Neetel Inside 文芸新都
表紙

要するに短い話なんだよ
『●□▲』

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『●□▲』



「ならばこそ丸は消えるべきなのである。角のない者など、この世には不要よッ!」
「馬鹿な! 三角、あなた方は物事を自分の視野でしか見ていない。冷静にならなくとも、そのような一言で全てが解決などしない、それくらいは理解できるはずです!」

 この世では、“形”が派閥を作っていました。
 一つは丸。万物を象徴するとして傘下に身を置く者も多く、その影響力はこの世で対を成すと言われている三角と同等。
 対しての三角は丸より後に生じたとは言え、悪く言えば俗物的な思想が多くの者の共感を呼び、今では丸と対等を成している。
 残る四角は、長年に渡る丸と三角の争いをただ傍観していた。これも悪く言えば日和見主義、事なかれを主体とする派閥。

「まあまあ、御二方、そう熱くならんと少し休まれてはどうかね。かれこれ百五十二億とんで十二年も言い争っては、さしもの我々も“がた”がくるというもの」
「そうは言うがな四角の、そもそもとして丸が折れぬから話が平行線のまま終わらんのだ」
「それを言ったらこちらも同じ意見です。お互い、そのようにどちらかが折れる折れないを言える立場ではありませんよ」
「はあ。どうも腑に落ちないのだがね、そもそも何故二人は言い争っているのだい。色々なものが経ちすぎていて、儂にゃあもう思い出せんよ」

 四角はやれやれと言った様子で、深く溜め息をつく。事の発端を知らずして何が争いか、内に秘めた事はあれど、四角は言ってもどうにもならないことを知っている。
 そんな四角が目に入っていないのだろう、丸と三角は言い争いながらも、連綿と続いた論争の始まりを思い出そうと吽吽頭を捻る。

「そうです、三角が最初に私達を醜いと仰ったのが始まりです。だからこそ私達は怒り、報復を始めたのでした」
「何を馬鹿なことを。我々がいつお前達が醜いと言った。さらにそれが真実だとしても、その様な戯言紛いの事を無視出来んとなってはどうしようもないわ」
「自分達を正当化しないでください! 現に私達の内、何人かは傷付きました。思いやる気持ちがあれば、謝罪の一言くらいあったって……!」
「ふん、戯言が耳障りならば耳を塞げばよい。馬鹿にされるのであれば目を塞げばよい。……“ここ”では当たり前のことだというのに、貴様らは繊細すぎるのだ」
「どの口がそんな!」
「まあまあ、御二方、そう熱くならんと少し休まれてはどうかね。かれこれ二百八十一億とんで八十八年も言い争っては、さしもの我々も“がた”がくるというもの」

 四角は思う。一人冷静になり、周りを見渡したのだ。
 言い争う二人以外、誰一人としていがみあってはいない。何百億と続き、この先も何千億何兆と続くだろうこの言い争い。そうだろう、皆は飽いている。
 少し物思いに耽ってみれば、もう目の前では何年もの言い争いが繰り広げられているのだ。
 幾度と見てきたこの光景。なるほど、飽いているのは周りだけではないのだと、四角は一人理解する。

「――四角の方々こそ、自分たちは四角でありながら丸の領地に堂々と踏み入って!」
「そのような決まり、聞いたことがないわ。我々は至極常識に則っておる!」
「決まっているんです!」
「知らん!」
「まあまあ、御二方、そう熱くならんとね。そろそろ止めにしましょうや」

 ゆらりと、四角が何百億と固定されてきた座を解き、今も言い争う丸と三角を見下ろす。
 やがて二人の前に影が差し、なにごとだと上に視線を移し、何百億年ぶりかに絶句した。

「待て、待て四角の。お主がこの“場”に来てしまっては、全てが混沌としてしまう。それは避けねばならんだろうッ!?」
「しかしのう、言っても聞かないのなら仕方があるまいて」
「お、落ち着いてくださいよ四角さん、まずは座って、ね」
「“場”が無くなるとなれば君達はまるで息を合わせるように儂を止めんとする。儂が動かなくとも、この調子ならばその内この“場”は壊れてしまうというのにな」

 まるでそうすることが当然だと言わんばかりに、四角は丸と三角の間に割って入る。
 その瞬間、周りで飽いていた“形”達は手遅れになった今この時、その行動に気付いた。三つの“形”を中心とし、膨れ上がる光と熱。

 ――これこそが、のちのビックバンである。



おわり

       

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