Neetel Inside 文芸新都
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要するに短い話なんだよ
『それ故に俺はラーメンとマック、どちらにするか悩む』

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「ラーメン食うかマックにするか悩んでいる、どっちが良いか」
「俺的にはマック」
「じゃあマックにするよ」
 友人からの電話。いつも通りの半ひきこもり状態でPCのディスプレイに目を向けながら、俺は適当にそう答えた。
 正直、他人の飯なんてどうでもいい。そんな暗い感情を抱きながら、携帯の終話ボタンに指を伸ばす。 
「じゃあな」
 ――それが、その友人との最後の会話だった。



 カタカタカタと、六畳の自室にキーボードを叩く音が響く。天井に設けられた蛍光灯は点いておらず、PCのディスプレイから溢れる光が部屋をおぼろげに照らしている。
 そんな中、俺は黙々とタイピングしている。――わろた。氏ね。自重。常考。>>1。薄ら笑いを浮かべながら掛け布団に包まり、無言でキーを叩き続ける様は、自分で考えても不気味なものなんだろう。
「本スレが殺伐としている。……しかし甲子園のお陰で沈静化したようだな」
 独り言。もちろん誰かに向けて放った言葉では なく、無意識の内に漏れてしまった言葉。その、自分の声を聞いて、急に現実へ引き戻される。
 不意に俺の携帯が震える。タイミングがいいと言えばいいのか、俺は面倒くさがりながらも携帯の通話ボタンを押した。
「はい」
「もしもし、警察の者ですが」



 唐突な警察からの電話。履歴を見れば、友人の名前が表示されている。それはつまり、警察が友人の携帯を持っているということ。……何故。まったく情報が無い俺が自問自答したところで答えなど出るわけも無く。
 白が目立つこの場所、薄い色で統一された空間に消火器や非常ベルなどの強調された赤が目に付く。――病院、俺は緊急窓口の近くにある長いすに座っていた。
 友人、その携帯を持つ警察、病院。
 答えなど出るわけがないのに、徐々に答えの姿が見えてくる。つまりは、最悪の展開。唯一と言ってもいい友人がなんらかの理由で病院に運び込まれ、安否を確定できる状態ではなく、また、警察が来ている時点で第三者が関わっているということ。……最後の通話相手が俺だったからなのか、それとも家族と連絡がつかなかったのか。どちらにせよ、俺はここに呼ばれたわけか。
「――では、そろそろ最後に会話した時の内容をお聞かせください」
「……」
 だからこそ、警察の人は俺の隣に座り、事情聴取紛いのことをしているわけだ。
「別に、そんな大したことは話してないですよ」
「大したことじゃなくても話してください」
「……ただ、あいつがラーメンとマック、どっちを食べるか迷っていると言うから、マックにすればいいと言っただけ。ほんとに、それだけ」
 一言で終わってしまうような内容、それを聞いた警察の人は何かを思案するように俯きながら唸っている。俺はこんな会話が何に関係しているのか、そんなことばかりを思う。
 そしてそのまま俺と警察の人の間に会話は無く、三十分ほど経った時、遠くに見える曲がり角から看護師の人が慌しく小走りでこちらに向かってくる。何をそんなに慌てているのだろうと、他人事として考えていると、その看護師は警察の人の前で立ち止まった。
「午後八時二十三分、お亡くなりになりました」
「そうですか……」
 何のやり取りか完全に把握できていないというのに、警察の人は俺に向き直り口を開く。
「聞いたとおりです。たった今、ご友人がお亡くなりになった」
「え?」



 一ヵ月後。
 俺はいつもと変わらない日々を過ごしている。相変わらず薄暗い部屋、延々と響くタイピング音、微笑を浮かべる俺。PC画面の中でも、いつもと変わらない内容が表示されている。
 そんな中、俺はふと空腹を感じる。そして浮かんだものが――ラーメンとマック。……あぁ、そうか。いつもと変わらない日常を過ごしていると思っていても、ちゃんと“影響”があるのだと、一人思う。
 ラーメンとマック。昼食を決めるにしては存外にも、俺は選ぶことに時間をかけた。


『それ故に俺はラーメンとマック、どちらにするか悩む』

       

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