貧乏暇なし。今日も私は働きます。早朝、3時に起きて新聞配達をしたら、昼に工場のライン作業、そして夜になったら警備員をしております。我ながら、頑張り屋さんだと褒め称えたいです!……働きたくて働らいているわけではないのですがね。両親のいない未成年者の私には選べる仕事も制限されるのですよ。ちなみに両親は借金抱えて蒸発しました。いやあ、人生ハードモード。大変ですね。
 
 しかも、それに追い討ちをかけるように、冬の凍てつく寒さが私を突き刺します。かれこれ一年間も! ……別に冬国というわけでないのですがねえ。
  
 といっても私の国、季節が自然にやってこないのです。その代わり、それぞれの春夏秋冬を司る女王達がいたりします。その女王の一人が塔に籠っている期間、不思議な力でその季節を呼んでくれるのです。非常に面倒くさい仕掛けですね。まあ、春夏秋冬の農作物で他国と貿易して我が国の経済を支えているから仕方ないですね。だから、冬の女王が一年間もずっと塔に籠られては経済的危機に陥り困ってしまうのです。経済の破綻にある先はお国の破滅ですからねえ……。
 
 故に、我が国の王様も焦りに焦って、冬の女王を春の女王と入れ換えようと躍起になりました。主な手段として王様直属の憲兵隊に塔を囲ませて抗議させたり、手紙を何百通も送ったりですね。(少し、病んでて怖いですね! )しかし、冬の女王が出て来ることはありません。それどころか、空から特大の雪だるまを憲兵隊の頭上に落としたり、手紙を燃やして暖をとったりとかなり好戦的です。(こちらはクレイジー! )
 
 ということもあって王様も疲れはてたのでしょう。とち狂ったお触れを出しました。
 
 
 ~ 冬の女王様を塔から出すだけの簡単なお仕事募集中!!~
 
 ◆仕事内容 : 冬の女王を王様に届けるだけ! ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない。
 
 ◆給料 : 冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を。
 
 ◆資格 : なし
 
 しかも、面接と履歴書も不要!!
 
 この冬、稼ぎたい方オススメです!
 


 
 まるで、アルバイト募集雑誌。高貴な感じが全くしません。しかし、こんな良い条件のアルバイトは他にないでしょう。毎日、カビパン食べてお腹を壊している私には絶好の機会です。私は即座に、塔に行きました。
 
 一面真っ白の積もったを踏みしめ、ひいふう言いながら塔に向かいます。すると、塔の周辺に若い男の人達がいました。同じ制服に帽子、そして肩に掛けてある銃。憲兵隊の方達です。こんな寒いなかお仕事ご苦労様ですね。その中の一人が私に気づいて話しかけます。
 
 「……やあ、姉ちゃん。王様のお触れをみて来たのかい? 」
 
 「はい。わがままな女王様を塔から引きずり出した後、王様からお金を貰うのです。そのお金で広い土地だけを買って、そこに誰かが建物を借金をしてまで建てたら、私が保証人になってあげます。そしてすこぶる腕のたつ弁護士を雇って建物と利息つきの金を手に入れて、それを繰り返します。やがて、私は不動産王となり、優雅に暮らすのです! 」
 
 あれ? 憲兵隊の人達が怯えた目で私を見てますね。私、何かしましたかね?
 
 「……まるで、欲の塊だ」と憲兵隊の一人が口を震わせて言いました。「でも、やめた方が良いぜ。この塔はまるで要塞だよ。何を言っても門を開けてくれねえ」 
 
 私はためしに門を叩いて冬の女王を呼び出してみます。
 
 「すいませ~ん! 宅急便です! 」
 
 当然、真っ赤な嘘です。冬の女王は門から出てきませんでした。駄目ですね。分かっていましたが、駄目でした! 憲兵隊の人がさっきと一転させて顔を背けて笑っていやがります。……くそう。
 
 「なっ無理だろ?」
 
 私は黙って雪の中から石を掴みました。憲兵隊の人にぶつけるわけではありません。そんなことしたらブタ箱行きです。まあ、ご飯が出てくれることは嬉しいですけれどね。
 
 「えい! 」 
 
 私は塔の窓に目掛けて石を投げます。すると、ガラス張りの窓はパリンと割れて中への道をつくってくれました。
 
 「おい!何してくれるんだ!」
 
 憲兵隊の人たちがこぞって私を取り囲みます。皆、眉をつりあげて怒っておりますね。ころころ表情が変わって面白ーい。いや、正直に言うとめっちゃ怖いですね。
 
 しかし、ここで臆したら一攫千金の夢が途絶えます。私は大きく息を吸って一人一人囁かすように語りかけました。
 
 「寒い中さぞ、あなた方も辛かったでしょう。しかしご安心を。これで、あなたたちの仕事も終われます。そうだ! 私が金持ちになったら豪勢にパーティーをしましょう。温かいスープもお出ししますよ? 」
 
 皆口をふさぎ、黙認してくれました。それで良いのです。結局のところ憲兵隊の人達は、皆不満なのでした。この永遠と続く寒さに、わがままな女王に、女王を引き出しても自分は褒美がないことに。
 
 外野が静まったので私は窓から塔に入るとします。服が引っ掛からないように気を付けなければ。
 
 塔の中は、まるでお屋敷のようでした。輝くシャンデリア、数々の骨董品、そして大きな絨毯。外観とは全く別物です。売ったら結構なお金になりそうですね。
 
 私は階段をのぼり、やがて大きな扉の前で立ち止まりました。その扉には、『私専用』とマジックペンで書かれた紙がセロハンテープで貼り付けられております。冬の女王以外に誰も住んでないのに一体、誰に向けて主張しているのですかね?
 
