近所をほっつき歩いていると、居酒屋の前で酔っ払いのおやじが倒れていた。よくも、まあ恥ずかしくないもんだ。

 汚い外套で身を包んで、埃っぽい白い髭を生やしていて、近寄るだけで反吐の臭いがしそうだった。長いこと見ていると、おやじも私をじいっと睨んで、「見るな」と凄んだように言った。私はそれでも見ていると、おやじはよくわからない奇声で何かを叫び始めた。興奮しすぎたのか、鼻から血が垂れている。それからうつ伏せになって、わんわんと泣いていたが、誰も慰めてくれないので不貞寝を始めた。

 三分後、店主と思われる若い男に叩き起こされ、「もう来ないでくれ」と威圧的におやじは言われた。おやじは素直にこくりと頷いた。でも、腹のうちでは相当怒っているみたいで、店の扉を足先でこつんと蹴って走って逃げた。もちろん、店主も含めて誰も追いかけようとはしなかった。遠くで、おやじは「なにも知らない癖に馬鹿にしやがって」と叫んでいたが、それは店主だけに放った言葉でもなさそうだった。

 店主は「あれが痴呆なんでしょうね」とふざけた感じで笑っていた。そして、痰が混じった唾をぺっと道路に吐き捨てると、やる気がなさそうに店の中に戻った。

 扉の隙間からは、皺だらけのスーツを着た男たちのどんちゃん騒ぎが見えた。だが、本当に楽しんでいたのは年配の男だけみたいに感じた。他は酒を注いだり、手拍子で忙しそうだ。店主もにこにこしながらも、身体全身に汗を垂らして焼き鳥を焼いていた。

 しばらくその光景を呆然としながら眺めていると、さっきのおやじが歩いて帰ってきた。そして私の肩に手を置いて、「頼むから見といてね」と言った。私は何も答えなかったが、おやじは満足そうだった。そしておやじは店の扉をがらりと開けて、その中に嬉々として飛び込んで、すぐに一番近くにいた客に殴りかかった。店のなかで取っ組み合いが起こった。店主は目をぎょっとさせると、誰にも見せないように外の扉を閉めに走って来た。しかしおやじは好機だと思ったのか、店主の後頭部を焼酎の酒瓶で殴った。店主はばたんと倒れた。それでもおやじは歯を食い縛りながら執拗に店主を殴り続けた。他の男たちが気の毒に思ったのか、おやじにやめるように注意したが、誰も席から動こうとしなかった。店主がやられている間は平和だからだ。仕方なく、扉は私が閉めてやった。店の中では店主の悲鳴と共に、「俺の人生はどうなってんだよ」という一人の男の声が聞こえた。外ではパトカーの音が小さく轟いており、それが近づくのを知ると、私は面倒になって家に帰った。あんな奴等、どうなったって知るもんか。

 深夜、布団の中で私はしくしく泣いた。