたり、危機だったりするからなあ」
「でかいと言えばキリンはどうなのよキリンは。あれも相当でかいでしょ。絶滅の危機って話は聞かないけど」
「あれはだめだわ。長くてもダメなんだよ。長いじゃダメだ、でかいじゃなきゃダメだ」
「基準がよくわからないわ」
「わかんねえかなあ、こう、密度的な何かだよ。進化の過程で云々とか言われるよりも、俺は意味もなく巨大なやつを選ぶね」
「進化ねえ。そういえば、大きい生物が小さくなるってのはよく見るけど、小さいものが大きくなるってのは見ないわね。そういう風に進化してきた生き物っていないの?」
「どうなんだろうなあ。そこまで詳しくはないからよくわからんけど、大昔に限って言えばあるんじゃねえの? それこそプランクトンから人間まで進化してるってんだから驚きだろ」
「そうじゃなくて、もっと近い感じの進化よ」
「ぬーん。最近じゃあ無いかなあ。古生代なんかじゃすげえ進化しまくりなんだけどね」
「古生代ってなにさ」
「え、あ、カンブリア紀とかわかりますか? 大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ。ただちょっと科学的な歴史は苦手だからおぼえてないうんぬんぬん」
「そういうことにしとこう。と、カンブリア紀の頃はかの有名なアノマロカリスさんが肉食動物の台頭に立っていた時代だな」
「アノマロなんちゃらってのは、あのヒレがいっぱい付いてて目が飛び出てるやつだよね? それくらいはわかるよ」
「じゃあ大きさはどれくらいだったか知ってるかね」
「ええと、昔だからとんでもなく大きいんじゃないの? 3メートルくらい?」
「ところがどっこい60センチくらいしかねえんだわ。実はでかくない」
「へー。で、それが大きく進化するわけね」
「ところがどっこいアノマロカリスさんはその頃一番強かったはずなのに絶滅しちゃうんだわ。今も正確な原因はわからないとかなんとか」
「じゃあなにが進化するの。なんでアノマロカリスとか出したの」
「そこはほら、造形美的に考えて、カンブリア紀を語るならアノマロカリスさんは外せないというかなんというか」
「きもいだけなんだけど」
「きもいとか言うなよ」
「で、なにが進化すんの」
「結局はピカイヤとかいう4センチ程度のナメクジみたいな奴が生き残って進化するんだわ」
「ナメクジって……ほんときもいのばっかしかいないわけね」
「きもいとか言うなよ。ナメクジっぽくても俺たちの祖先だぞ。魚の本元だぞ。馬鹿にすんなよ。進化したら8メートルくらいの魚に化けるぞ。まじこええよ」
「祖先なんだ。進化論を疑いたくなってきたわね。まだいきなり降って沸いたとか言われたほうが信じられるレベル」
「ダーウィンさんなめんなよ。人は楽園からやってきたとか素で信じてる人がいる中で猿から進化したとか脳味噌沸いたようなことを言うような人なんだぞ。マジぱねえよ」
「神様もそうだけど、進化論も同じようなもんじゃないの」
「日本人はこれだからいけねえ」
「斜に構えすぎでしょ。じゃあ話を少し変えるけど、昔はいいとして、この先人間って進化すんの?」
「あー、どうだろ。身体的な構造で言えばちょっとやそっとじゃ進化って言えるほど変わんないんじゃねえかな。なんだかんだで人間ってオールマイティー過ぎるし。自然淘汰的な意味で変わるべき箇所はほとんどねえと思うわ」
「それはそれでつまんないね。こう、超能力が使えるようになったりとかしないのかしらね」
「さすがにそれはねえわ。SFにもなんねえわ。でも、人間って知性と感情があったりするじゃん。だから身体的には変わらなくても、精神的に変わる可能性ってのは十分にありえるんじゃねえかな」
「例えば?」
「そうだなー、最近は色々と機械化されたり便利になったりしてるけど、その所為で人間味が伝わらない的なことを聞いたことねえ?」
「うーん。よくわかんない」
「例えば携帯が普及し始めて人と会う機会が減ったとか、ああ、ごめん、自分で話の腰を折るけどさ」
「なにさ」
「やけに遅くね? 注文来るの。暇潰しに始めたのにもう30分も経ってるんだけど」
「そういえばそうだね」
「それで話は戻ってクジラなんだけどさ」
「そこからか!」


       

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