 私は呆れて笑いながらも扉を開きました。

 「失礼しま――」
 
 「ちょっ 誰よ! 」
 
 入るなり、白いドレスを着た若い女の人が目を点にさせて叫びました。肘に手をやって、寝そべりながら雑誌を開いてポテトチップスを食べております。……くつろぎしすぎやしませんかねえ。何だか昔、絵本で読んだ白馬の王様に助けられる女王様とギャップを感じて幻滅しました。現実はこんなもんです。
 
 「女王様を引き出すアルバイトです」
 
 私は肩を落として言いました。
 
 「私は絶対に出ないわよ! ここに引きこもるんだから!」
 
 「……うるさいですねえ」
 
 私は女王様の耳を引っ張って部屋から引き出そうとします。
 
 「イタタタタ!!私を誰だと思ってんのよ! やめなさいよ!」
 
 「……」
 
 「わかった! わかったわよ! 交渉しましょう」
 
 ……交渉。その言葉に金の臭いがして、つい私は訊いてしまいました。
 
 「何をです? 」
 
 「あなたもここに住めば良いのよ。ここは何でもあるわ。王様が私たち、季節の女王を飽きさせないためにバカみたいに備蓄してあるの!それこそ褒美なんかちっぽけにみえるわよ!」
 
 なんて、甘ったれた娘なのでしょう。ケーキばかり食べてるから脳ミソがとろけたのでしょうか? ケーキではなくカビパンを食べれば良いのです。こういう手合いはガツンと一言いってやるに限ります!
 
 「……ちゃんと私の部屋もありますかね? 」
 
 それからは楽しい日々でした。好きなだけ菓子を食べて、漫画をよみふけり、絵画を鑑賞しては、綺麗な洋服を身にまといます。昼夜逆転の生活も最高ですね。もちろん、働いてなどおりません。この世界初のニート誕生です。私達はとても仲良くなりました。
 
 「ぐわはっはっはっはっはっ!! こりゃ面白い!! 」
 
 恥ずかしながらこれは私と女王が雑誌を読んで笑った声です。乙女としてあるまじき笑い声ですね。……ホホホ。
 
 しかしそんな日常も終わりをつげます。中々、女王様を引き出して帰ってこない私に憲兵隊の人達が怒ったのです。窓を開けると彼らの怒声が聞こえました。
 
 「話が違うじゃないか!!」
 
 「あとでしょっぴいてやる!」
 
 はい、洒落になっておりません。そろそろ潮時ですかね。女王には悪いですが、当初の目的を果たすとしましょう。
 
 「女王様、私はそろそろ帰ります。そして、あなたを王様に届けます。やはり、国の皆のことを考えると心が痛くなりました」
 
 もちろん、嘘です。心なぞ痛くも痒くもありません。
 
 「ええー!酷いわよ!身勝手すぎるわ!」
 
 「身勝手なのはお互い様です」
 
 私は女王の襟を掴んで有無を言わさず部屋のドアに向かって引きずります。

 「嫌だ~!!」
 
 その瞬間、女王は私の頬を思いっきりはたきました。直後、自身の危機を悟ったのか顔を真っ青にさせました。
 
 「……あっゴメンなさい」
 
 私はそんな彼女に一言。
 
 「許しません。一発殴ります」
 
 女王は私の決意の固さを知ったのでしょう。私を振りほどいてから、部屋の中をぐるぐる逃げ回ります。私はというと、冷徹なマシーンとなり淡々と追いかけました。
 
 「ちょっ謝ったじゃない!!」
 
 「……」
 
 やがて、女王は壁に追い詰められ、逃げ場を失います。私は拳をつくると高らかに宣言しました。
 
 「くらえ!鳩尾! 」

 腰の入ったアッパーが女王を襲います。しかし、女王は海老のように後ろにのけぞってそれを上手くかわしました。と同時に窓から落ちちゃいました。
 
 「……あ、やべ」
 
 私はすぐさま、窓から顔を出して生存を確認します。女王は大の字に雪の中で埋もれてました。どうやら、気絶しているようでしたが怪我は無いようです。やがて、憲兵隊が驚きの声をあげて彼女を救助しに向かいました。斯くして、私は不本意ながらも冬の女王を塔から出すことに成功したのです。
 
 ――後日、塔は春の女王と入れ替わり、雪は溶けて国の危機は去りました。王様も大層、喜んでおられます。いやあ、何はともあれ丸くおさまりました。これぞハッピーエンドです! ……私以外はですけど。私はというと殺人未遂容疑でつかまっちゃいました。金に汚い悪者は物語では、ましてや童話では子どもの教育上のためにも退治されるものです。……いや、世の常でもありますでしょうか。
 
 「ああ、神様。もう友達を売るようなことはしません」
 
 一人ぼっちの留置場の中で私はポツリと呟いて懺悔します。すると、目の前に女王が立っていました。
 
 「本当よ!」
 
 女王は腰に手をやってプリプリ怒っておりました。
 
 私はそんな彼女に頭を下げて謝ります。
 
 「……あなたを裏切って本当に申し訳ありませんでした。」
 
 女王はそれを見ると、微笑んで語りかけるように言いました。
 
 「私が自分から落ちたと供述したわ。あなたは、ここから出れるわよ」
 
 「……私を許してくるのですか?」
 
 「罰として私の専属メイドとして働いてくれたらね」
 
 「そっそれは!?」
 
 「次の冬がやってきたら、また、一緒に塔で遊びましょう? 」
 
 それからの話は蛇足になりますね。一つだけ言葉を残すなら私と女王は幸せに暮らしたということだけです。大切なのは、少しのお金と気の合うだったりします。では、そろそろお別れの挨拶をしましょう! 童話らしく締めのセリフで。 ……めでたし、めでたし。