Neetel Inside 文芸新都
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ゆれるキモチ
第十一話「TRAIN-TRAIN」

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 昔こんな話しを聞いたことがある。
「忘れた頃にやってくる女のメールには気をつけろ」
誰からこんな話しを聞いたのか、誰がなんのためにこんな話しをしたのかは覚えてないが、
今、俺の頭には何度もこの言葉がよぎっている。

 差出人:村山絵里
  件名:久しぶり~
  本文:今日は楽しかったね! 私としては、杉くんが変わってなくて安心したよ。
     それでさ、せっかくだし今日久しぶりに会わない? 場所は……よく遊んだあの公園でいいよね? 返信まってまーす!

 本文を一通り読んだ後で、携帯を乱暴にポケットの中へ放り込む。
口の中の氷を噛み砕きながら考える。
「このメールの目的はなんだ?」
――なぜ村山があんなメールを送ったのか、その意図が掴めない。
俺とあいつとの関係はあの時に途切れたはず……だ。少なくとも俺はそう感じている。
どうやらあの時から未だに村山の心を読み取ることができないようだ。
 口の中で氷が粉々になった。
 川本の元に戻るか。
もちろん、川本の元に戻っても問題は解決されるどころか、別な問題にぶち当たる訳だけど。
 今はそんなことはどうでもいい。
村山のことを考えたくなかった。
ドアを開けて部屋に入る。すぐに姿が目に入った。
川本は小さな寝息を立てて眠っている。
その姿を確認して、気がつくとTHE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」を予約した。
 歌い終わった後に、期末テスト明けの解放感と疲労感が合わさったような妙な気だるさに襲われた。
歌えば気分を紛らすことができるかと思ったが、どうやらそんな単純なものではないらしい。
 口に氷を入れて、また粉々に噛み砕く。
舌にざらざらとした感触が残る。
携帯で時間を確認すると四時三十分。退出の時間が近づいている。
 そろそろ川本を起こそうか。
そう思った俺は川本に呼びかける……が、返事はない。
 もう一曲だけ予約するか。適当に予約履歴から曲を選ぶ。
「AM11:00」
昔、友達とカラオケに行った時に歌った曲だ。確かあの時は歌うのに乗り気でなかった俺に、友達が強引に歌わそうとしたんだっけ。
この歌は男女でハモる所がある。あの時は好きな人とハモれたらいいなあとか思っていたな。
 歌い終わった後、時間の流れを感じた。
あの頃のように、好きな人とハモりたいなんて今の俺は思わない。
「先輩ー、歌お上手じゃないですか」川本が俺の方を見つめながら、一所懸命に拍手している。
「聞いてたのか?」
「はい、初めから聞いてましたよ」
「まじで? じゃあ何で起こした時に返事してくれなかったんだよ」
「そ、それは……先輩の歌が聞きたいからに決まってるじゃないですか」
 返答に困っていると、店から電話が鳴って部屋を後にした。
 外の空気が美味い。東京の空気が美味いはず無いのに、確かにそう感じる。
俺は自転車を押しながら川本の横を歩く。
「あのさ、川本って付き合ったことあるの?」前から気になっていたことを俺は聞く。
「ないですよー。告白されたことなら二、三度ありますけど」
「そっか、何で告白を断ったんだ?」川本は黙り込んで思案している。
「えーと、自分でも確かな理由は分からないんですけど、単純すぎるんですよ、男の人が」
 なぜが胸に刺さった。
「単純?」
「ええ、皆がそうだとは思いませんが、告白してきた二人はどっちもクラスメイトだったんですけど、
私じゃなくても良かったんですよ、女の人なら誰でも。告白する相手は」
「そんなことないんじゃないか?」
「いいえ、二人とも別の女の人に告白して、振られてすぐに私の所に来ましたから」夕日に当たっているのに川本の姿が少し薄暗く感じる。
 今まで見たこともない川本の心の中を覗いた気がした。
「なるほどな、川本も色々あったんだなあ」
「ちょっと、先輩感慨に耽るのはやめてくださいよ」口元に手を当てて川本が笑う。
「ごめん、ごめん。それでさ、告白を断ったこと、後悔してない?」
「んー、そんなにしてないですね。多分すぐ別れることになるでしょうし」
「そっか、なるほどな」
「先輩も告白されたことあるんですか?」川本が覗き込むようにして言う。
「まあ……な。告白って言えるかは分からないけど」
「どんな人に……告白されたんですか?」
「まあ、その話しはまたの機会にな」俺は強引に川本に別れを告げて家に向かう。
沈みかかった夕日が体を輝かせる。
 もうすぐ一日が終わる。
見慣れたいつもの風景に近づいている。小さな薬局の角を曲がって三軒目。
 自宅の前に村山がいた。

       

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