Neetel Inside 文芸新都
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カン、カン、と、チョークを鳴らす音だけが無言の教室に響く。手元にあるノートは真っ白で机の上に置いてある文具は浪人生としての道具にすら扱われていなかった。
講師はずっと公式(?)つらつらと言っている。
インスウブンカイヲココデ。
ダイニュウヲシテ。
カチカチ、シャーペンの芯を伸ばした。黒板に白の文字だけが浮かぶ。
「サエキハルキ、ここ分かるか?」
講師は急に自分を当てて、ここを解けと差し棒で差す。
ノウは指示された公式の解が解けないらしい。ノーとはっきりと答える。
「………分かりません」一瞬顔を上げてそう言うと講師はまたか、と呆れの顔を見せた。そして俯きそのまま机に突っ伏した。
次に当てられた名前も顔も見えない同じ浪人生は意図も容易く問題を解いて周りから尊敬の眼差しを浴びさせられていた。
ゲラゲラと周りが馬鹿にしているような、いや、している、だって、あんな問題、解けなかったんだから。こんなはずじゃなかったのだ。こんなこと。
こんなんじゃ、また、また、また、また、まただ。
――誰のおかげで、予備校に通えているの。
何もできない木偶には、空っぽがお似合いなのだ。
――ハルキ。
伽藍だ。唾が飛ぶ。
――お前なんて……、お前なんて!!!
早く、夜は明けないのだろうか。
いつになっても暗いままだ。いつになっても。

顔を上げると、皆、歯を見せて僕を見て笑っていた。
サエキっていう下がいるから、皆平静でいられるんだって。アイツみたいになってしまったら人生はオワリだーって、教室で隠すことのない音量で聞こえてきた。
「だれが、できない子だ、ぼくは」
あ、鼻血。
よだれが白のノートに落ちる。もうだめだ、やっぱり、しにたい。しにたいのになー。しにたい、しに。
し。し。し。し。
し、し、し……。し……。

       

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