Neetel Inside 文芸新都
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ゆれるキモチ
第十三話「変わった」

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 洗面所から玄関まで続く廊下。
細長いこの一本道に二人は対峙している。
「理由を教えてくれよ」この状態を打開したい。
何が悪かった? メールを無視したことか? 洗面所に連れて行ったことか? 
 何も分からないんだ。
「理……由か。私、またあんなことしてしまいそうな気がするの」
右手で左腕をさすりながら、恥ずかしそうに、懐かしそうに。
「別にあれは、俺だって悪かっただろ。気にするなよ」
「だけど、あれで私たち一年以上疎遠になったじゃない?」
涙をためて、流さないように必死に、必死に、彼女は、村山絵里は話す。
 確かに、村山は、かわった。
 俺は変わったのかな?
震える村山の体を、そっと抱きしめようとする。
長い髪と口元の小さなほくろと、艶やかな唇と大きな胸が、視界に入る。
 欲情してしまうのは男の性なんだろうか?
「やめてよ、触らないで」強い意志を持った拒絶で俺の手を解く。
涙をまだ必死に堪えて唇を噛み締めて、言い放った。
「感情の篭っていない抱擁なんて、嫌よ」
「でも、さっき抱きしめてって言ったじゃないか?」
 その言葉に村山が自嘲気味に笑った。 
「あの時みたいにね、誘ってたの」その瞬間、大粒の涙が頬を伝って廊下に流れ落ちる。
「そうだったのか、だったら余計拒絶する理由が分からないんだけど」
「馬鹿。バカ。ばか。私、あの時気づいたの。杉くんの表情。反応。目」
村山が一呼吸おいて、続ける。
「好きな人できたんでしょ?」
「……ああ」
「バカ。そんな深刻な顔して答えないでよ。」
「すまん」
「なんで、謝るの? 別に当たり前のことでしょ。あれから一年も経ったんだから」
「まあ……な。でも、村山が泣いてるからさ」
「好きな人がいることは別にもういいの。ただ、好きな人がいるのに、私を抱くのはやめて」
「それは悪かった」
「それだけ……分かってくれたのならいいから」
 村山は涙を手で拭って玄関へ歩き始める。無言のままブーツを履いて家を出て行った。
 俺はまた一人になった。
 玄関で突っ立っていても仕方が無いので、階段を登り二階の自分の部屋に向かう。
無駄なものが嫌いなので、部屋の中には机と小さなソファーと本棚とシングルベッドしかない。
 そのシングルベッドに飛び乗って目を瞑る。
鮮明に一年前の出来事が頭に浮かんでくる。村山との関係が切れた原因になった出来事。
教室にいた俺に、話しかけた一言がきっかけだったっけな。
    
     

       

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