Neetel Inside 文芸新都
表紙

要するに短い話なんだよ
「……つまり、これが、ラノベということだなァっっ――!!」

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 俺の名前は新速首布(にいそくびぷ)。
 あざらしの如く可愛い顔、黒豹のように整った顔でもなく、お世辞にも“良い”とは言えない顔立ち。かと言ってその他が突出していると言えばそうでもなく、お世辞にもどこかの物語で主役を張れるとは言えない。
 今をときめく学生、○学校やら○校とは言えない世の中の摂理を知る年頃。もちろん穢れを知らないとは言えるわけもない俺は、今現在、人生のターニングポイントとも呼べる状況に出くわしてしまっている。
「いっ――――たぁ! ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!」
 まるで天上の国から天使が舞い降りたよう。鈴が転がるような声を発した目の前の女の子は、ポニーテールを揺らしながらこれみよがしに俺を殴ってみせた。
「がふぅ!!」
 痛い。とても痛い。何が痛いって頬が痛い。心も痛い。
 目の前の女の子は怒った顔も素晴らしく可愛い。そりゃあポニーテール萌えな俺としてはストライクゾーンど真ん中。おまけに強気つり目ニーソと来れば、もうボーナス確定したと言っても過言ではない。
 ――新速首布(学生)は、生まれて初めて、恋をしたのだ。

「――――痛いッ! 物凄く痛いッ! けど! 痛いけど、付き合ってください! ホントマジお願いします!!」
「……へ?」
 俺は唇の端が切れていることもお構いなしに、血を撒き散らしながら告白した。それはもう魂というソウルを全てかけたエクトプラズムプロポーズとも言うべき告白。
 傍から見れば変人に見えることだろう。なんたって殴られてから三秒と経たない内に告白だ。この女の子を見てから一分と経たずに告白だ。エロス神でさえこの俺の行動は予測の範囲外だろう。
 然り! 女の子は口をぽかーんと開けて、しりもちをついた体勢すら忘れて呆けているのだから。もちろん制服、スカートの隙間から見えている物は心のパンドラボックスの奥深くに保存しておく。
「待って、待って。アンタ、何考えてんの?」
「アイラブユー」
「……そうだ、あたし、遅刻しそうだったんだ。急がなくちゃ」
「スルーしちゃいやああああ!」
 空しく響く俺の叫びなど何処吹く風、麗しき女の子はそれこそ風のように俺の前から走り去ろうとする。俺も走る。
「せっ、ハァハァ、せめ、てっ! 名前を、なま、えっ!」
「――お、追ってきた!? このストーカー! あたしについてきたらまた殴るわよ!」
「ハァハァ、や、ハァ、ストーカーも、なに、も、俺も同じガッ!!」
 男の脚力をなめるなよ。運動は得意じゃない俺だが、本気を出せば女に追い付くぐらいわけないんだぜっ☆ と、隣に並んだ瞬間殴られた。同時に俺の足は“格上”の存在だと女の子のことを認識したのか、俺の意思とは関係無しにその動きを止める。結果、女の子は凄まじい速さで俺の視界から姿を消した。



 ――10年後


 俺は深夜の工場で働いていた。刺身のパックにタンポポを載せる仕事だ。……延々と続く反復行動。意識せずとも、俺は過ぎ去った眩しい過去に思いを馳せる。
 ……結局、名前すら分からなかった初恋の人。二度も殴られた衝撃は、今でも新鮮に思い出すことが出来る。……あの後、女の子は転校生として俺のクラスに編入してきた。俺は狂喜した。
 しかし、第一印象が駄目だったのか、まともな会話すら出来なかった。気付けばその子はクラスでもカッコいい内に入る奴――キョンなどというふざけたあだ名の奴だ――と付き合い始め、学校を卒業した後、何かをするわけでもなく日々を無駄に過ごしていた俺宛に結婚したという葉書が来た。
 今や俺は社会の底辺に位置する人間。片や結婚して平坦ながらも幸せだろう家庭を築いている人間。……俺は、どこで間違ってしまったのだろう。

BAD END

       

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